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九 アトラス聖人は、時に命を、奪います


私が生まれた時、「お笑い」が世の中を支配していた。


TV番組を始め、youtube、ラジオ、イベント、小説、マンガ、映画、歌、芝居、

どれも人気が出るのは、笑いが取れる面白い物ばかり。


気が付けば、世の中のエンターテイメントのほとんどにお笑い要素が入っており、

笑い所が無い作品は全く売れず消えていく。


そんな時代に生まれた私は夏目亜矢なつめあや今年で17歳。


私は昔から勉強が好きでは無く、努力しなくても受かりそうな高校に進学した。

そして入学して1年が経った頃、私は人生を謳歌していた。


なんたって世の中を支配しているのが私の大好きなお笑いだからだ。


周りの連中は当たり前のようにお笑いの話ばかりでもう毎日最高。


どの芸人が面白い?このネタ面白いよね?

うんうん、わかる!わかるよ!その気もち!そのネタ最高だよね!


こんなふうに私は、周りの人間と自分のお笑いの価値観を確かめ合っては互いに認め合い、

毎日のように話のネタにして楽しんでいた。


こんな世の中が嬉しく、自分のいる世界が好きで仕方がなかった中、

今日も人生を謳歌しながら下校する。


「あれなんだろう?」


今日は学校帰りに、大好きな芸人コンビ、アトラス聖人のワンマンライブを見に行った。

そのせいで帰りがいつもより遅くなり、携帯で時間を確認すると22時を過ぎていた。

街燈も少なく薄暗い中、道の真ん中で何やら二人が話をしていた。


「(あれ・・・、何か揉めているのかな・・・)」


暗がりの中、少ない街燈のせいもあって、少し遠めで動く二つの影に、

少し嫌な予感がしてその場に立ち止った。


よく耳を澄ませてみると、聞きなれた声が聞こえた気がした。この道は幼馴染である修吾の帰り道でもあり、そしてその声は修吾の声にとても似ているような気がした。


「(もしかして、修吾が何か揉め事に巻き込まれてたりして・・・)」


ふとそう思った矢先、一つの影が地べたに倒れこんだ。


「(・・・え?・・・もしかして・・・めちゃヤバイ現場・・・?)」


嫌な予感がした私は、二つの影に走って向かった。


すると、背の高い男がこっちに走ってきた。


そしてその先には・・・倒れている修吾がいた。


「・・・え・・・?」


私は声にならない声で驚いた。


そんな私に背の高い傷だらけの顔の男が話しかけてきた。


「問題です・・・俺は今、何をしていたでしょ~か?」


その瞬間、体中から変な汗がブワッと吹き出し、脳にやばいと信号が走った。 


「(え、何?急に質問?意味わかんない!)」


やばい気配と理解不能の問いに何故か私は大好きなアトラス聖人のコントを思い出した。


(アトラス聖人のコント回想)


「なにその斬新な変質者!」

「え?そう?」

「いや、だって急に質問してくるタイプの変質者は過去にいないでしょ!」

(回想終わり) 


そのコントは裸を見せる変質者ではなく、急なムチャブリをしてくる変質者のコントで、被害者役のツッコミはいつもムチャブリしてくるボケに対し、巧妙なツッコミを入れ大爆笑を獲る、アトラス星人の人気のネタだった。


(アトラス聖人のコント回想)


「さて、私は今・・・何色のパンツを干してあるでしょうか?」

「履いてるパンツじゃないのかよ!干してるパンツの色の話かよっ!」


「①ネズミ色②黄緑色③大体黒」


「③をだいだい色みたいに言うんじゃねえよっ!」


(回想終わり)


このネタの一番好きところはムチャブリをしてくる変質者に、

時にはムチャブリで返すツッコミとの掛け合いだった。


(アトラス星人のコント回想)


「不正解だと命は無いよ!ぐへへへへ」

「いや怖えよ!ぐへへへって言うな!・・あっ!そうか!こういう輩は逆にムチャブリすると焦るよな!」

「なぜおれの弱点を知っている!」

「弱点って認めるのかよっ!じゃあ、これならどうだ!・・・さて私は・・・」


(回想終わり)


私は背の高い男に言った。


「さて私は・・・何色のパンツを履いているでしょ~か?」

「はあ?お前舐めてんのか?」


その瞬間、冷たい物が腹部を刺激した。


男は言った。


「お前が悪いんだぞ・・俺はただビックリする姿を見たいだけだったのに・・」

「・・・なん・・・で?」


私は、背の高い男にお腹を刺されていた。


「・・お、お前が悪いんだからな!」


そう言うと、男は何処かに走って行った。


出血がひどく、遠のいていく意識の中で句が浮かんだ。


「アトラス星人は~、時に命を、奪います~」


死に逝く中で、私は神様にお願いした。


「もし次生まれたら、そこはどうか、私のお笑いが通用する世界でありますように・・」


17歳の夏、突然の事に整理がつかないまま、私は死んだ。


その10秒後なのか、10時間後なのかは分からないけど、私は意識を取り戻した。


起き上がるとそこはとても爽やかで、心地の良い風が吹き、空と草と風だけがある空間だった。


「(そうか・・ここがあの世なんだ・・)」


その光景に自分が死んだことを理解した。

ふと手の甲を見ると、文字が浮かんでいたので読んでみた。


「笑クエ・・・?」


良く分からない内容だったので、一旦気に留めなかった。

とりあえず立ち上がると、目の前に俗に言うスライムがいた。


「・・・・・」


ここはあの世なので、一旦気に留めずスライムを背にした。

すると今度は俗に言う大きなスライムがいた。


「・・・・・」


やはりここはあの世なので、一旦気に留めず横向きに寝ころび正面を見た。


「寝ころぶのかよっ!そこは何かつっこめよ!」


目の前には、俗にいうツッコミを入れてくるスライムがいた。

私は真顔でツッコミを入れてくるスライムの目をガン見して言った。


「そっか・・・ここがドラクエの世界ってやつか・・・!」


ついノリでボケると、俗に言うスライム達はボンッと消えてしまった。


果たしてここはあの世のなのか・・・。

それとも今のは何かの撮影だったのか・・・。


良く分からないまま、急に睡魔に襲われた私は眠りについた。


すると変な夢を見た。


「ここはお前が望んだ、自分のお笑いが通用する世界だ・・・」

「(・・・ん?誰?)」


暗闇の中、何かが話しかけてきた。


「お前は死んだ」

「(やっぱり・・私は死んだんだ・・)」

「そこ驚くとこだよっ!」

「(え?ツッコミの人?)」

「お前は新たにこの世界で生を受けた・・・」

「(そう、この世界で、海賊王に私はなる!)」

「やめて!それ著作権あるから!」

「(え、この世界でも著作権あるの?)」

「この世界でお前は思い知るだろおおおお!」

「(そう私が海賊王だという事を!)

「違うから!やめて!今こっちがボケてるから被せないで!」

「(え?ボケなの?ツッコミじゃないの?)」

「今まで自分がいた世界が、如何に幸せで素晴らしい世界だったかということを・・・」

「(・・・ごめん!なんの話か分からない!)」

「なんでやねんっ!」

「(えっ?関西の人?)」


そこでよく分からない夢は終わり、私は目が覚めた。


「ん~~~よく寝た~」


目覚めると綺麗な朝日が昇っていた。


「(そっか・・・私はこの世界に転生したんだ・・・)」


夢が何を意味するのかは分からないけど、

綺麗な朝日を見て何となく生まれ変わった事を私は受けいれることが出来た。


「せっかくだからこの世界を楽しむか!」


気持ちを前向きに、私はその場所を後にした。


でも思った事がる。


早くシャワー浴びたいって。


なんか体中がべとべとしているし、来ている服もなんかボロボロだし、

せっかく転生したのに出だしが最悪。


「・・・うん?・・・あれって・・・街だよね?」


何気なく歩いていると、遠目に街が見えてきた。

そこはどうやらリンドウと呼ばれる街で、なんだかすごく荒れていた。


街に入り、荒れた街に不安を感じながら歩いていると、ある男が話しかけてきた。


「やあ、お嬢さん、見慣れない顔だね」


男はニコっと笑顔で話しかけてきたが、知らない世界で知らない男の為、私は無視をした。


「・・・」

「えっ!ちょっとちょっとお嬢さん!シカトかい?冷たいね」


気味の悪い男に対し、そのまま無視を続けたまま通り過ぎようとした時だった。


「・・・お嬢さん・・・あんた・・・転生者・・・だろ?」


その言葉はさすがに無視できなかった。


「・・えっ?」

「ふふ、やっと返事をしてくれたね・・」


ニヤッと話す男に少し寒気を感じたが、私の事を転生者と分かった事に興味が湧いた。


「・・転生者って・・・何故わかったんですか・・?」

「ん?・・・ああ、まあ最近色々あってね・・・」


なんだかわけありな雰囲気でそう呟く男に対し、

危険な空気を感じてやはり通り過ごそうと歩を進めた。


そんな私に男は言った。


「良ければ、宿を手配してあげよう・・・それと綺麗な服もね・・・」


何か企みがあるのは薄々感じたが、行くあてのない私にとってはそれはとても魅力的な提案だった。私はやむなく男についていき、ある宿に案内された。


「やや!これはゲバラさん!如何なさいましたか?」

「いやちょっと、このお嬢さんに部屋を一室貸してやってほしいんだが・・・」


この男はどうやらゲバラと言うらしい。

そして宿主の態度を見たところ偉い人のようだ。


私はゲバラと言う男の計らいで宿を与えてもらい、綺麗な服も当てがってもらった。

久しぶりに入るシャワーの気持ちよさと綺麗な洋服の良い着心地にやっと落ち着いた気持になった。


男は私に宿を案内した後、特に何も言わず、特に要求もなく姿を消した。

この後どうすればよいのかもわからず、宿の部屋で時間を持て余していると、宿主が部屋を訪ねてきた。


(コンコン)


「お客様、少しよろしいでしょうか?」

「あっ!・・・はい、どうぞ」

「失礼いたします・・・ゲバラ様から言付けがあり、お伝えしに来ました」

「ああ、そうですよね、あの人は何て言っていましたか?」

「はい、好きなだけこの部屋に泊まれば良いと。食事も含め、宿代は何も気にしないでくれと仰っておりました」

「えっ!いや、それは流石に気を遣います・・・」


何だか後が怖いぐらいに良くしてもらえる事に動揺する私を見て宿主は続けた。


「少し前にこの街はモンスターに襲われ、そして英雄様に救って頂きました。お気づきだと思いますが、そのせいで今街はすごく荒れております」

「え?モンスター・・ですか?」

「はい、ロックトカゲと言う巨大なモンスターにこの街は二日前に襲われました」


どうやら、この世界にはモンスターがいるらしい。


「あの、それと私を助けるのと何が関係あるのですか?」

「ゲバラ様は仰いました。助けられたばかりの私たちが人助けをしないでどうするんだと。だから困っているお客様をゲバラ様は放っておけないとの事です」

「は・・はぁ・・・」


そう宿主は言うと、食事を用意してくれ、私は待ちに待ったごはんを食べた。

お腹も膨れ、一息ついていると、何やら外から話し声が聞こえてきた。


「とうとう明日だな!英雄様のお顔を拝見できるのは!待ち遠しい!」

「ああ、なんたってあのロックトカゲを倒すほどの御方だ、とても凛々しいに違いない」


何となく聞こえたその会話に興味を持った私は、翌日宿主に場所を教えてもらい向かう事にした。


会場に着くと凄い人数と盛り上がりで、想像以上にこの街の皆から英雄は感謝されているんだなと実感した。

そして・・・いざ英雄がステージの上に現れると、会場は更に盛り上がり、私はそれとは真逆に声を失った。


「・・・うそ・・・しゅう・・・ご・・・?」


英雄と言われる男は幼馴染の修吾と全く同じ顔をしていた。

心から動揺したけど、すぐに本人だとは信じられなかった。

そして一人の男の子も修吾のような顔をしている英雄と一緒にステージに上がった。


するとさっきまでの歓迎ムードとは打って変わって、周りは敵意を向けて声を上げた。


「何?何なの?」


小さい男の子に異様に罵倒する大人たちを目の当たりにして、この世界が異質だと感じた。

そして、英雄は叫んだ。


「皆さん聞いてくださあああい!」


英雄の一言に民衆は静まり返った。


「きょ・・今日は、皆さんに許して欲しくて来ました」


その言葉に民衆は再びざわつき始める。


英雄は続けた。


「僕は・・・・違う世界から来た転生者です!」


私と同じ転生者だと明かした事で、本物の修吾だと確信した。


会場は修吾の言葉を笑い信じなかった


「黙れえええええええええ!」


するとメイドの女性が叫び会場は静まり返った。


静まり返った空気の中、修吾はこの世界に来てから今に至るまでの流れを説明した。

同時に横にいる男の子に対しての想いも伝えた。


修吾の話を聞く中で、私は自分も転生者だからか、修吾の今までの悲しみや苦しみを理解することが出来た。


横にいる男の子がなぜみんなに責められているのかも、修吾が男の子の事をなぜ庇いたくなるのかも、そして会場の人々がなぜ男の子を許せないのかも理解した。


修吾の言葉や行動に全員が驚き、被害者たちもどうしていいか分からずうろたえる。


「皆さん・・今回私たちの街は、ここにいるツッコミ様のおかげで救われました」


たくさんの情報の中で、私に良くしてくれているゲバラさんが話し始めた。

その言葉に、ゲバラさんがこの街で一番偉く、周りの反応から一番影響力がある人なんだと感じた。


ゲバラさんが話し出した事で、男の子の罪に対して事態は進展していった。

この場が上手くいく雰囲気の中、修吾が提案した内容により、会場はまた荒れだした。


「どうぞ皆さん遠慮なさらず、今なら騙された金額を言って頂きましたら・・・」


その提案により、解決に進んでいた話が困難な話に急変した。

私は修吾の言動に思わず人をかき分けステージに向かった。


「やはり無理があります!そんなお金も用意できませんし、どうか今すぐ取り下げてください!」


ゲバラさんのいう事はもっともだ・・・。


「ゲバラさん、あなたに払ってもらうつもりは初めからありません、僕が責任をもって払いますから」


それは無茶だよ修吾・・・。


会場のほとんどの人が手を挙げている状況に、どうしようも出来なくなってしまう事を恐れた私は、勇気を出してステージに上がり叫んだ。


「あんたら恥ずかしくないの!」

「・・え?・・・亜矢?」


修吾は私の顔を見て動揺していた。そんな修吾を余所に私は続けた。


「街を救ってくれた英雄からお金を巻き上げようとするなんて恥ずかしくないの!」

「うるせええ!お前には関係ない事だろ!ひっこめ!」

「そうだそうだ!ツッコミ様がいいと言ってるんだ!部外者は黙ってろ!」


確かに私はこの世界に来たばかりの部外者・・・、だからとっさに嘘をついた。


「私は部外者じゃない!私もこの子から石を買った一人よ!」

「だったらお前も黙って手を挙げてろ!」

「違う!そういう事じゃない!」

「じゃあどういう事なんだ!」

「私も騙されたお金は返してほしい!でも騙されたと言ってもたった1ラギ!しかもそれは自分が納得して使った1ラギ!」


はい、全くの嘘です。


話の流れ的に結局お金を騙されたって話って事で、それらしい事を言ってみました。

我ながらなんと呼吸をするかのように嘘を付くのだろうか・・・。

 

私の訴えに落ち込む修吾を見て怒りが頂点に達した私は修吾をビンタした。


(バチンッ)

「あなたバカじゃないの!こんなに皆を混乱させて!何が英雄よ!」

「お、おい!この女を捕まえろ!」


ゲバラさんの号令により、メイドの格好をした女性に即座に拘束され地面に抑え込まれ、二人の憲兵に連れて行かれた私は、地下にある牢屋に入れられた。


「おい、お前!ツッコミ様に何をしたのか分かっているのか!」

「そうだぞお前!この街を救った英雄に対して何を考えているんだ!」


檻越しに私に怒鳴る憲兵二人を余所に、私は心から思った。


「(や・・・やりすぎた~・・・・)」


勢いのあまり、修吾をビンタしてしまった事は、流石にやり過ぎたと反省。

私はその後、4日間牢屋に閉じ込められた。


そして5日目にゲバラさんが牢屋に来た。

ゲバラさんは人払いをして私と二人きりになると、すこし小さい声で話し出した。


「・・転生者さん、お体の具合はどうですか?ご飯は食べれていますか?」


ありがたい事に食事は毎日2回与えられていた。

しかしお風呂には全く入れていない為、とっても体中が気持ち悪い状況である。

なのでゲバラさんに言いました。


「とりあえず・・・お風呂に入りたいです」

「フフフ・・・冗談を言えるのであれば大丈夫そうですね・・・」

「(いやいや、ガチですけど)」

「そんな事よりも伝えたい事があってやって来ました」

「(いやいや、それよりも風呂入らせてくれよ)」

「・・・今日、私が、この街を終わらせます」

「(いやいや、そんな事よりも風呂に・・・)え?」

「さて・・・果たしてあなたはこの街を守れるのかな?・・・転生者さん・・・」


私は混乱した。


「(え?どういう事?何?街を終わらす?え?)」


ゲバラさんはそう言って、牢屋から去って行った。

そして少しして、外が騒がしくなった。


地下にある牢屋でも聞こえてくる人々の叫び声、建物が崩れる音や振動。

その只ならぬ物音に私の心音は早まっていった。


強い振動に牢屋の天井も揺れ、その度にパラパラと天井の破片が落ちてくる。

このままここも崩れ落ち、瓦礫と共に生き埋めになるのかもといや予感を感じながら、私は牢屋の中で息をひそめた。


そのまま時間は過ぎ、体感で3時間は音が続いた頃に、外が静かになった。


「・・・あれ・・・急に静かになった・・・?」


静かになった事で、更に外の様子が気になったが、牢屋をこじ開けられる訳もなく、不安が募る中、牢屋の片隅にゆっくりと腰を落とす。


「(一体外で何が起きているんだろうか・・・?)」


何も分からないまま時間は過ぎていった・・・。


「ゲバラ様あああああああ!」


静けさの中、急な誰かの叫び声に体がビクッとなる。


「グオオオオオオオオオオ!」


続いて聞こえた人外の叫び声をきっかけに落としていた腰を慌ててあげた。


「えっ!何?次は何が起こるの?」


その時だった、何かが牢屋に近づいてくる気配がした。


「ピギャアアアア!」

「きゃああー!」


地上に繋がる階段から雄叫びと共に私の3倍は大きい巨大な蜘蛛が私の前に現れた。


「何コイツ!めっちゃキモイ!」


思わず、心の声を大声でいうと、蜘蛛は動きを止め下を向いた。


「・・・ん?・・・ん?」


見た感じ凹んでいるように見える巨大蜘蛛に、そっと声を掛けた。


「・・・どんまい!」

「ピギャアアアアアアア!」

「ぎゃあああああ!」


私のどんまいに、多分、蜘蛛は激怒したのだろう。


激しく叫ぶと私に向かって、大量の糸を吐き出した。

しかし私は檻に守られている為、糸は檻の柵に絡まった。

「ナイス檻!(グッ!)」


初めて檻の中が最高だと感じた。

しかし、檻が完全に糸に覆われ真っ白になり、周りが全く見えなくなった。


私はその景色に、大好きなアトラス聖人の漫才を思い出した。

 

(アトラス聖人漫才回想)


「その映画の面白いところがあるのよ」

「そらあるだろね、映画だから」

「主人公の女性が大蜘蛛に襲われるところなんだけど・・・」

「うん、それどんな状況なの?なに映画なの?」

「巨大蜘蛛に糸を吐かれて襲われるんだけど」

「それは怖いね、ホラー映画なの?」

「ホラーじゃないけど襲われる訳よ、大蜘蛛に」

「ホラーじゃないの!」

「大蜘蛛に糸吐かれて襲われるんだけど、これがノーダメージなんよね」

「なんで?それ結構ヤバイ状況だよね?」

「それが主人公が牢屋に入れられててさ・・・」

「だからどんな状況だよ!何の映画なのそれ?」

「それで糸のせいで牢屋が真っ白になるんだけど・・・」

「ああ、檻全体が糸に絡まれる訳ね?」

「え?もしかしてお前もその映画見た?」

「見てねえよ!なんでそうなるんだよ!」

「いや、理解度が半端ねえから・・・」

「そうなの?ごく普通だけど?」

「それで、ヤバイ!もうこれはヤバすぎる!ってところまで追い込まれる訳よ」

「まあ、周りが全く見えないだろうからね・・ヤバいよね・・・」

「でもその主人公はある方法でその危機を脱出するんだよね・・・」

「え?どんな方法で?」

「蜘蛛の糸って横の力には強いけど縦の力には弱いんだよね」

「そうなんだ」

「だから女は糸をガッと掴んで上下にグワッと引っ張っる訳よ」

「うんうん」

「すると糸はビリビリビリッと引きちぎれて、空いた隙間に飛び込んで脱出するんだよ」

「・・・だから何の映画なんだよっ!」


(回想終わり)


その漫才は、最後までの何の映画なのかを言わずにひたすらカオスな展開を説明するボケに対し、ツッコミを入れると言ったアトラス聖人十八番の漫才である。


私はそのネタの内容と同じ状況な事に気付き、絡まった糸を掴んで上下に思いっきり引っ張った。

すると糸はビリビリと破けた。


アトラス聖人の漫才通り、私は破けた隙間から脱出しようと隙間に飛び込んだ。


(ガコーン)

「痛―い!」


飛び込んだ先には柵があるので、私は思いっきりに柵に激突し、めちゃくちゃ痛かった。



(アトラス聖人漫才回想)


「だけど檻の中にいる事を忘れていて檻の柵に激突して結局出られないんだよ」

「その主人公バカだろ!と言うかそこは脱出させてやれよ!」


(回想終わり)


「そうだった・・・柵に激突するオチだった・・・」


柵にぶつかると同時に、そう言ったオチだった事を思い出した。


そして・・・その後どんな展開なのかも・・・。


その後の展開はと言うと、魔法使いが助けに来てくれて、蜘蛛を追い払おうとするけど、魔法使いがめっちゃ弱くて蜘蛛を倒すことが出来ず、結局主人公が倒すと言う内容。


しかしそんな展開になる事はさすがに無い無いと諦めた。


「おい、誰かいるのか!大丈夫か!」


信じられない事に・・・誰かが助けに来た。


「え!助けに来てくれたの?もしかして魔法使い?」


糸のせいで周りが良く見えない中、私は声を上げた。


すると、何者かは言った。


「そう!私は魔法使い、リシュエルだ!」


この世界は一体・・・何?

アトラス聖人の漫才の通りに事が進んでいる・・・?

じゃあこの後は、結局私が蜘蛛を倒すって事・・・?


全く何て・・・何て面白い世界に私は転生した事だろう・・・。


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