七、ノリツッコミは、時に嫁を、貰います
修吾たちは、イグロでの戦いを終えホクに戻って来ていた。
街に戻り前に泊まった宿に向かい一部屋ずつ用意してもらうと、
それぞれ部屋に入るなり力尽きるように眠りについた。
そして修吾はまたあの夢を見ていた。
「はいどーも、本日もこの時間がやってきました!元気出していきたいと思いまーす!」
「(うわ、今回は最初からテンションが高い・・・)」
「はい、それではね、今回もね、この世界についてね、はなすぃーをしたいと思います!」
「(・・・・)」
「ちょっとちょっと、ノリが悪いんじゃないの?」
「(あれ?僕の反応がわかるの?)」
「わかるわかる!」
「そうなの・・あれ、声が出せる!」
「いやね、今回はちょっとお前と話がしたくてさ、声が出せるようにしました」
「自由自在かよっ!」
「それよりも・・・色々気づいてきたみたいだな?」
「・・・・うん・・・」
「あのサルが余計な事を話してくれたおかげで俺の計画がかなり狂っちまったよ」
「計画?」
「まあそれは置いといて・・・それで?」
「それで?・・・って何が?」
「ここでクイーズ!」
「ええ?」
「お前はこの世界に何をしに来たのでしょーか?」
「急になんなの!」
「いいからいいから・・・もう分かってるだろ?」
「・・・・・この世界を・・・僕の嫌いな・・・」
「うんうん」
「・・僕の嫌いなお笑いで・・・救う為・・・・・・」
「正解正解大正―解―!」
「でもどうしてこんな僕が・・・意味が分からない」
「・・・意味なんてないさ、いや強いてあるとすれば・・・やっぱりやめておこう」
「なにそれ!はっきり言って!」
「お前は、自分の手に浮かんでいる文字には気づいているよな?」
「うん・・・笑クエって書いてある・・・」
「ならお前がこの世界でやるべき事も分かっているはずだ。いいか、この前言いそびれた事を伝える」
「それ!もしこの世界で死んだらどうなるか教えてください!」
「もしお前がこの世界で死んだら・・・」
「・・・死んだら?」
「お前が元々住んでいた世界の存在も消えてなくなる」
「・・・・え?」
「せいぜい死なずに頑張れよ・・・・」
「はあ?ちょっと待ってどういう事!どういう意味?あの?ちょっと?・・・・」
夢はそこで終わり、修吾は目を覚ました。
目を覚まして間もなくアマトが修吾の部屋にやってきた。
「修吾様!お体は大丈夫ですか?」
「あ、おはようございますアマトさん、おかげさまですっかり元気になりました」
「良かったです・・・」
「アマトさんこそ体調どうですか?」
「ええ、俺もすっかり元気になりました!」
「そうですか、それは良かったです。・・・ところでニアさんは?」
「隊長はまだ部屋から出て来ていませんね」
「心配ですね・・・ニアさんは怪我も酷かったし、何事もなければ良いんですが・・・」
「ところで・・・これからどうされるんですか?」
「え?何をですか?」
「決まってるじゃないですか!隊長からのプロポーズですよ!」
「・・・・・ああ!」
「もしかして・・・忘れてました?」、
「いや忘れてはいないですよ!ただ色々あって考える暇が無かっただけです!」
「それにしてもびっくりですよね、急にプロポーズだなんて・・・。なんかこっちまでドキドキしましたよ」
「僕も正直言ってどうすればいいのか分からないんです」。
修吾とアマトがそんな会話をしている頃、ニアはと言うと。
「ふおおおおおおおおおおお!・・・ふおおおおおおおおおおお!」
実はかなり前から目が覚めていて布団の中で奇声を発していた。
「ふおおおおおおおおおおおお!」
それはまるで、前から憧れていた学校の先輩に勇気を出して告白をして、
「いいよ付き合おうか」と返事は貰えたが、そこから特に付き合った感じもなく、
生殺しのように何日も放置され、ずっと変に意識だけして逆にしんどくなって、
家に帰る度に「私たち付き合ってるんだよね?そうだよね?」と、
精神が不安定になっている女子高生のような感じである。
するとそこへアマトが部屋を訪ねてきた。
(コンコン)
「ニア隊長!起きていますか?大丈夫ですか?」
「ふおっ!」
「ニア隊長?」
「あ・・ああ、大丈夫だ!ちょっと待ってくれ」
ニアは下着姿から服を着て部屋のドアを開けた。
(ガチャッ)
「お、おはようアマト・・」
「おはようございます隊長、お体の具合はいかがですか?」
「ああ、特に問題は無い」
「それは良かったです、修吾様も目が覚めてお元気そうですよ!」
「ふおっ!」
「どうしました?」
「え?ああ、特に問題は無い」
「修吾様が会議をしたいと言ってるんですが、ロビーまで来ていただけますか?」
「ふおっ!」
「なんですかそのふおっ!って言うのは?」
「え?いや何でもない!会議了解した!すぐに支度する!」
ニアがロビーに行くと、修吾とアマトは既に席で待っていた。
改めて修吾の姿を見たニアは赤面し、恐る恐るなるべく目立たないように空いている席に座った。
「・・・あれ?ニア隊長!何故そんな離れた席に座ってるんですか?こっちですよ!」
恥ずかしさのあまり無意識に離れた席に座ったニアは、アマトの呼び掛けに覚悟を決めた。
「修吾様!」
ニアは修吾が座っている席の前に三つ指を立て、深々と頭を下げながら言った。
「不束な嫁ではございますが、貴方様の為に身も心も捧げる所存でございます。これからどうか何卒よろしくお願い申し上げます!」
修吾は突然のニアの行動に唖然とした。
「ニ、ニアさん?」
「はい」
「ちょ・・・ちょっと意味がわからないのですが・・・」
修吾の戸惑いに対しニアは頭を下げたまま続けた。
「修吾様は・・・私の愛の告白に、喜んでと言って承諾してくれました。ですので、本日をもって・・・修吾様の嫁として全力を尽くさせて頂きます!」
ニアの行動に驚きながらも修吾は正直に気持ちを伝えようとする。
「ニアさん、その事なんですが実は・・・」
しかし修吾は、
もしニアに「喜んでと言ったのはノリツッコミのノリの部分として言っただけで、結婚を承諾したわけでない」と伝えたら、一体自分はどんな目に遭うのだろか?と危機感を抱いた。
「修吾様、実はなんでしょうか?」
「え?いや、あの、仮にですけど・・・喜んでと言ったのは冗談ですと言ったらどうしますか?」
ニアは修吾の質問に対し、下げていた頭を上げニッコリと笑いながら答えた。
「殺します」
「は、はは・・(ダメじゃん!これ、断る=死じゃん!)」
アマトが見守る中、結婚するか潔く死ぬかの2択に迫られた修吾は、ニアに一つ提案をした。
「ニアさん!よ、よかったらデートしませんか?」
「ふおおおおおお!」
「ふおお?」
「いえ、失礼しました、デートでございますか?」
「ええ、正式に夫婦になる前に、改めて二人で少し出かけませんか?」
「な、何故その必要があるのですか!」
「や、やっぱり僕たち出会ってまだ間もないですし、お互いを少しでも知る為に必要だと思うんです!決して結婚するのが嫌だと言う訳では無いですよ!」
「修吾様がそう仰るのであれば・・でもどちらに出かけるのですか?」
「え、そ、それは・・・え~っと・・・あっ!あれはどうですか?」
修吾が指差したのは、ロビーの壁にたまたま貼ってあった貼り紙だった。
そしてその張り紙にはこう記載があった。
『年に一度のホクホク祭り開催中!ホクホクした食べ物やイベントをたくさんご用意しております!家族や恋人とホクホクした気持ちになって楽しもう!』
「ニアさん!ぼ、僕とホクホクしましょう!」
修吾は半分ヤケクソだった。
とにかくこの場を一旦乗り切ろうとニアに勢いでデートの誘いをし、
ニアは修吾の提案にやむなく承諾した。
アマトは、二人のやり取りを終始気まずそうに見守り、
一通り話が終わったのを見計らって場を取り持った。
「で、では、話もついたという事で今後について話を進めましょう!」
「アマト、今後の話をする前に回収した石を換金所に持って行った方が良いのでは?」
「そうですね隊長」
「あっ!モンスターの石の事を忘れてました!バブルタイガーの石を回収してくれたんですね?」
「はい、あとニア隊長がレインフロッグの石も回収してくれました」
「レインフロッグ?・・・誰が倒したんですか?」
「修吾様が気絶する寸前に倒されたんですよ!」
「?・・・そうだったんですね、自覚が無かったです」
「それだけではなく、驚くことにレインフロッグの石が今までの形状と異なるんです」
「異なる?」
「ええ、通常のレインフロッグの石は水玉模様の宝石向きの石なのですが、回収した石は水玉模様の氷石だったんです」
「氷石?」
「はい、それもかなり強度が高く、これは武器や防具に使えるかなりの高級石です!」
「ほんとですか!それは嬉しいですね!」
「修吾様、アマト、まず回収した石を鑑定してもらってから今後の事を決めた方が良いかと・・・」
修吾たちはこの街の換金所に向かう事にした。
換金所に到着し中に入ると、ここら一帯の換金所の長であるポテフがいた。
ぽっちゃりとした体形にモワッとあごに生えた白髭を手で触りながら、
換金所に入ってきたニアを見てポテフは話しかけた。
「おお、これはこれはニア総隊長殿ではないか、お久しゅうございますな」
「ポテフ様、ご無沙汰しておりました」
「相変わらずお美しい・・・」
「ポテフ様がこちらにいらっしゃるなど珍しいですね」
「ちょうど現場の視察でホクに来ておりまして」
「そうでしたか」
「それでニア殿、本日は如何なされたのですか?」
「実は・・・・」
ニアはポテフに石を見せた。
「ホー、これはこれはモンスター石ですな、しかもバブルモンスターとは・・・いやはやなんとも豪傑な事か、ニア殿が倒されたのですかな?」
「そんな、私如きがそんなことできません。倒されたのはこちらにいらっしゃる英雄、ツッコミ様です」
「英雄ツッコミ様?・・・申し訳ありません、初めて聞く英雄様のお名前で存じ上げておらず・・・」
「無理もありません。主人、いやツッコミ様は先日リンドウにてロックトカゲを倒され英雄になられたばかりの方ですから・・・」
「そうでしたか、それにしてもあのバブルモンスターを倒すほどの英雄様だとは、いやはやなんとも豪傑な事か・・・ん?この氷石は初めて見ますな」
「それは新種のレインフロッグの石でございます」
「新種のレインフロッグ!初耳ですな、レインフロッグに新種がいたとは・・・」
「そのレインフロッグも主人、いやツッコミ様が倒されたのです」
「ホー!それはそれはなんとも豪傑な事か・・・」
修吾はニアがちょこちょこ主人と言っている事にハラハラした。
「で、ニア殿・・・」
「なんでしょう?」
「その・・・先ほどからちょこちょこ言っている主人とはどういう意味ですかな」
「ふおおおおお!」
「どうなされたニア殿!」
「いや、ポテフ様の聞き間違いかと・・・」
修吾はニアとポテフのやり取りに生きた心地がしなかった。
「それよりも、この石がいくらになるか鑑定してもらえますか?」
「もちろんそれは喜んでさせていただきますが、何分新種の石となると鑑定結果までに少し時間を頂きますがよろしいですかな?」
時間が掛かる事を承諾し、ポテフに石を預け三人は換金所を後にした。
宿に戻る途中アマトが修吾に耳打ちをする。
「修吾様」
「どうしました?」
「俺一人で宿に戻りますので、今の内に隊長とホクホク祭りに行ってきてください」
「え!ちょ、ちょっとアマトさん!」
そう言うと、アマトは走って先に行ってしまった。
突然のアマトの離脱に動揺する修吾。そんな修吾にニアは言った。
「あれ?修吾様、アマトがいませんがどこに行かれたかご存知ですか?」
「え?あ、あの今から二人でホクホク祭りに行きませんか?」
「ふおおおおおおおおおおおお!」
「どうしましたニアさん!」
「いえ大丈夫です、急でしたので少し驚いただけです」
「は、はは、そうですか・・・アマトさんは先に宿に戻ったので、少しだけ行きませんか?」
「・・・か、かしこまりました」
ホクホク祭りがやっている場所に着くと、そこは噴水があるとても大きな広場で、
噴水を囲うようにたくさんの出店が並んでいた。
「うわあ、ニアさん!すごい数の出店ですね!これはアマトさんも一緒に来たら良かったですね」
「そ・・そうですね・・」
ニアはいざ修吾とデートすると思うと、極度の緊張からぎこちない趣で返事をした。
二人は出店を周り、ホクホクとした食べ物や催しを楽しんだ。
年に一度の祭りだけあって人も多く集まっており、とても混雑している中、
近くにいたカップルにニアが目を向けた。
「ちょっとリュウちゃん待ってよー!」
「んだよテメー、おせえーんだよ!しっかりついて来いよ!」
「そんな事言ったって、人も多いしゆっくりじゃないと歩けないよ・・・」
「んだよテメー、めんどくせえ奴だなー」
カップルの男は女に対しとても冷たい態度で接していた。
そしてニアはそれをじっと見つめた。
「ちょっと、リュウちゃん!ちょっと待って!リュウちゃーん!」
女の呼び掛けに構わず男は女を置き去りにして人ごみの中をどんどん前に進んでいく。
一人だけ先を行く男に必死に追い付こうと女は歩くが、慣れない浴衣姿に足を取られ思うように歩けず、人の壁に阻まれ身動きが取れなくなった。
そして女は、そんな自分の事を心配せず、先をどんどん進む彼氏に悲しくなり、その場で泣き始めた。それをじっと見ていたニアは女性を大事にしない男は心から許せない為、この男はすぐに抹殺しようと決めた。
まずは手に持っている先ほど出店で買ったホクホク林檎飴を修吾に預けようとした。
しかし、修吾はいつのまにか居なくなっていた。
その事にニアは、修吾もさっきの男のように自分だけ前にどんどん進んでしまったのかと悲しみと怒り感じた。そんな中、何やらカップルの男が向かった方向から言い合いが聞こえてきた。
「んだよテメー!ケンカ売ってんのか?」
「彼女さん泣いてましたよ!早く戻りましょう!」
「誰だよ!関係ないだろテメーには!」
「そうですけど、せっかくのホクホク祭りなんですから仲良く楽しみましょうよ!」
「舐めてんのか!(バキッ)」
「いたっ!」
ニアが言い合いの場に着くと、先ほどのカップルの男が修吾を殴っていた。
それを見たニアは一瞬でブチ切れ、高く飛び上がり男の脳天に踵落としをしようとした。
すると修吾が男を庇い、ニアは修吾に当たらないようにとっさに体制を入れ替え躱した。
「修吾様!何故その男を庇うのですか!」
「ニアさん・・・ここは僕に任せてください」
「だから・・・テメーは何なんだよ!(バキッ)」
男はまたしても修吾を殴った。
ニアは我慢なんて出来るはずがなく男に殴りかかった。
しかしまたしても男を庇った修吾を殴ってしまった。
「しゅ、修吾様ああああ!」
修吾は自分の頬にニアの渾身のストレートをめり込ませながら言った。
「ニュ、ニュアさん、ひったじゃないですか・・ここは任せてくだしゃいと・・」
ニアの鋭く重いストレートのせいで、足がガクガクになり立つのもやっとの状態の修吾だったが男にこう叫ぶ。
「ふざけるなああああああああ!女性に優しくできない男は男じゃ無ああああああい!」
「な、なんだよテメーは・・・」
しつこく関わってくる修吾の後ろにいる、ものすごい形相で睨んでくるニアを見て男は言った。
「・・・はっ!も、もしかして・・・そこにいるのはニア総隊長でしょうか?」
「そうだ!」
「こ、これはニア総隊長殿!お疲れ様です!」
「お前は誰だ?」
「じ、自分はホク憲兵団所属、ダン・リュウジであります」
「ほ~う、貴様、憲兵団の者だったか・・・」
「はい!本日は非番を頂いておりまして・・・」
「そうか・・・因みにお前が殴った人は・・・私が愛する人だが?」
「・・・え?こ・・この御方ですか?」
「そうだ、お前は私が愛する人を・・・2度も殴った・・・な(ギロッ)」
「ひいいいいいいいい!も、申し訳ありません!」
「貴様は憲兵団の人間なのに、女性を存外に扱い、その上英雄であり、私が愛するそのお方を2度も殴った・・・覚悟は・・・出来ているね?(ニコッ)」
「ひいいいいいいいい!」
ゲバラ憲兵団の中では、
『決して総隊長の前では女性を存外に扱ってはいけない。もしその禁を犯せば命は無いと知れ』といった、血の掟があるほどに、冥土の鬼悪の怖さは団全体に広がっていた。
そしてこのダンは、血の掟を破っただけではなく鬼悪の愛する人を2度も殴ると言う、
『団史上最大の暴挙に出た男』として、後々語られる事になるのであった。
ダンは自分の自分の命が無い事を悟り、あまりの恐怖に失禁をしながら膝を付きガクガクと震えた。
一発も殴られていないのに膝をガクガクしながら怯えるダンに対し、何発も殴られ膝をガクガクしている修吾が言った。
「お・・・怯える暇があったら・・・彼女を迎えに行けよおおおおおお!」
その叫びにニアはキュンとする。
「修吾様・・・」
「た、隊長・・・い、命だけはどうか・・・」
「修吾様、この男はダメです。自分の事しか考えておりません。どうかこの男の上司として、私にとどめを刺させていただけませんでしょうか?」
するとそこにダンの彼女がやってきた。
「リュウちゃーん!」
彼女は怯えながら震える彼氏を発見すると、身を挺にして彼氏を守った。
「どなたか知りませんがリュウちゃんに酷い事をするのはやめてください!」
それを見てニアは言った。
「私は憲兵団総隊長のニアです。あなたが庇っている男の上司であり、あなたの彼氏を抹殺する権利を持っているものです」
「ニアさんにそんな権利は無いよっ!」
暴走気味のニアにフラフラながらもつっこむ修吾。
「そこをなんとかお願いします!大切な人なんです!」
「どうしてだ?その男は困っているお前の事を放ったらかしにして先に進む、男の風上にも風下にも置けない男だぞ!」
「風下にもっ!」
それは言い過ぎだよと思う修吾。
「そんな男を庇ってどうするんだ?」
「そうかも知れませんが・・・それでも私はこの人が好きなんです!どんだけ私に冷たくしても、この人が好きなんです!」
「マジか・・・・」
予想外の展開に、ニアは渾身の「マジか」を使った。
「う・・うう・・」
ダンは必死に自分の事を庇う彼女の姿を見て泣きながら謝った。
「キヨ・・・・ごめんな・・・今まで冷たくして・・・」
「リュウちゃん・・・」
修吾は思った。
「(あれ?なんか収まる雰囲気だ・・・僕殴られただけじゃん!)」
さすがにニアも、男を庇う女には手は出せず、不本意ながらも男を許すことにした。
「わかった・・・今回の件は見逃してやる・・・」
「ほんとですか総隊長!」
「ああ、本当だとも・・・彼女に冷たくした件はな!(ニコッ)」
「・・・え?」
でも全てを許す訳ではなかった。
「さて・・・私を愛する人を二度殴った償いをしてもらおうか・・・」
ニアは指をボキボキと鳴らしながら、鬼の如し形相でダンの前に立ちはだかる。
「ひいいいいいいいい!」
その形相にカップルは心から震えた。
「ニアさん!やめてください!」
「しゅ、修吾様・・・」
このままではダンを抹殺しかねないニアに修吾は勇気を出して言った。
「ぼ・・・僕は・・・・すぐに人を傷つけようとするニアさんは嫌いです!」
「(がーんがーんがーんがーんがーん・・・)修吾様あああ・・・・」
修吾の言葉に心からヘコむニア。
「総隊長!すみませんでしたあああ!」
カップルはニアがヘコんでいる隙に逃げて行った。
修吾はニアに場所を変えようと伝え、二人は少し離れた人気の少ないベンチに移動した。
ベンチに二人肩を並べ座るも、ニアはヘコみすぎて真白な灰のような状態になっていた。
そんなニアに修吾は今の気持ちを正直に話した。
「ニアさん、僕はまだこの世界の事をよく知らないし、これからこの世界でどんな風に生きていけばいいのかもちゃんと決めれてはいないんです」
「(がーんがーんがーんがーん・・・・)」
「ですからこんな状態でニアさんと夫婦になるとかも正直考えられないですし・・・」
落ち込みすぎて放心状態のニアがちゃんと話を聞いているのか不安だったが、修吾はゆっくりと自分の気持ちを正直に話し続けた。
その間ニアはずっと下を向き、夕焼けのオレンジ色がニアの切ない気持ちを表しているようにも思えた。
「・・も・・もういいですから・・・」
「えっ?」
ニアは十分理解したと言わんばかりに話し続ける修吾を止め、ベンチから立ち上がると一人で宿に戻っていった。
「・・・あれ?・・ニア隊長?」
先に宿に戻っていたアマトは、自身の部屋の窓から外を眺めていると、一人で寂しそうに宿に戻ってきたニアを見かけ、明らかに落ち込んでいる様子に心配になった。
それから少し時間をおいて日もすっかり暮れたころ、修吾も宿に戻ってきたのを確認したアマトは、修吾の部屋を訪ね事情を聞いた。
「修吾様、隊長がとても落ち込んでいる様子なのですが、何かあったんですか?」
修吾はアマトにニアに言ったこと全てを伝え、アマトはニアが見事に振られてしまったんだと理解した。
「でも修吾様、これからもニア隊長と一緒に行動するわけですから、このままだとまずいですよね?」
「そうなんですよね~・・・はあ~どうしたらいいんだろう・・・」
これからニアとどう接していけばいいのか悩んでいるとニアが部屋を訪れてきた。
(コンコン)
「修吾様、ニアです・・・お戻りでしたでしょうか?」
「ニアさん!」
突然の訪問に驚きつつも扉を開けると、そこにはウエディングドレスを身に纏ったニアが立っていた。
「・・ニ・・・ニアさん・・・その恰好は・・・?」
「修吾様・・・今から私と結婚式をしましょう(ニコッ)」
「な・・なんですとおおおおおおっ!」
先ほどの展開で結婚の話は無かった事になったと思っていた修吾は、ニアの行動に意味が全く分からなかった。
「あ、あのニアさん?さっき僕の気持ちはちゃんと伝えたはずなのですが・・・」
「はい!」
「はい!って、じゃ、じゃあ何故結婚式に発展するんですか?」
「え?だって修吾様はすぐに人を傷つける私は嫌いなのですよね?」
「え?・・・ええ、それはそうですが・・・」
「だから私はこれから二度と人を傷つけません!これで結婚できますね!」
「え?ええ?」
アマトは修吾に耳打ちをする。
「修吾様、もうこれははっきりと結婚する気はないと言うしかありませんよ」
「いやしかし・・」
「それが言えないのであればもう結婚してください・・・」
満面の笑みで結婚を求めるニア、もう結婚しろと囁くアマト、修吾は覚悟を決めた・・・。
「わかりましたニアさん!・・・け・・・結婚しましょおおお!」
この瞬間ニアの目からは大量の涙が噴水のように吹き出し、ニアは修吾に思いっきり抱きついた。
転生して10日目の夜、修吾は夫婦となった・・・。
ここで少し時は遡る・・・。
(サルとの会話の回想)
「ホホホ、そこの女、お主は今までの勇者や賢者たちがワシたちモンスターを倒せたのは何故だと思う?」
「そ、それは強力な武器や魔法が貴様たちに効いたからだろ!」
「そうじゃな・・・ならこれからそれが一切通じないとすればどうする?」
「どういう事だ!」
「少しだけ教えてやろう。45年ほど前じゃ・・・ある男が別の世界からこの世界に転生してきたんじゃ。その男は前の世界ではとても名の通った科学者でな~、この世界でもモンスターに興味を抱き研究を始めたのじゃが・・・」
「研究・・・?一体何のために・・・?」
「それは分からんが、その男の研究によってモンスターはどんどん進化していったんじゃ」
「進化・・・さっきのレインフロッグのようにか?」
「そうじゃ、各モンスターには弱点があり、今まではその弱点を狙われて倒されてきたが、科学者はモンスターの弱点を無くすための研究を行い少しずつ成功していった」
「あっ!だから前に俺と修吾様が襲われたロックトカゲに勇者様の攻撃が効かなかったんだ!」
「ホ~ウ・・・なんじゃ小僧、既に新世代のロックトカゲに遭っておったのか・・よう生きておったな・・」
「あの時は修吾様が倒してくれたんだ!」
「そう・・・それが問題なのじゃよ・・・弱点が無くなったはずのモンスターが何故倒されたのか・・・」
「それは貴様たちには結局弱点があるからだろ!」
「博士はその原因を探るためにワシたちをここに送り込んだのじゃ・・・そしてわかったんじゃよ、ワシらの新しい弱点が【お笑い】だという事が・・・」
「弱点がお笑い?そのお笑いとは何なのだ?」
「まさかそこに倒れている男が【お笑い使い】だったとはのぉ~たまげたわい・・・」
「なに!修吾様がお笑い使いだと?」
「その男はバブルモンスターとレインフロッグをお笑いの力を使って倒し、それによって力が尽きて気絶したんじゃよ・・・」
「だから貴様はさっきから何を言っているんだ!」
「まあ~分からんのも無理はない・・ワシはそろそろ帰るとする・・ホホホホホ・・・」
「おい待て!話はまだ終わって・・ない・・ぞ・・・・ぐ・・・体が・・動かない」
「調子に乗るなよ女・・・その気になれば貴様らなんぞすぐに殺せるんじゃ・・・」
「じ・・じゃあ・・何故殺さない・・・修吾様は・・・貴様らの弱点なんだろ・・・」
「・・・ホホホホホ・・・・」
(回想終わり)
お笑いの力とは・・・。
新世代のモンスターを倒す方法とは・・・。
修吾を生かした理由とは・・・。
いろいろ謎が深まっていく中、この物語はこれからますます激化していくのであった。