六、Sクラスのモンスター
私は英雄ツッコミ様と共にイグロに行くために街を出て、途中ホクと言う街で一夜を過ごすことになり、ツッコミ様とベッドを並べ寝る事になった。実は男性と同じ部屋で一夜を共にするのは初めてだったので、緊張から胸がドキドキしてすぐには寝むれそうになかったが、ツッコミ様に憲兵総隊長になった理由を聞かれ、過去の話をすることで緊張が和らぎ眠ることが出来た。
ゲバラ様以外の人に過去の話をしたのは初めてだったが、ツッコミ様には自然と話すことが出来た。それは私がツッコミ様に対し、何か特別な感情を持っているからなのか・・・。
自分でもよく分からないまま、支度を済ませ宿を出ようとフロントに向かった。
「あらお嬢さんたち、もう出かけるのかい?」
「ええ、どうもお世話になりました、おいくらでしょうか?」
「お金はいいよ!ウォッカを助けてくれたお礼さ!」
「そんな、あんな豪華な部屋を無料でなんて申し訳ないです」
「いいからいいから!それよりもそこのあんた!」
「僕ですか?」
「ちょっとこっちおいで!」
「なんですか?」
「・・・それで、昨日の夜は熱く燃えられたかい?」
「ちょ・・・ちょっと何言ってるんですか!」
「なんだい、あんな美人と一夜過ごして何もなかったのかい!」
「あ、当たり前じゃないですか!」
「あんたそれでも男かい!」
「ツッコミ様、どうされましたか?」
「な、何でもないです!とりあえず行きましょう!」
そう言いながらもツッコミ様は何故か顔を赤くしていた。
イグロに向かう為馬車に戻った時だった、誰かが馬車で寝ていたのだ。
「ちょっとニアさん、誰か僕らの馬車で寝てませんか・・・って、アマトさん!」
寝ていたのはまさかのアマトだった。
「え!なんで、ちょっと、ちょっとアマトさん!起きてください!」
「う~ん、あと5分・・・」
なかなか起きないアマトに私は持っていた水をアマトの頭にぶっかけた。
「・・・冷たああい!・・・うわっ!・・・あっ!」
驚いて起きたアマトの頭を鷲掴みしながら私は言った。
「あっ!ではないぞ貴様!何故ここにいる!屋敷にいるのではなかったのか!」
「ぎゃああああああああ!」
「ニアさんストップストップ!アマトさんの頭が豆腐のように潰れてしまいます!」
ツッコミ様が止めなければ、私は完全にアマトの頭を豆腐のように潰していた。
「アマトさん!何故ここに居るんですか?」
「そんなの決まってるじゃないですか!俺も一緒にモンスターを退治する為ですよ!」
「貴様・・・・(ガシッ)」
「ぎゃああああああああ!」
「だからニアさんストップストップ!」
「だって俺のせいなのに、何もお手伝いできないのは我慢できなかったんだよ!」、
「気持ちはありがたいですが、それにしてもアマトさんどうやってここまで?」、
「実は・・・最初からずっと馬車の下にしがみついて・・・」
「えええ!最初からですか!」
実はアマトは、リンドウを出た時からずっと馬車の下にしがみついて私たちについて来ていた。
それにしても屋敷の憲兵達の目を盗んで抜け出していた事に驚いたが、それよりもこんな子供に抜け出される憲兵達にも情けなく思い、帰ったらシゴキ直すと心に誓った。
「こうなったら仕方ないですね、アマトさんも一緒にイグロに行きましょう!」
今更リンドウに戻る訳にもいかず、3人でイグロに向かう事にした。
向かう途中、ツッコミ様がモンスターについて質問をされた。
「今回イグロに現れたモンスターについてニアさんは何か聞いてますか?」
「詳しくは聞かされていないのですが、どうやら今回のモンスターは、ホクの憲兵達も今までに見た事が無いモンスターらしく、かなり凶暴なようです」
「それはつまり初めてのモンスターってことですよね?それだと事前に対策を練るのは難しいですね・・・」
「修吾様、ちょっといいですか?」
「どうしましたアマトさん?」
「ここら一帯で一番強いモンスターはバブルタイガーと言われているのですが・・」
「バブルタイガー?」
「ええ、口から毒性の泡を出す大きなトラです。因みにAクラスのモンスターですが、それ以上に強いモンスターは近くには居ないので、ある程度は対策を立てられると思います!」
ツッコミ様とアマトの会話を聞いて私はある事に気付いた。
「アマトちょっといいか?何故貴様はツッコミ様の事をお名前で呼んでいる?」
「えっ!いや、それは前からこう呼ぶように修吾様に言われて・・・」
「ほほう、貴様如きがツッコミ様をお名前で呼んでいいと本気で思っているのか?」
私でさえお名前で呼ぶなど決して出来ないのにアマトが呼ぶなど、到底見過ごせる訳がなかった。
「良かったらニアさんもアマトさんのように僕の事は名前で呼んでくれませんか?」
「なっ!何を!そんな事出来る訳ないじゃないですか!」
「お願いします!ツッコミ様って呼ばれるのはやっぱり恥ずかしいので・・・」
頭を下げてまで頼んでくるツッコミ様にはさすがに逆らえなかった。
「か、かしこまりました・・・・しゅ・・・しゅ・・・修吾様っ!」
言ってしまった!言ってしまった!名前で呼んでしまったあああああ!
そもそも男を名前で呼んだ事も初めてなのに、初めての相手が英雄だなんて・・・。
何この心臓のバクバクは?何この息苦しさは?何なんだこの興奮はあああああ!
「ところでニアさんはバブルタイガーを知っていますか?」
「はははいいい!」
「ええっ!急にどうしました?」
「ふふ、もしかしてあれじゃないですか?修吾様を名前で呼んでテレ・・ぎゃああ!」。
私は余計な事を言おうとしたアマトの頭を潰しに掛かった。
「ちょっとニアさん!本当に潰れちゃうから!」
「すみません取り乱しました。実はバブルタイガーとは一度だけ勇者様たちと一緒に戦った事があります」
「ええっ!そうなんですか!」
「その時は勇者様5人がかりで何とか倒せましたがかなりの強敵でした」
「もし今回のモンスターがそのバブルタイガーだったらかなり苦戦しそうですね」
「でも今回のモンスターは見た事が無いモンスターだとニアさんも聞いていますので、バブルタイガーの可能性は低いかと・・・多分Bクラスのモンスターではないですかね?」
「おいアマト!お前にニアさんと言われる筋合いは無いぞ?」
「し、失礼しました!ニア隊長!」
私はアマトに厳しく接する。
イグロまであとわずかと言う所まで近づいた時だった、前からこちらに馬車で向かってくる人たちがいた。
「おおおい!アンタ達、これ以上進んだら危険だ!早く引き返せ!」、
「どういう事ですか?」
「また炭鉱にモンスターが出たんだよ!今行ったら殺されちまうぞ!」
どうやら噂のモンスターが出たようだ。
「一体どんなモンスターですか?」
「泡を吹くトラみたいなモンスターだよ!アンタ達も早く逃げなよ!」
そう言うと炭鉱から逃げてきた男は去って行った。
「修吾様、今の情報からすると今回現れたのは・・・」
「そうですよねニアさん、完全にバブルタイガーですよね?」
一先ず炭鉱に向かい到着すると、そこはモンスターに激しく荒らされていた。
「あっ!修吾様、ニア隊長!あそこ見てください!」
そうアマトが指差したトンネルの入口にモンスターがいた。
「ニアさんどうですか?やっぱりバブルタイガーですか?」
「ええ、間違いありません、バブルタイガーです」
炭鉱を襲っていたのは全長4メートルのバブルタイガーだった。
「Aクラスのモンスターですよね・・・さすがにヤバいかも・・・」
「修吾様、どういたしますか?」
「ま、まずはちょっと様子見をして・・・ツッコミどころを探したいと思います」
「ツッコミどころ?それはつまりどういう事でしょうか?」
「え?ああ、弱点探しです!」
「なるほど、弱点の事ですね!それであればお教えできますよ!」
「本当ですかニアさん!」
「はい、前回戦った時に発見しましたので・・・弱点は尻尾です!」
「尻尾ですか?」
「ええ、バブルタイガーは尻尾を斬ると倒せます!ただモンスターも斬られまいと必死に抵抗しますが・・・」
「・・・わかりました!(尻尾はさすがに斬れない)」
モンスターは私たちに気付いたからなのか、トンネルの中に入ってしまった。
迂闊に近づけず様子を見ていると、トンネルの中からうめき声が聞こえてきた。
「ウギャギャギャギャー」
「うわっ!なんか凄いうめき声が!」
うめき声の後、少ししてトンネルの入り口にバブルタイガーは再び姿を現した・・・が、その姿に私たちは目を疑った。
「え・・・ええええ!ニアさん・・・これって・・・」
「修吾様、アマト・・・すぐに逃げましょう・・・これは・・・」
「そんな・・・これって一体どういう事・・・・」
なんとバブルタイガーは、全長8メートルは超えているだろう巨大なモンスターに咥えられている状態で姿を現した。思いもよらない展開に思考が追い付かず、私たちはその場から動けずにいた。
そんな中、修吾様が念のための確認と言わんばかりの質問をされた。
「あの・・・バブルタイガーを咥えているモンスターって見た事ありますか?」
修吾様の質問に私もアマトもNOと答えた。
「咥えられているバブルタイガーは・・・見たところ死んでますよね?」
修吾様の質問に私もアマトもYESと答えた。
「Aクラスのモンスターを倒せるモンスターって事は・・・つまり・・・」
修吾様の戸惑いに私もアマトも小さく・・・つまりSクラス・・・と答えた。
初めて遭遇したSクラス(仮)のモンスターは氷柱を針ネスミのように全体に纏っており、丸い体型をしていた。モンスターはバブルタイガーを咥えたまま、トンネルの入り口付近で動かずにこちらをジッと見ている。
「修吾様・・・ここは一先ず逃げましょう・・・」
「そうですねニアさん、さすがにこの展開は想定外過ぎます・・・」
私たちは逃げる為に馬車をゆっくりと反転させようとした。
「ピギャアアアアアア!」
「うわあ!なんだこの鳴き声は!」
するとモンスターは逃げようとした私たちに大きな奇声を浴びせた。
そのあまりにも大きな奇声に、馬車の馬が気絶してしまった。
「そんな馬が!これでは逃げられない!」
「ニアさん、アマトさん、ここは僕が何とかしてみます!二人は逃げてください!」
「そんな、無茶です!いくら修吾様とは言え、あのモンスターを一人では・・・」
「そうですよ修吾様!俺も一緒に戦います!」
「・・・分かりました、なら三人で全力で逃げましょう!行きますよ・・・3、2、1」
修吾様の合図で馬車から全員飛び降りた瞬間、モンスターは纏っている氷柱をこちらに飛ばしてきた。
「うわあああ!」
「アマト!」
氷柱の一つがアマトに命中しそうになり、私はとっさの判断でアマトを庇った。
「ぐっ!」
「ニア隊長!」
庇った際に氷柱が私の左腕をかすめた。
「だ、大丈夫だ!大したことは無い!」
「ニアさん、アマトさん大丈夫ですか?」
「ええ何とか・・・」
私たちは一旦馬車の後ろに隠れ、私と修吾様で状況整理をした。
「まさかあの纏っている氷柱を飛ばしてくるなんて、これでは背を向けて走るのは危険ですね・・・」
「ええ、迂闊に動けない状況です・・・」
「ただ、いつまでもここに隠れている訳にもいかないですし・・・」
「・・・それにしても少し気がかりなのですが・・・」
「どうしましたか?」
「あのモンスターはあそこから動く気配がしないように思うのですが・・・」
「・・・確かにニアさんの言う通り、僕たちの行動を動かず観察している感じがしますね・・・」
「その気になればいつでもあのトンネルから出て私たちを襲う事が出来るはずなのですが・・・」
私と修吾様の会話を聞いてアマトは言った。
「もしかして・・・動かないんじゃなくて動けないんじゃ・・・」
「アマト・・・何故そう思う?」
「いや、何となくなんですが、今日は結構日差しが強く少し暑いので、あの体に纏っている氷柱が溶けてしまうから、トンネルから完全に出てこないのかって・・・」
それを聞いて私は不覚にも、お前は天才か!と心の中で思った。
「アマトさん!すごい観察力ですね!きっとそうですよ!それに違いない!」
「とは言え、あそこからでも氷柱が飛んでくる訳だからどうしようにも・・・」
「あのニア隊長・・・一つ提案があるのですが・・・」
「なんだアマト?」
「モンスターがいるのはトンネルの中なので、トンネルの上を昇って逃げればモンスターも攻撃できないかなと思ったんですが・・・」
それを聞いて私は不覚にも、やっぱお前は天才じゃん!と心の中で思った
「アマトさん凄すぎです!絶対それならこの場から逃げれますね!」
「ただあそこまで行くのは容易な事では無いな・・・よし、まず私が一人で行って本当に攻撃してこないかを試してみます」
「わかりました、では僕とアマトさんでモンスターを引きつけます!」
そう言うと修吾様とアマトは馬車から飛び出した。
「ピギャア!」
飛び出した二人に対し、モンスターはすかさず氷柱を放つ。
「うわああ、怖い怖い!アマトさん早くこの木の後ろに!」
「ハア、ハア、うりゃあああ!」
何とかモンスターの攻撃をかいくぐり、修吾様とアマトは馬車から少し離れた木の後ろに逃げ込むことが出来た。そして私もその隙にモンスターがいる真上に移動する事に成功した。
「やったー!ニアさん、そこから逃げれそうですか?」
「はい!ここからなら逃げれそうです!」
「ピギャアア!」
「・・・え?・・・なんだと!」
モンスターは氷柱を真上にも放ち、それによって私がいた足場が崩れた。
「ニアさん!」
崩れる足場を伝いながらなんとか下に降りる事が出来た。
「ニアさん早くこちらに!」
急いで修吾様がいる木の後ろに逃げ込む。
「だ、大丈夫ですか!」
「はい、なんとか・・・それにしてもまさかトンネルごと攻撃してくるとは・・・」
「でも隊長見てください!それによってモンスターが瓦礫の下敷きに!」
「ニアさん、アマトさん、今の内になるべく遠くに逃げましょう!」
「・・・ピギャアアア!」
「うわあああ!」
瓦礫に埋もれたモンスターは氷柱を放ち、瓦礫を周囲に吹っ飛ばした。
「なんて奴だ、全く効いていない!」
「あっ!でも今の攻撃でモンスターの体を纏っていた氷柱が無くなりましたよ!」
纏っていた氷柱が無くなったモンスターは、全体が水玉模様のカエルの姿をしていた。
「あれはレインフロッグ!」
「え?ニアさん知ってるんですか?」
「はい修吾様、あれはCランクモンスターのレインフロッグです、何故レインフロッグが氷柱を纏っているのかは不明ですが間違いありません」
「俺も知ってます、レインフロッグはどちらかと言うと大人しいモンスターで、こちらから攻撃を加えない限り暴れる事は無いのですが・・・」
「あのモンスターの弱点ってあるんですか?」
「レインフロッグは脳に強い衝撃を与えると倒せるはずです」
「本当ですかニアさん!」
「ええ、ただ従来の場合ですが・・・試してみる価値はあるかと・・・」
レインフロッグは、纏っていた氷柱も無くなり、太陽の日差しを直接浴びる形になった。
そのせいかモンスターに異変が起きた。
「アマトさん、何かモンスターの体中から変な液体が出てますけど・・・」
「たぶん日差しを直接浴びて上がった体温をああやって下げているんだと思います、従来のレインフロッグも日差しに弱く、体温が上がるとああやって下げますから」
「明らかに弱っている、これはチャンスだ」
「そうですねニアさん、咥えていたバブルタイガーもいつの間にか地面に落としてますし、今なら逃げれそうですよ!」
「修吾様、ここは逃げるよりもこのチャンスに倒してしまいましょう!」
「いや、それは危険じゃないですか?」
「しかし修吾様、ここで逃げてもまたアイツはこの炭鉱を襲います!それならば、この機会に・・・」
「ああ!レインフロッグがまたトンネルの中の日陰に戻ってしまう!」
「そうはさせるか!」
「ちょっとニアさん!」
心配する修吾様の意見を聞かず、私は辺りに落ちていた瓦礫の破片を拾い、モンスターの脳天めがけ飛び掛かった。
「これで終わりだ!」
破片を脳天に叩き込もうとした瞬間、何かに体当たりされ私は吹っ飛ばされた。
「ぐはぁっ!」
「ニアさん!」
私に体当たりをしたのは、先ほどまで咥えられていたバブルタイガーだった。
「どういう事!なんでバブルタイガーが・・・レインフロッグに倒されたんじゃ!」、
「アマトさんはここに居てください!」
「え!修吾様!」
私は体当たりされた衝撃で壁に激突し、動けなくなった。
「ぐ・・・このままでは・・・」
バブルタイガーは動けない私に詰め寄り、大きく口を開け泡を吐き出そうとした。
「ダメだ、このままでは・・・」
「やめろおおお!(ドコッ)」
「ウギャァ!」
諦めかけた時、修吾様がバブルタイガーの尻尾を瓦礫の破片で殴りつけた。
「ニアさん!大丈夫ですか!」
「しゅ・・修吾様・・・」
「早く肩に掴まってください!この場から逃げましょう!」
バブルタイガーが弱った隙に、私は修吾様の肩に掴まり、アマトが待つ木まで走った。
走る最中、私を助けに来た修吾様の横顔に胸が熱くなり、ドキドキが止まらなくなった。
「ニアさん頑張って!もう少し!」
必死に私を助けようとする修吾様のお言葉に、体の痛みも和らぐ気がした。
何この気持ち?何この幸福感?何?何なのコレえええええ!
「修吾様、ニア隊長!」
「ハア、ハア、何とか助ける事が出来た・・・危なかった・・・」
私は修吾様のおかげでアマトが待つ木まで逃げることが出来た。
「大丈夫ですかニア隊長!」
「あ・・ああ、修吾様のおかげで死なずにすんだ・・・」
「ちょっとニアさん!無茶しすぎですよ!」
「・・・・」
「ちょっとニアさん聞いてます?」
「・・・修吾様・・・」
「なんです・・・・う」
私は今までに経験した事がない程の高揚感を抑える事が出来ず、修吾様にキスをした。
「・・ええええええええええええ!」
それを見て、アマトは頬を赤くして全力で驚いた。
「・・・修吾様・・・大好き・・・」
「ええええええええええええええ!」
私の突然のキスと告白に、修吾様も頬を赤くして全力で驚いた。
そんな事をしている内に、カエルはトンネルの中に戻ってしまい、バブルタイガーもこちらに襲いかかってきた。
「修吾様!バブルタイガーがこっちに来ます!」
「ちょっと、ちょっと待ってアマトさん!色々と整理が、整理が追いつかないよ!」
バブルタイガーがこちらに走って近づいてくる中、私は膝を付き修吾様の手を握る。
「に、ニア隊長!こんな時に何してるんですか!早く逃げないと!」
バブルタイガーが目の前で口を開け泡を吐き出そうとした瞬間、私は修吾様に言った。
「修吾様、私と結婚してください!」
「はい喜んで、ニアさん見てください、バブルタイガーさんも僕たちを泡で祝福してくれようとしていますよ!・・・って、死ぬ間際じゃあああい!(バコッ)」
修吾様はそう叫び、私の脳天に愛のチョップを喰らわせた。
「・・・ボンッ・・・」
愛のチョップが私の脳天に突き刺さると同時にバブルタイガーも泡のように消えた。
「・・・えええええええええええええええええ!」
アマトは腰を抜かすほどに驚き戸惑った。
「え、ちょ、なんで?なんでバブルタイガーが・・・」
「ピギャアアアアアア!」
「うわっ!またレインフロッグが洞窟の中で吠えてる!修吾様、ニア隊長、とりあえずここから逃げましょう!」
そう言うとアマトは、チョップをしたまま固まっている修吾様と、チョップをされたまま固まっている私の両方の腕を掴んだ。
「・・はっ!一瞬気を失ってた!アマトさんありがとうございます!」
「・・はっ!・・・ああ、アマトすまない、一瞬気を失っていた」
「ちょっと二人とも大丈夫ですか!」
「大丈夫ですよアマトさ・・あれ・・体が急に重い・・・なんで・・」
「修吾様・・・私も更に体が重くなっています・・・」
モンスターからのダメージで体が重くなったのではなかった。
明らかにこの症状はMP消費によるもので、見たところ修吾様も同じ状態に陥っている様子だった。
「(どういう事?修吾様の技は魔法の類って事なのか?・・・)」
「修吾様もニア隊長もお疲れだと思うのですが、何とか歩けませんか?」
「だ、大丈夫です、行きましょうアマトさん」
「大丈夫だアマト・・・行こう・・・」
残りの力を振り絞り、必死に逃げようとした時、トンネルからレインフロッグは姿を現し、氷柱も元通りに復活していた。
「くそぅ・・・モンスターもしっかりと回復してしまってますね、この状態でまた氷柱を飛ばされてしまったらさすがに逃げ切る事は難しいんじゃ・・・」
「アマトさん、いざとなったらアマトさんだけでも逃げてください、ニアさんは何が何でも僕が守りますので・・・」
「(ズキューン)・・・修吾様・・・・」
先ほどの私の告白に対し修吾様は、はい喜んでと答えてくれた。
そして今も僕が守ると言ってくれた。
もうこれは・・・夫婦ってことでいいんですよね?そうですよね?
私が幸福感に浸っていると、レインフロッグはこちらに向かって大きく口を開け始めた。
それを見たアマトが修吾様に言った。
「ん?修吾様、何かモンスターが口を開けてますよ、もしかして口から何か強力な技を出すんじゃ・・・」
私たちは未知の技に警戒し身構えた。
「はあ~、よっこらせっと・・・・カエルの中は臭くてたまらんの~」
身構えていると、そう言葉を発しながら、人間の子供ぐらいの大きさのサルがレインフロッグの口から姿を現した。
「いやはや、なかなかやりよるではないか、人間ども・・・」
驚きを通り越した。モンスターの口の中から、言葉を話すサルが出てきたのだ。
「・・・なんだ?そんなにサルが珍しいのか・・・?」
その光景に修吾様があの技を放った。
「いや~・・・カエルの口から喋るサルが出てくるんだ~・・・あまりの衝撃にショック死するとこだよぉぉぉっ!」
「・・・・ボンッ!」
その技によりレインフロッグは消えた。
だが謎のサルは消えず、修吾様の技について話し出した。
「ホホホ、なるほど、やりよるやりよる、さすがにこのダメージでは、大体のモンスターなら消えてしまうな・・・ワシも少し効いたわ・・・」
「えっ、レインフロッグは消えたのに、サルは消えない!どうして!」
「・・な・・・ん・・・・で・・・・(ドサッ)」
「しゅ・・・・修吾様!」
技を放った事で修吾様は気絶してしまった。
サルは話を続けた。
「おぬしら・・・何をどこまで知っておる?」
その問いに私は言い返す。
「な、何のことだ!」
「とぼけるな・・・ワシらを倒す方法を知っておるのだろう?」
「それはもちろんモンスターの弱点とかは日々研究はしているが・・・」
「それは旧世代の話じゃろう?」
「どういう事だ!」
「今この世に存在しているモンスターは新世代という事じゃ・・・」
「貴様・・・何を言っている!」
「ホホホ、何じゃ・・・知らんのか?」
「だから何をだ!」
「ニア隊長!修吾様を連れて早く逃げましょう!このままじゃ・・・」
「おいそこのガキ、心配するな、別にお前らに手出しはせん」
「ど、どういう事?」
「まあ少し、話をしようではないか・・・」
そう言うと、サルは私とアマトに話をした。
その内容は本当にショック死しそうなほど衝撃的なものだった。
一通り話が終わると、サルはトンネルの中に入っていき、そのまま姿を消した。
私とアマトはその後、修吾様の意識が戻るまでその場で待つことにした。
3時間ほど経った頃、修吾様は目を覚ました。
「・・・ん・・・んん・・・」
「しゅ・・・修吾様!」
「修吾様大丈夫ですか!私にできる事があれば何なりと・・・」
「ア、アマトさん、ニアさん・・・僕は一体・・・?」
私は修吾様が気を失った後、謎のサルが話したことを修吾様に伝えた。
それを聞いた修吾様は、声を殺し、動揺を隠せない状態だった。
そして沈黙が少し続いた後、修吾様はそっと口を開いた。
「・・・何故僕がこの世界に来たのかが分かった気がします・・・」
その言葉の意味はこの時には分からなかったが、とても深刻な表情でそう話す修吾様に、先ほど私の告白を受け入れてくれた事は本当なのかを再確認できる雰囲気では無かった。
さすがに今じゃないなと思った。
「修吾様、最後にサルが言っていたのですが」
「なんですかアマトさん?」
(サル回想)
「ホホホ、これだけは知っておくといいじゃろう・・・ワシのように人語を話すモンスターはこれからもどんどん増える、そしてワシのような類はおぬしらでいうSクラスのモンスターだという事を理解しておけ」
(回想おわり)
私たちは、いや、私たちがいるこの世界は、知らない間に急激な変化をしている。
人語を話すモンスターの存在、倒すことが不可と言われているSクラスの増加。
このサルとの出会いで、私たちの世界がこれから激動していく事を、私は確信した。