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五、冥土(メイド)の鬼悪(オニア)

街の英雄となった修吾は、アマトが騙した人たちにお金を返す為、メイドで憲兵総隊長のニアと共に旅に出た。荷馬車に乗り、リンドウを出て炭鉱イグロに向かう道中、修吾はこの世界についてニアから説明を受けていた。


「ツッコミ様は、この世界の事をどこまでご存じなのでしょうか?」

「一応アマトさんからある程度は聞かせてもらっています」

「モンスターの事も大体お分かりですか?」

「それはほとんど知らなくて・・・」

「かしこまりました、でしたらまずこの世界のモンスターの特徴をご説明しますね」


ニアの説明ではこの世界のモンスターには、それぞれクラスがあるとの事。


「クラスですか?」

「そうです、ツッコミ様はこの世界に来てどんなモンスターに遭遇しましたか?」

「いまのところだと、スライムとロックトカゲだけです」

「なるほど、スライムはCクラス、ロックトカゲはBクラスですね」

「あの、クラスはどれだけあるんですか?」

「そうですね、一番強いモンスターはSクラス、そこからA、B、Cの順番になります」

「結構幅があるんですね・・・それってどんな感じで強いんですか?」

「簡単に言うと、Cクラスのモンスターを倒すのに、大の男10人掛かりでやっと倒せるかどうかのレベルです。因みにBクラス以上になると普通の人間が何人で掛かっても倒すことは不可能なレベルです」

「モンスターってそんなに強いんですか!」

「ええ、ですからBクラスのロックトカゲを倒したツッコミ様は、正に人外の力を持つ英雄という事です」


その説明を聞いて修吾は初めて自分が特別の力を持っている事に実感が湧いた。

そしてニアの話では、モンスターのクラスによって石の価値も変わるとあった。


「なるほど、やっぱりモンスターの強さで石の価値も違うんですね・・・」

「はい、Cクラスのモンスターで500~1500ギラ、Bクラスで1500~5000ギラ、Aクラスで5000~20000ギラとなります」

「へ~、クラスで石の価値にすごい差がありますね。じゃあ、もし僕がAクラスのモンスターの石を手にすれば、運が良ければ借金も一発で無くなりますね!」

「確かにおっしゃる通りでございます」

「因みに、Sクラスの石になると一体いくらぐらいの価値になるんですか?」

「・・それは未だ不明でございます」

「不明?」

「ええ・・」

「何故なんですか?」

「それは・・・、まだ誰もSクラスのモンスターを倒したことが無いからです」

「え?」

「Sクラスのモンスターとは、即ち・・倒すことが不可能なモンスターの事を言います」


場所は再びとある王宮・・・。


「それが実は・・・、街に放ったロックトカゲは何者かに倒されたようです」

「何?倒されただと?」

「はっ!」

「どういう事だ!あのモンスターは特別ではなかったのか?」

「ええ、従来のロックトカゲを改良して、弱点を無くした特別製でございます」

「じゃあなぜ倒されるんだあ?(ギロッ)」

「申し訳ございません、正直私にも理解不能でして・・・」

「博士よ・・・そんな調子で本当に余が世界の王になれると言うのか?」

「それはご安心ください」

「何を根拠にそう言うのだ?」

「実は今まで不可であった、Sクラスのモンスターの生産に成功いたしました」

「何!倒すことが不可と言われているあの・・・」

「はい、まだ試作段階ではございますが・・三体ほど・・・」

「そうか!ハハハハハハハ、それであれば安心だ、よくやったぞ!」

「そして既にその内の一体を・・・・・イグロに送っております・・・・」


とある王宮で、得体の知れない者たちが話をしている中、修吾とニアはイグロの近くにある街、

「ホク」に到着していた。

日もすっかり暮れ、夜道を進むのは危険と判断したニアは、ホクで一夜を過ごす事を修吾に伝え、

宿を求め二人は街を歩いていた。


「ニアさん、ここは一体どんな街なんですか?」

「ここは我ら憲兵第四支部がある街で、リンドウに比べ小さいですが、モンスター石を細工する細工職人が有名な街です」

「細工職人?なんかカッコいいですね!」

「ツッコミ様は、何故モンスターの石に価値があるかご存知でしょうか?」

「いえ、全く分かりません!」

「それは石の特性に合わせて、色んなものに細工できるからでございます」

「つまりそれってどういう事ですか?」

「そうですね・・例えばツッコミ様がお持ちであったスライム石は、とても美しいジュエリーに細工が出来る石であり、高く価値がございます」

「なるほど、だから高く売れるんですね!」

「ええ、しかしそれ以外の物には細工できない代物でもあります、実はモンスターの種類によって細工できる内容が変わるのです」

「何かおもしろそうな話ですね!」

「先ほどお伝えした価値の差は、こう言った内容によって変わります」

「それじゃあ、他のモンスター石はどんな物に細工できるんですか?」

「実はその気になれば全てのモンスター石をジュエリーに細工できるのですが、モンスターによってジュエリー向きである物とそうでない物がありますので、ジュエリーに向かない石は武器や防具、家に細工します」

「ええ?武器とか家とかにも細工できるんですか?すごい技術ですね!」

「はい、特別な武器や防具、家に細工が可能な石がこの世で最も価値がある石なのです」

「確かに!家とか作れる石とかヤバそうですね!」

「ええ、そしてAクラスの石は、ほとんどが家に細工できる代物のようでございます」

「へ~・・Aクラスのモンスターって色々ヤバそうですね・・・」


修吾は石の話を聞かせてもらい、この世界の仕組みを少しずつ理解していった。


気が付くと二人は街の中心部まで歩いて来ており、周りには酒場や宿など色んな施設があった。

どの宿にするかを話していると何処からか悲鳴声が聞こえてきた。


「きゃぁぁ――――」

「え、何?今悲鳴が聞こえたけど?」


驚く修吾を余所に、ニアは悲鳴があった方向にすごい速さで向かった。


「ええ!ちょっとニアさん何処に!・・・」


とある酒場・・・。


「お嬢ちゃん~、俺達の酒に付き合えないってどういう事だ~、ああ?」

「ちょ、ちょっと離してください!」


ガラの悪い輩が酒場のウェイターである女性の腕を掴み、強引に自分たちの席に座らせようとしていた。それを見た店のマスターが仲裁に入る。


「お、お客さん、手荒な真似は困るよ!」

「なんだぁ~お前、邪魔だどけぇえ!(バキッ)」

「ぐああああ~(ドンガラガッシャ~ン)」


仲裁するマスターをガラの悪い輩は殴り飛ばした。


「きゃぁ~、マスター」

「お嬢ちゃん、あんなおっさんの事は放っといてよ、俺たちと飲もうぜぇ~?」

「嫌、離してぇ!」

「お頭~、この女攫っちまいましょうぜ?」

「グフフフ、それもいいな~、どうせ誰も俺達に逆らえないしなぁ~」

「嫌!お願い・・・離して・・・やだ・・・」

「おいおい、無駄な抵抗すんなよ・・・なっ!(ドゴッ)」

「グゥ・・・・(ドサッ)」


輩は抵抗するウェイターの腹を殴り気絶させ、肩に担ぎ何処かに連れ去ろうとした。

周りにいる他の客はこの輩たちに恐れて見て見ないフリをしている。誰も攫われようとしているウェイターを助けることが出来ないまま、輩達が店を出ようとした時だった。


「・・・ん?なんだお前?」


店を出ようとした輩達の前に現れたのはニアであった。


ニアは、人相の悪い輩が気絶している若い女性を肩に担いでいる状況を見て、瞬時に輩達を成敗することを決めた。


「どうしやしたお頭・・・?・・・なんだこのメイ(バキッ)・・(ドサッ)」


ニアはまず、女性を担いでいるお頭の左隣の子分の首を右のハイキックで蹴り砕いた。


「おい!テメエ、俺の子分に何しやがる!」

「お前たち・・・私の前で何をやっているのか分かっているのか?」


右隣りにいた子分が、仲間が倒されたのを見て持っている刀でニアに斬り掛かる。


「このやろおおおおおっ!」


それをニアは躱すも、続けざまに女性を担いでいるお頭がニアの首を掴みに掛かる。

首を掴みにきたお頭の左手の親指をニアは掴み巨体を宙に投げ回した。


「(ブンッ)・・何ぃぃ!(ドゴォッ)ぐぉっ・・・・(ドンガラガッシャ~ン)」


宙に回ったお頭の腹部に激しく蹴りを入れ、店の奥まで蹴り飛ばす。


「お、お頭ぁぁぁ!(バキッ)ぐえあぁぁ・・・(ドサッ)」


担がれていた女性が宙を舞う間に、もう一人の子分の脳天に踵落としを喰らわせた。


そして落ちてきたウェイターをニアは優しく抱き留めた。


一瞬で男三人を倒すこの光景に、近くに居た客の一人が震えながら呟いた。


「あ・・あれが噂の・・冥土メイドの・・・鬼悪オニア・・・」


ニアはウェイターを抱えたまま店に入り、見て見ぬフリをしていた男共に叫んだ。


「攫われようとする女性に対し誰も助けようとせんとは・・・それでもお前ら、チ○コ付いてんのかああああああ!」


その叫びに、男共は自分の情けなさに涙を流し床に手を付いた。


「お前らも同罪だあああ!」


ニアは手を付く男共にも踵落としを喰らわせた。


修吾がニアに追い付いた時には、男共が全員気絶している状況であった。


「これって・・・ニアさん・・一体何があったんですか?」


修吾の問いに、ニアは振り向きニッコリと笑いながら答えた。


「これはツッコミ様!特に何もございません!」

「(絶対嘘だああああああ!)」


その後、駆け付けた憲兵達はニアから命令を受け、気絶している男たちを全員憲兵所に連行した。

そんな中、気絶していたウェイターが意識を取り戻した。


「・・んん・・・・あれ?」

「気が付いたか?怪我は無いか?」

「あ、はい・・・大丈夫です・・」

「そうか・・それはよかった(ニコッ)」


ニアは意識を取り戻したウェイターを腕から下ろした。


「お前に被害を与えたガラの悪い連中たちは全員憲兵が捕らえた、安心しろ」

「ありがとうございます!・・・あっ!マスターは?」

「それも大丈夫、憲兵が病院に運んだ」

「・・・よかった」


安心したウェイターはニアに言った。


「この度は助けていただきありがとうございます!どうか私にお礼をさせてください」

「そうか・・・、じゃあどこか良い宿を教えてくれないか?」


ニアがそう言うと、ウェイターはある宿に二人を連れて行った。


「あら、ウォッカいらっしゃい!」

「おばさんこんばんは!お客さんを連れて来たよ!」

「あらどうしたい、あんたがお客を連れてくるなんて珍しいこともあるもんだね」

「へへ、実は・・・」


ウェイターのウォッカは、宿主にここまでの経緯を説明した。


「そうかい、それは大変だったね・・・よしわかった!そういう事ならうんとサービスしてあげるわ!」


そう言うと、宿主は修吾とニアに一番豪華な部屋を用意した。


「どうだい?広くて良い部屋だろ?」


豪華でとても綺麗な部屋を見て修吾は言った。


「すごい部屋ですねありがとうございます!それで、もう一部屋はどれですか?」

「もう一部屋?何言ってんのお客さん!この二人部屋だけで充分だろ?」

「・・・ちょちょちょちょ、ちょっと同じ部屋は困ります!」

「なんだい?アンタ達カップルじゃないのかい?」

「ち、違いますよ!何言ってるんですか!」

 二人部屋に動揺する修吾にニアは言った。

「ツッコミ様、私は二人部屋で構いません!ツッコミ様が良ければですが」

「ええ!ちょっとニアさん!冗談はよしてください!」

「そうですか・・・そんなにツッコミ様は私との二人部屋が嫌なのですね」

「いや!そう言う訳では・・・」

「宿主さん、申し訳ないけどもう一部屋用意してください」

「そうかい、それは良いんだけど、他に空いている部屋は狭い部屋しかないよ?」

「それで結構です!私がそちらに泊まりますので」

「ニアさん僕がそっちに行きますよ!ニアさんはこの綺麗な部屋で寝てください!」

「そういう訳にはいきません!同じ部屋が嫌なのであれば私が狭い部屋にいきます!」

「いやそういう訳には・・・」

「わたしが・・行きます(ギロリッ)」

「わ、分かりました・・・(怖いよ~)」


諦めた修吾はニアと一緒に綺麗で広い部屋に泊まることに決めた。

色々気まずい中、食事とお風呂を済ませ、部屋の明かりを消し、二つ並んだベッドに二人は入った。


そして修吾はニアに質問をした。


「ニアさん、ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「ニアさんは憲兵隊の総隊長なんですよね?」

「そうですが?」

「何故女性のあなたが憲兵隊に入ったんですか?それも総隊長だなんて・・・」

「何か変ですか?」

「いや、変とかではなくて・・・ニアさんは凄く綺麗ですし、メイド姿もすごく似合ってますし・・・だからすごいギャップと言うか何と言うか・・・」

「・・・・・」

「さっき憲兵さんに男の人達を全員気絶させたのはニアさんだって聞いて、なぜそこまでしたのかも気になって・・・いや、別に無理に教えてほしい訳では無いので嫌なら大丈夫です!」


修吾の質問にニアは間を置き、そしてゆっくりと話し始めた。


「12歳の時です、当時私はここから遥か東にある故郷の村で生活をしていました・・」。


(ニアの回想・・・)


「ニア!準備は出来た?もう時間よ!」

「もうすぐ~!ちょっと待って~!」


私は四方を谷に囲まれた小さな村、ヨギで生まれました。

秘境にあるとても小さな村でしたが特別な村でした。それは女性が皆とても美しかった事です。

私の一族は何故か昔から美しい女性が生まれる血筋で、その噂を聞いた他国の貴族たちは、そんな美しい女性を自身の屋敷のメイドにしようと、毎年村に来ては気に入った女性と契約するようになりました。そしてそれが村の伝統として長く引き継がれる事にもなっていきました。


そう言った理由からこの世ではあり得ないほど美しいメイド達がいる私の村を、

貴族たちは「冥土の国」と呼ぶようになりました・・・。


「ニア準備は出来たの?」

「出来たよお母さん!」

「それじゃあ行くわよ、貴族の皆様がもうすぐ来られるわ!急いで!」

「はい」


ある日私は、厳しい花メイド修行を終えた12~20歳の一流のメイドだけが参加できる、1年に1度だけの【メイコン】に参加しました。メイコンとは貴族たちの前でメイドとしての知識や技術を披露するコンテストで、その日は一流のメイドが20人ほど集まっていました。


「今日この日の為に、17にもなる貴族の公爵様たちが、遠路はるばるこの村にお越しくださった。皆の者、日頃の修行の成果を存分に発揮し、貴族の方々にお気に召していただけるよう全力を尽くすのだぞ!」


私の村は出稼ぎに行く事が難しい場所にある為、貴族との契約金だけが村を守る資金となっていました。だから少なくとも毎年5名は貴族に雇われるメイドを出さないと、村の存続が危うくなる状態でした。それを知っていた私は、貴族に雇ってもらえるよう全力でコンテストに挑んだのです。


「おお、あのメイドは誰だ?是非わが屋敷に欲しい!」

「容姿はもちろんだが、それよりもスキルがなんとも素晴らしい!」


私はありがたい事に、炊事、洗濯、掃除、生け花、裁縫、日用大工、書初、多国語会話の全てのスキル分野で、貴族たちから最高評価を頂くことが出来ました。

しかし、容姿面では勝てない相手がいました。


「おお、なんだあのとても美しい女性は!」

「どの女性も美しいがあの女性は次元が違う」


そう貴族たちが騒ぐほどに美しい女性は親友のアイリでした。

アイリは容姿面でダントツの最高評価を得ていました。


ただアイリには問題があったのです。


「美しいが・・・、ただメイドとしてのレベルは他の者と比べると物足りないな」

「あのレベルでは、他の貴族に笑われてしまうな・・・」


それは貴族たちがつい嘆いてしまうほど、メイドスキルが明らかに乏しい事でした。

アイリのスキル不足は村では有名でしたが、村の長はアイリのあまりにもの美しさから、村のアピールとして特別に参加させていたのです。そうこうする内に全てのお披露目が終わり、残すは貴族がメイドを決める為の入札だけとなりました。入札とは、各メイドボックスに年間契約金の金額と年数を記載した紙を貴族たちが入れていく制度で、年間契約金×契約年数で一番合計金額が高かった貴族に仕える事になっていました。


そして入札の結果、私はメア公爵の屋敷に仕える事になりました。


「(えっ!まさかメア公爵のところに!)」

「(よりによってメア様の所だなんて!)」


私がメア公爵の屋敷に行く事を知った他のメイドたちは皆動揺しました。

それはメア公爵が、冷酷な公爵だからです。定期的に高い金額で契約をしてくれる公爵でしたが、

メイドの扱いがとてもひどく、仕えたメイドは皆心身ともに病んだ状態で村に帰って来ていたのを実際に見ていました。もちろん私もその噂を聞いていましたので、心境はとても複雑になりました。


そして更に驚いたのは、アイリもメア公爵に仕える事になってしまった事です。


「(そんな!まさかアイリに入札が!しかもメア公爵の所だなんて・・・)」


この結果にとても動揺しました。

ただでさえ安心できないメア公爵にアイリを仕えさせるなど危険でしかなかったからです。


そんな不安が残る中メイコンは終わり、仕える貴族が決まったメイド達は、家族や友人とのしばしの別れとして、一夜時間を与えてもらえました。そこで私はその夜、長の元に向かったのです。


「失礼します」

「ニアか・・・今日は素晴らしかった!12歳で選ばれるなんてお前はこの村の誇りだ!」

「ありがとうございます、・・・実は一つお願いがあるのです」

「お願いとはなんだ?」

「どうか・・・長からメア公爵にお願いをして頂けませんか?」

「・・・どんな願いだ?」

「・・・アイリを雇うのは少し待って欲しいとです!」

「・・・・ニア・・・・」


私はこの村で一番仲の良いアイリと同じ場所で働けるのは嬉しく思いました。

でも、それよりもアイリの事が心配だったのです。


「ニアよ・・・それは無理だ・・・」

「どうして!長もお分かりでしょ!アイリがどんな目に遭うか!」

「実は・・・既にお願いしたのだ・・・・」

「・・・え?」

「ニアよすまない、私が甘かった!すまない!」

「それは・・・どういう事ですか?」

「私は今回アイリを参加させたのはあくまでお披露目が目的だった・・・だからメイコンが終わった後、メア公爵に手を付き、アイリにはまだ一流としてのスキルが無いことを伝え、せめて1年待ってもらうようお願いをした・・・」

「それで・・・メア公爵はなんと言ったのですか?」


私の質問に、長は涙を流しながら言いました。


「それでも別に構わないと・・・メイドの主な仕事はニアお前に任せ・・・アイリは自分の観賞用にすると・・・」

「・・・観賞用!?」

「自分の欲を満たす為に・・・アイリを特別な部屋で飼うと・・・」

「そんな・・・それではメイドとは言いません!」

「そうだな・・それではメイドではなく・・・ペットだ・・・」

「長は・・・・長はそれをお許しになるんですか?」

「もちろん、それでは目的が違うと、それは契約違反だと伝えたよ・・でも・・メア公爵は聞き入れてはくれなかった・・」

「そんなの断れば良いじゃないですか!アイリを行かせなければ・・・」

「無理だっ!」

「どうして?」

「そんな事をしたら・・この村が潰されてしまう・・」

「そんな・・・」

「メア公爵は、貴族の中でも一番の財力と権力を持っている御方だ・・・ニアよ・・・本当に申し訳ない、私がアイリを参加させなければよかった・・・」


私の想いは届くことなく、私とアイリは翌朝メア公爵と共に村を出ました。


そしてそこから私とアイリの地獄が始まったのです。


屋敷に着くと予想の通り、メイドの仕事は私に任せ、アイリは公爵が用意した特別部屋で監禁されることになりました。そしてアイリはその時に初めて、自分がメイドではなくペットとして扱われる事を理解した様子でした。


「(こうなったら少しでもアイリを大切にしても貰えるよう全力で働こう)」


幼かった私は覚悟を決めて働きました。

するとその働きが認められ、1週間ほどでメイド長に任命されました。

メイド長になった事で、私はアイリがいる特別部屋にも出入りする事が可能になり、久しぶりにアイリに会える事に嬉しさを感じながら、アイリがいる部屋に入りました。


そこで私が見たものは想像を絶する光景でした。


それは汚れたメイド服を着たアイリが手足を鎖で拘束され、床に置かれた食事を口だけで食べていた光景でした。お風呂もロクに入れていないのか、髪の毛は乱れていて、何とも言えない汗臭さが部屋中に漂っていました。親友は本当にペットとして扱われていたのです。


公爵は部屋に居らず、二人だけの空間に涙を堪える事が出来ず、私は泣きながらアイリに言いました。


「・・・大丈夫?」


アイリは私に気付くと涙を流し言いました。


「・・・ニア・・・私・・・死にたいよぉ・・・・・」


その言葉を聞いて心から怒りが込み上がりました。

そして決意したんです、アイリをこの部屋から逃がすことを・・・。


それから三日後、メア公爵が他国にパーティーへ出かけた夜、予め用意した手足の鎖のカギと、着替えを用意して私は特別部屋に向かいました。

そして私たちは、他の者に悟られぬように用意したルートで、屋敷の外に逃げる事に成功しました。

歩くこともままならないアイリを抱え、私は憲兵所に駆け込みました。


「おや、あんた確かメア公爵様の屋敷のメイドさんじゃないかい?こんな夜更けにどうかしたかい?」


そう聞かれて私はアイリがされている事を憲兵に話ました。


「なんだって!それはひどい!お嬢ちゃんたちもう安心だからね」


そう言うと憲兵は暖かい飲み物を与えてくれました。

そして明日の朝一番に別の街に逃がしてくれる事も約束してくれました。

その約束にアイリと私は安心して眠りにつきました。


そして次の日の朝、メア公爵が私たちを笑顔で迎えに来ました。


「・・・え?・・なんで・・」


私は目の前のメア公爵に思考が止まる感じでした。


「よく知らせてくれた」

「いえいえ、そんな滅相もない」

「さあ・・帰ろうニア、そして愛しのアイリよ・・」


そう言いながら手を差し出すメア公爵に私は心から震えました。


昨日助けてくれると約束をした憲兵が近くに居たので目で助けを求めました。

すると憲兵は微笑みながら言ったのです。


「さあ・・・優しい公爵様の所へお戻り・・・」


右手にお金を握りしめながら・・・。


「(そうか・・そう言う事か・・・)」


私はそれを見て理解しました。


「(この・・・世の中は・・・腐ってる・・・)」


屋敷に連れ戻された私とアイリに待っていたのは、ひどいお仕置きでした。


「(この世に正義なんてものは存在しない)」


アイリは前の特別部屋に戻され、更に拘束を強いられました。


「(私はこんな思いをする為に・・・修業を積んだのか・・・)」


 私は真っ暗で臭い独房部屋に閉じ込められました。


「(一体・・私たちが・・・何をした!)」


独房部屋で手足を縛られ、アイリのように口だけで得体の知れない物を食べました。


「(私は何のために生まれ、生きている・・・)」


後悔、怒り、悲しみ、罪悪感、憎しみ・・・色んな負の感情が一気に芽生えました。


「お前はしぶといな・・・、もう一人の女は死んだのに・・・」


独房に入って1週間ほど経った頃、食事を持ってきたメア公爵の部下は言いました。


「な・・なんの・・こと?」

「なんだ、まだ口が利けるのか?」

「し・・・死んだって・・・誰・・・が?」

「・・お前と一緒にここに来たメイドだよ・・・」


芽生えた負の感情たちは・・・その言葉を引き金に一気に爆発しました。


「どうやら自害したらしい・・・、無理もない、戻ってきてからは更に公爵様に痛めつけられる日々だったからな」


アイリは・・・苦しみに耐えられず、舌を噛んで死んでしまったんです。


「お前もそう長くはないだろ、逃げようとした事を後悔するんだな・・・」


一番避けたかった最悪な事態に、声にならない声で私は泣きました。


「(もう・・・生きている意味もない・・・)」


アイリの死に生きる事を諦め、私も死のうと思いました。

ただその度にアイリとの思い出が過りました。


「ねえニア?」

「なにアイリ?」

「私ニアみたいにすごくないけど、頑張って一人前のメイドになって貴族の役に立ちたい、綺麗なだけって言われないように頑張りたい!」

「うん!一緒にがんばろっ!」


思い出が過る度に、必死に頑張ったアイリに対するこの仕打ちが許せなくなりました。

アイリや自分を苦しめたメア公爵、助けを求め裏切られた世の中、幼い少女を痛めつける男共・・・それらすべてにこのまま何もせず死ぬのは、爆発した負の感情たちが許しませんでした。


「・・・なんだ?まだ生きてるのか?」


1日1回食事を持ってくる部下は、しぶとく生きる私に言いました。


「もうお前も諦めたらどうだ?」


そう言いながら、冷たく硬い床で何日も拘束されている私の髪を撫でました。

その瞬間私は力を振り絞り、部下の首元に全力で噛みつきました。


「ぐああ・・」


部下が怯んだ隙にカギを奪い、独房を飛び出して一心不乱に屋敷の外に走りました。

なんとか屋敷の外に出ると、そこは雨が降り注ぐ夜の世界でした。


もうまともに走る事も、まともに息をする事も難しい状態のまま、私は命が続く限り逃げました。

何日逃げたかも分らず、気が付くと右も左も分からない、建物も何もない辺り一面砂だらけの場所に着いていました。そして私はその場で意識を失いました。


「・・い・・・お・・い・・・お・い・・・」


何かが聞こえてきました。


「い・・おい・・おい・大丈夫か!おい!しっかりしろ!」

「・・う・・・うう・・・ううん・・・」


得体の知れない声に私は意識を取り戻しました。


「おお!意識を取り戻したか!もう大丈夫だ!おい、今すぐ医者を呼び戻せ!」。


虚ろな視界に映ったのは知らない天井と知らない大人の男でした。


「うわああああ!」


知らない男に、私は怯え男の首に噛みつこうとしました。

しかし体は上手く動いてくれるはずもなく、男の腕に倒れこみました。


「どうした!大丈夫か!」

「うわあああああ!(ガブッ)」

「ぐわっ」


それでも私は、目の前にあった腕に噛みつきました。

噛みつく私に、男は私の頭を撫でながら言いました。


「・・・大丈夫だ、怖かっただろう・・大丈夫だから・・・」

「あっ、腕が!大丈夫ですかゲバラ様!」

「大丈夫だ!それよりも早く医者を連れてこい!それと暖かい飲み物もだ!」


その人こそ私の今の主、ゲバラ様でした。

全力で噛みついた私に敵意を向けないゲバラ様を見て、また意識を失いました。


そこから少し経ち、再び意識を取り戻した私にゲバラ様は言いました。


「大丈夫だ!俺は敵じゃない安心してくれ!」


私は本能的にゲバラ様の言葉に嘘が無いことを理解しました。


ゲバラ様は意識を取り戻した私に暖かい飲み物を与えてくれました。

冷え切った体に流し込むと生き返った気分になりました。

電気が点いている明るい部屋に心が安心しました。

体が痛くならない柔らかいベッドに人間に戻れた気がしました。


そして・・・優しい言葉を掛けてくれるゲバラ様に・・涙が止まりませんでした。


「・・・辛かったんだな・・・」


ゲバラ様は私を手厚く介抱してくれました。

そして何日か経ってから質問をしてきました。


「一体、何があったんだ?」


その質問に、私はまた裏切られると思い話せませんでした


「・・いいよ、話したくなったら教えてくれ・・」。


ゲバラ様は黙る私にそう言って暖かい食事を与えてくれました。

それから更に1週間経ち、私はまともに歩けるまでに回復しました。

そんな私を見て、ゲバラ様は散歩に行こうと言ってきました。


「気分はどうだ?久々の太陽の下は気持ち良いだろ?」、

「・・・・」

「う~ん・・・名前はなんて言うんだ?」

「・・・ニア・・・」

「そうか!ニアって言うのか!俺はゲバラだ!」

「・・・・」

「う~ん・・・ニアはどこから来たんだ?」

「・・・・あっち」

「あっち?・・・ああ、ゲインかな?」

「・・・違う」

「ん?・・・じゃあ、ノアか?」

「・・・違う」

「いやいや、ちょっと待て、まさか・・・リロなのか?」

「・・・うん」

「はは・・・嘘だろ?リロからだなんて・・ここまで何キロあると思ってるんだ・・」


ゲバラ様が驚くのも無理はありませんでした。

メア公爵の屋敷があったリロから私が逃げた街まで200キロは超える距離だったからです。

その後12歳の私がその距離をどうやって来たのか、何故ここまで来たのかなど、色々聞いてきましたが私は答えませんでした。そんな私を見てゲバラ様が宿に引き返そうと歩き始めた時でした。


「・・・まさか・・・ニア・・なの?・・」


通りすがりのメイドが話しかけてきました。


「・・・どうしてここに?あなたはメア公爵の屋敷に行った筈じゃ・・?」


話しかけてきたのは、一緒にメイコンに参加した5歳年上のシャリーでした。


「・・シャ・・シャリー?・・」

「ええそうよ、シャリーよ、ニア・・あなたどうしてここに?」

「なんだ知り合いか?」


シャリーはゲバラ様に私との関係を説明しました。

それを聞いたゲバラ様は顔色を変え、急いで私とシャリーを連れて宿に戻りました。


「・・すまないシャリーさん、いきなり連れてきてしまって・・・」

「いえ・・・」

「それで、シャリーさんもこのニアも、あの冥土の国の出身だって言うのは本当か?」

「はい、そうでございます」

「まさか、本当にそんな村があったとは・・・だからこの子もあなたも美しいのか・・・」

「ゲバラ様はご存じではなかったのですか?」

「ええ、私達庶民からは迷信でして、なんたって貴族だけが行ける幻の村ですから」

「それでニア、あなたはどうしてここにいるの?何があったの?」


私は奇跡的に同郷の知り合いに出会う事が出来ました。

それで初めてアイリの事が話せたんです。


「そ・・・そんな・・・・」


シャリーは私の話を聞くと、その場で泣き崩れました。


「そんな酷い事が・・・許せない・・・こんな少女たちに貴族は何様だ!」


ゲバラ様は貴族の行為に対し、怒りをあらわにしました。


「シャリーさん、あなたは大丈夫なのか?」

「ええ、私がお仕えしている御方はとてもお優しく、このような事は全く・・」

「そうか、それは良かった・・」

「しかし、これからニアはどうすれば・・・」

「どうすればって・・村に帰るしかないだろ?」

「それは出来ません!」

「何故だ?こんな幼い少女だぞ?」

「ニア、あなたとアイリは何年契約だったの?」

「・・・8年」

「8年!?」

「・・シャリーさん、何の話をしているんだ?」

「私たちは契約を結ぶ時に年数も定めます。その契約年数が8年と言う意味です」

「なるほど・・・で、それがなんだ?」

「だから8年はニアが村に帰る事が出来ません」

「いや、意味は分かるがそれ所じゃないだろ?今すぐに帰るべきだ!」

「・・私たちは膨大な契約金を頂いておりますので、そういう訳にはいかないのです」

「それは・・一体いくらになるんだ?」

「ニア・・・あなたの年間契約金はいくらなの?」

「・・・2万ラギ」

「2万ですって!・・・信じられない・・・」

「シャリーさん、という事は2万×8年の16万ラギって事か?」

「・・はい、そうです・・」

「そんな・・16万ラギなんて、一つの街の年間予算を優に超える額だぞ!」

「だからこそ、尚更ニアは今すぐメア公爵の元に戻らないといけません」

「いや、だからと言ってそんな所に戻ればこの子はまた酷い目に・・・」

「わかっています!ただ戻らなければ・・今度は村が酷い目に遭います」


私もシャリーが言う意味を理解していました。

私がこのまま逃げ続けると、メア公爵から何らかの仕打ちを村が受ける事を分かっていたので、自分の事をむやみに話せなかったのです。


「・・すみません、そろそろ私も屋敷に戻らないと・・・」

「そ、そうだな、シャリーさん色々時間を取ってしまいすまなかった・・」


そう言うと、ゲバラ様はシャリーを宿の外まで見送ろうとしました。

するとシャリーはゲバラ様の手を握り懇願してくれました。


「こんな事を出会ったばかりの方にお願いするのは図々しいのですが・・・どうか・・・どうかニアの事を・・・何卒よろしくお願いいたします・・・」


その言葉にゲバラ様は、下を向き何も返す事はありませんでした。

シャリーが去った後、私にゲバラ様は言いました。


「・・・ふぅー、いやはや、何とも重い状況か・・・」


私の置かれている状況を知ってか、息が詰まるよう表情でそう言うと、部屋にあるソファーに私を横に座らせ、涙を流しながら言いました。


「幼い少女が背負うにはあまりにも重い状況だが、すまない・・・今の私にはどうする事も出来ない・・・」


それを聞き私は黙って宿を出ました。


行くあてもないまま歩き、気が付くと目の前に大河が流れていました。

このまま何も仕返しが出来ないうちに死ぬのは悔しいですが、生きていくのも難しいと悟った私は、目の前の大河に身を投げようと橋の上に立ちました。


「ちょっと待てえええええ!」


そんな時、誰かが叫びながら私を抱きしめ、橋の上から降ろしました。


「早まるなニア!」


それはゲバラ様でした。


「・・・・どうして?・・・私には・・・行く所が無い・・・」

「行く所ならある!」

「・・・・どこ?」

「それは・・・俺の所だ!」

「・・・無理でしょ?・・・だってさっき・・・」

「ああ、確かにさっき俺はお前に何もしてやれないと言った!」

「・・じゃあ、どうして?」

「さっきまでの俺と今の俺は違う!」

「・・・」

「お前が出ていった後、俺は憲兵団長に就任したんだ!」


この国には3つの大きな憲兵団があり、私が逃げた街シンドウにはその本部がありました。

ゲバラ様はリンドウ区域の新しい憲兵団長を決める会議の為にシンドウに来ていたようで、私が宿を出た後に正式に団長就任が決まったとの事でした。


「・・・聞いてくれニア、憲兵団長にはある権限がある!」

「・・権・・・限?」

「ああ、それは自分の監視下にする村を指定できる事だ!」

「・・・それって、どういう事?」

「つまり、お前も、お前の村も助けることが出来るって事だ!」


ゲバラ様は憲兵団長の権限を使い、私の故郷を自分の監視下に置くことで助けると言ってくれたのです。


「たとえ貴族でも、憲兵団の監視下にある村には容易に手出しが出来ない」

「・・じゃあ・・」

「ああ、お前も村も助けられる!安心してくれ」

「・・・う・・・うう・・・うわああああん!」


そのゲバラ様の言葉に、まだ生きられる希望を感じた私は大声で泣きました。


「ひっぐ・・ひっぐ・・ありがど・・・ありがどおおお・・」

「ニア、お前の村まで案内してくれないか?」


次の日、私はゲバラ様と村に向かいました。

村までは馬車で4日は掛かる道のりで、道中私はゲバラ様と色んな話をしました。


「ゲバラ様はどうして私と村を助けてくれるのですか?」

「どうして?・・・う~ん、自分でもよく分からん」

「どういう事?」

「正義感なのか同情なのか、助ける理由が何なのか自分でも分かっていない」、

「そうなんだ・・・」

「ただ一つ言える事は、ニアやアイリのような子供を助けることが出来ない自分は嫌いだってことかな」

「でも・・・私たちを助ける事でゲバラ様もメア公爵に睨まれるんじゃ・・・」

「ふっ、子供が大人の心配をするな!大丈夫だ!」


色んな話をする中で、私はゲバラ様の事を少しずつ知っていきました。

それと同時に初めて故郷以外の大人に、心を許せそうな気もしました。


村まであと少しと近くまで来た時でした。


(ドゴオオオオオン!)


凄い音と地響きが村の方から聞こえてきたのです。

嫌な予感がした私たちは、急いで村に向かいました。


「・・な、なんだこれは・・・」


そこで見た村は、火に囲まれ既に壊滅状態でした。


「一体・・どうなってるんだ・・おい、待てニア!」


まさかの光景に思わず私は村へ走りました。


「待てニア!ダメだ!今行くとお前まで・・・」

「嫌ああ離してえええ!お母あああさあああん!お父さあああああん!」


無謀にも燃え盛る村に入ろうとした私をゲバラ様は必死に止め、一旦村から離れようとした時でした。


「あれは・・・モンスター・・・」


ゲバラ様は村の中心で暴れるモンスターの存在に気付いたんです。

そのモンスターの正体は未だに不明のままですが、全長10メートルは超えている超巨体の火を噴くモンスターでした。モンスターに気づかれる前にゲバラ様は必死に私をシンドウまで連れ帰ってくれましたが、村の壊滅を目の当たりにした私は、正に生気を無くした放心状態でした。


「ニア・・・ちょっといいか?」

「・・・・」

「辛い気持ちはわかる、悲しい気持ちも、このまま死にたい気持ちもわかる」

「・・・・」

「でも、ニアにはやれる事があるんじゃないか?」

「・・・・」

「ニアだからこそ、やれる事があるんじゃないか?」

「・・・・私には何もない」

「そんなことはないさ」

「私には・・・生きる意味がない・・・」

「そんなことはない」

「私には・・・何もできない・・・」

「・・・ニア、君は素晴らしい子だ・・・」


卑屈な私にゲバラ様はずっと優しい言葉を掛けてくれ、涙が止まらなくなりました。


「私は・・・・私は・・・・何のために・・・村を出たのだろう・・・」

「ニアよ、俺はまだニアと出会って少ししか経っていないが、ニアにすごい可能性を感じているよ」

「可能性?」

「ああそうだ、お前には、誰も真似する事が出来ないような才能が眠っていると感じるんだ・・・」

「ほ・・ほんと?」

「ああ本当だとも!だからニア、一緒にリンドウに来てくれないか?」


私はゲバラ様の言葉を信じる事にしました。

その後、リンドウで私はメイドとしてゲバラ様の屋敷のお世話をさせて頂きました。

それから3年ほど経ったころでした。


「キャー」


食事の材料を調達しにマーケット街に出かけた時、女性の悲鳴が聞こえてきました。

悲鳴の声の方に行くと、路地の片隅で女性が男性に襲われていました。


それを見て、私の中で何かが弾けたのです。


気が付くと私は、女性を襲っていた男を半殺しにしていました。


正直その時の記憶はあまり無く、騒ぎで駆けつけた憲兵達に私は捕らえられました。

そして牢屋に閉じ込められた私にゲバラ様は言ったのです。


「ニア・・・気分はどうだ?落ち着いたか?」

「ゲ、ゲバラ様・・・」

「やはりお前には戦う力があったのだ」

「それは・・・どういう事ですか?」

「お前の中に鬼がいるという事だ・・・」

「え?」

「お前は幼い頃に辛い思いをしている、それが引き金となって特に女性に悪事を働く男を見るとお前の中の鬼が目覚めるんだろう・・・」

「・・・私・・・どうすれば・・・」

「ニア、その力をもっと効率的に正義の為に使うつもりは無いか?」


その言葉をきっかけに私はゲバラ様の憲兵団に入り、この力を正義の名のもとに使う事を決めました。それからは男たちと一緒に訓練を受け、実際に戦場にも行き、戦闘にも参加しました。


そして数々の勲章をいただき、気が付くと憲兵総隊長にまで昇り詰めていました。


「ニアおめでとう!よく頑張ったな!」

「いえ、これもゲバラ様のおかげです」

「そうか・・・ニア、良かったらまたこれを着てくれないか?」


そう言うとゲバラ様はメイド服を差し出しました。


「これはどういう意味ですか?」

「いや・・・やはりお前はこの姿で屋敷の世話をするのがとても似合っていると思ってな・・・もちろん引き続き憲兵隊を率いては欲しいんだが、やはりメイドとしてのお前も捨て難いと言うか何というか・・・」


照れ臭そうに言うゲバラ様を見て、少し気を緩めてもいいんじゃないか?と言った気遣いを感じました。


「・・・ふふ、かしこまりました、では私はこれからメイド兼憲兵総隊長としてお力添えさせていただきますね!」


(回想終わり)


「なんだかとても辛い思いをしてきたんですね・・・色々話してくれてありがとうございます!」

「いえ、こちらこそお疲れのところ、長々と話してしまい申し訳ありません」

「でも話を聞いてとても納得できました!」

「何をでしょうか?」

「さっき酒場で男共を全員ノックダウンさせたことです、だって襲われている女性に対して誰も助けなかったんですよね?まさにニアさんの鬼の部分が出たんですよね?」

「お恥ずかしいところをお見せしてしまいすみません、未だにそう言った場に出くわすと感情がコントロールできなくて・・・」

「ははは(絶対にニアさんを怒らせないようにしよう!死んじゃう!)」

「ツッコミ様、そろそろ眠りましょうか」、

「もうこんな時間!すみません、夜更かしさせてしまって・・・おやすみなさい」

「おやすみなさい・・(アイリ、きっといつの日か私は・・・・・)」

 


巷ではこんな話がある。


かつて美しいメイドばかりがいる冥土の国があった。


そこにはニアと言う女性がいて、美しいだけではなく、メイドとしても一流だった。


しかしある日、ニアは親友を悪い公爵に殺されてしまい、鬼となってしまった。


「おまえ知ってるか?ニアって言うメイドの事?」

「ああ聞いた事がある、戦場で鬼の如く悪を薙ぎ払うメイドだろ?」

「そうそう、その異形に付いた名が、冥土の鬼悪だってさ・・・」



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