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海に愛されて  作者: 碧衣 奈美
第一章 二重人格のあやつり人形
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コクチョウ島へ

 コクチョウ島にキャット号を着けた途端、数人の男が現れた。手に剣や斧を持ち、乗組員が降りて来るのを待っている。

「ほぉ、早速お出迎えか。あいつらに聞きゃ、ど腐れ何とかって奴の居場所もすぐにわかりそうだな」

 男達のいかつい身体を見ても全く臆することなく、にっと笑うレット。軽々と船から飛び、男達の前に着地する。

「よぉ、タガトヒって奴がどこにいるか、知らねぇか」

 相手はレットの言葉に聞く耳を持たず、各々が持っている得物を振りかざして襲いかかってくる。

「やれやれ。言葉が通じないんじゃ、しょーがねぇな」

 わずかなきらめきが空を走った後、男達が一人残らず倒れた。

「くぉら、レット! 何やっとんねん。全員倒したら、タガトヒの居場所が聞けんようになるやんけっ」

 上からシズマの怒声が降ってくる。見上げるレットも、負けずに言い返した。

「うるせぇなっ。一人残したって、正気じゃない奴から情報が取れるかっ」

「タガトヒの屋敷って、丘の上のあれじゃないかしら」

 翠嵐が指を差す。キャット号が停船した場所から(ゆる)やかな丘へ続く未舗装の道があり、その先に屋敷が見えた。

 途中の道は木々に隠れて見えないが、恐らく一本道だと思われる。男達に尋ねるまでもなかったようだ。

 意識がなくなったミオイをどうするかでさんざん迷った一行だったが、一緒に連れて行くことにする。

 昨夜の海賊もタガトヒが送り込んだものなら、ここでも似たようなことをしてくるかも知れない。こちらの戦闘部隊が屋敷に乗り込んでいる間に、相手の戦闘部隊が船に乗り込んで来たら困る。

 だったら、全員で行ってちゃっちゃと片付けちまおう、という話にまとまったのである。

 そのミオイは、巨大なねこの姿になった(はく)の背に乗せられた。白の背は牛よりも大きく、小柄なミオイが突っ伏すように乗っても余裕だ。

 ミオイはされるがままで、顔がさらに青白くなっているように見える。

「ぐずぐずしてる時間はない。急ぐぞ」

「おう」

 狼牙の声で全員が走り出したが、その足がすぐに止まる。前方からさっきと似たようないかつい身体の男達が、団体でこちらへ向かって来たのが見えたのだ。

「何だよ、ありゃあ。まーた、立派な体つきの男ばっかじゃねぇか。まさか軍隊一つを人形にしたって訳じゃあねぇよな。服もばらばらのようだし。ってことは、一般人か。どうする?」

 強面(こわもて)の上にごつい身体つきの軍団を見て、バルコーンが狼牙に指示をあおぐ。

「操られてるとは言え、あっちは本気で俺達を殺しにかかってきてるんだ。遠慮してたら、こっちがやられるぞ」

「だろうな。ったく、自分の意志がないってのが、一番面倒だぜ」

 バルコーンはぱきぱきと指を鳴らし、ゆっくりと身構えた。

「レット、シズマ、バルコーン、そっちはまかせた。死なない程度にやれ。俺達は別ルートから行く」

 狼牙が道を外れ、その後をコウや白達が追う。

「ちょお待て、狼牙。あのデカブツ団体、三人で片付けろてか! 三十人はおるぞ」

 シズマが怒鳴るが、誰も気にしていない。

「お前らなら楽勝だろ」

「そっちが片付いたら、さっさと屋敷の方へ来てね~」

 チェロルが振り向かず、手だけを振った。あっさりしたものである。

「やれやれ。二手に分かれたことを気付かれないうちに、さっさと片付けるか」

 再びレットが剣を抜き、バルコーンが軽く屈伸するとこちらへ向かっている男達の方へと走り出す。

「確かに、苦戦はせんけどな」

 小さな笑みを浮かべながらため息をつくと、シズマはその手に炎を出した。

☆☆☆

 一つ覚え、ではないが、戦闘軍隊は道なりに走って行ったようで、狼牙達が取った道なき道のルートに邪魔者は現れなかった。

 やがて、船から見えていた屋敷へたどり着く。

 しかし、高い塀に囲まれた屋敷の敷地内には、まだ多くの兵隊人形にされた男達が歩き回っているのが門の隙間から見えた。

「小さい島なのに、屋敷はずいぶん大きいわね」

 チェロルが屋敷の外観を眺めている横で、翠嵐が魔法使いの気配を探る。

「魔法使いはそのタガトヒだけのようね。でも、気配が薄いわ。風が入りにくい場所にいるからだと思うけれど、はっきりした場所がわからない」

「いるとわかればいい。中で暴れていれば、そのうち出て来る」

「なぁ、狼牙。中にいる奴はみんな、ぶっ飛ばしていいんだよな?」

「恐らく全員が被害者でもある。ぶっ飛ばすのは仕方ないとして、殺すなよ」

 事情を知らない人が聞けば恐がりそうな、狼牙とコウの会話である。だが、いつものことだ。

「狼牙、おれは?」

(はく)はミオイを見ていろ。お前も誰かが襲って来た時はぶっ飛ばしてもいいが、殺すな。いざとなったら空へ逃げろ」

 今はたたんでいるのでわからないが、白の背には翼がある。魔法使いがタガトヒだけなら、飛んで逃げれば誰も追うことはできなくなる……はず。タガトヒがどんな魔法を他にかけているかにもよるので、空が絶対的な安全地帯とは言い切れない。

 彼らがいるのは裏門だが、改めて中をそっと窺うと手に武器となる物を持った人間がうろうろしている。男だけではなく、女もメイドの格好をしながら武器を持っていた。

 昨日の今日で狼牙達が来ることを見越し、警戒しているのだろうか。もしくは、普段から「人形」の関係者が取り戻しに来た時のための巡回だ。

「連れて来いって言いながら、相当ビビッてんじゃないの?」

 チェロルは杖を握り直すと、周囲に霧を漂わせる。これで視界が悪くなった。完全に隠れて移動できるのではないが、見えた影が仲間かも知れないと思えば攻撃の手もすぐには出せないはずだ。

 操られていれば仲間もへったくれもないかも知れないが、余計な被害で人形が減るのをタガトヒがいやがる……という可能性もありだろう。

「行くぞ」

 静かに門を開き、四人は中へ滑り込んだ。

 残された白は、木陰に移動すると器用にミオイを地面に降ろす。いつもの子ども姿に戻ってミオイの様子をみるが、身体の冷たさは相変わらずだ。

 にも関わらず、額には汗が浮かんでいる。表情も苦しそうだ。

「ミオイ、もうすぐ狼牙達がタガトヒをやっつけてくれるからな。あと少しの辛抱だ。がんばれ」

 白が声をかけるが、返事はない。

 不意に気配を感じ、そちらを向いた白は青ざめた。門から数人の男達がこちらへ向かって来たのだ。

 霧が出たことで不審に感じたのか、兵隊の一部が出て来てしまった。こちらの存在に気付き、近付いて来る。

「ちくしょう。あいつら、ミオイを連れて行く気だな」

 それにしても、不気味だ。昨日の海賊はそうも思わなかったが、現れた人間は人形と言うよりきれいなゾンビみたいに見える。その目はどこか(うつ)ろで、生気がない。

 海賊達はまだ生きている感じがしたが、こちらはただ動いているだけだ。タガトヒの力が強く影響している加減だろうか。

「こいつらだって、タガトヒの言いなりになんかなりたくないはずなのに。ちくしょう」

 彼らも被害者。それはわかっている。

 だが、狼牙が言っていたように、彼らはこちらを殺すつもりで、最低でも動きを封じるつもりで向かって来ているのだ。手加減はしていられない。

 白はいつもの子どもの姿から、十四、五歳くらいの少年の姿になった。

 剣を振り上げた相手の胸に、白は飛び上がって蹴りを入れる。その勢いに、男の身体は派手に飛ばされた。白はすぐに、次の相手に向かって飛び掛かる。

 そうやって相手をしていたが、白が魔獣でも多勢に無勢だ。しかも、動けない人間を守りながらでは思うように戦えない。

 ひと思いに魔獣姿になって力を解放すれば楽なのだが、それをすると普通の人間が白の力を受け止め切れないからダメだ。へたすると、殺してしまうことになる。

 いっそ、相手が魔獣ならそんな縛りもなくなるのに。

「しまった。ミオイ!」

 もう空へ逃げた方がいいだろうかと思った矢先、一人の男がミオイの腕を掴んだ。

 捕まる。

 そう思った直後、男の身体が塀に向かって飛んだ。

「気安く触るんじゃねぇよ、バーカ」

 ミオイが起き上がりながら、男を投げたのだ。さらに言えば、その言葉遣いから泥海が前面に出ているのは明らか。

 ミオイでは男の手を振りほどくことが無理と判断され、闘争心などの部分を集中させられた泥海が現れたのだ。

 だが、その泥海も少し動いただけで息が荒くなっている。身体は一つなのだから、当然だ。首を押さえているのは、タガトヒの糸で絞められて苦しいからか。

「泥海、早くミオイの中に隠れろ。お前が前に出たら、殺されるぞ。ミオイ自身だってどうなるか」

「泥海はあのど腐れ変態人形マニアが付けたんだ。その名前で呼ぶな」

 そうだった。ミオイはミオイ。泥海はタガトヒが便宜(べんぎ)上付けたものにすぎない。ミオイにすれば、勝手に不本意で不愉快な名前を付けられたのだ。彼女がそう怒るのもわかる。

「わかった。ごめん。でも」

「後ろ」

「え? わっ」

 白を襲って来た男とは、まだ戦いが決着してない。その拳をよけ、白は反撃した。

「あ、ミオイ。動かない方が」

「もう時間がない。ここまで来たら、往生際の悪いところをたっぷり見せてやるよ。あのど腐れ変態人形マニアに」

 ミオイは立ち上がると、塀の方へと歩き出す。ためらうことなく、拳で塀をぶち破った。厚みが大人の指先から肘の長さくらいある石の塀が、一発のパンチで一部が崩れてしまう。

 塀に拳で穴開けた奴、コウ以外で初めて見た……。

 呆然と見ていた白だが、慌てて残りの男達を倒すと彼女の後を追って屋敷の中へと入って行った。

☆☆☆

 屋敷中に声が響く。コウのタガトヒを呼ぶ怒鳴り声である。

「タガトヒー! どこだぁ。出て来いっ」

 翠嵐がどこにいるかわからないと言ったが、タガトヒが出て来ない限り、話は前に進まない。

 コウは屋敷のあちこちを走り、その間にも屋敷を守るように命令されている兵隊人形にされた男達がコウの邪魔に現れる。

「どけーっ、お前らっ」

 強靱(きょうじん)な腕や足をフルに生かして、敵をものともせずに走り続ける。

 廊下を走っていたコウは、目についた扉を適当に蹴り開けた。そこが無人であることを確認すると、また次へ行く。

 そうやってタガトヒを捜し、ある部屋へ入った時。

「何だ、ここ」

 特別、目立った調度品のない部屋。中央に回転する金色のイスが一つあるくらいだ。立派な肘掛けがつき、いかにも座った人間がふんぞり返りそうなデザインである。

 異様に思えたのは壁。部屋の壁全てに棚があり、そこに手の平サイズから等身大までの様々な大きさの人形が並べられていた。

 かわいいかどうかは個人の好みだろうが、とにかく女の子ばかりだ。同じ顔で衣装だけが違ったり、同じ顔・同じ衣装でポーズが違っていたりする棚もある。まさに人形部屋だ。

「すっげぇな。人形ばっかのおもちゃ箱みてぇだ」

 コウが部屋を見回していると、兵隊人形の男達が追って来た。遠慮なく吹っ飛ばしたが、そのうちの一人が当たった壁がわずかに動く。少しではあるが、隙間ができたのだ。

 コウはそちらへ行き、動きかけた壁をさらに動かす。壁の向こうには、下へ続く隠し階段が続いていた。

 地下なら、風は流れにくい。翠嵐の魔法がうまく働かなかったのも納得。

「タガトヒはこの下か」

 コウが階段を下りようとした時、男が腕を掴んだ。

 その手をふりほどいたまではよかったが、足はすでに半分踏みだしていたため、その動きでコウはバランスを崩す。

「うわああっ」

 コウの身体は、そのまま階下へと転がり落ちて行く。

 時間はやや戻り、コウ達と屋敷へ入った狼牙。

 チェロルと翠嵐にはまだ操られてない人間がいれば保護するように言って二階へ向かわせ、自分はコウと一緒に……と思ったら、コウは考えなしに走り出してしまったので勝手にさせる。

 狼牙は屋敷へ入った時点で、タガトヒの居場所にある程度の目星をつけていた。

 自分に向かって来る男達を倒すと、杖を当てた場所を中心にして床に穴を開け、浮遊魔法を使って地下へ降りる。

 狼牙は他の部屋に入っていないのでわからないが、そこは一階にある部屋を三つ一緒にしたくらいの広さの部屋だった。小規模のダンスパーティくらいなら開けそうな広さである。

 その周囲の壁には、上の部屋でコウが見たのと同じような棚があり、大小様々な女の子の人形が飾られていた。

 その部屋の中央には、ぼさぼさの黒髪にむちむちの顔、頬に埋もれた鼻に黒縁メガネをかけた、間違ってもスリムと言えない体型の中年男が座っていた。

「お前がタガトヒだな」

 いきなり現れた狼牙に驚いたようだが、必死に平気そうな振りをし、糸のように細い目を向けた。

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