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海に愛されて  作者: 碧衣 奈美
第一章 二重人格のあやつり人形
6/24

力を持つことで

 居場所がない、というのはどういうことなのだろう。さっき、村人の世話になりながら暮らしていた、と話していたのに。

「……狼牙達が昨夜見たような、おかしな力を持ってるから」

 養父母はミオイに(たぐ)(まれ)な力があるようだとわかってからは、その力を大っぴらにしないように、と言い含めてきた。

 強すぎる力は、嫌われる。そうならないよう、村の人達と同じようにふるまえと。

 ミオイの養父母になった二人は、村でも信頼が厚かった。そんな二人が育てている子どもだから、誰かが表立って何か仕掛けるということはない。

 それに、ミオイの力を考えれば、余計なことをして反撃されたら自分達の方が危うくなる。それを想像するだけの冷静さは、村人にもあったらしい。

 おかげでミオイが村八分にされることはなかったが……村人の一員としてみんなに受け入れられている訳ではないな、と成長するにしたがって肌で感じた。

 養父母は拾ったという責任感もあったのだろうが、それなりに愛してくれていただろう。

 それでも正直なところ、彼らもミオイをどう扱っていいかわからないと思っている、という気がしたことは何度もある。

 子どもの時、うまくコントロールできないために力のことがばれた。だが、みんなが怖がる顔を見て、自分は怖い存在ではないとわかってもらうために、必死に笑顔を貼り付けた。単なる明るい女の子と思ってもらえるように。

 今考えれば、村人からすればその笑みは不敵なものに思えたかも知れない。逆に彼らの恐怖をあおるような笑みに。

 養父母に言われ、自分でも「この力を見せちゃダメなんだ」と考えられるようになる年頃には、すでに村人全員がミオイの力のことを知っていた。

 それがわかっていても、ミオイなりに隠そうとはしたのだ。これ以上、村人達が怖がったりしないように。

 だが、五つになるかならないかの子どもが片手で牛を突き飛ばしたり、大人でも持ち上がらない石を軽々と持っているのを見れば、成長したらその力はどれだけのものになるのか、と恐れられるのは仕方ないこと。

 隠そうとしても、すでに遅かったのだ。

 表面上の「友達」は村にいた。でも、子どもは恐い物知らずで、大人より残酷な時がある。

 彼らから「そんな力があるのは変だ」とはっきり言われた。

 あたしがこの力をほしいって言った訳じゃないのに。変なのは「力」であって、あたしじゃないのに。

 子ども心に理不尽だ、と思った。自分の責任ではないことを責められても、だったらどうすればいいのだろう。腕や足を切れとでも言うのだろうか。力があるのがおかしいと言うのなら、なくす方法を教えてもらいたい。

 泣きながら帰ったら、養父母からも「みんなの前でその力を出さないように」と改めて(さと)された。

 特別すぎるから、みんなに見せてはいけない、と。

 だから、見せないようにした。でも、村人は誰もミオイの力が消えた、とは思ってくれない。

 本当は近付きたくないが、狭い村ではずっと避けて通れるものではないし、避けていることがわかってミオイが気分を害したら困る。その力がどういう形でか自分達に向けられても、それを避ける(すべ)を彼らは持たないから。

 普通に接するようにと言ったのは、村長らしい。

 腫れ物に触るような対応では、逆にミオイを怒らせることになりかねない。あるいは、調子づいて横暴になってしまうこともありえる。無視する訳にもいかない。

 とにかく、あくまでも他の村人に対するのと同じように振る舞え、と言った……という話を小耳に挟んだ。

 だから、誰もが普通に対応していたが、中には演技の下手な村人もいる。そういう人を見ると、厄介者なんだな、と思わされて悲しくなった。

 自分の力を普通に使えない状況は、かなりつらかった。時々、どこかで爆発させないと自分がおかしくなりそうで、島の沖合を一日中泳いだり、村人に見られないよう山を走り回ったりして発散させたり。

 だが、そうすることで、逆に身体が鍛えられてしまった。その力を使う場所がなくて、ますます悪循環に(おちい)って。

 何をするにしても、怪力が発揮される訳ではない。普段は普通の人と変わらない動作ができる。発揮しようと思えば、発揮できる。それだけ。

 普通の人が赤ちゃんを触る時と畑仕事をする時で力の入れ加減が違うように、ミオイにもその加減くらいできる。

 しかし、村人にそんな細かい部分などわからない。話しても、たぶん理解してもらえない。しようとしてくれない。

 お互いに無理していることはわかっていた。ミオイが力を隠そうとしても今更だし、村人が実は恐れている部分の方が強い、ということもひしひしと感じる。

 養父母が亡くなってからは、ますますぎくしゃくした。それでも、表向きは仲のいい村人同士。道ですれ違った時や、各々の畑などで会えば、笑顔で挨拶する。

 そして……お互いが離れれば、小さくため息をつくのだ。

 養父母が亡くなった時、恐らく村人は困惑し、恐怖しただろう。

 多少なりともストッパーになりえるはずの親がいなくなって、何かあった時に誰がミオイを止められる? 彼女にとって気に入らないことがあれば、その怒りがおさまらなければ、最悪だと村は全滅するかも知れない。

 実の親はそうなることを予測していて、だから海へ流したのではないか。自分の手で殺すのはさすがに忍びないから、せめて自分達の見えない所で亡くなってくれれば、と。

 そんなことを考えても、口には出さなかった。少なくとも、本人の前では。

 しかし、ミオイは村人が話していたのを聞いてしまった。

 本当の親でも親戚でもいいから、迎えに来てくれないかな、と。そうなれば「安心して安全に暮らせる」のに。


 どうしてこの島へ流れて来たんだ。


 それまでも、(うと)まれているらしいことはわかっていたつもりだが、物陰でそんな会話が交わされていたのを聞いて、はっきりした。

 十七年間ここで暮らしていたが、自分は全く歓迎されていないよそ者なのだ、と。

 タガトヒに連れて行かれたのは、そんな時だ。

 村長はタガトヒの力に操られてミオイを騙したが、言葉で少し脅されただけでも同じことをしていたかも知れない。

 もしタガトヒがミオイと村人の関係を把握していれば、あの娘を連れて行ってやる、と言うだけで村長達はむしろ喜んで従っていたのでは、とも思える。

 だから、キャット号に拾われ、その力を発揮してしまった昨夜。そして、その後。

 コウにせがまれ、シズマが夜食を作りに食堂へ向かう時のことだ。

「ミオイも何か食うか?」

 当たり前のように聞かれた。

「こんな時間に食べたら、太るわよ。あ、ミオイの場合は、もう少し太ってもいいくらいよね」

 チェロルが言い、みんなが同意するようにうなずいた。笑いながら。

 コウが「お前、ちっちゃいもんな」と言い、バルコーンに「お前が言うな」と突っ込まれていた。

 さっきまで海賊と戦っていた人達とは思えないし、ミオイの力を目の当たりにした人の反応とは思えない。

 だが、確かに現実だ。

 驚きはされても、怖がられることがない。ようやく「自分がいてもいい場所」を見付けた気がした。


 否定されない。


 それが嬉しかった。貼り付けたものではない笑顔が、自然と外に出る。自分はこんなに普通に笑えるんだ、と初めて知った。

 記憶がない時に笑っていたのは、自分の力のことを忘れていたためと、これまでの環境で無意識のうちに笑顔で人と接しようとしていた習慣が出たからだろう。

 それでも、村にいた時よりはずっと自然な笑みだったように思える。狼牙達が何も知らないとは言え、普通に接してくれていたから。

「魔法使いを相手にしていれば、おかしな力で対抗してくる奴はいくらでもいる。魔法使いでなくても、コウみたいに見た目は普通でも異常に力のある種族の奴がいたりもするからな。まるっきり普通の人間だと思っていたから、最初は俺達も驚いたが」

 こういう仕事をしていれば、特に珍しさは感じない。ミオイのように幼く見える人間がとんでもない怪力だった、という点と性格の変わりように驚いたというだけ。

「お前の事情はわかった。それはともかく……どうしてこういう姿勢になってる。お前を怖がっていないのは、俺だけじゃないぞ」

 こんな風にしがみつきながら、好きな人、などと大胆告白。こんな時間から酒を飲んだはずはないし、だったら相手を間違っているんじゃないか、と思う狼牙である。

「うん、そうだよね。この船の上では誰と一緒にいても、ちくちくしないもん」

「ちくちく?」

 妙な擬音語に、狼牙が聞き返した。

「村の人達がそばにいるとね、人数や人によって程度の差があったりするんだけど、肌がちくちくしたの。だから、一緒にいるのがちょっとつらいなって時もよくあってね。初めてなの、おじいちゃんやおばあちゃん以外で肌がちくちくしない人って。それどころか、昨夜も思ったんだけど、狼牙のそばにいると何となくほっとするの」

 狼牙にはまず向けられないであろう言葉が、また出てきた。

 何をどうやったら、ほっとするんだ……。

 その点の疑問はともかく。

 話を聞いて、妙な擬音語の意味がわかった。

 ミオイの力を恐れていた村人は、彼女がそばに来たら恐らく警戒心や不安でいっぱいだったのだ。それが彼らの周囲の空気をぴりぴりさせ、ミオイはそれを肌で感じ取っていた。

 その感覚をミオイは「ちくちく」と表現したのだ。

 確かに、この船の上でミオイに対して警戒心を抱く人間はいない。事情がわからない時は多少緊張感が漂っていたが、話を聞けば納得した。それで終わり。

 犯罪者でないなら、それでいい。後は普通の少女と同じように接するだけ。

 狼牙達にすれば何と言うことのない対応でしかないが、ミオイにとってはそれがとても嬉しいのだ。

 これまでミオイの周囲にいたのは、彼女を遠巻きに見ている村人ばかり。好きな人にぎゅっと……と教えてくれた近所のお姉さんも、実は言葉の裏に「あなたにそんな人は現れないだろうけど」といった意地悪な気持ちが入っていたのだ。

 それはミオイもわかっている。こんな性質のミオイにそんな人が現れる、なんて彼女が思っていたはずはない。ミオイの事情を知る人が聞けば、残酷な言葉と受け取られるだろう。

「お前の話はわかったが、それをこういう姿勢でするものじゃな……」

 狼牙はミオイの腕を掴みながら言い掛けたが、その言葉が止まる。

「お前、やっぱり島に近付いて具合が悪くなってるんじゃないのか」

 掴んだミオイの腕は、また冷たくなっていた。話をしているうちに太陽も上がり、寒いとは言えない気温なのに。

 好きだからぎゅっと、というのも嘘ではないだろうが、実は温かさが欲しかったのかも知れない。

「奴が糸で絞め上げてるのは、泥海の……精神の一部だろう。なのに、お前の身体がどうしてこんなに冷たくなるんだ」

 魔法に関して素人のミオイに聞いてわかるはずもないが、狼牙はついそんな疑問を口にしてしまう。

「んー……よくわかんないけど。泥海の首だけじゃなく、手や足も絞め上げられてるみたい。で、あたしも一緒に血の流れが悪くなってるって感じかな」

 ミオイがこうして冷たくなったのは、最初に見付けた時。タガトヒから逃げる途中だった。

 二度目は海賊が来る前。その海賊もタガトヒの力に操られていた。そんな人間が大勢来ることで、タガトヒの能力が一時的に増幅したのかも知れない。

 そして、今。タガトヒに近付いている。

 タガトヒの力がしっかり及ぶようになれば、言うことを聞かないミオイは精神だけでなく、肉体まで締め上げられてしまうのだ。

 泥海が殺された時、ミオイ自身の精神もだが、このままでは肉体も恐らく無事では済まない。

「やっぱり殺されるのかな。泥海が死んだら、あたしもあたしじゃなくなるのかな」

 弱気な言葉が、ミオイの口からもれた。それを聞いて、狼牙のミオイの腕を掴む手に力がこもる。

「さっきぶっ飛ばすと言っていた奴は、どこへ行った? それと、お前は俺達をみくびっていないか。泥海が死ぬということは、俺達がタガトヒを倒せなかった、ということだ。お前は俺達が失敗すると思ってるのか」

「え、そんなこと、思ってない」

 昨夜、ミオイは途中から甲板に出て来たので、狼牙達がどう海賊達と戦っていたのかを見ていない。だが、三隻で現れた海賊達を、最終的に拘束した。

 そんな彼らが弱いはずがない。タガトヒがどんな人間を兵隊代わりの人形にしようと、彼らが負けるとは思えない。

「だったら、二度と泥海が死ぬとは言うな」

「うん」

 青白くなった顔で、それでもミオイは笑ってうなずいた。まだタガトヒの屋敷どころかコクチョウ島にも着いていないが、ミオイはもう助かった気分になり始める。

 幸せな気分にひたりながら、狼牙に腕を掴まれた状態でミオイは気を失った。

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