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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第1章 目覚める記憶
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7話 あこがれの職業

 異世界生活七日目。俺はこれまでになく興奮していた。


「ここが……ここが冒険者ギルド……!富と名誉、そしてまだ見ぬ冒険を夢見る冒険者たちが集う場所……!うおおお…!」

「あの……、ショウさん、恥ずかしいのであんまり騒がないでください……」


 そう。俺は冒険者ギルドに来ていた。

 冒険者とは世界を股にかける旅人であり、魔物の脅威から人々を守る英雄であり、危険を顧みず過去の遺産やまだ見ぬ発見を手に入れるトレジャーハンターである。そして冒険者ギルドとは、その冒険者たちによる相互扶助組織。すなわち冒険者の集いそのものなのである!


「なんですかその解説……誰に向かってしてるんですか……うう……話が違いますよ兄さん……」


 おっと。声に出ていたか。

俺はあの後、結局魔道具を起動させることはできなかった。正直落ち込んだが、ひとまず仕事を探すべきとダズに勧められ、いくつかの候補を提示された。兵士、商人、そして冒険者である。

魔法があり、魔物がいるならそれを成敗する冒険者がいる。当然の理屈だ。ロマンへの欲求に勝てなかった俺は冒険者になりたいことをダズに伝え、今日という日に備えて準備を進めてきた。シュミリオの店から俺に合った装備を探し、役立ちそうなものを集め、さらにダズと軽い手合わせもして、魔物を初めて倒したあの日のような動きができるのか確かめた。そして……


「今度は固まってます……はあ……もう!ショウさん!しっかりしてください!」

「ああ、ごめんごめん。さあ行くぞ!ハルカ!」

「まったくもう!」


 今俺の横で恥ずかしがっているのがハルカ。ダズから紹介された冒険者の女の子で、さっき初めて会ったばかりだ。なんでも、ダズの妹さんらしい。

 ハルカには驚くべき特徴がある。なんとこの子、頭から上向きに犬耳が生え、おしりと腰の間あたりから犬の尻尾が生えている。いわゆる獣人だ。

 ダズは普通の人間なので先ほど初めて会ったときは不思議に思ったが、実はダズとハルカは孤児院の出身らしく、実の兄妹というわけではないそうだ。歳は孤児なので正確なところはわからないが、ハルカは俺より年上に見えるダズより年下で、さらに俺よりも若干年下のようだ。クリーム色の髪の毛を肩口で切りそろえた髪型が素直そうな顔によく似合っている。率直に言ってかわいい。 


 閑話休題。俺とハルカは冒険者ギルドの建物に入った。昼間だからか、建物の中にいる冒険者たちはそれほど多くない。早速受付に行き、美人な受付嬢のお姉さんに声をかける。受付に美人が配置されるのはどの世界も共通らしい。


「こんにちは!冒険者になりたいんですがどうしたらなれますか!」


 我ながら知能指数が下がっていると思うが、そんなことはどうでもいい。


「こ、こんにちは。冒険者登録ですね?身分を証明できるものはありますか?」

「ちょっとショウさん!一人で話を進めようとしないでください!すみません、私が推薦人として彼の身分を保証します」

「推薦登録ですね、かしこまりました。ではまずこちらをお読みください。」


 受付のお姉さんに冊子を手渡された。冒険者ギルドの存在意義と登録者に課せられる規約の書かれた冊子のようだ。

 もちろん目を通す。規約については、冒険者として登録する場合、冒険や依頼がもととなる怪我や病気、死亡について冒険者ギルドは原則責任を負わないとするものや、冒険者ギルドの品位を落とす行為への罰則規定、ギルドを正当な理由なく脱退する場合にはギルド内の立場に応じた脱退金を支払わなければならないことのほか、こまごました規約が書いてあった。

 そして理念について。冒険者ギルドの存在意義、すなわち最終目標は『死の大陸』の踏破および『瘴気の根絶』にあると明言されていた。

 瘴気とは魔物の発生源であり、歴史上ほんの数百年前から突然発生しだし、人類の歴史を大きく変えたと言われる存在だという。瘴気の影響は魔物の発生にとどまらず、長時間高濃度の瘴気に晒された人間が正気を失っただの、世界中に薄く広がった瘴気が人体に悪影響を与えてるだの、とにかく人類の敵そのものとして広く認知される存在とのことだった。

 死の大陸というのは今から100年ほど前に滅ぼされたドワーフ族の国があった大陸で、瘴気の発生源がそこにあると言われているらしい。なおここまですべてダズの受け売りだ。困ったときのダズ先生だな。今いないけど。

 

 じっくりと冊子を読んだ俺は、冊子をお姉さんに返す。なぜかお姉さんと、ついでにハルカが驚いた顔をしていた。


「ん?何か驚くようなことでもあったか?」

「ああいえ、冒険者になられる方でそういうものをしっかり読まれる方はほとんどいらっしゃらないので…」

「私はさっきまでのショウさんとの変化に驚いてましたよ。ショウさんって意外と文字とか得意な方だったりします?」


 おう。お姉さんはともかく、ハルカには割とアレなイメージを持たれてそうだな。ちょっとはしゃぎすぎたか?


「では次に、書類に必要事項をお書きください。後々の活動に影響を与える書類なので、くれぐれも正直に書いてくださいね。」


 書類という名の紙きれを渡された。名前や出身、特技や戦闘スタイルなどを書きこむ欄がある。

 特技には危険の察知、戦闘スタイルには徒手空拳と書いておいた。本当は剣を扱えたりすればうれしかったのだが、ダズとの手合わせの中で試してみたところ、身体能力と体術こそ以前とは比べ物にならない実力を得ているが、武器の扱いは日本にいたころと何ら変わらず素人そのものであり素手の方がはるかに強いということが分かった。


「素手で戦うんですね……それと、この危険の察知というのは?」


 素手はまずいんだろうか。危険の察知についてはありのままを伝えた。


「第六感のようなもの、と。わかりました。それでは登録者の実力を測るテストをしますので、しばらくこちらでお待ちください。」


 試験があることは事前に聞いていたのでおとなしく待つ。数分後、さっきのお姉さんとは別の係員にハルカと一緒に奥の部屋に案内された。





 若干狭めの体育館のような空間に案内される。冒険者らしき恰好をした何人かが素振りをしたり手合わせをしているのが見える。


 ……頭上になにかいるな。見上げると、その上空の何かが別の小さな何かを放り投げてきた。

 落ちてくる何かを足さばきで避ける。確認するとこぶし大の石だった。当たっても死にはしないだろうが気絶くらいはしてもおかしくないぞ、これ。


「なるほど、特技が危険の察知っていうのは嘘じゃなさそうっスね。事前に自分の気配にも気づいてたっスよね?」


 遅れて、頭上にいた男性がスタッと軽い音を立てて降りてきた。黒いぼさぼさの髪とだぼっとした服装がだらしない印象を与える。


「まあね。今のが試験か?なんの説明も受けてないんだけども、これで俺も冒険者でいいのか?」

「焦らないでほしいっス。まず試験のためとはいえ、急に攻撃を仕掛けたことを謝らせてほしいっス。自分はシャットっス。こう見えて、ここ冒険者ギルドワモス支部の支部長をさせてもらってるっス」


 支部長だったとは。組織のトップがわざわざ新人の試験をしにくるってどうなんだろう。案外暇なのか?シャットが続ける。


「不思議そうな顔してるっスね。まあご想像の通り、普段は新人の試験を自分がやることはないっス。今日はたまたま暇だったんで運動がてら試験官をしにきたっス。というわけで、試験の続きをさせてほしいっス。」


 そう言うと、周りの冒険者たちを係員たちが端のほうに誘導する。どうやら続きはこのままここで行うらしい。


「試験はシンプルっス。自分と模擬戦をして戦闘能力を図るっス。勝ち負けよりも、得意分野を出し切ることを目標にした方がいい結果が出るっスから、そのつもりで来てほしいっス」


 シャットが姿勢を低くして構える。模擬戦らしく両手に木製の短刀を握っている。


「さあ、始めるっス」


 それに合わせ、係員の一人が俺とシャットの間に立ち片手を挙げる。俺は拳を握り、構えを取る。特に意識しなくてもスムーズに構えを取れるのはあの夢を見てからずっとだ。


「始め!」


 開始の合図に合わせ、係員の手が振り下ろされる。俺の冒険者ギルド入団試験が始まったのだった。


ダズとハルカの容姿について若干の加筆修正を行いました。

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