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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第1章 目覚める記憶
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6話 シュミリオの雑貨屋


「おし、着いた。じゃあショウ、試してみてくれ」


 一昨日ぶりに戻ってきた店の前でダズが言う。

 魔物を倒し、蝙蝠少女を撃退した昨日、一連の騒動についての調査や市民への説明のため、ダズを含め現場にいた兵士は報告や現場の後処理に追われることとなった。

 とはいえあまりにも一瞬の出来事であったために大した調査はできず、これといって大きな被害もなかったため、ダズは今日から本来の職務である治安維持と犯罪の検挙にもどることとなった。俺はシュミリオの店から現れたこと、自らの身分を証明できないことなどから犯罪との関与の可能性ありとみなされたらしく、身の潔白の証明のため当時の詳しい状況を説明しなければならない、とのことだった。あるいは、店の中に俺の出自の手がかりが見つかればひとまずそれでもいいらしい。

 ダズはもう俺のことを疑っていないようだったが、それはそれ。立場上、上に納得のいく報告をしなければならないのは当然のことと言えた。

 身の潔白の証明のためと言ったが、実はここに来たのはもう一つの目的がある。開かずの扉と呼ばれていたこの店の入り口は、俺が出て行ってから再び開かなくなってしまったそうだ。俺がこの世界に来たあの日、ダズの同僚がここの調査を任されたが入る事すらできなかったとのことらしい。

 そのため、内側からとはいえ入り口を通ることのできた俺なら開けられるのでは、という考えで、俺がドアノブを回すことになったのだ。


 ドアノブをつかみ、ひねる。すると、普通の扉を開けるときと同様に扉を開くことができた。そのまま中に足を踏み入れたが、やはり何の問題もなく入ることができた。


「おお、本当に開いたぞ。正直あんまり期待してなかったぜ」


 ダズが言い、俺が開けたドアから中に入り、扉を閉める。この扉が俺にしか開けられないのか開けるのに条件があり、俺がそれを満たしているだけなのかはわからないが、俺をここに連れてきた人物……おそらくはシュミリオと呼ばれていたこの店の店主が、俺がこの扉を開けられるようにしていたということはほぼ間違いないと思われた。

 中の様子は、俺が目覚めたときと特に変わりはなかった。価値はよくわからないが薬やら武器やら小物のようなものまで、かなり幅広い商品が並べられているらしかった。

 ダズから聞いたが、この店の店主シュミリオが姿を消したのは一年ほど前らしい。ひとまず、シュミリオの行方や俺の出自の手がかりになるものがないかを探してみることになった。


「おかしい……一年留守にしてたにしちゃ埃もたまってねえし、そもそも家から一度も出ねえ、あるいは出たところを誰にも悟られずに生活するなんて、そんなことできるはずがねえ。魔法でそういう部分を偽装するとしたら、ありえねえ程高度な魔術師にしかできねえ芸当だし、もしできるとして、そんな部分を偽装してなんの意味があるってんだ?」


 一通り店を探索して浮かんだ疑問をダズが代弁してくれる。地下室以外をすべて調べたが、その割には時間の経過で住宅に起こる変化が起きていないように思えた。二階にも一つ部屋を見つけたが、特に変わったところのない生活空間だった。おそらくは店主が生活していたのだろう。服やら日用品やらは一切持ち去られていたようだったが。


「やっぱり、あんたが目覚めたっていう地下室を調べるしかなさそうだ。ショウ、ここでいいんだな?」

「ああ、間違いない」


 ダズを倉庫の地下室に案内する。地下室へ続く階段を降り、扉を開けると、そこには相変わらず薄暗い明かりに照らされた地下室があった。あの時は混乱していてよく見ていなかったが、この地下室には俺が目覚めたベッドの他にはサイドテーブルのような小さな机がベッドの脇にあるだけで、広さに対して明らかに置いてある物が少ない不自然な部屋になっていた。そしてそのサイドテーブルの上には……


「手紙……と、指輪?」

「見たところ普通の指輪じゃねえな。たぶん魔道具の類だ。」


 封筒に入った二枚の手紙らしき紙と、青い小さな宝石のついた指輪が置いてあった。ひとまず薄暗い地下室を後にし、手紙を確認する。まず一枚目、二枚とも手紙かと思っていたが、こちらは紙の中央付近にしか文字が書いておらず、短い内容のようで手紙とは思えなかった。


『私、シュミリオはここに、友人であるショウ氏にこの店を含む全財産を委譲することを証明する』


「はあ?」


 思わず素で声をだして驚いてしまった。この世界の文字が理解できることについてはあの夢のおかげということにして流すが、この内容は意味がわからない。まあ病気の俺を治療……治療だよな?ともかく病気の脅威を取り除いてくれた以上、意味もなく俺に害を加えてくることはないだろうとは思っていたが、ここまでされる意味もわからない。


「友人だってよ。ショウ、あんたここの店主と知り合いなのか?」

「知らないな。少なくとも記憶にはない」

「まあ、だろうな。とりあえずもう一枚を確認するぞ?」


 ダズに勧められて二枚目を確認する。これはまさしく手紙らしく、活字のような無機質な文字で書かれたものだった。


『ショウへ

 まずは君に謝らせてほしい。君が記憶の曖昧な状態でここにきてしまったのは、ひとえに僕の実力不足 が招いたことだ。言葉すら忘れてしまった君のために翻訳の指輪を用意しておいたから使ってほしい。使用者から自動で魔力を吸い上げて機能するタイプだから何もわからなくても持っているだけで話したり、読み書きができたりするようになるだろう。もっとも、この手紙を読めているかは君の運にかかっているけど。この部屋にはそれくらいしか置いてないしきっと大丈夫だよね。このお店は君にあげるから、経営するなり売るなり別の仕事を見つけてここを拠点にするのもいいと思う。呼びつけておいてなんだけど、僕は君が望まない限り、君の人生にこれ以上介入することは無い。君が新しい人生を悔いのないよう生き抜けるよう願っているよ。 君の友人、シュミリオ


 追伸 この部屋の照明は魔道具に魔力をこめる練習をするのに最適だから、気が向いたら試してみるといい』


 手紙を読み終えて一息つく。わかったことは、俺をこの世界に招いたのはやはりこの店の店主シュミリオだったということ、そのシュミリオが俺にこの店を譲ってくれたらしいということだ。

 疑問が二つある。一つは結局シュミリオが俺をこの世界に招いたのはなんのためか、ということ。もう一つは俺の記憶が曖昧だとなぜ知っているのかということだ。

 特に後者は疑問を挟む余地が多い。俺の記憶を曖昧と言い切っているということは、この世界に来てからの俺の記憶の状態を知っているということだ。ということは、俺がこの世界に来てから、少なくとも一回はシュミリオという人物に会っているということになる。だが俺がこの世界に来てからであった人物なんてそう多くないし、記憶の状態がどうこうなんて部分が伝わるほど関わった人物はさらに少ない。昨日魔物撃退後のドタバタで何人かの人物と知り合ったが、その中にシュミリオがいたということか……?

 もしそうだとしても、記憶が曖昧と言い切るのはおかしい。記憶喪失なんて、身分の曖昧な人物に言われたら、後ろめたい過去を隠しているのでは?と疑ってかかるのが人情だと思う。それがなく俺の記憶の状態を断定しているということは、俺の記憶と俺の過去を比較しているということになるわけで、俺の過去を知っていないとできないのでは?そのあたりは推測にすぎないし、考えすぎかもしれないが、違和感として頭に残った。


 結局、情報はそれほど増えなかったが、状況は大きく改善した。俺は自分の出自を明らかにはできなかったが、俺をここに連れてきたと自分から言う者がいる以上、俺も被害者として認識してもらえるだろう、たぶん。

 さらに言えば、意図せず拠点と財産を得ることもできた。俺に都合がよすぎて少し警戒してしまうが、例の第六感はなんの脅威も検知しないし、何より得たものが大きい。これで少なくともすぐさま路頭に迷うようなことはなくなったわけだ。これは本当にありがたい。今着ている服すらダズに新しく買ってきてもらったものだったからな。


「よかったな、ショウ。ひとまずこの手紙のことを上に報告すれば、あんたが犯罪に関与している可能性は少なく見られるだろうよ。手紙を書いた本人がいない以上完全にとはいかないが、この町に財産を得たことも含めて、あんたの立場は以前より間違いなくよくなると思うぜ」


 ダズが安心した様子で言う。が、その後怪訝そうな顔で手紙の最後の一文を指さした。


「ただよ、この追伸ってとこ、あまりにも不自然じゃねえか?そこまでの話と関係ねえし、わざわざ手紙に書いて残すようなことじゃねえだろ」


 全くもってその通りだ。この不自然さ、おそらくわざとだろう。文面から察するに、地下室の照明に魔力を通せと言いたいらしい。

 ……あの薄暗い照明が魔道具、おそらくは魔法の技術を用いた道具だろうが、そんな高尚なものだったものだったとは。しかし魔力を通せと言われても、そんな簡単にできるものなんだろうか。

 困ったら聞いてみよう。ダズに魔道具に魔力を込める方法を聞いてみた。


「魔道具に魔力を通す方法?あー……まあその辺は個人のセンスによるんだよなあ。当たり前のようにできるやつもいれば、ほんの少しも魔力を込めるのにも苦労する奴もいる。あとは本人の魔力の量にもよるらしいしな。俺も一応多少の魔力をこめることはできるが、やり方って言われてもちゃんとは教えられないぞ。身体の中に流れる何かをコントロールして流す、ってくらいの感覚でやってるだけだからな。やったことがないってんなら、試しにやってみたらどうだ?その翻訳の指輪とやらは魔道具なんだろ?魔力を通さなくていいって話だったが、魔道具なら魔力を通すこともできるはずだぜ」


 感覚か。あんまり自信がないが、あの夢をみてから言葉が通じるようになったり、なんとなくとはいえ戦う技術が身についたり、都合のいいことが続いてるんだよな。それなら、魔力をこめるということも都合よくできるかもしれない。というか単純に、魔法があるなら使ってみたい。そのためには魔力をこめる、なんて感覚でできるらしいことで躓いていられない。なんだか緊張してきた。

 俺は初めて自ら触れる魔法的な出来事に緊張と若干の興奮を覚えながら、翻訳の指輪に魔力を込めようと試みるのだった。


不自然な空欄が多数あったので修正しました

なんだろうこの空欄

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