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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第1章 目覚める記憶
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5話 急襲と友達


「おい、ショウ!起きろ!いつまで寝てんだ!」


 突然のダズの大声で目が覚める。そんなに大声じゃなくても起きるって。


「……いつまで寝てんだって、そんなに寝てたのか俺。今何時だ?」

「今か?さっき時計を見たときは9時だったぞ。まったく、昨日もさんざん寝てたくせに、よくこんだけ寝れるもんだ」


 ややあきれたようにダズが言う。時計があるのか、この世界。それは助かる。割と時間を気にするタイプだったからな。というか、昨日のは寝てたんじゃなくて気を失ってたんだぞとダズに抗議する。


「似たようなもんだろ。ほら、それよりもさっさと着替えろ、出かけるぞ。」


 ダズに渡された服に着替える。昨日までの服装は変だったらしいからな。

 後でわかったことだが、俺が昨日着ていた服は部屋着か寝巻に着るようなものだったらしい。寝巻の男が開かずの扉から出てきて謎の言語をしゃべる……うん、俺なら通報する。


「汚すなよ?いくら機械帝国産の安物とはいえ、今はそれしかないんだからな」


 おっと、また知らない単語が出てきた。機械帝国?なんだか不穏な言葉だ。

 服を着替え、昨日と同じようにダズが持ってきてくれた朝食を食べ、部屋を出る。兵士の詰め所らしく、ダズと同じ装備を身に着けた数人の兵士とすれ違い、ダズはそのたびに軽い挨拶を交わしていた。ダズは人望があるようだ。羨ましい。





 詰め所を出ると広場にはそれなりに人がおり、昨日訪れたときほどではないが賑わっている。


「そういや、あんたは自分の意思でこの町に来たわけじゃないって話だったな。じゃあ、この町のことは何も知らないわけだ。」

「案内してくれるのか?案外親切だよな、ダズって」

「そうでもねえよ。ま、歩きながら軽く説明してやるよ。」


 俺が昨日来た道は、例の像を挟んで広場の反対側にあるらしい。ダズが前を歩き、昨日と同じく俺が後ろをついていく形で歩くことになった。

 

「この町はファリス王国のワモス公爵領、公都ワモスだ。ここは下町と貴族外の中間点にあたる英雄広場、あの像が____」


 その瞬間、第六感が反応を示した。それも、これまででも病気の時に次ぐほどの深刻さで。

 何かはわからないが、命に関わるレベルの脅威が、ここ英雄広場に迫っている。脅威の発生源は……上空!?


「ダズ、上だ!何か来るぞ!」

「はっ?上?何かってなんだよ?」


 上を見上げると、なにやら人影が見える。ただ普通の人間と違うのは、その人影から蝙蝠の羽のような翼が生えており、宙に浮いているということだ。遠すぎてそれ以上はわからないが、明らかに俺の知っている人間とはちがう。怪物とすら言えるその人影が手を広げると、そこから何か黒い石のようなものが降ってくるのが見えた。

 第六感が告げる。あの黒い石が差し迫った脅威であると。石を放り捨てた先ほどの人影はまだ上空に残っているが、それ以上何かをしてくる気配はない。


「ショウ!なんなんだ!?なにがまずいって!?」

「あの石だ!具体的にはわからないが、あれがまずい!」


 自分でも思うが、情報が曖昧過ぎる。どうまずいのかわからなきゃ対策の打ちようがない。

 重力に従い落ちてくる石は例の像にあたる直前で黒いもやのようなものを出し、光を放ちながら空中にとどまった。

 

「なんだ……?光るだけか?」

「いや違う!ショウ、詰め所に戻ってろ!」


 一瞬不発に終わったかと思い安堵した俺に対し、ダズが叫ぶ。

 石から出たもやは、その後石を中心に収束するように集まり、見覚えのある形を作り出した。


「虎…?いや、虎にしてはでかすぎる!」

「魔物だ!なんでこんな町中に……!?」


 地についた足から頭頂部まで、3メートル近くの大きさのある虎が、例の像を足場にして地面に降り立った。体色は黒く、一目でわかるやたらと大きく鋭い牙があるほかはただの虎だ、常識外れにでかいことを除けば。広場にいた人々が、悲鳴をあげ我先にと逃げ去っていく。

 魔法があるなら魔物がいてもおかしくない。妙な納得をしている暇もなく、虎の魔物は像の一番近くにいた俺とダズ、その中でも先頭を歩いていたダズに目を付けたらしかった。

 

「ショウ!下がれ!」


 俺の心配をし、槍を構えるダズ。どう見ても人の心配してる場合じゃないだろ。

 魔物がダズに飛び掛かる。その瞬間、すべてが遅くなったかのように思えた。俺の頭にあの夢の、最後の光景がよみがえる。


 握りしめた掌。粉々になる石。そして固めた決意。

 その光景と重ねるように拳を握りしめる。込めたいだけ力をこめて握り締められる。

 深い根拠はない。だがわかる。拳の握り方が。素早い足さばきが。どうすれば、眼前の脅威を打ち砕けるのか。


 ダズを追い抜くように足を踏み出す。そこから体を半回転させ、そのままダズに牙を突き立てようとする魔物の横っ面に拳を振りぬく。

 予想外の方向からの衝撃に、魔物は大きく吹き飛んだ。自分の体長と同じくらいの距離を吹き飛ばされ体制を大きく崩している魔物に、俺は追撃を加える。この大きさの敵を相手に、拳では限界があることはわかっている。持っていないなら奪えばいい。

 俺は魔物の、殴り飛ばされた側の牙を引っ掴む。衝撃で小さく亀裂の入ったその牙を、俺は力任せに引っこ抜いた。

 抜いた箇所から鮮血を噴き、けたたましい悲鳴を上げる魔物。無防備な状態のそいつをさらに蹴り上げ、腹をこちらに晒させる。本能的に危機を感じたらしい魔物が体制を直そうとするが遅い。俺は魔物の胸元にある脅威の根源目掛け、深く魔物の牙を突き刺したのだった。


 悲鳴は止み、動きを止めた魔物がその場に転がっている。異常を察知した兵士たちが詰め所から駆け寄ってくる。


「おい!ダズ、大丈夫か!?それにあんたも、よくこんな魔物を一人で!」

「俺は大丈夫だ。ショウ、あんたは平気か?」

「ああ、大丈夫だ」


 短い返事を返しつつ、俺は自分の身におきたことを理解できないでいた。

今俺は何をしたんだ?この大きさの動物を素手で殺すなんてできるはずがない。まして俺みたいな一般人がだ。だがさっきの俺はまるで、そうするのが当然のようにあっさり魔物を殺せていた。恐怖も、躊躇いもなかった。

 そして、今ならわかる。俺は、何度やってもあの魔物を殺せるだろう。さっき拳を握りしめたとき、戦い方を瞬時に理解することができた。まるで忘れていた何かを思い出したかのように、抵抗なく、当然の知識であるかのように頭に入ってきたのだ。さらに言えば、人を襲う存在とはいえ生き物を殺したにも関わらず、なんの動揺も呵責もない。

 きっと、俺は以前の俺には戻れない。身についてしまった知識は、忘れようと思って簡単に忘れられるものじゃない。自分が自分でなくなってしまうような恐怖を感じた。


「ショウ、大丈夫か?ボーっとするなよ、まだ何が起きるかわからないんだからな」


 ダズが声をかけてくる。そういえば、さっきの空飛ぶ人影はどうしたんだ。

 そのとき、俺は自分の真後ろに脅威が動いてくるのを感じた。


「何かようか?」


 後ろを振りかえると、背中から蝙蝠の羽を生やした少女が立っていた。遠目からではわからなかったが、思っていたより小さい。十代前半といったところか。真っ赤な瞳が特徴的な幼い顔立ちをしている。少女は驚くような顔をすると、こちらに声をかけてきた。


「お兄さん、何者?魔物のことはともかく、僕の気配に気が付いたの?」

「うわっ!なんだ、こいつ!どこから現れた!」


 兵士たちが槍を向ける。


「邪魔しないでよ、今話してるんだからさ」


 少女が兵士たちに手を向けると、兵士たちがまるで急に重たいものでも持たされたかのように、次々に槍を取り落とす。


「それで、お兄さんはなにもの?僕たちのなかまじゃないの?」


 謎の力……おそらくは魔法で獲物を奪われ混乱に陥る兵士たちをよそに、少女は無邪気に疑問を投げかけてくる。なんで仲間だと思うんだよ。


「よくわからんが、仲間なわけあるか。それに俺が何者か……なんて、それは俺の方が知りたいよ」

「ははっ、なにそれ、変なの!お兄さんおもしろいね!」


 けらけらと笑う少女は、満足そうにうなずくと宙に浮く。


「うん、おしごともちゃんとできたし、おもしろい人にも会えたし、けっこう楽しかった!僕、おうちにかえらなきゃ!」


 羽ばたくこともなく浮かび上がり、立ち去ろうとする少女。状況が未だによく理解できていないが、人を襲う存在を町中で呼び出すような輩を逃がしていいものか?


「まったねー!」

 

 こちらに笑顔を向けている少女。できれば後ろを向いていてほしかったが。

 おれは広場の石畳から石を引っこ抜く。飛び立ったばかりの少女はまだそれほど遠くに行っていない。目測で30メートルくらいか。当てられそうだな。


「えっお兄さん何して」

「ふっ!」


全力で投げつける。力の籠め方を身に着けた俺が投げたその石は、豪速球となって少女に飛んでいった。


「あっぶな!!」


 少女が石に手をかざすや否や、石は明後日の方向にそれていった。兵士たちへの対処や飛んでいるのもそうだが、なかなか便利な魔法を使えるらしい。飛べているのは羽を生やす魔法とか?しかしあの面積の羽で人が浮かべるのかも疑問だし、ほとんど羽ばたいていないように見える。


「いいい、今のは惜しかったね!じゃあまたね!赤い目のお兄さん!」


 少女が慌てて逃げて行った。残念ながら捕まえることはできなかったが、ひとまず脅威は去ったようだ。

 兵士たちに安堵の表情が浮かび、ダズもホッとした様子で声をかけてくる。


「あんたのおかげで助かったぜ、ショウ。あんた、あんなに強かったんだな」

「ああ、自分でも驚いてる」

「自分の強さにってか?ははっ、あの魔物もどきじゃないが、お前ってやっぱり変な奴だよ」


 ダズが笑う。無事で何よりだが、俺はいまダズに謝らなければならないことがある。


「ダズ、ごめん」

「ごめん?何がだ?」

「お前に借りた服、汚しちゃったからさ」


 魔物の返り血で汚れた服を指さす。一瞬きょとんとしたダズの顔が、次の瞬間笑い顔に変わる。


「服?……くくっ、あははははは!!お前、服って、お前……!くくくっ……やっぱり変だ、変人だ!ははははははは!!」


 ダズの笑い声が広場に響く。

 俺はこの日、魔物と戦う力と、異世界にきて初めての友人を得ることになったのだった。


キャラの台詞を考えるのが難しいです


誤字の修正と若干の加筆を行いましたが、展開には影響ありません。


追記 ショウが気絶中に医者に診せられていたという記述を削除しました。

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