表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分と世界を救うには  作者: あるつま
第1章 目覚める記憶
4/83

4話 現状把握とこれから

 木製の天井を見上げた状態で目が覚めた。頭の痛みは治まり、起き上がるのにも特に問題はなかった。

 周囲を見渡すが、当然入院していた病室ではなかった。服装もあの簡素な服のままだ。

 俺はどうやらベッドに寝かされていたらしい。木製のベッドに毛布を乗せただけの、お世辞にも高級とは言えないベッドだが、寝床を貸してもらえる程度には親切な人たちがいてくれるということだけでも、今の俺にとっては朗報と言えた。ただ、いよいよもって夢でないことが確定的になってきた。


「よう。目が覚めたのか。……ああすまん、言葉が通じねえんだった」


 何者かの声にそちらを向くと、そこには先ほどまで一緒に歩いていた兵士の片割れ、俺の前を歩いていた兵士が椅子に腰かけていた。鉄兜を外しているからわかったが、想像していたよりも若い。俺と同い年くらいだろうか。

 おや?なぜかこの兵士の言っていることが理解できる。聞いたことのない言語のはずなのに、内容が同時翻訳されているかのように頭に入ってくる。

 というか、今ならこの言語でしゃべれそうだ。


「しゃべれます。さっきまではすいませんでした」

「うおっ!」


 言葉を返すと、兵士が露骨に驚いていた。感情が表に出やすいタイプのようだ。


「なあんだ、話せたのか。さっきまではどうして話してくれなかったんだ?」

「さっきまではしゃべれなかったんですけど、今しゃべれるようになりました」


 変な設定を作って話すより、いっそ素直にしゃべった方が安全だし心象もいいだろう。ひとまずありのままに話すことにした。


「なんだそりゃ?あんた、へんな奴だな。まあいいや。こっちとしてもあんたが話せるなら話が早い。あとでいろいろ話を聞かせてもらうからよろしくな。とりあえず、腹へったろ?あれから半日近く寝てたんだぜ、あんた。食い物を取ってきてやるから待ってろ。」


 そういうと、兵士は立ち上がり部屋を出て行った。

 ベッドの近くの窓から外を見る。どうやらここは、先ほどまでいた広場の一角にある建物らしい。あの頭痛を引き起こし、おかしな夢を見せた像が目に入った。

 

 さっきの夢はなんだったのだろう。俺、と思われる人物が話していたのはあの像の少女だった。夢の最後に見た自分の手と男の方の像の手を見比べると、手から腕にかけてつけている手甲のようなものが同じであることに気が付いた。やはり、夢の中で俺が見ていたのはあの像の男の視点だったのだ。

 夢の中で言っていた。俺が以前から感じていた第六感は与えられたものだったと。おそらくは、あの少女によって。

 とても偶然とは思えない。あの夢にはなにか意味があるはずだ。

 それだけじゃない。あの少女は最後、光となって姿を消してしまった。あの状況で突然マジックを始める意味もないし、さっき店先で見た光景と合わせて、おそらく本当にこの世界には魔法があるのだ。おそらくだが、俺は以前までとは別の、魔法の存在する世界に来てしまったのだろう。

 普通に考えればありえない話だが、もうすでにありえない事尽くしだ。いっそ、それらすべて魔法の一言で片づけられるのならその方がいい。突然この国の言葉がわかるようになったのもさっきの夢がなにか関係あるのだろう。それくらいしか考えられないし、そういう形で納得しておかないと頭がパンクしそうだ。

 とりあえずここが異世界で、長すぎかつリアルすぎる夢でもない、という仮定のもとに今後の事を考えるなら、住む家や収入源をどうにかしないといけない。俺はこの世界の金なんて持っていない。このまま何の行動も起こさなければ、俺は物乞いまっしぐらだ。不安だがなんとかするしかない。


 と、ここでさっきの兵士が戻ってきた。両手に木製のトレーを持ち、その上にはいくつかの料理とパンが並んでいる。


「待たせたな。まあ兵士の詰め所なんて大したものが出てくるわけじゃあないが、ないよりましだろ?」


 ベッドの近くのテーブルに案内され、椅子に腰かける。差し出されたトレーには野菜のスープと小さな焼き魚、パンと水が並べられていた。豪華とは言えないかもしれないが栄養バランスはなかなか整っているように思う。

 食べ物を前にすると、思い出したかのような空腹感が訴えかけてきた。やはりというか箸はないので、ナイフとフォークとスプーンで食べていく。全体的に塩味なので若干味気ないが、空腹がそのあたりはごまかしてくれたため普通においしく感じた。


「食べながらでいいから聞いてくれ。俺はダズ。見ての通り兵士だ。目が覚めてそうそうで悪いが、あんたが何者かについて聞きたい。とりあえず名前と、あそこで何をしていた?そんな恰好で外をうろつくだけでもおかしいってのに、あんたが出てきた店はあのシュミリオの店だろ?」


 兵士ダズは紙とインク、ペンを持ってくると俺と向かい合う位置の椅子に腰かけた。調書のようなものを書くのだろう。というか、この格好は変だったのか。


「名前はショウといいます。あそこで何をしていたか、と聞かれると一言では答えづらいですね。なにせあそこの地下室で目を覚まして、ここがどこかもわからず右往左往していただけなので…」

「ショウ、ね。名前はわかった。あんたの言うことが本当なら、あそこにいたのは自分の意思じゃないってことか?あ、あとその敬語は必要ないぞ。騎士様相手ならともかく、俺みたいなどう見ても平民出身の兵士に敬語なんて、あんたやっぱり変な奴だな。」


 ダズの目が少し険しくなる。初対面の相手に対するしゃべり方として染みついていた敬語が、かえって怪しまれてしまったらしい。だがよく考えれば、俺に後ろめたいことは何もない。さすがに日本の事については話さない方がよさそうだが、そのあたりだけごまかせれば問題ないだろう。

 その後も食事と同時進行の取り調べは続いた。といっても、それほどたいしたことは話していない。店の地下室で目を覚まして、見知らぬ場所に混乱して外に飛び出し、不審者として通報されて今に至る。ということくらいだ。


「なるほどな、正直信じられない話だが、あんたに別に目的があるとしたら、ここまで目立つ意味もねえな。まあいいか。じゃああんた、出身はどこなんだ?その地下室とやらに連れてこられるまではなにをしてたんだ?」


 ここにきて嫌な質問が来た。日本の名前を出すべきか……?どこだそこ、で済めばいいが、場所を詳しく聞かれたり、日本という国が実在するのか調べられたときに困る気がする。

 少し考え込んだ俺を見て、ダズの目がまた少し険しくなる。

 そしてここで、久しく感じていなかった第六感が警鐘を鳴らし始める。ダズが俺を逮捕すべき犯罪者として認識してもおかしくないということだ。これはマズイ。なんとかごまかさないと。


「き…記憶が曖昧なんだ。自分の名前以外、ほとんど何も思い出せない」

「どうした?急に歯切れが悪くなったな。あんた何か隠してないか?」


 するどい!いや俺のごまかしが下手すぎたか?しょうがないだろ、そんなにパッと良い言い訳を思いつくか!

 

「何も隠してなんかない。何ならあの店のことでも、俺自身のことでも好きに調べてくれよ」


 これは問題ないだろう。実際、なにもしてないからな。調べられて困ることなんて何もない。


「そうか、わかった。実は明日、あんたが出てきた店を調べにいくことになってたから、あんたにはそれについてきてもらうとするか。そこで詳しく話をきかせてもらうぞ」


 想像以上にあっさり話が進んでしまった。なんでもあそこはこのあたりではそれなりに有名な店で、店主が何も言わず姿を消してから、俺が出てくるまで一度もあの店の扉が開いたことは無かったとか。一度中で死んでいるのではと鍵職人にカギを開けさせようとしたが、なんと唯一の出入口である玄関の扉は鍵そのものがなく、しかし押しても引いても開かない状態だったらしい。

 そして『シュミリオの開かずの扉』として有名になったそうだ。ちなみにあの店は薬草や薬から簡単な武器や魔道具まで広く浅く何でもそろう雑貨屋のような店だったらしい。

 しれっと出てきた魔道具という言葉が気になったがこらえた。これ以上怪しまれたら店に連れて行ってもらえるかすらわからん。


 詳しい話は明日、ということで、ひとまず今日はここにそのまま泊っていくよう言われたので素直に従った。


 固いベッドが不安を煽る。日本でぬくぬくと生きてきた俺が、全く知らない世界で生きていけるのか?明日を乗り切ったとして、そのあとはどうしよう。俺の持つ大学受験レベルの理系知識でこの世界の科学者に立ち向かってみるか?いや魔法のある世界で科学が通じるのだろうか。

 順当にいけば商人の手伝いとかか?この身体を見た感じだと力仕事もできそうだ。計算も早い方だし、何かしらの仕事は見つかりそうだ。

 なんだ、意外となんとかなるかもしれないぞ。例の第六感がきちんと機能してくれれば、悪意ある人間に騙されるということもないだろう。

 冷静さを取り戻してきた俺は、おとなしく目を閉じて明日を待った。明日を乗り越えよう。それが最初の一歩だと自分に言い聞かせて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ