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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第2章 聖女マリアとエルフの里
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26話 修道士シス②

「結果、ですか。わかりました。お答えしましょう」


 俺の不安を感じ取ったのか、シスさんは俺の要求に応えてくれる。


「模擬戦を経て感じた印象は、私が模擬戦の前からショウ殿に感じていたものと同じでした。何事にも真摯で誠実、人の無茶な頼みにも、自分の成長にも、そして相手と向き合う態度にも、常にあなたはまっすぐでした」

「…それはそうあろうとしていたからです。人に頼られたくて、目指す自分になりたくてしていたんです。褒められたものじゃありませんよ」


「そう思えることが誠実の表れなのです。それに、物事にまっすぐ向き合うことはしようと思ってすぐにできることではありません。きっとあなたは自分で思っているよりあなたの目指す姿に近い人間なのでしょう。少なくとも、私はそうおもいますよ」

「…………」


 そうだろうか。俺は自分の目指すものに近づけているのだろうか。

 シスさんは俺を真摯で誠実と評したが、他の人間にはどう映っているのだろう、そしてその姿を俺が否定したくなった時、それは叶うのだろうか。許されるのだろうか。

 兄貴もこんなことを考えたりしていたのだろうか。確かめようのない疑問が頭に浮かんで漂う。

 ひとまず思考を切り上げた俺は、少しの沈黙の後言葉を返した。


「ありがとうございます。その話については、あとでじっくり考えてみます」

「ええ。私の失礼が帳消しになるとは思っていませんが、せめて役に立てていただければ幸いです」

「それで、結局なぜ今そのようなことを確かめたんですか?」

「そうですね。それについてもお話しましょう」





 浄化院が世界的な力を持ち始めたのは世界の瘴気の量が急増したとされる100年前、すなわち落日の日以降です。それ以前の曾祖父の代から浄化院に身を捧げてきた私の一家は浄化院の中でも古参の一族。その末裔として生まれた私にも当然修道士として結果を出すことが求められていました。

 私は一族の期待に応えるべく訓練に明け暮れ、冒険者としての経験を積んでゆきました。そして私は銀級冒険者の地位を得るに至り、そこで正式に修道士として浄化院に勤めることとなったのです。そして任ぜられたのが、新たに聖女として浄化院に引き取られた当時五歳のマリア様の護衛任務。聖女の護衛は戦闘員たる修道士に与えられる任務としては最上級のもの。当初の私は自らと一族への誇り、そして浄化院への忠誠でもって満たされていました。

 マリア様もまた周囲の期待に応えようと自らの才能を必死で育てようとしていました。聖女や聖者はみな青い目を持ち、それはかつて勇者と共に邪神と戦った女神と同じ色の瞳だと言われています。そのため彼ら、特に聖女は女神の代行者と呼ばれているのです。そして女神の代行者たる聖女は奇跡においても秀でていて当然。そんな認識が浄化院の内外に広がっています。しかし奇跡とはとどのつまり魔術。才能がなくては使用できないのは事実ですが、才能だけでは扱えないというのもまた事実なのです。


 マリア様の護衛任務は毎日代わり映えのしないものだった。それもそのはず。マリアは聖女といての成長のみを期待され、浄化院に囚われ続ける毎日を送っていたのですから。接する人間と言えば浄化院の人間のみ。特別な力を持つとはいえ、精神は他の人間となんら変わらないというのに。

 そんな日々を送って10年。気が付けばマリア様の正式な配属が決定していました。これは聖女としての本格的な活動の開始と、権力者との婚姻が迫っていることを意味しています。結婚すればマリア様は外部との接触をほとんど許されず、一生籠の鳥として生きることになるでしょう。


「私は何とかマリア様が外部とかかわりを持つことができないかと考えていました。少しでも外の世界とのつながりがあれば、きっとそれを心の支えに出来ると。そしてそこに、あなた方が現れたのです」

「……つまり?」

「つまりは、私はショウ殿とハルカ殿に、マリア様のお友達になっていただきたいのです」


 なるほど。思いのほかシンプルな理由だったが、同時に深刻な理由でもあった。マリアの人生を側で見守ってきたシスさんの話を聞けば、マリアにはこれまでの人生でまともに友人がいなかったことになる。となれば俺たちという機会を逃したくない気持ちもわかるし、その人格に気を配るのもうなずける。模擬戦を行うというのはやや独特なやり方だと思うが。


「訳は分かりました。ただ、自分は人づきあいが得意な方ではありません。その気がなくてもマリアを傷つけてしまうかもしれませんよ」

「それもまた、マリア様には必要なことかと。ただ私個人としては、いさかいはあっても、ショウ殿がマリア様を見捨てることにはならないでほしいと願っていますが。どうかあまり深く考えず、ありのままのショウ殿でマリア様に接してあげてください」

「……わかりました。そうさせてもらいます」

「ありがとうございます、ショウ殿。では戻りましょうか」


 こうして突然の模擬戦は終わり、俺とシスさんは宿に戻った。戦いを終えて土ぼこりまみれになった俺たちを見て、ハルカとマリアは驚いていたが。

 そしてマリアの旅路、その最後の夜が訪れた。


「いよいよ最後ね……あっという間だったわ」

「ひとまず無事に終われそうで安心しました。明日には目的地に着くんですよね?」

「ええ。明日の昼を過ぎたあたりで王都ヨンドに到着します。現地の浄化院まで護送していただいた段階でお二人の依頼は終了ですので、そのあとはお互いの日常にもどってゆく、といったところですね」


 マリアにあてがわれた部屋で、最後のおしゃべりの時間が始まる。マリアは若干疲れた様子だが、同時に名残惜しさも見える様子だ。


「なあマリア、王都について、そのあとどうなるんだ?まさかすぐ結婚なんて話にはならないだろ?」

「え?……ええ。そんなに急に結婚だなんて話にはならないでしょうね。多少は聖女としての活動をこなしてからじゃないと、政略結婚するにしても乗る箔が薄いでしょうし」


 結婚の話が出てマリアの顔が曇る。俺としても進んでしたい話題ではないが、確認しないとできない話があるのだ。


「そうなんですか?じゃあ、まだそこまで人の目は厳しくないはずですし、シスさんの協力があればまた遊びに行けるかもしれませんね!」


 ……言おうとしていたことをハルカに言われてしまった。ハルカの言葉を聞いて、マリアの表情が明るくなる。


「シス、できる?」

「できないことはないですが……その場合万が一ことが明るみに出た際にショウ殿とハルカ殿を守る建前がないので……」


 シスさんの言う建前とは、シスさんと俺たちが依頼主と依頼を受けた冒険者という関係にあることを指しているのだろう。旅が終わってからマリアを抜け出させ、それが発覚した場合、俺とハルカは雇い主に指示されただけだ、という言い訳は通用しなくなる。シスさんが庇ってくれたとしても断罪を受ける可能性は否定できない。

 マリアもそれを理解したのだろう。表情が一転して曇る。


「……そう、そうよね。そこまで迷惑かけられないわよね」

「「大丈夫だ(です)」」


 俺とハルカの声が重なる。一瞬顔を見合わせる俺たちだが、すぐマリアに向き直り続ける。


「俺たちのことなら心配いらないぞ。もともと失うもののない冒険者だし、そもそもバレなきゃいい話だ」

「そうです!それに、友達が困っているのに放ってなんておけません!迷惑かけられない、だなんて水臭いですよ!」

「ショウ…ハルカ…でも……」


 マリアの表情に戸惑いが浮かぶ。うれしさと罪悪感の葛藤。自分を友達と呼んでくれる存在に甘えたいが、友達だからこそ迷惑をかけたくないという感情の板挟み。

 ああ、わかる、わかるよマリア。人を頼るってのは大変なことだよな。でもそれをわかっているからこそ、俺はお前を助けたい。俺みたいに後悔してほしくない。


「……というか、俺はマリアと一緒にいて楽しかったから、マリアがどう思ってようが連れ出すからな。攫う形になってでも連れ出してやるから覚悟しろよ?」


 俺らしくない、強引な説得。いや説得というよりただの犯罪宣言か?まあいいさ。遠慮ばっかりでウジウジしてるやつにはこれぐらい強引な説得が必要だと、俺は誰より理解している。

 俺の言葉を受けて、マリアに笑みが浮かぶ。そして、くすくすと笑い始めた。


「なによそれ。あたしたちの最初の立場と、まるで逆になっちゃったわね。……まあいいわ。それなら、とことん付き合ってもらうからそっちこそ覚悟することね!」


 マリアがいつも通りの活発な顔に戻る。うん、やっぱり猫かぶってるときよりこっちの方がしっくりくるな。

 ふと見ると、シスさんの安心と喜びがまじった笑顔がこちらを見つめていた。その目には、少しの涙が浮かんでいるように見えた。



復活しました。週1くらいで更新できればと思います。

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