15話 誤算と思わぬ再開
村の倉庫の中での戦いは想像以上に激しく、苦しいものになった。
俺がオークたちとの戦闘で取った戦術は一つ。煙の中で、第六感を頼りにオークの動きを把握し急所を切りつける。それだけだ。しかし単純だからこそその戦術は高い効果を発揮し、俺はオークどもの首に片っ端からナイフを突き立てていくことに成功した。魔石を狙う手も考えたが、さすがに煙で視界も悪いなか、左胸のピンポイントな位置にある魔石を狙うのは難しいし、ゴブリンは首を飛ばせば死んだので、首の骨を断てば普通に死ぬだろうと考えたからだ。今思えば、よくこんな浅い考えで大見栄をきったなと思う。
それは大きな勘違いだった。オークたちは首を刺されて数十秒ほど動かなかったが、その後順番に起き上がってきたのだ。出血多量も脊髄損傷もものともしないなんて、生命力が強いで済ませていい問題じゃないと思う。
後で聞いた話だが、体の大きい魔物を殺すときは直接魔石を狙うか、強力な攻撃で体の一部または全部を吹き飛ばすのが常識だそうだ。そんなこと研修で習わなかったぞと後日シャットに詰め寄ったら、あの研修は冒険者に最低限必要な一般教養を学ぶもので、強力な魔物と戦うようなベテランに必要な知識まではカバーしてないそうだ。納得いかない。
ともかく、俺が仕留めたと思っていたオークたちは何事もなかったかのように起き上がり、俺は奴らの首を刈りつつ隙を見て魔石を砕くプランに移行する他になくなった。幸いなことは、俺がオークの首を刈るのにかかる時間のほうがオークの起き上がる時間より短いため、二体のオークの左胸を開き魔石を破壊できたことだ。
残ったのは4体、だがさらにここで次の誤算があった。
俺があの夢を見てから冒険者になるまでの間にわかったことの一つに、俺があの夢から得たものはこの世界の言語と文字、格闘術と投擲術だったということがある。ダズとの訓練の中でわかったことだ。
他の武器もシュミリオの店にあるものは軒並み試したが、どうやっても素人の動きにしかならなかった。
しかしナイフだけは比較的まともに扱うことができた。あの夢で得た力ではない。格闘術にナイフは組み合わせやすかったというそれだけの理由で、いうなれば「ナイフを持って殴る」という感覚で扱っていた。
しかし忘れていた。雑に扱えば扱うほど武器は壊れやすくなるということを。
力づくにオークの骨をこじ開け肉を断ち切るのにつかわれたナイフは、二体目のオークを仕留めた時点で根元から折れてしまった。自分のことだが、ばか力も考え物だ。残った4体のオークを仕留める前に、俺は奴らに致命の一撃を与える手段を失ってしまったのだ。残った4体は、自らが殺されかけたことを認識するとさらに激昂し暴れだした。
ここで更なる誤算がおきた。俺とオークたちのいる倉庫は石づくりとはいえ、複数のオークの暴走に耐えられるほど頑丈ではなかったのだ。煙が風で流れないよう建物の中で戦ったことが裏目に出た。俺は崩れる倉庫の瓦礫から逃れて外に出た。
地下室への出入口を力づくで粉砕する膂力と首を刺されて死なない生命力を持つオークが瓦礫程度で死ぬことはないだろう。徐々に晴れていく煙をにらみつけながら、俺は次の手を考えるしかなかった。
周囲になにか使えるものがないか見渡す。すると先ほど倒したゴブリンたちの近くに、この村に来た冒険者たちが持っていたのであろう大きい両刃の剣と、これまた大きめの斧が落ちているのが見えた。ゴブリンたちでは扱えない大きさのそれはほとんど何の汚れもついていなかった。
すぐさま近づいて剣を拾い上げる。技術の有無を考慮しても素手よりましだろう。煙から飛び出してくるオークの一匹目掛けて真上から振り下ろした。たまたま綺麗に当たった剣はそのオークの頭蓋をかち割り、その場に沈ませた。安心はできない。俺はそのままその首筋目掛けて剣を振り下ろし、首を胴体から切り離した。
ようやく半分。首を完全に切り離せば死ぬと考えていた俺が安堵したその瞬間、目の前のオークに集中していた俺の脇腹に衝撃が走る。吹き飛ぶ体の肺からは空気がすべて抜け、痛みに視界が点滅する。吹き飛んだ先でなんとか体勢を立て直した俺は、俺と一緒に飛ばされた剣を拾い―――――
「あーーーー!やっぱり!せっかく作った秘密の工場がバレちゃってる!」
俺の集中はどこかで聞いたことのある声に阻まれた。俺もオークたちも、突然上空からかけられた声に思わずそちらを見上げる。
そこには英雄広場で会った、蝙蝠の羽の少女が浮かんでいた。
「どうしよう、えーと、たしかバレたらすぐに壊せって言われたよね!」
少女が倉庫の中に入っていったと思えば、倉庫の方から轟音が響き渡り、大量の砂煙があがる。そして涙目の少女が出てきた。
「やだなあ、きっとおじちゃんに怒られるよ……あれ?」
少女がこちらに気が付く。オークたちは俺と少女に挟まれる位置にいるため、どちらに対処すべきか迷っているようだ。
「あ!お兄さん、久しぶり!元気にしてた?」
人懐っこい笑みを浮かべながら空中から滑空するようにこちらに近寄る少女。オークたちは彼女を積極的に迫ってくる敵と認識したのか、少女に襲い掛かった。
「おい、よけろ!」
「あれ?おかしいなあ。やっぱり作り物は違うのかな?」
少女は不思議そうな顔を浮かべると、以前兵士たちにしたようにオークたちに手を向けた。するとオークたちは次々に驚愕の声を挙げながら地面に倒れ伏す。
「おとなしくしててよね。それよりもお兄さん、また会ったね!」
「…何してるんだ?こんなところで。いや、それより今はオークを仕留めないと…!」
「ん?あいつら殺せばいいの?じゃあ、はい!」
少女が手刀を繰り出すように手を横なぎに振るうと、オークたちの体は大きな刃物で何度も両断されたかのようにバラバラになった。地面にも大きな亀裂がいくつも走っている。
俺は開いた口がふさがらなかった。魔術だろうが、なんだこの威力。それにこの娘、魔術を使うのに詠唱も魔法陣も使っていない。そんなに強力な魔道具を持っているふうにも見えない。何をした?
「あっ、驚いてる驚いてる!やった、前は僕が驚かされたから、今度はお兄さんを驚かしてやりたいと思ってたんだ!」
起こした現象に対して、少女の態度はあまりに無邪気で、俺に対する敵意もなかった。ただそれが逆に恐ろしくて、俺は全身に力を入れ構えた。
「いったい何をしに来たんだ?秘密の工場とか言っていたな。あの施設について何か知ってるんだな?」
「えっ!……知らないよ、なにも知らないよ!」
あからさまにしまったという顔をした少女が、薄紫色のショートヘアーを揺らしながら首を左右に振る。
「そうか、まあわかった。じゃあ、村人とこの村に来た冒険者……この村にいた人間の居場所だけでも教えてくれ」
「人間?それなら材料…あっ!知らないよ、なにも知らないよ!」
なにやら言いかけてから先ほどの状態に戻る。工場、材料、かなり不穏な響きだ。
「し、知らないから帰るね!知らないから!」
「おい、待て!こら!」
少女は焦ったように逃げて行った。
静かになった村。その一角を見る。俺があれだけ苦労して倒したのと同じ魔物がバラバラになり、血だまりを作っていた。これを、腕の一振りで……。
あの少女は倉庫の施設を工場と呼んでいた。そしてその工場にあったものは魔物となった。英雄広場の件と合わせて、彼女はきっと人類の味方ではない。もし俺があの少女と戦うことになったとき、俺は手も足も出ないだろう。
拳を握りしめる。魔物に対してはあまりに無力なその拳を、少し恨めしく思った。
設定と矛盾する箇所があったため、「急襲と友達」の一部を変更予定です
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