次世代体感バトル「マシェット!」 Try
連載予定の作品の読み切り版として書きました。
剣を構える者と、銃を構える者。その両者が激しく激突していた。
発砲された弾を剣で弾き、振り下ろされる剣を飛んで避ける。
飛び交う弾丸を走りながら避け、飛び上がって切りかかる。
その斬撃が銃で受け止められると、その反動を利用して後ろに飛び退く。
踏み出せば一撃。引けば一発。その距離のまま静止する。
「うおおおおおお!」
遂に剣を構える者が咆え、突撃する。銃を構える者は軽くあしらうと、その背に向かって引き金を引いた。
その銃弾は背を貫き、構えていた剣を地面に落とすとそのまま倒れた。
「試合終了!」
そんなアナウンスと共に、銃を構えていた者はゴーグルを外した。倒れていた者は起き上がり、互いに握手を交わす。
観客にも手を振る彼らの服には、XEGAの社名が描かれていた。
次世代体感バトル〈マシェット!〉の公開発表会での出来事であった。
☆
練習試合の為に飛鳥高校とマシェット館。通称マシェ館で待ち合わせしていた。
「私が部長の氷室玲です」
「うわー! 本物の氷室さんだ!」
幼馴染みの鹿住和美ははしゃいでいた。
「こんにちは。今日はありがとうございます。僕が部長の河原信夫です。遅れてしまってすいません」
「いえいえ。さあ、準備はしておきましたので今日は存分に楽しみましょう」
「ありがとうごさいます。じゃあ、行こうか皆」
部長の後ろをついていく第1高校のメンバー達。
副部長の田中先輩に、マシェットメンテナンスの手塚先輩。和美と俺の4人だ。
左にある第2フィールドに着いた。
「今日はここを貸しきってます。早速始めていきたいと思いますが、順番は決まっていますか?」
今日のルールは事前に大将戦と知らされていた。
ただ、飛鳥高校の人数に合わせて3対3になるようにしているため、1回目は部長以外の田中先輩、和美、俺の3人が参加する。
「はい、問題ありません」
「分かりました。では私は向こうで準備がありますので失礼しますね」
氷室さんは相手コートへと去っていった。
「じゃあ、皆、頑張っていこうか」
「「おー!」」
☆
「っはー! やっぱ強えー」
先鋒の和美が1勝を取り、次戦だった俺は負けてしまった。
一勝一敗で次は田中先輩だ。
「加蓮、次、勝ってよ」
「加蓮って呼ばないで。しーちゃんって呼ぶわよ」
「……」
睨まれた部長は怯んで何も言えなかったみたいだ。
部長と田中先輩は幼馴染みだそうで、こう見えて仲が良いらしい。
「ねえ隼人」
和美が呼んだ。
「どうした?」
「田中さんの相手って」
「ああ、和美が城井さんで、俺が生実さんだったから間違いなく」
「氷室さん……だよね」
飛鳥高校マシェット同好会の長にして、JMU-20の元トッププレイヤー氷室玲。
あの事件から姿を見せていなかった氷室玲を追い続けて、田中先輩が得意の情報収集で発見した。
つまり、田中先輩が氷室玲と戦いたくてこの練習試合が組まれたと言ってもいい。
田中先輩がフィールドへと入っていく。
相手側には勿論、氷室玲の姿。
「よろしくお願いしますね田中加蓮さん」
「ええ。よろしくお願いします」
フィールドのカウントダウンが始まる。
赤信号が青に変わり、遂に試合が始まった。
===Battle!===
氷室玲のプレイスタイルはじわじわと相手を追い詰めていき窮地へ立たせる。
玲はゆっくりと近付いていく。
田中加蓮のプレイスタイルは相手が動くのを待つカウンタータイプ。
玲が自分のエリアに入るまでじっと待つ。
観戦している天城隼人やその他の面々にも緊張が走る。
近付いてくる玲の姿を見て、加蓮は下唇を噛んだ。
玲と加蓮の距離は互いの武器が届く範囲へとなった。
そこで玲の足が止まる。
異様な静寂が流れる。動けば負ける。そんな安っぽい状態ではない。死が迫り、始が待つ。
時は来た。手に持つ武器は互いに同じ剣型。玲が先に動いた。
小さな動きから生み出される左から右へと線を書く剣先は、加蓮の胸元に描かれる。
紙1枚分の隙でそれを避け、加蓮はその僅かな硬直時間を見逃さない。
加蓮の剣先は玲の体を下から上へと切り裂くように動く。
が、玲は体を横に反らし紙一重で躱す。
玲は口角を上げる。加蓮は眉を顰めた。だが、それは互いに見えない。
再び距離が開く。
その距離は互いの武器が届く範囲を少し超える。
……加蓮が詰める。待たない。待てば負ける。そんな気がしたのだ。
だがその動きはあくまでも冷静に。繊細に。優雅さを保ちながら。
大きくはかぶらない。小さく、細かく、玲の動きに似せた無駄のない斬撃を生み出す。
玲はその動きに反応する。よくあることだ。自分の動きが真似されることなど。
その対処は簡単。違う動きを見せればいい。加蓮の動きとは真逆。大きく動いて出た。
加蓮の斬撃は小さく、細かく、そして貧弱。
玲の大きめに振りかぶった斬撃に負け、手にあった武器が弾き飛ばされる。
玲は一気に加蓮に詰め寄る。
「終わり」
そうつぶやくと加蓮の首を切り裂く。が、空を斬る。
加蓮の首はそこにはなかった。
玲の視界は一瞬にして天井を映す。足払いをされた。
その隙に加蓮は飛ばされた武器を拾う。
玲は立ち上がろうとする。絶好のチャンスが訪れる。
加蓮は無防備な玲に切りかかる。勝利を確信した。
……氷室玲に無防備な状態などあり得ない。
大きく振りかぶり、隙だらけになっていた加蓮の胴体に玲の武器が刺さる。
惰性で加蓮のとどめになるはずだった斬撃が当たるが、試合終了。そこに当たり判定は存在しない。
空を斬る音だけが響いた。
===finish!===
飛鳥高校のメンバーに挨拶をして帰路に着いていた。
部長と田中先輩は俺達より少し離れた所を歩いていた。
「やっぱり負けてショックなのかな?」
和美が口を開く。
「負けて、というよりも多分、あれで本気じゃないって分かって気落ちしてるんだと思うよ」
そう答えたのは手塚先輩だ。
「氷室さん本気じゃなかったんですか?」
「うん。見て分からなかった? 氷室さんが身に着けていたマシェット装備一式。あれあのマシェ館のレンタル品だよ。碌にプログラムも組まれていないのにあそこまで出来るなんて、正直凄い。それに氷室さんの動きはあんなものじゃなかったはずだしね」
「やっぱり氷室さんすごーい!」
「ははは。鹿住さんみたいな人がいて氷室さん嬉しいだろうね」
「どうしてですか?」
「だって……ね。例の事があるし、あれで彼女相当傷ついていたから」
「……」
和美は黙り込んでしまう。
マシェットをやっている、もしくはやっていた人なら誰しも1度は聞く話。
日本トッププレイヤー氷室玲の不正行為。
詳しくは俺も知らないが色んな噂があって、今は勝つ為に本人が行ったということで落ち着いている。
「ま、多分氷室さんは諦めてないだろうし、またマシェット界に戻ってくると思うよ。その時に本気の氷室さんが観れたらいいね」
「……前から気になってたんですが、手塚先輩って氷室さんと面識あるんですか?」
「……どうして?」
「何か、やたら詳しいというかなんというか」
「……僕はただのファンだよ。鹿住さんと同じでね」
そう言って何かを隠すように終わらせた手塚先輩と和美の会話を聞きながら、俺は凄くどうでもいい事を考えていた。
対戦相手の生実さん……だったかな。あの人めっちゃ可愛かった。