天国にて 1
日本には、昔からご先祖様が帰ってくる風習がある。
それがお盆というものだ。8月にもなるとたくさんの霊たちがそわそわし始めている。
自分の孫が生まれたとか、結婚したとか、そんな話をし始める霊がほとんどの中、深紅ずきんちゃんは頭を抱えていた。
「ねぇ、お兄ちゃん。私はどこに帰ればいいのかな?お父さんもお母さんもいるのかな?」
「うーん……」
何度聞いてもお兄ちゃんからは、この返事しか帰ってこない。
私にはおばあちゃんとおおかみさんがいるけれど、お母さんとお父さんがいるのかいないのか、存在すら知らない。
ちゃんと返事してくれないお兄ちゃんに呆れた私は、天国で仲良くなったとあるおばあちゃんのところへ訊きに行った。
本当は天国に行くには色々な手続きがあるんだけど、お盆が近いからその手続きはなかった。
「ねぇねぇ、おばあちゃんはお盆におうちに帰るの?」
「そうだねぇ、けどおばあちゃんはお盆には大事な用事があるんだよ」
「なんで?」
「おばあちゃんにはね、深紅ずきんちゃんと同じぐらいの男の子の孫がいるんだよ。その子はね、生まれたときから病気があって、今でもがんばって病気を治そうとしているんだよ」
ついてきたお兄ちゃんが、おばあちゃんと私の話にはいってきた。
「そのお孫さんに会いに行かれるんですか?」
おばあちゃんは首を横に振り、話を続けた。
「いいや、孫はもう持たない命なんだ。小児ガンらしくてね、余命も後わずかでね」
おばあちゃんの話を聞いてくうちに、その男の子はお盆が山場になるそうだ。
「それじゃぁ・・・」
「あぁ、閻魔様に頼んで死神でなくあたしに行かせてほしいとたのんだのさ」
道理で私にお仕事が回ってこないと思った。
私も死神になって長いから、お仕事が回ってきそうなときは自分でもわかるのだ。
それなのにこないということは、誰かが変わりに連れてくるということになる。
「おばあちゃんは、悲しくないの?」
「そうだねぇ・・・、悲しいかもしれないね。孫の死を目の前にした息子と嫁さんの顔を見るのが辛いねぇ」
その感覚は私には分からない。どんな感覚かをお兄ちゃんに訊こうと、お兄ちゃんの方を向く。
「……」
首を振られた。
お兄ちゃんにわからないのなら、お兄ちゃんのお母さんとお父さんに訊くしかない。
「おばあちゃん、私たちに何か手伝えることはない?」
私は両手に拳を作り、おばあちゃんの事を手伝おうとやる気を見せたけど、おばあちゃんは首を振って言った。
「深紅ずきんちゃんたちには悪いけど、孫の事はあたしが見届けるんだ。結果がわかるまで余計な事はせんでくれないかい?」
「でもーーむぐっ!?」
断られても食いさがる私は、黙って聞いていたお兄ちゃんに口を塞がれた。
どうしても手伝いたい!とおばあちゃんに伝えたいのに、お兄ちゃんがそれを許してくれない。文句を言おうにも、お兄ちゃんに口を塞がれているため、声すら出せない。
抗議の目線をお兄ちゃんに向けたけど、お兄ちゃんはどこ吹く風か、全く意に介さない。
「おばあちゃんがそう仰られるのなら、俺たちは何もしません。それでは」
「むぐっ!?むぐもがーっ!」
必死に声を上げるけど、おばあちゃんは「仲がいいわねぇ」と笑ってるし、お兄ちゃんの手はビクともしない。
そして、私はお兄ちゃんに引きずられるまま、おばあちゃんと別れたのだった。