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ヒーロー推参!(仮)  作者: 中野 龍之介
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第一話.

 遡ること二〇年前、テレビ画面に食い入る一人の少年がいた。


「キサマ等の悪事は全てお見通しだ! たとえ天が許せど、この天導剣士サムライオンが許しはしない! 覚悟しろ、悪の組織「アーク・ダイカーン」ども!」

「グウゥ……、またしても我らの邪魔立てをするか、サムライオンめ! 者ども、今日こそヤツの息の根を止めるのだ、かかれ~!」

ヒーローを取り囲む悪の組織の戦闘員たち。その数、およそ一対一〇〇〇。

「たとえ一人であろうとも、我は決して屈しはしない、喰らえ、我が必殺閃光の雷神剣!」

ヒーロー・サムライオンは、画面の中で眩い光を身にまとい、自分を覆い尽くすほどの数の敵を相手に、縦横無尽の攻撃を繰り出す。

「ギィヤァァァァ! たかが一人相手にナゼ勝てぬぅ!」

「この世に悪が栄えた験し無し、悪の匂いを嗅ぎ付けて、この世の果てまで胸の獅子が追いかける、我の名は天道剣士サムライオン!」

「おのれ、サムライオンめ、必ずやこの怨み果たしてくれようぞぉ、覚えておけ~!」

 セリフと共に敵は爆発し、画面の中のヒーローが勝利した。

「これにて一件爆着!」

 決めポーズをとるヒーロー、そして画面に向かい、キラキラと瞳を輝かせる少年。

「サムライオン、スッッッッゲェェェェェ! カッコ良過ぎだろ、俺、将来、絶対にサムライオンみたいなヒーローになる!」

「英雄ー、ご飯できたから準備しなさーい」

 少年・英雄は右手に拳を握り、高々と掲げ、ヒーローになると強く決意した。



───現在。

質問・アナタがヒーローに変身できるとしたら、なりたいですか? なりたくないですか?

一〇代・男性「いや~、憧れはしますけど、あんなのテレビの中だけの話じゃないですか。僕はなりたくないですね」

二〇代・男性「変身できたらなぁ……と思うことはありますね。なれるならなりたいです」

三〇代・男性「嫁・子供がいなければなってるかもしれませんね」

一〇代・女性「プリキュアとかセーラームーンに憧れた時期はありましたけどね~」

二〇代・女性「うーん、生活が安定しているのであればいいんじゃないですか?」

三〇代・女性「私は考えたことも無いですけど、夢があるっていいことじゃないですか?」

 テレビでは、実に平和そうな繁華街での街頭インタビューが流されている。

「わぁかったから、年末に帰えるから。ヒーローも忙しいんだってば、はい、じゃあ切るよ~、あ、親父によろしく言っておいて、そんじゃ」

 肩と耳に挟んでいた携帯を手にし、電話を切ると深い溜息を吐く英雄。


 数年前、ある企業が「変身ベルト」を開発することに成功。

 それまで、御当地ヒーローなどが盛んだった日本は、誰もが子供の頃に憧れたヒーローそのものになることができるようになっていた。

 これにより、万引き、引ったくりなどを始めとする犯罪を解決する「にわかヒーロー」たちが増加、全国でヒーローを名乗る人口が爆発的に急増し、国も自警的なヒーローが増えたということで、治安向上のためにヒーローを職業として認定するまでになっていた。これは、そんな世界のお話。


 次の瞬間、英雄の左手首にはめているブレスレットから、けたたましい音と共に無機質な電子ガイダンスが流れてくる。

『南三丁目大通リ交差点付近ニテ交通事故発生、付近ニイルヒーローハ直チニ急行シテクダサイ』

「すぐ近くだな…、とりあえず向かうか」

 外に出て、自転車に跨り、現場へと向かう。その途中、「チェーンジ、サムライオン!」の掛け声と共に英雄の体は光に包まれ、幼い頃に憧れた「天導剣士サムライオン」へと変身した。ただ、移動手段は物語に出てくるような高貴な馬やオリジナルの大型バイクなどではなく、自転車である。


 五分ほどで到着すると、ガードレールへ見事に乗り上げている車が一台。現場では既に警察が検証を行っていた。

「すみません、二丁目で登録している天導剣士サムライオンなんですが、何かお手伝いできることはありますか」

 近くにいる老警官に尋ねる英雄ことサムライオン。

「あー、じゃあ、野次馬連中が近いと作業の邪魔になるから、その辺の交通整理でもしておいてよ」


 一時間後、ある程度、周辺の整備も終わり、警察もぼちぼち撤収作業に入り始めた。

「おう、そこのヒーローの兄ちゃん、そろそろ終わりだから、もう帰ってもらっていいぞ」

「はい、じゃあ、この伝票にサインをお願いします」

 英雄はそう言うと、警官に「ヒーロー作業確認書」と書かれた書類を渡し、署名をもらう。


「今日も平和な一日ですなぁ。帰りますか」

 英雄の背後から突然、声がした。振り向くと、ヒーロー仲間の流星忍者スピードスターこと、小早川慎一が立っていた。

「ああ、小早川さん、いらしていたんですな」

「ええ。しかし、今回もいつも通りの仕事内容でしたね」

 変身を解除し、歩き出す二人。冬場の空気のせいか、夕焼けがいやに眩い。

「まぁ、今の日本にそんな大事件なんて起きはしないですからね」

 しばらく無言で歩く二人。少しだけ吹く風が心地良いと感じた瞬間、慎一が口を開いた。

「そういえば、隣町の氷結戦士アイス・バーンこと北条くんが、子供の風船を取るために登った木から転げ落ちて大怪我をしたそうですよ」

「え、大丈夫なんですか?」

「いや、木から落ちただけと思っていたんですが、運悪く、近くにあった動物の乗り物の上に落ちたらしく、肋骨三本にひびが入ったそうです」

「うわ痛そう……」

「医者からしばらく絶対安静にすることと、ヒーローを辞めることを言われたそうで、退院したら九州の実家に帰るそうですよ」

「そうなんですか……」

 またしばらく無言で歩く二人。


 駅前の定食屋に入る。水を飲みながら、慎一が再び口を開いた。

「最近ね、凄く思うんですよ。結局、僕らヒーローって一体、何なんでしょうね?」

 英雄はその問いに対し、無言で俯いた。

「科学が進歩して、憧れの変身ヒーローになれたはいいけど、この御時世、悪の秘密結社や世界征服を企むマッドサイエンティストなんて、実際にはいやしない。だから僕らの仕事といえば、喧嘩の仲裁に事故のあとの交通整理、万引き犯を捕まえたり、もっと酷いときは、町内のドブさらいなんてのもありましたね…。僕がなりたかったのは……、僕が夢見たヒーローという存在ものはこんなのじゃあない」


 慎一の言うことに反論したいところだが、それは英雄も同じ疑問を抱き、悩んでいた。


「所詮、現実なんてこんなもので、僕らの思い描く冒険譚やアクション活劇のような日常なんてのは、やはり夢でしかないんですよ、そうは思いませんか? 結局、この国は平和なんですよ」

 英雄は込み上げる感情をぐっと抑え込み、俯いたまま「そうだね」と、一言だけ呟いた。


 アパートに戻り、ポストを覗くと、国からの「ヒーロー助成金」の明細が届いていた。

 金額は「基本助成金」が五万円、それにプラスして解決した事件などのランクにより、それぞれの報酬額が加算されていく仕組みとなっている。今月の報酬額は基本助成金を合わせて一五七,〇〇〇円。

 普通にサラリーマンなどの仕事をしていた方が確実に安定した生活を送ることは間違いない。ヒーローも霞を食べて生きているわけではないのだ。それを思うと、溜息しか出てこない現実と、夢にまで見たヒーローになることができた幸福感の間で、釈然としない葛藤が生じるのである。

 明細を見る度に涙を堪え、缶ビールを片手に、昔憧れたヒーローのDVDを鑑賞する事で、少しの間だけ現実から逃避する。これが現在のささやかな楽しみでもあった。

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