夢
寝ている間、人間は生きていて、同時に死んでいるのだ。というようなことを、誰かが言っていたような気がする。
それを彼女に話してみると、彼女はくすくす笑いながらこう答えた。
「我思う、故に我あり。ある哲学者の言葉。それってつまり、考えていることができない睡眠時間中は、死んでいるのと同じ。けれど、身体は生命活動を維持し続けている。だから生きながら死んでいる。そう言いたいんじゃないかな」
私はよくわからなくて、首を傾げて見せる。彼女は嫌な顔もせず、一つの分かり易い例えを持ち出す。
「例えば、そう。沢山のチューブに繋がれて生き永らえている眠り姫は、本当に生きていると思う」
問い掛けは私に向けて。
わからない。そう率直に答えると、彼女は笑顔で頷いた。
「そう、分からない。判らない。それでいいの、生きているかどうかなんて。生きていること自体に、何か意味があるわけじゃないんだ」
読みかけの本を閉じて、彼女はソファから立ち上がる。
「私たちが、今まさに見ている景色だって、夢なのか現実なのか判らない。夢の中で見る夢のように、覚めてみるまで判らない」
ゆっくりと歩いてゆく先には、大きな鉄の扉が聳えている。その傍らにあるパネルに何事かを打ち込むと、重い扉はのんびりとスライドしていく。
その先に現れたのはだだっ広い空間と、沢山の円柱状のカプセル。床に対して垂直に立ち、半透明になったカプセルの中には人影が浮かんでいる。更に人影からは様々な管が伸び、カプセル底面に接していた。
「夢かどうか、なんて、覚めてみるまで判らない。だから、確かめたいなら手を貸すよ。私は、たった一つの冴えたやり方を知っているから」
差し出された拳銃は、目が覚めるように冷たかった。