進化と転職(四回目)
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
種族レベルが規定値に達しました。進化が可能です。
職業レベルが規定値に達しました。転職が可能です。
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
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我々は『古の廃都』の中央部を目指して歩みを薦めたものの、ある程度進んで所で足止めをくらっていた。理由は勿論、人面鳥のせいである。奥へ進むに連れて、奴らの襲撃は苛烈さを増していたのだ。
「チィッ!切りがねェぞ!?」
「ううっ!おかわりが入ったよぉ!」
「グオオオオオン!」
「「「「「ゲギョアァァァ!!!」」」」」
ジゴロウが愚痴を溢すと同時に、ルビーの警告が飛ぶ。いち早く反応したカルが威嚇の【咆哮】を上げるが、人面鳥は皆で挑めば怖くないと言わんばかりに怯むことなく、それどころかお返しとばかりにダミ声を張り上げた。
数はどんどん増えるし、それらを率いる人面鳥長同士が連携した波状攻撃等を仕掛けてくるのだから、対処仕切れる訳がない。我々は確実に追い詰められていた。
「星魔陣起動、聖盾!」
私も魔術を使って皆を守るので精一杯だ。とてもじゃないが反撃のタイミングなど見付けられない。完全に詰んでいると言っても過言では無いだろう。
「イザーム君、どうするね?」
「…このままではジリ貧だ。一度撤退しよう」
「撤退って、逃げ場はありませんよ!?」
アイリスの言う通り、我々は完全に包囲されているので逃げ場など無いように見える。しかし、諦めるのはまだ早い。幸い、敵は人面鳥という安全な空中から魔術を放つばかりの臆病者だけ。ならば…
「あの建物に入るぞ!」
「…なるほどね!」
簡単な話だ。建物の中に入ってしまえばいいのである。狭く、頭上という有利な位置を取らせない場所ならば勝機は十分にあるハズ!
「星魔陣起動、閃光!今だ!走れ!」
「「「「ギョギャアァァァァ!?」」」」
私は【神聖魔術】の進化元である【光魔術】の閃光を使い、人面鳥達の視界をまとめて遮る。激しい光で視界を塗り潰された人面鳥達は悲鳴を上げて攻撃の手を止める。その隙を突いて我々はダッシュで近場の天井が崩れていないビルに駆け込んだ。
「「「ギョアッ!ギョアッ!」」」
「「「ゲギャギャァァァ!」」」
「…ふぅ。やはり、ここまでは入ってこないようだな」
ビルの外では人面鳥がけたたましく鳴いている。その声は何となく悔しげに聞こえた。助かったようで何よりだ。
「逃げたはいいけどよォ、これからどうすんだ?このままじゃあ帰れねェぜ?」
「いや、私の【時空魔術】があるから帰るのは簡単だ。それよりも…」
私には【時空魔術】の拠点転移がある。これならパーティーの全員を連れてバーディパーチへ帰還するのはいつでも出来る。だが、私は今すぐ帰るべきか悩んでしまう。それは私の目の前にある地下通路のせいだった。
「大きな都市なら地下街があってもおかしくはない…よな?日本人的な感覚だと」
東京や大阪には、初めて訪れた人が高確率で迷子になるほどに広大な地下街が広がっている。それと同じだと面倒だが、ここが本当に街全体を血管の如く網羅しているとしたら、使えるかもしれない。何故なら、上手く利用することで人面鳥を無視して廃都の探索が可能になるかもしれないからだ!
「このままじゃ埒が開かねェし、いいと思うぜ」
「うむ」
「そうだね」
私の言いたい事を言わずとも理解した三人が頷く。人面鳥との戦いに辟易していたジゴロウ達からすれば、私の提案は渡りに船だったのだろう。
「…浮遊した大陸に来ても地下に行くことになっちゃいましたね」
「…だな」
アイリスは一応は賛成なのだろうが、それよりもまた地下に潜る事にどこかモヤモヤしているようだ。触手の動きにキレが無いから隠していてもお見通しである。
だが、今の私達では地上を進むのは無理である。ごり押すには人面鳥は強く、その数が多すぎるからだ。ここは我慢してもらわねばならないだろう。彼女には日頃の礼も兼ねて今度埋め合わせをせねばなるまい。
「何にせよ、ここまでで大分消耗してしまった。ここいらで一度休憩にしよう。幸いにして周囲に魔物の気配はないし、ここでいいだろう。…ルビー?」
地下の探索を目下の目標としたわけだが、体力と魔力の消耗具合やプレイ時間を鑑みるとここで休息をとるべきだと判断した。【虚無魔術】の魔力探知によって周辺を索敵した所、何も引っ掛からなかったのでここは安全だと思う。
いつの間にか人面鳥の声も聞こえなくなっているし、諦めたのだろう。だが、私の探知能力を越えた隠形の使い手もいるかもしれない。なので専門家であるルビーに確認を取ったのである。
「んーと…うん。何もいないハズだよ」
「そうか、ありがとう。最初の見張りは私とカルでやるから、皆はログアウトしてくれ」
「おう、任せるぜ」
「ありがとうございます」
「なるはやで戻るね!」
「すまんの、イザーム君」
四人は口々に礼を言いながらアバターをその場に残してログアウトしていった。私とカルは万が一の事態に備えて警戒する…というのは建前である。
「…フフフフフ。上手く皆を遠ざける事が出来たな」
「グルル?」
唐突に含み笑いをし始めた私を見て、カルが不思議そうな鳴き声を上げる。カルは大きくなっても何となくだがまだ幼さを残しているので、そんな仕草もとても愛らしい。
「いやいや、愛でるのは後回しだ!急がねば皆が帰ってきてしまう!」
私が何をしようとしているのか。それは勿論、進化と転職だ。その中でも私が一人でやりたいのは、進化前の肉体、否、骨体改造である。
これまで、私は二度の骨体改造を経ている。一度目は腕を増やし、二度目は骨そのものを増やした。両方の変化は仲間達を大いに驚かせることに成功している。
だが、まだ足りない。まだまだインパクトが足りないと思うのだ。人型から大きく外れるつもりは無いのだが、せっかく自由自在に骨やそれに近いオプションパーツを取り付けられる動く骸骨のアバターを持っているのだ。もっともっと独創的な改造を施すべきである。
「ふふふ!改造の構想は既に頭の中に入っている!あとはそれを形にしていくだけだ!」
「グオオン?」
私は今回の骨体改造に使用する予定のアイテムを床にズラリと並べる。そこにはこれまでの二回に渡る進化時に使ったアイテムの合計よりも多くのアイテムが並べてあった。それほどの大改造を行おうとしているのだ。気合いが入るのも当然だろう。
さあ、始めようじゃないか!三回目にして最大となる骨体改造を!
◆◇◆◇◆◇
「フフフフフ、ハハハハハ!アーッハッハッハッハ!」
改造完了!いやぁ、上手く行ったじゃないか!人間にはついていない器官を増やしたのだが、システムのアシストによって第三と第四の腕と同じく元からあったかのように自在に動く。
フフフ!コレを活かす為の能力も必要SPが4と少なめだったから取得済みだ!これで私の近距離から中距離の対応力は大きく上昇すること疑い無いハズだ!
「よしよし、次は進化だ」
さて、進化先の選択肢はあるのかな?
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混沌深淵龍骨大賢者
深淵系魔術を全て使え、身体に龍の一部が含まれ、更に【錬金術】によって様々な部位が追加された骸骨大賢者の新種。
通常の骸骨大賢者とは比較にならない強さを誇ると予想されるが、新種故に正確な戦闘力の測定は不可能。
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…混合が混沌に変わっとるやないかーい!これは…ひょっとして弄りすぎたのか?たしか、腕を増やした時は選択肢があったはずなのに…コレを追加したのが原因なんだろうなぁ。
しかも新種って…まあ、明らかに自然に産まれたり進化したりする形状ではない事は自覚しているからそこまで衝撃的じゃないかな?誰が見ても『誰かが手を加えた魔物』にしか見えないのだから。それが本人の仕業だとは思えないだろうけどな。
「しかし、強くなるのは事実。躊躇う必要など無い!」
驚きはしたが、私は迷う事なく進化を選択した。
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混沌深淵龍骨大賢者が選択されました。
混沌深淵龍骨大賢者へ進化を開始します。
進化により【不死の叡智】レベルが上昇しました。
進化により【深淵の住人】レベルが上昇しました。
進化により【深淵のオーラ】レベルが上昇しました。
称号、『ユニークモンスター』を獲得しました。
進化に伴い、蓬莱の杖、髑髏の仮面、月の羽衣が一段階成長しました。
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ぬうぅ。毎回あるな、この何とも言えない万能感。もう四回目だと言うのに全く慣れない。演出としていい感じだし、無くなってしまうのは何となく悲しいのだけども。我ながら面倒なユーザーである。
さて、それよりも確認すべき事がある。まずは久々の称号追加だ。それも『ユニークモンスター』と来た。一応、見ておくか。
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『ユニークモンスター』
世界に一体しかいない魔物達の証。
全ての能力が上昇する。
同じ種族が誕生するとこの称号は失われる。
獲得条件:世界でただ一体の魔物であること。
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ふむふむ、なるほどね。どうやら私もオンリーワンの種族に至ったようだ。ナンバーワンよりオンリーワンという望みが果たされたらしい。嬉しい限りである。
因みに、余り感動していないのは既にこの称号を持つ仲間がいるからだ。その仲間とは、もちろんアイリスである。
彼女は本来なら道具など作ったりしない岩触手系の魔物だ。なので最初の進化で劣職人触手になった時点でこの称号を得ていたのである。
この話を知ったのはごく最近だ。というのも、彼女は私がすでにこの『ユニークモンスター』だと思っていたかららしい。シオへのアドバイスとして低レベルの内に取っておくべき称号の話題が上がった際、当然のようにアイリスが「『ユニークモンスター』って言うのも強力ですよね?」と私が言われた時の衝撃は凄まじかったよ、うん。
それ以外は…どれもレベルが上がっただけか。試練の装備達も新たな装備効果が発現したりはしていない。だが、間違いなく強くはなっている。これらを装備からわざわざ外す日は来るのだろうか?
「よし、次は転職だ」
私は自分が転職可能な職業の一覧を開く。相変わらず、大量の候補が並んでいるな。確実に私の能力の数が豊富なのが原因である。まあ、それでも私が興味を抱けるものは数少ないのだがね。今回、目に止まったのはこの二種類だ。
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深淵賢者
邪悪な術の高みへ上りつつある魔術師。
深淵系の魔術に大補正。
混沌と死の使徒
『混沌と死の女神』イーファの教義を体現せし者。
深淵系の魔術と布教活動に補正。
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『深淵賢者』はこれまでと同じ深淵魔術師系の職業だろう。なので普通に考えれば間違いなくこれを選ぶのが正解だし、私が迷うのは珍しいと思われるだろう。
だが、悩んでしまう程度には『混沌と死の使者』も魅力的な職業なのである。説明文にある効果は大したことは無いし、後半に至っては意味不明だが、実はこの職業、神官系なのだ。
と言うことは、これを選ぶと私は私達に足りなかった【治癒術】を取得出来るようになる。ポーション以外に回復手段を持たない我々にとって、私が【治癒術】を使えるようになることは継戦能力の大幅な上昇に繋がるハズだ。これを無視することなど、私には到底出来なかった。
私の好みを優先するのなら、『深淵賢者』一択だろう。しかし、『混沌と死の使徒』ならばパーティー全体により貢献出来るようになる。自分の趣味とパーティーのどちらを選ぶのか。それを問われているようだ。
「そんなもの、答えは決まっているだろう」
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『混沌と死の使徒』が選択されました。
転職により【神力降ろし】スキルを獲得しました。
転職により【混沌と死の魔眼】スキルを獲得しました。
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…なんだか、思ってたのと違うんだが?
『死と混沌の使徒』に転職可能な条件
①イーファの加護を賜ること
②『混沌』を冠する種族名、又は称号を持つこと
③深淵系魔術を使える、又は????を一定時間装備し続けること
条件が厳しい激レア職業…ですが、転職出来そうな奴がもう一人いたりします。
次回は8月11日に投稿予定です。




