初外出(ログイン五回目)
準備は整った。一度拠点に戻った私は、一度ログアウトして昼食を摂ると、速攻で再ログイン。夜が来るまで研究資料を読んで時間を潰し、日の入りと共に出発。そして今、外へと繋がる場所へとやって来たのだ。
「よっ、ほっ、ふぬっ!」
私は瓦礫の間を縫うように上へと登る。アスレチックのような慣れない動きに苦労しながらもどうにか登りきった私は、こっそりと外の様子を確かめた。
「ここは、街の外なのか」
私は出口の先は始まりの街、ファースの端っこだと予測していたのだが、違ったらしい。マップによるとここは街外れの森、その中腹にある岩山のようだ。岩山の隙間から中に入ろうとする奇特なプレイヤーは流石にいなかったのだろう。居たなら下水道で見掛けているだろうからな。
下水道は臭いと敵の見た目さえ耐えられれば、中々にいい狩場だ。このまま知られないでいて欲しいものだな。
しかし妙だ。これじゃあ下水道は街の外まで繋がっている事になる。最初の街で下水道と地上部分が位置ズレを起こしているとは考え辛いので、下水道には何か秘密があるのかもしれない。個人的には鼠男が屯する南側が怪しいと思うのだが、今は置いておこう。
「おお、草木の薫りがする…!鼻は無いが」
このゲームを始めてから内部時間で約四日間、下水道の臭いしか嗅いでいなかった。そう考えると悲しくなって来た…動く骸骨じゃ無かったら目から汗が流れていたかもしれないな。
それに夜空も美しい。少し大きめで青白い満月と無数の星が散りばめられ、何時までも見上げていたい気持ちになる。しかし、そうも言ってられない。森が、私を待っているからだ!
「ほほぅ、【暗視】のお陰で視界には全く困らないな」
月明かりがあるとはいえ、本来ならば真っ暗なのだろうが、私には種族選択時に得た【暗視】があるので問題は無い。むしろ月明かりがあるだけ下水道よりもマシである。サクサク進んで行くとしよう。
何か獲物はいるかな…おっ、いたな。あれは…狼か?それが三頭で群れを成しているな。こちらには気付いていないようだ。この隙に【鑑定】してみよう。
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種族:狼 Lv3
職業:なし
能力:【牙】
【爪】
【嗅覚鋭敏】
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弱いな。私の初戦闘の相手である小鼠男よりも遥かに弱い。ここが初心者用のフィールドだとしても少し弱すぎやしないだろうか。
あ、狼達の能力に【嗅覚鋭敏】があるのにどうして下水道の臭いが染み付いた我々に気付かないのかには理由がある。没入型VR黎明期にキャラクターの体臭や環境によって染み付く臭いを実装した作品があって、プレイヤーの一部がその仕様へ猛烈に抗議したことがあったのだ。
抗議した者達の詳細は不明だが、体臭にコンプレックスを抱える人々が中心になっていたらしい。それに便乗した人権団体やらなんやらが事を大きくして、社会に浸透しつつあったVRデバイスを排斥とかの声も上がっていたな。
それからというもの、VR上の体臭とは『芳しいもの』か『環境が発する臭い』、または『具体的に言い表せないが生き物の臭いとしか言えないもの』にしかならないようになったそうな。ニュースサイトの受け売りだが。
そんなこんなで私から下水道の臭いはゲームの仕様によってしないのだ。私から漂う臭いがあるとすれば、それは干からびた骨のそれだろうな。狼は私の臭いに気付いているかもしれないが、単なる白骨死体だと判断しているのだろう。妙な所でゲーム的なのは助かるな。
「魔法陣展開。闇波」
「「「ギャン!?」」」
私は背後から魔術で攻撃する。やはりレベルの差は大きく、狼三頭はまとめて始末出来た。早速剥ぎ取ってみよう。
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狼の毛皮 品質:可 レア度:C
狼の生皮。加工することで良質な衣服や防寒具になる。
狼の牙 品質:可 レア度:C
狼の牙。肉を引き裂く鋭さを持つが、武器になるほど丈夫ではない。アクセサリーの素材として人気。
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経験値的には全く旨味が無いが、ドロップアイテムは有用そうだ。初心者は皮で防具を、牙で金策をするといいのか?生産系をやりたい駆け出しプレイヤーなら大喜びだろう。
やはり、初心者が求める様々な物が揃っているようだな。ならば私が求めていた薬草類もあるに違いない。もう少し先に進んでみようか。
◆◇◆◇◆◇
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ヤル草 品質:可 レア度:C
一般的な薬草。最も効果が低いが、それ故に安価。
このままでは効果が無く、調合ないし錬金術によって真価を発揮するだろう。
ドル草 品質:可 レア度:C
どこにでも生えている毒草。毒性は弱いが、繁殖力が強い。
狩猟用毒薬の原料の一つ。
マピ草 品質:可 レア度:C
どこにでも生えている毒草。毒性は弱いが、繁殖力が強い。
狩猟用毒薬の原料の一つ。
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【鑑定】しながら進むこと約二十分。狼との戦闘は面倒なだけなので避けつつ採取に励んだ結果がこれだ。これでようやく【錬金術】に手を出せるな。
ヤル草は回復薬、いわゆるポーションの材料だな。私には必要ないが【錬金術】の経験値稼ぎに使えるだろう。
他の二つは実用的だ。この二種類の毒草を【錬金術】によって合わせると、そこそこ強力な麻痺毒になるのだ。これは『錬金術の基礎』で知っている。加工方法もしっかり書いてあったので、確認しながら作ってみるとしよう。
それにしても、プレイヤーがいないな。私としてが願ったり叶ったりなのだが。やはり夜の狩りは避けるのだろうか。【暗視】がなければ危険なのは確かだからな。
おや?何か光って見えるな。誰かいるのだろうか?様子を見に行ってみよう。
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種族:鬼火 Lv5
職業:なし
能力:【物理耐性】
【無魔術】
【状態異常無効】
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人がいるかもしれない。そんなことを考えていた時期が私にもありました。魔物じゃん。しかも不死系。見た目は完全に人魂だ。
こんなもんが出るなら夜は人気が出ませんわ。思わず似非関西弁が出てしまったが、真っ暗な中に人魂が浮いてるのはドキッとする。蛞蝓の塊とは別種の怖さがあるな。
しかも【物理耐性】って。前衛職が涙目になるぞ。地味に狼よりもレベルが高いし。これも不人気な原因の一つかもな。ってこっちに来た。よし、なんだかんだで使ってなかった魔術を試してみよう。
「魔法陣起動、魔力剣…ふっ!」
【無魔術】の一つ、魔力剣。発動すると杖の先から魔力でできた、術者以外には視認困難な透明の刃が出現する術だ。
私は鼠男よりも遥かに遅い鬼火に魔力剣を振り下ろす。魔力の刃は何の抵抗もなく鬼火を切り裂いて、そのまま消滅させた。
――――――――――
戦闘に勝利しました。
【杖】レベルが上昇しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【無魔術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
新たにの双魔陣と遠隔設置を習得しました。
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お、能力レベルが上がったか。それに【魔法陣】の新しい技能はすぐに確かめねばなるまい。
双魔陣は魔法陣を同時に二つ展開出来るようになる技能か。消費魔力もそれ相応に多くなるが、瞬間火力が純粋に倍化するのは魅力的だな。【奇襲】も絡めればよりグッドだ。
遠隔設置は私の視界が届く範囲ならばどこにでも魔法陣を展開出来るようになる技能だ。これまでは設置可能範囲に制限があったのだが、それが取り払われたようだ。ただし、当然無条件ではない。距離が離れると消費魔力は加速度的に増加し、さらに失敗することすらあるらしい。
デメリットの緩和方法は能力のレベルを上げることのみか。上等だ。どうせ威力の底上げのために普段から使っているのだから、自然と上がっていくだろう。
あと、鬼火のドロップアイテムは魔石だった。あって困るものでもないし、ちょこちょこ狩っておこうか。
「GRAAAAAAA!」
「!?」
私が上機嫌になっていた時だった。森の奥から獣の咆哮が聞こえてきたのは。私は思わず身構えたが、不意討ちを受けた訳ではないらしい。
どうする?行くべきか?鼠男VS大蛞蝓のようにいいとこ取りが出来るかもしれない。いやいや、欲をかくな。身を滅ぼすぞ。
しかし、ここには暫く世話になるのだ。あんな恐ろしい獣がいるのなら、どんな相手なのかを確かめておく必要があるだろう。倒せそうなら、倒す。無理そうなら、逃げる。いざというときは下僕を盾にする。よし、これで行こう。
ガツガツガツガツ…
雄叫びの上がった場所には、一頭の熊がいた。いや、訂正しよう。あれは羆だ。
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種族:羆 Lv9
職業:なし
能力:【牙】
【爪】
【怪力】
【追跡】
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見た感想はデカイ。それに尽きる。子供の頃、動物園で見たのと同じだな。
奴は今、鹿と思われる獣を一心不乱に貪っている。あ、何故思われるのかって?だって頭が無いから判断出来ないのだよ!さっきの雄叫びは狩りに成功した喜びの叫びだったのか。
さて、どうしようか。レベルの上では相手は格上。物理攻撃一発で私は昇天し、下水道行きだろう。…『昇天して下水道』って自分で言ったがかなりのパワーワードだな。
しかし、食事中の今なら確実に不意討ちが出来る。このチャンスを逃す手は無いだろう!
「罠設置、双魔陣展開…闇槍!」
「GAAA!?」
不意討ち成功!早速使った双魔陣によって放たれた二本の闇槍が同時に突き刺さる。体力の八割を削り取る大ダメージだ。これは『下剋上』の称号のお陰でもありそうだな。
「GRAAAAAAA!」
怒り狂った羆は真っ直ぐに突っ込んで来た。所詮は獣、予想通りだ。
「GA…!」
「石壁」
私が仕掛けた罠を踏んだことで発動した火槍が真下から直撃する。予想出来ない下からの攻撃に怯んだせいで勢いが殺がれた羆は、弱まった勢いのまま石壁に激突した。
石壁も崩れたものの、動きは完全に止まった上に頭をぶつけた衝撃で気絶している。これは畳み掛ける他にない!
「水槍、風槍、からの魔力盾!」
倒れた羆に魔術を二連続で叩き込みつつ、念には念を入れて魔力盾を彼奴の頭上に発動し、それでもって頭を地面に押さえ付ける。拘束系の魔術ってどこかに無いものかね?
擬似的な拘束方法だが、効果はあったらしいな。気絶から回復した羆だが、起き上がれずにもたついている。
「無駄な大声を控えるんだな…次は無いが。闇槍」
「Gaa…」
最後にもう一発闇槍を叩き込み、ようやく羆の体力バーは空になった。私の勝利である。
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戦闘に勝利しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
新たにの瞑想の武技を習得しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【土魔術】レベルが上昇しました。
【水魔術】レベルが上昇しました。
【火魔術】レベルが上昇しました。
【風魔術】レベルが上昇しました。
【闇魔術】レベルが上昇しました。
【無魔術】レベルが上昇しました。
【召喚術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
――――――――――
よしよし、いい感じだ。魔術系は使わなかった【付与術】と【呪術】以外は上がってくれたな。
それで武技とな?ええとヘルプによると…武器毎に定められた技ねぇ。んで、瞑想とはなんじゃいな?
杖を持ったまま動かずにいると魔力の回復速度が上昇する、か。戦闘中でもそれ以外でも使えるようだし、便利じゃないか。積極的に使っていこう。よし、剥ぎ取るとするか。
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羆の毛皮 品質:良 レア度:R
羆の生皮。加工すれば良質な防寒具や防具になるだろう。
羆の胆嚢 品質:良 レア度:R
羆の内臓の一つ。薬効があり、調合や錬金術の素材となる。
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ドロップアイテムは二つもあるのか。体格が大きかったからか?それとも格上に勝ったご褒美?何でもいいか。
毛皮はともかく、胆嚢はいいな。これを使うレシピも本にのっていたから、レベルが上がり次第試してみよう。
最初はどうなるかと思ったが、アイテム的にも経験値的にも美味しい探索になったな。では、帰りますか。
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名前:イザーム
種族:動く骸骨 Lv8 up!
職業:見習い魔術師 Lv8 up!
称号:理の探求者
称号を得し者
異端なる者
下剋上
神算鬼謀
能力:残りSP 112
【杖】Lv10 up!
【魔力制御】 Lv10 up!
【土魔術】 Lv7 up!
【水魔術】 Lv7 up!
【火魔術】 Lv7 up!
【風魔術】 Lv7 up!
【闇魔術】 Lv9 up!
【無魔術】 Lv8 up!
【召喚術】 Lv7 up!
【付与術】 Lv4
【魔法陣】 Lv6 up!
【死霊魔術】 Lv4 up!
【呪術】 Lv3
【罠魔術】 Lv4 up!
【考古学】 Lv6
【言語学】 Lv4
【薬学】 Lv0
【錬金術】 Lv0
【鑑定】 Lv7
【暗視】 Lv-
【隠密】 Lv8
【忍び足】 Lv7
【奇襲】 Lv5
【状態異常無効】 Lv-
【光属性脆弱】 Lv7
【打撃脆弱】 Lv10
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