古代の移動塔
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読んで下さる皆様、本当にありがとうございます!
『古代の移動塔』の内部は、まさしく現代の高層ビルとしか言い様が無かった。『古代の移動塔』は山に埋った遺跡らしいな。
「うっ!埃っぽいです!」
ただし、枕詞に『廃墟と化した』が付くのだが。天井の蛍光灯らしきものは全て割れ、入り口から見える部屋の扉は蝶番が朽ちたのか、全て外れている。見るも無惨な光景だ。
「こういう文明が崩壊した後の世界観って、何て言ったっけ?」
「知らねェな。そういう世界を拳だけで戦うマンガは家にあるがよ」
「それって、北…」
「ポストアポカリプスだ」
何故か急激に強い不安を覚えた私は、ルビーの発言を遮るようにして質問に答えた。ポストアポカリプス、俗に言う『終末もの』だな。
この遺跡からも解るが、FSWの世界は少なくとも一度は現代のような、いやそれ以上の発展を遂げた文明があったらしい。何故滅びたのかまではわからんがね。
もしかするとアグナスレリム様が仰った月ヘノ妄執のせいで滅びた文明かもしれない。だが、あの服装で高層ビルを歩いていたとしたらかなりシュールだ。何となく、違うと思うし、そうであって欲しいものだ。
「それにしても、がらくたばかりじゃな」
源十郎は床に落ちていた原型を留めていない何らかの魔道具を拾ってため息を吐く。そうか、彼らにはそう見えるのか。
「そうでもないさ。そうだろう、アイリス?」
「はい。分解出来そうなものばかりです。そこから設計図を書けると思います。その上でパーツさえ集まれば再現可能です」
「そうじゃったのか?」
源十郎は素直に驚きを顕にする。アイリスには魔道具を扱うための【魔法陣】や【細工】がある。加えて【言語学】と【考古学】もあるので、古代の遺産を分析するのは可能だ。そして分析さえ出来れば彼女なら再現するだろう。
「それに、錆びだらけで修復も何も出来ないゴミだって我々にとってはお宝だ」
アイリスは【鍛冶】も持っているから金属を扱える。しかし、肝心要の金属を得る方法が少ないのが現状だ。
いや、全く無いわけではないし我々も可能な限り採取してきた。ジゴロウの実家や鳥の山では採掘ポイントを見つける度に皆で採取していたし、ジゴロウが暴れていた時と私と共に討伐部隊を返り討ちにした時にドロップした金属製の武器を溶かせば金属のインゴットへと早変わりだ。
だが、流石はネットゲームと言うべきか、はたまたファース近郊は鉱物資源が乏しいのか。これまで集めた量では全然足りないのが現実だ。なのでここの金属製品は状態の良し悪しを問わず、持ち帰るべきなのである。
「へぇ、そうなのかよ」
「じゃあボク達も集めるね!」
「ああ、頼む。何と無く使えそうだと思ったら私かアイリスに聞いてくれ。二人とも【鑑定】と【考古学】を持っているからな」
◆◇◆◇◆◇
――――――――――
【考古学】レベルが上昇しました。
【言語学】レベルが上昇しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
――――――――――
そうやって淡々と探索をし続けたことで、多くの屑鉄と魔道具を得られた。魔道具の中には明らかにパソコンっぽいものまであり、再現できれば色々と面白そうだ。
「キュー…キュー…」
しかし、赤ん坊には退屈だったらしい。カルはいつの間にか私の腕の中で眠ってしまっていた。それからはカルを起こさないよう、皆、なるべく音を立てないように物色を続けた。
そのお陰で隠れたりするのを面倒臭がるジゴロウが【忍び足】を獲得したのはお笑い草だ。
成果は上々、更に【考古学】、【言語学】、そして【鑑定】のレベルが随分と上がった。【言語学】に関しては全員が上がった位だ。多分、建物に点在する文字や落ちている物に書かれている文字が目に入ることで経験値が貯まったのだろう。
魔物プレイヤーをここに連れてくれば、すぐに会話出来るようになりそうだな。第二陣が着たところでわざわざ教えたりはしないが。
魔物同士の助け合い?馬鹿を言え。今、我々の前にある生きた装置を見れば、ここの事は絶対に秘匿したくなるだろうさ。
「空港擬きだな、ここは…」
『古代の移動塔』の内部を探索し、私なりに出した結論がそれだった。いや、擬きというのは正しくあるまい。何故なら、こちらの方が圧倒的に便利だからだ。
古代人にとって、移動﹦転移だったらしい。うん、転移だ。街から街へ転移によって行けたようだな。現在でも大金を支払えば一度行ったことのある街から街へ転移することが可能、と掲示板で読んだ事がある。当時の技術が残っているのだろうか?
それはともかく、輸送という概念が無くなった古代人が繁栄したことは想像に難くない。下手をすると、この王道の中世風世界から何百年か遡ったらSF小説もビックリな未来的世界だったのかもしれんな。
そしてここは転移の中心地だったらしい。A地点からB地点までへ直通では行けないが、ここを経由すれば行ける場所だったのだ。ハブの役割を果たしていた訳だな。
その中で何とまだ稼働中のものが残っていたのである。山に埋まっている関係で内部は真っ暗だが、このSF映画でよく出てくる円形のポータルはうっすらと光っていたのだ。
「『ようこそ、空の大陸へ!』、ね」
『ようこそ、空の大陸へ!』という古代文字がそのポータルの周囲を囲むように書かれてある。つまり、これが行き先というわけだ。
空の大陸…それはきっとアグナスレリム様が仰った『ヴェトゥス浮遊島』に違いない。むしろ、他にもあったら怖いわ!
何故これだけが都合よく動いているのかは、アイリスが有力な意見を出している。それは、これが当時の最新型で使われた痕跡がほとんど無いから、というものだ。
祝詞…いや、おそらくは我らのアジトのような鍵になっている言葉のフレーズを思い出す。『曾て仰ぎし大空は、今や我らの桃源郷』とは、空中へと大陸を浮かべた事を意味するのではないか?空に大陸を浮かべて喜んでいたのも束の間、何らかの災厄で文明が滅んでしまったのではないか?
そして空港的なここを使って空の大陸を観光するサービスを開始寸前で起きたので、ほぼ新品状態で放置されていた。だから最も状態が良く、未だに使えるという流れだ。推理としては筋が通っているのではないだろうか?
歴史の考察はこの辺にしよう。それよりも墓守は我々に相応しい報酬を渡していたわけだ。好奇心で地下墓地まで来た者にとって、この様々な場所へと旅立てる移動塔は魅力的だろうからな。まあ、行き先は一つしか無いのだが…
「さて、皆。我々には二つの選択肢がある」
「行くか帰るか、だろ?」
「いや、違う。今すぐ行くか、一度戻ってから行くか、だ」
行くのは確定だ。せっかく、お手軽に他の大陸へ行く手段が見つかったのだ。行かないという選択肢だけはあり得ないだろう。
問題はヴェトゥス浮遊島に行っている間、アジトが誰かに発見されてしまうかもしれないという事である。移動塔を物色している最中にルビーから聞いたのだが、どうやら攻略スレでついに下水道が見つかったという報告が上がっていたらしいのだ。
攻略組にとって美味しい魔物はもういない。あそこにいるのは鼠男の残党と大蛞蝓だけだからな。臭い上にキモくて経験値も美味しくない魔物しかいない場所だとすぐに判明するだろうし、そんな場所に攻略組が何度も通う可能性は低いだろう。
しかし、もうすぐやって来る第二陣は違う。きっと臭さとキモさを我慢して下水道に降りてくる者達が出てくる。そうなると我々のアジトの付近に近付く者が現れるはずだ。
扉のキーワード、『爆笑する大腿骨』を口にする奴はいないだろうが、使い難くなるのは否めない。それに何かのイベントで下水道に攻略組が入り、隠し扉の存在に気付く可能性はある。
ルビー曰く、彼女レベルの斥候職であれば扉の存在を発見することは可能らしい。敵を弱く見積もるのはヤられ役のする事であり、私は違う。見付かると思って行動した方が良さそうだ。
そして見付けた相手が紳士とは限らない。開け方がわからないなら壊してしまおう、という脳筋かもしれないからな。部屋にはぬす、いや、購入した本や前の持ち主のレポートがある。
それを見られれば、プレイヤーの間で深淵系魔術の存在が明かされてしまう。それはいただけない。可能な限り、隠蔽しておきたいのだ。独占しておきたい、とも言えるな。
ならば、いっそのこと全てのアイテムを持ち出してヴェトゥス浮遊島に新たな拠点を築くのもいい。後には退けなくなるが、それでこそ冒険というものだろう!
「戻っておきたいです。回復薬の補充もしたいですし」
「俺ァどっちでもいいぜ」
「儂は反対じゃ」
「何故?」
以外にも源十郎が反対意見を出してきた。理由を聞かねばなるまい。
「その掲示板通りならば、今は最も攻略組が多いのではないか?今戻るのはかなり危険じゃよ」
「確かに…」
なるほど、見落としていたか。今が最も攻略組が多いのは間違いないだろう。何かあるかもしれない、という心理は人を動かすものなのだ。新たな発見のためならば臭いを我慢出来る者達は一定数いるに違いない。
まあ、彼らの求める『何か』は私達が根こそぎ回収しているのだがね。あと残っているのは地下墓地の副葬品くらいだが、レベル60の墓守を敵に回す覚悟がいるぞ?
「それならボクがこっそりとってくるよ!」
「いやいや!一人では危険じゃ!」
「ならば私も行こう」
ルビーの隠形には届かないが、私も【隠密】と【忍び足】をレベル10で持っている。彼女の足を引っ張ることは無いだろう。
「ううむ、ならばよいか。ただし!」
源十郎はビシッ、と効果音が鳴りそうな勢いで私を指差す。
「孫に手を出したら許さ…げぅっ!?」
最後まで言い切る前に、ルビーの体当たりが源十郎の腹部を襲う。それによって源十郎は蹲ってしまった。あれ?誤射は無いはずなのだが…?
「お祖父ちゃんのバカな言葉は無視してね、皆」
「も、勿論だとも!」
いつものルビーは明るくて元気な娘だが、怒ったらこうなるのか!声から抑揚が無くなったから、かなり怖い!今、余計な事は言わないのが吉である!本能がそう告げているぞ!
「あ、アイリス!万能作業台があるなら、ここでの生産は可能だな?」
「は、はい!」
「ジゴロウ!暇なら外で鳥を倒して素材を集めておいてくれ!」
「わ、わかった」
「源十郎も素材集めに参加!ルビー、行くぞ!」
「おっけー」
私は抱えたままだったカルをアイリスに預けると、未だに声が平坦なままのルビーを連れて足早に外へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇
「あははははは!凄い凄い!」
「それは何よりだ」
早朝に蜥蜴人の村を出発し、ボスを二匹退治してから塔の内部を探索していたので、外は真っ暗であった。
なので地上を歩く手間を省きつつルビーの機嫌を治すため、私は彼女を頭に乗せた状態で空を飛んでいる。『月の羽衣』様々だな。
「けど、アイリスには内緒ね!きっと悲しむから!」
「む?」
何故そこでアイリスの名前が出るのだ?ひょっとして、彼女も空を飛んでみたかったのか?その経験を抜け駆けしているから内緒だ、と。
そう言うことなら黙っているとしよう。何、カルが大きくなればきっと乗せてくれるさ!
「それはそうと、向こうに着いたらやっておきたい事がある。だから少し時間が欲しいんだが、構わないか?」
「ボクはいいけど、何をするつもりなの?」
「ああ、墓守に戦力を提供しようと思ってな」
近い内に私達が発見し、踏破済みでもある『忘れられし地下墓地』は他のプレイヤーにも見付かるだろう。墓守が易々と負けるとは思わないが、彼は新大陸へ行くきっかけをくれたのだ。礼と【死霊魔術】のレベル上げを兼ねて作成した不死でもプレゼントしておこう。
「…イザームってさ、律儀だよね」
「そうか?割と普通だと思っていたが」
恩ある相手に礼を尽くす事に何の疑問があろうか。私はそう躾られたのだが、ルビーは違うのだろうか?
「ふーん。アイリスはこう言うところがいいのかなぁ?」
「ん?何の話だ?」
「いや、こっちの話だよ。それよりさ、第二陣で来るボクの友達の話をしていい?」
「ああ、構わないぞ」
もうすぐ仲間になる相手だ。話を聞いてその為人を知っておくのは大事だろう。ルビーや源十郎の態度から察するに悪い娘ではないのは確定だがな。
それから私は西の森にある下水道に続く抜け道に到着するまでの間、ルビーからその友人のエピソードをいくつも聞くのだった。
優先順位が
投稿>執筆>誤字修正
なので、誤字・脱字の報告をしていただいても修正出来ない日々が続いております。報告して下さった方々、申し訳ありません。
お盆休みに纏めて修正…出来ればいいなぁ…




