強敵(鼠)
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【光属性脆弱】スキルが緩和されました。
運営インフォメーションが2件届いています。
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ログインしました。六時間ほど寝たので頭スッキリだ。おお、あれでも経験値は一応稼げていたのか。これは重畳。塵も積もればなんとやら、って事だな。
それで運営からのインフォか。何々…イベント情報か。来週の日曜日に闘技大会とプレイヤーが生産した作品の品評会がある、と。ふむふむ、なるほど。
人間達は和気藹々としているなぁ。街中に入った時点でアウトなのでイベントはスルーせざるを得ないのが魔物プレイヤーの悲しい業である。まあ、私は悪役プレイをするつもりなので余り興味は無いのだが。
それよりも先ずは狩りだ。骸骨コンビはまだまだ使えるし昨日はあれで十分だったから、新たに連れていく必要はあるまい。では行くか。
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「昨日はこの辺りで引き返したんだったか」
道中で小鼠男を蹴散らしながら、下水道をひたすら東に進んでいた。現在は拠点から東に六ブロック地点。戦闘は数回あったが、特筆すべき事は無い。と言うか私のレベルも上がったせいでもう小鼠男では物足りなくなってきた。経験値も美味しくない。丁度いい敵はいないものか。
「む、待機」
下水道の横路から何かの影が出てきたので、私は下僕に待機を命じる。相手はこちらに気付いていない。シルエットからすると小鼠男なのだが、様子がおかしい。何故なら、その影は武器を持っているように見えるのだ。これは【鑑定】せねばなるまい。
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種族:鼠男 Lv??
職業:見習い戦士 Lv3
能力:【悪食】
【牙】
【剣】
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は?いやいや、なんだあいつは!思わず変な声が出そうになったわ。小がとれてる、ってことは説明文にもあった進化した個体、上位種って奴か。
進化とは特定の条件を満たしたあらゆる種族が一段階上の存在へと強化される事だ。進化した個体はあらゆる能力が上昇しており、進化前と比べると圧倒的に強くなっているらしい。つまるところ、あの鼠男は今まで私が相手にしてきた小鼠男とは別格の強さなのだ。
そして何よりも驚いたのは、奴が職業持ちである点だ。小鼠男はどいつもこいつも職業なんて持ってなかったのに!
【鑑定】でレベルが見えない事からも相手が格上なのは明らかだ。幸いにも気付かれていない。ではどうするか。
「魔術強化、罠魔法陣設置…」
やってやろうじゃないか。ここで退くのは面白くない。格上?上等だ。経験値にしてくれるわ!
「魔法陣起動…行くぞ!闇槍!」
「ヂュギャア!?」
私は【付与術】と【魔法陣】で出来る限りの強化を施した闇槍を鼠男に放つ。黒い槍は一直線に鼠男へと飛び、【奇襲】の効果もあって彼奴の体力を三割ほど削り取った。
しかし、逆に言えば【奇襲】ありきでも三割しか効いていないことになる。私の闇槍ならば【奇襲】無しでも小鼠男を確殺出来るので、こいつはその数倍の体力を持つ事になる。魔術への抵抗力も上がっているだろうから正確な数値は知らないが。
「ヂュガアアアアア!」
兎に角、仕留められなかったのは確かだ。不意討ちを食らった鼠男は怒り狂ったらしい。鼠とは思えない野太い咆哮を上げながらこっちに突っ込んで来る。ただし、そのくらいは想定内だ。
「石球、水球」
私は二つの魔術を連続して放つ。【魔法陣】レベルが上がっていれば同時に使えるのだが、無い物ねだりをしても仕方がないだろう。
私の魔術は鼠男目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。だが、流石は進化した個体と言うべきか。俊敏な動きで魔術を易々と躱した。
「掛かったな」
「ヂュ?」
私は作戦が上手く運んだ事にほくそ笑む。下位種族ですら魔術を避けようとしたのだ。奴に出来ないハズがない。だから私は【魔術制御】を用いて魔術の軌道を変えて無理に当てようとせず、彼奴の回避を促して罠へと誘導したのだ。ここが狭い下水道だから出来た作戦だな。
そして私が【罠魔術】によって設置したのは、【呪術】の『敏捷低下の呪い』だ。今、あの鼠男は自分の足が突然動かし難くなって動揺している。今がチャンスだ。
「火球、風球」
「ガガッ…!」
今度こそ、私は【魔術制御】を使用する。魔術が追尾しないと思い込んでいた鼠男は、足が遅くなっても躱せると高を括っていたらしい。突然グニャリと軌道を変えた火球が着弾して燃え上がり、追撃の風球によって身体が切り裂かれる。これで相手の体力は残り五割!
「闇槍!」
怯んでいる鼠男に、闇槍を叩き込む。流石は今の最大火力、一撃で体力の一割も削ってくれた。
「ヂィギャアアアア!」
「魔力球、チッ!」
やられたい放題の鼠男だが、回避を捨てたらしい。魔力球のダメージを食らいながら真っ直ぐこっちに来るではないか。攻撃は最大の防御ってか?この状況なら大正解だよ、畜生!
「行け!」
「カタカタ」
私の命令に従って、待機させていた下僕の片割れが彼奴の腰にタックルをかます。筋力の差が激しいのでほとんど足止めになっておらず、事実鼠男も鬱陶しそうにしながらも無視して歩を進めていた。
「馬鹿め。爆ぜろ!」
「ヂィィ!?」
轟音と共に私の下僕が爆発四散する。ここで私が使ったのは【死霊魔術】だ。【死霊魔術】は不死の使役・強化・創造が可能だが、その使役の命令に『自爆』がある。その対象は【召喚術】で喚び出した下僕でも有効だ。
そして『自爆』は下僕の残り体力と同じダメージを与え、尚且つ自爆したモノによって異なる追加効果を引き起こす事もある凶悪な命令だ。代わりに壁が一枚無くなるリスクを背負うのだからバランスは取れているのだろう。
そして、動く骸骨の追加効果は骨の飛散による斬撃・刺突ダメージと低確率の出血だ。出血は毒と同じくスリップダメージを与える状態異常で、毒との違いはスリップダメージは少ないがそのままにしておくとステータスにペナルティを受ける点だ。さて、どうなった?
「ヂュゥ、ヂュゥ…」
鼠男は身体中に骨が突き刺さった痛々しい姿になっているが、頭の上のマーカーによると出血はしていないようだ。確率なのだから仕方がない。
しかし、奴は息も絶え絶えの瀕死だ。このまま仕留めてや…ってヤバい!火事場の馬鹿力って奴か!?早いぞ!
「ヂュアアア!」
「守れ!」
「カタカ…」
「ヂュウウウウ!」
うおっ!強化した動く骸骨が一刀両断だと?何て威力だ!私だと即死するぞ!
「ヂュヂュヂュ!」
「ぐっ!」
これで私を守る壁は無くなった。絶体絶命のピンチって奴だ。そしてこの状況を打破する手段を私は持ち合わせていない。詰みだ。
「ヂュガアア!」
「ここまで、か」
鼠男は勝利を確信した雄叫びと共に剣を振り上げて一気に踏み込んでくる。次に私が目覚めるのは研究室のベッドの上だ。
「と、思っていたのか?」
「ガッ…?」
ふふふ、私を甘く見たようだな。下僕が自爆して奴の視界が遮られた時、最悪を想定して私の足元に新たな【罠魔術】を設置していたのだよ!込めた魔術はもちろん最大火力の闇槍である。
鼠男が踏み込んで罠を踏んだ瞬間、足下から黒い槍が飛び出して奴の胸を抉る。そこは急所だったようで、ただでさえミリ残りだった体力が一瞬で吹き飛んだ。私の勝利である。
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戦闘に勝利しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【土魔術】レベルが上昇しました。
新たに石槍と石壁の呪文を習得しました。
【水魔術】レベルが上昇しました。
新たに水槍と水壁の呪文を習得しました。
【火魔術】レベルが上昇しました。
新たに火槍と火壁の呪文を習得しました。
【風魔術】レベルが上昇しました。
新たに風槍と風壁の呪文を習得しました。
【闇魔術】レベルが上昇しました。
【無魔術】レベルが上昇しました。
新たに魔力剣と魔力盾の呪文を習得しました。
【召喚術】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
【隠密】レベルが上昇しました。
【忍び足】レベルが上昇しました。
【奇襲】レベルが上昇しました。
称号、『下剋上』を獲得しました。
称号、『神算鬼謀』を獲得しました。
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「フフフフ、ククククク、ハーッハッハッハ!」
やった、やってやったぞ!思わず悪役風三段笑いが出てしまう位の達成感だ!もし私の手札が一枚でも欠けていれば、今頃私は私室のベッドに死に戻りしていただろう。
いや、正直滅茶苦茶キツかった。けど、やってみるものだな。魔力もほぼ空で下僕もやられたからもう狩りは出来ない。だが、それ以上の収穫があったのは事実だ。能力が軒並み上がっただけでなく、多くの新たな呪文と二つも称号まで得られたのだからな。確認しておこう。
先ずは呪文だ。【闇魔術】だと闇槍と闇波だったが、四属性は◯槍と◯壁なのか。確かに、魔術師は防御手段として武具に頼れない。早めに防御魔術が使えるのは有難いな。
問題は【無魔術】だ。検証してみないとわからないが、これ、近接用魔術なんじゃないか?近付かれた時の非常手段って感じで。使う機会が来ない事を祈ろう。
次は称号に移ろう。各々の詳細は以下の通り。
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下剋上
格上に単独勝利した者に贈られる称号。
自分より高レベルの敵と戦闘時、あらゆる能力を強化。
獲得条件:Lv5以上の時、二倍以上のレベルの敵を単独撃破
神算鬼謀
非常に優れた策士へ贈られる称号。
罠のダメージ増加、罠が発見される確率低下、味方の能力微増加。
獲得条件:二倍以上のレベルの敵を罠を用いてノーダメージで単独撃破
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うーん、素晴らしい。素晴らしいんだが…下剋上はともかく神算鬼謀ってのはこっ恥ずかしいな。神算鬼謀とは前漢の張良や三國志の諸葛亮公明にこそ相応しい。悪役志望者としてはそれっぽくて嬉しいが、運が良かっただけの私には大袈裟過ぎる。
獲得条件がかなり厳しいから私のような小人が得られるとは想定していなかったのだろう。まあ、あって困るでもないし、有り難く頂戴しておこうか。それでは素材を剥ぎ取ってから帰るとしよう。
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【隠密】レベルが上昇しました。
【忍び足】レベルが上昇しました。
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あー怖かった。あの辺、鼠男が結構徘徊してるんだな。危な過ぎる。東の探索は一旦中止だ。少なくとも鼠男一体なら余裕で狩れるようになってからにするべきだな。
ん?鼠男からのドロップアイテムは無いのかって?…聞かないでくれ、悲しくなる。察してくれ。
気を取り直して、魔力が回復するまで何を読もうか。研究室の資料もいいが、そう言えば前の持ち主の日記が読みきれていなかったな。図書館についての下りで切り上げたのだ。あれを最後まで読んで見ようかね。
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はぁ…読むんじゃ無かった。この日記、進むに従って書き手が病んで行くのだ。読後感が最悪の類いである。
何でもこの人が【死霊魔術】などに傾倒した切っ掛けは、愛する家族を喪ったことらしい。それでどうにかして家族を蘇生させようとして、手を出したのが【死霊魔術】だった。
だが、【死霊魔術】では家族をゾンビにすることは出来ても復活とは程遠い。なのでより完璧な復活のために【呪術】などにも手を広げていったようだ。
しかし研究は遅々として進まず、募る苛立ちは徐々に彼を蝕んでいった。日記の中盤辺りでは完全に支離滅裂なことばかり書かれていて、正直気が滅入ってしまった。だが、最後が近付くに連れて何らかの進展があったらしい。そして日記の最後はこう締め括られている。
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□月△日
ようやくだ。ようやく私の夢が、家族の復活が叶う。死者の魂を現世に呼び出す術、【降霊術】の獲得方法がようやく判明したのだ。それは百人の清らかな乙女と聖女の血肉を冥界に捧げること。条件が判明した今、あとは百一人の女を集めるだけだ。
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【降霊術】ね。死者の魂を現世に呼び出す、と来たか。東北のイタコとかの領分だったっけ。
私の雰囲気にはバッチリな術なのだが、生憎と私はNPCを虐殺する積もりはない。プレイヤーと違ってリポップしない彼らを殺してしまうのは避けたいからな。違う方法を探そう。それでもし、この方法しか無いのなら…諦めるか。
いや、諦められるのか?その時になってみないと解らないな。信条と我欲で揺れるとは…つくづく私は主人公になれない性格をしていると実感させられるな!
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名前:イザーム
種族:動く骸骨 Lv6 up!
職業:見習い魔術師 Lv6 up!
称号:理の探求者
称号を得し者
異端なる者
下剋上 new!
神算鬼謀 new!
能力:残りSP 108
【杖】Lv6 up!
【魔力制御】 Lv6 up!
【土魔術】 Lv5 up!
【水魔術】 Lv5 up!
【火魔術】 Lv5 up!
【風魔術】 Lv5 up!
【闇魔術】 Lv6 up!
【無魔術】 Lv5 up!
【召喚術】 Lv5 up!
【付与術】 Lv3 up!
【魔法陣】 Lv3 up!
【死霊魔術】 Lv2 up!
【呪術】 Lv2 up!
【罠魔術】 Lv2 up!
【考古学】 Lv6
【言語学】 Lv4
【薬学】 Lv0
【錬金術】 Lv0
【鑑定】 Lv6 up!
【暗視】 Lv-
【隠密】 Lv7 up!
【忍び足】 Lv6 up!
【奇襲】 Lv4 up!
【状態異常無効】 Lv-
【光属性脆弱】 Lv7 down!
【打撃脆弱】 Lv10
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