雲上国から帰った後で
新章が始まります!
ログインしました。古代兵器『傲慢』の管理を任されたリヒテスブルク王国について、私達は早速情報収集することになった。幸いにも私達には三つも情報を仕入れるルートを持っていた。
一つ目は『コントラ商会』経由の商人ルートだ。情報を制する者が商売を制するというのはリアルでもゲームでも同じこと。コンラートも当然のように情報収集には動いており、その時に得られた情報を売ってくれると約束してくれた。
二つ目は『ノンフィクション』による取材だ。元々ジャーナリストである彼女らには調査のノウハウがあるし、一種の嗅覚において右に出る者はいない。リーダーであるミツヒ子は雲上国での取材を切り上げ、『傲慢』についての取材に全力を注ぐようだ。
そして三つ目の情報ルートは『Amazonas』の知人からのルートである。ママ達は私達と密通していたとあらぬ疑いを掛けられ、結果的に私達の下へ逃げて来たという経緯があった。それ故に今でも繋がりのある人類プレイヤーは存在していて、彼らから探れるだけ探ってみるという話だった。
「リュサンドロス君達用の住居も作るとして、やはり戦力の拡充は必須か」
まだ情報はそこまで集まっていないものの、既に不穏であると全てのルートからの情報で判明している。大前提としてリヒテスブルク王国は封印するつもりなどさらさらないyいうなのだ。
『コントラ商会』ルートからは王国からの注文がいきなり増えており、その注文内容は主に【錬金術】に使うアイテムらしい。そんなアイテムを急に大量に買って、一体何に使うつのりなのか?
『ノンフィクション』ルートだと王国は国内にいる学者を召集しているらしい。優秀な学者は各分野から召集しているようだが、古代文明関連の学者は根こそぎ、学者の弟子や助手に至るまでほぼ強制的に呼び出されたようだ。優秀な学者と古代文明の専門家を集めて何をするのか?
『Amazonas』ルートによれば一部のプレイヤーも法外な報酬を提示されて召集されているらしい。その選定基準は明かされていないが、『寛容』との戦いに参加したプレイヤーは全員招かれているようだ。それ以外の者達は古代文明の遺跡に入ったことがあると公言していたプレイヤー達だとか。
これら全てが封印するためである可能性も否めない。アイテムは厳重に封印するため、学者は封印の助言をもらうため、そして実際に戦闘経験があるプレイヤーは封印時に問題が起きた場合に備えるため。このように考えることも出来た。
「ただなぁ…国王の話を聞くと封印だとは思えないんだよなぁ…」
リヒテスブルク王国の王子は婚約者がいるのに女を品定めするようなボンクラだ。ではボンクラ王子の親父も同じくボンクラなのかと問われれば、決してそんなことはない。むしろ狡猾で油断ならない人物だという評判だ。国内では王家の権力を、国外では王国の影響力をルクスレシア大陸どころか他大陸へも拡大するべく積極的に動いているのである。
そんな野心家の国王が、封印するためだけにここまでの人数を召集するだろうか?暴走しないかを確かめるためという大義名分を掲げているが、それなら専門家に調査させるだけで良いはずだ。
こんなに大仰なことをしている時点で、ただでさえ燃えているだろう野心の炎を大きくしただけなのは考えるまでもない。古代兵器関連の掲示板を開いてみると、やはりリヒテスブルク王国は古代兵器を使うつもりなのだという意見の方が主流になっていた。
「ティンブリカ大陸のデータがあったら間違いなくここに来るだろう。なかったとしてもどこかを攻めるに違いない。おそらく真っ先に狙われるのはルクスレシア大陸にある王国の支配外地域か…となると、ビグダレイオなどは危険かもしれんな」
ビグダレイオはエイジ達と合流した豚頭鬼などが暮らしている都市国家だった。王国は砂漠にある都市などに興味はないかもしれないが、狙われる可能性はある。何とかして教える方法はないだろうか?
いずれにせよ、王国の動向については常に目を光らせておく必要があるだろう。すぐに起動させられるとは思えない。今は交流のある者達に注意喚起するべきか。
ガサガサ!
「おお、すまない。考えごとをしていた」
古代兵器についての対応について考えていると、水やりに手を抜くなとばかりに賢樹が枝で私の頭を叩く。私は平謝りしながらせっせと日課の水やりに集中した。
雲上国に赴いている間は他の仲間達が水やりを代わってくれたのだが、どうにもそれが気に入らなかったようなのだ。可愛いところがあるじゃないか。
「ヘイヘーイ、王様いるー?」
「しいたけか。どうした?」
水やりを続けていると、中庭を訪れたのはしいたけだった。緊急の要件という感じでもないので、水やりをしながら聞くとするか。
「お空から持って帰ったお土産ちょうだ〜い」
「何かと思えば土産の催促か。渡すから少し待っていろ…ほら、こんなところだ」
「うっひょ~!流石は王様!」
何かと思えば土産を寄越せとわざわざ言いにきたらしい。そんなことだろうと思っていたこともあり、私は即座に雲上国で入手したアイテムを取り出して彼女に手渡した。
雲上国産のアイテムはしいたけの知的好奇心を大いにくすぐったようで、狂喜乱舞しながら踊っている。しいたけの運動能力が低いせいでその踊りは何とも形容しがたい動きになっていた。
「あ、そうだ。王様、ちょっと欲しいモノがあるんだけど」
「何だと?お前に強請られると怖いんだが…」
雲上国の土産を渡したにも関わらず、しいたけは私に何かを求めている。しいたけが欲しがるモノは大体が突拍子もないモノということもあり、私は警戒せずにはいられなかった。
「ヘイヘイ、王様。こんなにプリチーなマッシュルームに向かってそんなこと言っちゃいけないんじゃぁないの?」
「トゲだらけの巨大キノコがプリチー…?」
「まあいいや。それで欲しいのは王様の首だよ。はい、ちょうだい」
「なっ…ああ、頭蓋骨が物理的に欲しいということか」
私の首と言われて謀反でも起こすのかと思いきや、どうやらしいたけは私の頭蓋骨を欲しがっているようだった。フェルフェニール様が言っていたが、私の頭蓋骨は素材として有用らしい。それを欲しているということのようだ。
断る理由もないので私は仮面を外してから大鎌で無造作に自分の首を切り落とす。【生への執念】によって体力がほぼない状態でスペアの頭部がくっついた。大慌てしたカルとは対象的に賢樹は慌てることはない。むしろ私の首が地面に落ちる前に枝でキャッチして私に渡してくれた。
私が差し出す前にぶん取るように頭蓋骨を奪ったしいたけは「ありがとう」と叫びながら走り去っていく。風というには遅い速度だが、その声はドップラー効果が働いている。苦笑しながら私が賢樹の水やりを終わらせると、賢樹はどこか満足げに枝葉を揺らしていた。
水やりを終えた私は宮殿の外に出てアイリスの工房へ向かう。その目的は『古代雲羊大帝の天上毛布』を使って私の外套を強化するためだった。
ステルギオス王からもらった古代雲羊大帝の毛で織られた最高の毛織物。その使い道をクランメンバーと話し合ったところ、一人を除いた全員が私の装備に使うべきということで同意したのである。
優れたアイテムを宝物庫の肥やしにするのは馬鹿馬鹿しく、誰かの装備として有効活用するべき。そして国王から国王への贈り物なのだから、私の装備とするべき。また、王である私の装備が豪華になればなるほど、私の権威も上がるだろう。話し合いの流れはこんな感じだった。
ちなみに、最後まで反対していたのは他でもない私自身だった。装備として活用することには賛成だったのだが、私個人の装備にするには気が引けてしまったのだ。遠慮せず受け取るにはアイテムが高価過ぎた。
しかしながら、我々のクランでは話し合いは多数決が基本である。その結果、最も利益を得るだろう私自身が多数決に敗れる形となったのだった。
「来たぞ、アイリス」
「お待ちしてました!」
「あら、久しぶりね」
工房に入ると、そこにはアイリスだけでなくママもいた。机の上には彼女の大弓が置かれているので、きっと武器についてアイリスに用事があったのだろう。雲上国に行っていたせいで待たせてしまったのなら申し訳ないことをした。
「久しぶりだな、ママ」
「聞いたわよ?素敵な織物を貰ったんですってね」
「耳が早いな。いや、アイリスから聞いたのか」
「察しが良すぎる男っていうのも嫌ねぇ」
「そんなことはないと思いますけど…」
状況から判断しただけなのに酷い言われようである。私は少し理不尽だと感じながらも、私は『古代雲羊大帝の天上毛布』をインベントリから取り出して二人に見せた。
「話に聞いてはいたけど、何もしてないのに浮くなんて不思議な布ねぇ」
「キレイな布です…これは腕が鳴りますね!」
そう言ってアイリスは複数のガラス瓶を取り出す。その中は色とりどりの薬品が詰まっているようだ。その中でも異彩を放つのは光を全て吸収しているように見える真っ黒な液体であった。
「何これ?ものすごく黒いけど…」
「ついさっきしいたけから届けられた試供品です!何でも特別なアイテムを使った強力な薬品なんですって。イザームの防具にも使えるはずって、さっきダッシュで渡しに来ました」
ああ、そういうことか。私の頭蓋骨を用いた薬品で私の装備を作ることになるらしい。私自身が素材になった気分を味わうことになるのだった。
次回は12月28日に投稿予定です。




