雲上での休息
我々による『3F』の調査であるが、簡単とは言い難かった。それなりに強い塩獣の上位種に加え、二段階進化した我々と同格の塩獣もいたからである。
奴らが単体で徘徊しているだけならば、袋叩きにしてしまえば問題はなかっただろう。しかし、実際は徒党を組んでいる上にそこそこ連係して迎え撃つのだ。
連係の質で言えば、パーティーを組んで戦うことに慣れている我々に比べれば稚拙であって付け入る隙はいくらでもある。しかしながら、連係されるということそのものがこちらに消耗を強いてくるのだ。
連係によって短時間で倒せない場合、どうしても魔力を余分に消費してしまう。結局、私達だけでは『3F』の全てどころか半分も探索することは叶わなかった。
「面白いですね、これ。解析すれば武器や防具に流用出来そうです」
ただ、全く成果がなかった訳ではない。『3F』は雑貨店ばかりで得られたのは古代に使われていたオモチャや小物だったのだが、その中にアイリスの興味をそそられるモノがいくつかあったのである。そのオモチャは以下の通り。
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押し込め!大容量収納箱 品質:劣 レア度:S
古代の技術で作り出された収納箱。
内容量は四百立方メートルであり、蓋の呼び出し機能を用いれば必要なアイテムだけを即座に取り出せる。
経年劣化によって蓋の機能が故障しており、求めるアイテムが出るかどうかわからない。
フロートキューブ 品質:劣 レア度:S
古代の技術で作り出されたオモチャ。
独立した二十七個の立方体が特殊な力場を形成して一つにまとまっている。
経年劣化により、力場の形成力が弱まっていている。
マイクロビオトープ 品質:劣 レア度:S
古代の技術で作り出されたインテリア。
生きた植物・動物を内部に取り込むことで、それらを栽培・飼育することが可能。
経年劣化によって脆くなっており、取り込んだ生物によって内側から破壊される可能性がある。
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どれもこれも経年劣化によって動作が不安定なものの、アイリス達が時間をかけて分析することになった。個人的に改良して欲しいのはマイクロビオトープである。この中にカルやリンを入れられれば、様々な場所に同行させられると思ったからだ。
ぶっちゃければ、某モンスターを球体に入れるゲームめいたことをしたいのである。従魔を遠くから召喚することは出来るが、やはり連れて歩きたいという思いがあるのだ。
幸いにもマイクロビオトープはバックヤードで大量に発見されたらしく、サンプルは十分だとアイリスは言っていた。互いのパーツを流用すれば、いくつかは新品同様の状態に出来るかもしれないとも。結構楽しみである。
「グオオン!」
「クルルル!」
そんなカルとリンだけを連れて、私は久々に大空を羽ばたいていた。深淵探索のためにはフェルフェニール様の口に入らねばならず、カルとリンはそれを嫌がる。そのせいで最近は一緒に飛べていなかったのだ。
ログイン直後やログイン直前など、時間があれば二頭ともなるべくコミュニケーションをとっていた。だが、二頭は龍だ。戦いたいという欲求は強いらしく、その発散を兼ねて今日は空へと舞い上がったのである。
「空を飛べて嬉しいか?」
「グオオオオッ!」
「クルルルルゥ!」
「ははは。それは良かった」
カルとリンは空を思う存分飛べて上機嫌であった。ただ、今日はテンションが上がりすぎてしまったらしい。勢いのままにティンブリカ大陸を覆う黒雲へと突っ込んだのだ。
黒雲の中は暗く、それでいて冷たかった。黒雲のせいで視界は全く通らず、私は必死にカルの首にしがみつくことしか出来なかった。
「プハッ!?ここは…雲の上か」
黒雲の中にいた時間は随分長く感じたものの、雲の厚さには限界がある。しばらく耐えた後、私達は黒雲を貫いてその上にまでやって来た。
雲の上ということもあり、周囲を見回せば青一色なのに下には黒雲が広がっている。頭上にはちらほらと白い雲があるので、眼下の黒雲がティンブリカ大陸特有の影響で黒く染まっているのだと思われた。
「楽しかったか?」
「グオン!」
「クルゥ!」
正直に言って私はとても怖かった。だが濡れた鱗を輝かせながら楽しげに鳴くカルとリンを見ていたら怒る気にもならない。むしろ、私が慣れるように頑張るべきかもしれないなぁ。
それはさておき、私達は空中散歩を開始した。そう言えば大陸を覆う雲を貫いてその上をゆっくりと飛んだことはなかった気がする。せっかく飛べるカルとリンがいるのに、もったいないことをした。晴れ晴れとしていて、こんなに気持ちが良いのに…
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イザームは隠しエリア『黒雲上の常晴原』を発見した。
発見報酬として10SPが授与されます。
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…おっと。そう来るか。ここは名前がついた場所だったらしい。これは予想外だ。気分転換が思わぬ発見に繋がった。これは運が良いと言わざるを得ない。
隠しエリアということでふと下を見ると、この場所で暮らす魔物達がいることに気付いた。だがそれは空中のフィールドらしく飛んでいる魔物ばかりではない。黒雲には植物っぽいモノが生えているし、黒雲の上を元気に走っている個体までいた。
「クルル?」
「素材は欲しいし、久々にやるか」
「グオオオオッ!」
どうするのと目で訴えるリンに戦おうと言った瞬間、カルは咆哮を挙げながら突撃した。おいおい、どれを狙うとかそれを【鑑定】して様子を窺うとか静かに不意打ちするとか、色々と考えていたのがパーじゃないか!
ただ、突撃するカルにリンは呆れるどころか追従しつつ魔術を放つ準備をしている。こっちも戦う気満々であるようだ。
「キギィッ!?」
「キュァァ!?」
カルが突撃したのは、真下にいた兎…だと思われる魔物であった。どうして自信がないのかと言えば、その動きがどう見ても普通ではなかったからだ。
全体的なシルエットは兎にそっくりだ。だが二本の長い耳を水平に広げ、後ろ足の裏から空気を噴射してジェット機のように飛ぶ兎を兎と呼んで良いのだろうか?謎である。
「グオオッ!?」
「いやいや、そりゃそうなるだろうよ」
逃げる二羽の兎の片方に飛び付いたカルだったが、勢いのままに黒雲の中に突っ込んでしまう。地面ではないのだから当たり前である。いつものやり方で突っ込んだカルが悪いのだ。
黒雲にカルが突っ込む直前に背中から飛び降りた私は、魔術によって逃げる一羽を捕まえようとする。だが、高い機動力によってスルスルと回避されてしまった。とんでもない速度と機動力だ。敏捷のステータスはルビーに並ぶかそれ以上かもしれない。
「クルッ!」
「キュゥゥ…」
しかしながら、ここに残っているのは私だけではないことが兎の生死を分けた。私の魔術に追われている兎に、リンの尻尾を回避する余裕はなかったらしい。リンの尻尾の鋭い先端が、兎の喉元をガッツリと貫いた。
突き刺さったことで兎がビクンと痙攣したかと思えば、見る見るうちに兎は萎んでいく。黒雲の中から飛び出したカルの口にもまた、萎んで縄のようになった兎を咥えられていた。どういうことだろうか?不思議そうに首をひねるカルの口から兎の亡骸を受け取った私は、剥ぎ取って得られた毛皮に【鑑定】を使って疑問の答えを得ようとした。
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雲原兎の浮毛皮 品質:良 レア度:S
雲の上で暮らす雲兎、その中でも毛の色が灰色の個体の毛皮。
毛は撥水性が高く、皮は浮遊する性質を持つ。
様々な加工品の素材となるだろう。
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どうやら、雲の上という環境で生きることに特化した魔物であるらしい。得られた毛皮は驚くことに掌の上で少し浮いている。ゆっくりと手を引くと毛皮はその場で滞空しているのだ。
とても面白いアイテムである。他の魔物からも色々と得られそうだ。私達は久々の空を堪能しつつ、魔物を狩ってアイテムを集めるのだった。
次回は5月30日に投稿予定です。




