巨槍の素材収集
ログインしました。マックによって偶然発見されたフロアガイドのお陰で、私達は『侵塩の結晶窟』攻略の目処を立てることが出来た。
フロアガイドによれば、この遺跡は十階建てだったらしい。それに加えて地下に駐車場があるとのこと。古代には車が走っていたようだ。
ただし、マックが発見したフロアガイドには『8F』と記されていた。気になったので私達が探索した一階上へ戻って壁を徹底的に調べたところ、何とか見付けたフロアガイドには『9F』とあった。
どうやら最上階は海面に出ている部分らしい。フロアガイドによればここは催場…物産展などを行うスペースだったようだ。それ故にアイテムは望み薄と言え、落胆することはなかった。
それよりもフロアガイドが見付かった最大の利点は、準備するべき大体の物資の量を推定させられたことだろう。回復に加え、攻撃にも中和剤を使うのだから下へ降りた後に『足りませんでした』では困るのだ。
ただし、目処が立ったからと言ってすぐに行くことは出来ない。安全かつ確実に攻略するには大量の中和剤が必要となるからだ。また、下の階へ降りればより強力な塩獣が出現する可能性は高い。それに備えてより高品質な中和剤を用意する必要がある。攻略はしいたけ達が作製に成功してからになるだろう。
「しかしなぁ…海巨人がもう来るとは思わなかった。深淵の探索は一旦中断だな」
今日ログインした私が真っ先に見ることになったのは、アンから届いたメッセージであった。それは海巨人の来訪の日時が決まったという内容で、何と数日後にはここを訪れると言うのだ。
保守的な性格だと聞いていたのに、随分と腰が軽いらしい。となれば歓迎するための準備を急ピッチで進めなければならない。深淵の探索よりも先に、贈り物として用意する槍の素材をかき集める必要が出てきたのだ。
海巨人へ贈る槍は我々の持てる技術を結集させて作るのだが、そのためには大量の素材が必要となる。魔物だけでなく鉱石なども必要なのだが、幸いにも魔物由来の素材に関しては問題ないらしい。主に使うのは『生体武器研究所』の者達で、彼女らが十分だと言うのだからそうなのだろう。
問題は金属素材の方で、これは圧倒的に足りないらしい。仕方がないので私達は地下道を経由して『槍岩の福鉱山』へ向かい、鉱夫としてひたすら採掘ポイント巡りを開始した。ちなみに今日のパーティーメンバーはジゴロウ、エイジ、ルビー、そしてシオの四人である。
「おっ、あったぞ。じゃあ早速…」
「おう、兄弟ィ。そいつがマキシマの野郎からもらった試作品ってヤツかァ?」
「正確には預かった、な」
採掘ポイント巡りに先立って、私はマキシマからとあるアイテムを預かった。それがこの『試作型採掘用ドリル』である。私達は今まで普通にツルハシでトンテンカンと叩いていたのだが、このドリルはツルハシの代わりに使えるという触れ込みだ。
動かすために魔石がそれなりの量が必要になる上、ドリル部分は消耗品である程度使うと壊れてしまうらしい。ただ、これで採掘すると得られるアイテムの量と質が上がるのだと言う。壊れるまで使ってドリルが所定の性能を発揮するかどうか確かめて欲しいそうだ。
壊れるまでってどれだけ掘らせるつもりなのか…まあ、燃料分の魔石は事前に受け取っているし、余ったら返す必要はないと言っていた。また試作型もそのまま私のモノにして良いとのこと。余剰の魔石とドリルの本体は依頼料代わりということだ。
そのドリルであるが、全体の形状はチェーンソーに似ている。ただ、エンジン部分から伸びているのは複雑な形状をしたドリルだった。電動ドリルの先端についている床屋でクルクル回るサインポールのようなモノではなく、何と言ったら良いのか…そう、サザエの殻を思わせる形状をしていたのだ。
「しかし、凄い形だな」
「前にネットニュースで見た自衛隊の掘削機にそっくりですね。多分、それを参考にしたんだと思いますよ」
「へー、そうなんだ」
「色んなモノがあるんすねぇ」
エイジの語る豆知識に感心しつつ、私はマキシマから聞いた使い方通りにドリルを使う。使用前に燃料タンクの蓋を開けてから魔石を投入し、蓋をしっかりと閉じる。閉じたことを確認してからスターターロープを引っ張ってエンジンを起動させた。
マキシマ曰く、このロープを引っ張る機構を再現することが難しかったらしい。意味がわからなかったので聞いてみると、本来ならボタン一つで起動させられたと言うのだ。では何故スターターロープを引っ張らなければ動かないという非効率的な仕組みにしたのかと、聞いた私をマキシマは残念な子供に言い含めるようにゆっくりと言った。その方がカッコイイだろう、と。
ドヤ顔で言い切ったマキシマをぶん殴ってやろうかと思ったが、どうにか耐えてからここに来ている。いや、確かにスターターロープがあった方が『エンジンを吹かしている感』は出るだろう。しかし…必要のない機能を搭載したせいで大きくなったり重くなったりするなら本末転倒なのでは?
「見た目よりも大切なのは性能だろう。さて、どんなものかな…」
私がドルンドルンとエンジンが唸るドリルのスイッチを押すと、先端が音を立てて回転し始める。いや、とてつもなくうるさい!洞窟という反響しやすい環境ということもあって、骸骨の頭部にはないはずの鼓膜が破れそうだ!
ジゴロウ達も顔を顰めて耳を手で塞いでいる。これは改善点としてマキシマに報告するべき案件だ。ドリルから最も近く、爆音を最も近くで浴びていた私は耳が馬鹿になりそうだと苦しみながら採掘ポイントを掘り切った。
「お、終わった…まだ一回使っただけなのに物凄く疲れたぞ」
「うるせェ玩具だなァ。ほれ、見ろよ」
一気にドッと疲れた私の背後をジゴロウが指差し、その方向に目を向けると無数の魔物がこちらへ敵意をむき出しにして駆けてくるではないか!その原因はまず間違いなくドリルによる騒音だろう。
音によって敵を呼び寄せてしまうのなら、採掘している最中には敵の襲撃に怯えなければならない。少なくとも私はパーティーを組んでいない状態でこれを使う気にはならない。うん、マキシマには音を抑えることは急務だと伝えよう。今は襲い掛かる魔物を迎撃する方が先決だ。
◆◇◆◇◆◇
魔物の迎撃そのものは楽勝と言っても過言ではなかった。今更『槍岩の福鉱山』において苦戦するような敵は現れないからである。量産した不死傀儡の調練に今でも使われているのだから、私達が苦戦するはずもなかった。
「どうだ、シオ。ドリルを使った感想は?」
「うーん、手ブレが鬱陶しいっすね。もっと振動を抑えて欲しいっす」
私達は洞窟内を探索して採掘ポイントを探し、代わる代わるドリルを使って感想を持ち合った。まず採掘そのものの結果についてであるが、これに関してはマキシマの説明通り高品質の素材が五割増しほどの量を得られている。採掘においてドリルが有効なのは火を見るよりも明らかであろう。
ただ、不評な点も多い。掘削時の音は工事現場もかくやと言わんばかりであり、使うたびに耳がおかしくなりそうだ。またドリルを採掘ポイントに当てている時に手ブレが発生して滑ることがあった。さらに先端に触れると普通にダメージを受けるので要注意…問題点ばっかりじゃないか。
まあ、試作品というのはえてしてこんなものなのだろう。この問題点を一つずつ潰していって、正式な商品となるのだ。その手伝いをしている代わりにアイテムは大量に得られているのだから文句を言うべきではなかった。
「これで全員が一回ずつドリルを使ったことになるが、どうだった?マキシマへの報告のためにも改めて意見を聞きたい」
「音は凄いですけど、アイテムを素早く大量に得られるのは大きいですよ」
「それには同感っすけど…肝心の深淵で使ったらヤバいことになるんじゃないっすか?」
「それはそうだ」
ドリルは大量のアイテムを得られるのは間違いない。これは侵塩を大量に必要とする深淵でこそ輝くツールである。だが、これを使えばもれなく塩獣が巣穴から飛び出してくるに違いない。音が抑えられない限り深淵でこのドリルを使うのは止めたほうが良いだろう。
ただし、かなり余裕を持って倒せる敵しか現れないフィールドであれば問題はない。それどころか歩いて探す手間が省けるくらいだ。臆病な魔物の場合は逃げるだろうから、あくまでも裏技的な認識でいようか。改善されれば気にする必要もないし。
「ボクは魔石の消耗は思ったより早いって感じたかな。燃料タンクをもっと大きくした方が良いんじゃない?」
「しかし、そうするともっと大きくなってルビーのように小柄なアバターでは使いづらいのではないか?」
「あー、それは言えてるかも」
そうして私達はドリルについて改善案をまとめつつ、探索を続ける。そしてドリルの頭の耐久力が尽きて壊れるまで採掘ポイントを巡り続けるのだった。
次回は4月28日に投稿予定です。




