湖の中の戦争 その一
前話の感想に『気持ち悪い表現があった』とのご指摘の受けたので、タグに『グロテスクな表現アリ』を加えておきました。
「ウガアアアア!飽きたアアアアア!!」
ジゴロウが文句を言いながら蛙人の一匹をぶん殴る。すると、その頭部はアッサリと爆散してその辺に撒き散らされた。汚いから止めて欲しいが、もう慣れた。
「ルビーが戻って来るまでの辛抱、よっ!」
そう言って源十郎が振るった大太刀が数匹の蛙人を両断する。断面は流石に描写されないが、上半身だけの蛙人が腕を此方に伸ばしたり、泣き別れした下半身がビクビクと痙攣しているのが凄惨だ。まあ、こっちも慣れたのだが。
「二人、とも、何で、そんな、に、余裕、何、です、かぁぁ!?」
アイリスは悲鳴を上げながら木槌と鉈を振り回す。戦闘能力リアルチートの二人よりも無駄な攻撃が多いので、余裕がほとんど無い。
しかし、傍目に見れば荒れ狂う無数の触手へ蛙人が果敢に突撃しては死んでいくように見えるだろう。三人の中で最もえげつないのはむしろアイリスかもしれない。
「巴魔陣起動、闇波」
魔力節約のため威力を抑えつつも一撃で倒せる範囲魔術を私が放って援護する。巻き込まれたのは十匹くらいか?普段ならこれでいいのだが、今の状況だと焼け石に水だな。まだまだ湧いて出てくるぞ。
「まだかよ!」
「まだじゃよ」
押し寄せる敵を、無心になって倒していく。私自身の魔力の管理、三人の体力、回復時の援護用不死召喚のタイミング…私は管理せねばならない事が多すぎて口を開く余裕など魔術を放つ時しかない。
ジゴロウよ、文句を垂れる前に手を動かせ!お前はこの中で一番小回りが利くんだから!そう思い出ながら私は【鎌術】の飛斬でアイリスの背後に近付いていた敵を斬り裂く。
戦い始めてからどれくらい経ったのだろうか?時間の感覚が薄れて来たぞ。始まってまだ五分の気もするし、逆に一時間以上経った気もする。
「ゲロロロォ!ゲコッゲロッ!」
「ゲコ!?」
「ゲロロ!?」
そんな時だった。かなり前方から野太い蛙人の声が聞こえて来たのは。それを合図に、これまで命を惜しまずに突撃していた蛙人が背を向けて撤退していく。
前方、即ち奴らの巣がある方向だ。そこで何かが起こったのだろう。そしてその『何か』を起こしたのは、ルビーに違いない。よくやってくれた!
――――――――――
戦闘に勝利しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【鎌術】レベルが上昇しました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】レベルが上昇しました。
【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【魔力制御】が成長限界に達しました。進化が可能です。
【大地魔術】レベルが上昇しました。
【水氷魔術】レベルが上昇しました。
【火炎魔術】レベルが上昇しました。
【暴風魔術】レベルが上昇しました。
【樹木魔術】レベルが上昇しました。
【溶岩魔術】レベルが上昇しました。
【砂塵魔術】レベルが上昇しました。
【煙霧魔術】レベルが上昇しました。
【雷撃魔術】レベルが上昇しました。
【爆裂魔術】レベルが上昇しました。
【光魔術】レベルが上昇しました。
【暗黒魔術】レベルが上昇しました。
【虚無魔術】レベルが上昇しました。
【召喚術】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
【降霊術】レベルが上昇しました。
新たに悪霊召喚の呪文を習得しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
新たに壊死の呪文を習得しました。
【言語学】レベルが上昇しました
――――――――――
終わった…ようやく、終わった…。ほぼ全ての戦闘向け能力レベルが上昇する程の激戦だったな。しかし、我々は切り抜けたのだ!これは誇って良いだろう。
「皆、大丈夫!?」
「帰ってきたか、我らが救世主よ!」
救世主ことルビーが背後から現れた。蛙人から逃げる時に迂回したのだろう。
「救世主って…それよりも、聞いてよ!このクエスト、まだ終わりじゃない!」
…詳しく聞かせて貰おうか。
◆◇◆◇◆◇
ルビーの報告を聞く前に、我々は蜥蜴人の村長宅を訪ねた。すると丁度村の戦士頭がいたので、彼も交えての報告と相成った。
彼女の話を要約すれば、蛙人の巣に潜入し、異常な個数の卵を産み続ける巨大な蛙人の暗殺に成功。それによって蛙人が浮き足立って仲間を撤退させ始めた。
しかし、巨大な蛙人は死亡と同時に大量の卵を産んだ。その数、推定で数百個。卵の内に潰そうかとしたものの、敵に発見される前に撤退せざるを得なかったと。
…あの、貴女、本職は忍者かなんかですか?私は情報収集してくれるだけで十分だと思ってたんですよ?なのに親玉の暗殺?我々が陽動していたとしても単独で?
「ほっほっほ!流石は我が孫じゃ!」
源十郎は大喜びしているが、私達は驚愕を禁じ得ない。ほら、村長と戦士頭も口を開いて呆然としているじゃないか。NPCにとっても、とんでもない功績のようだ。私の感覚がおかしい訳じゃ無くて良かったぁ。
「こほん!あー、村長。私は蛙人の生態に疎いのだが、ルビーの話に出てきた巨大な蛙人に心当たりは?」
「はっ!はい!有りますぞ。私も伝説でしか知らぬのですが、恐らくは大母蛙ですな」
「大母蛙…」
名前が長いな。いや、それはどうでもいい。名前からして普通の蛙人でないのは明らかだ。一体どんな個体なのだろうか。
「伝説によると、大母蛙は蛙人の王、即ち蛙人王の幼体を産む個体とされております」
「蛙人の王…」
王、か。つい先日戦ったのは鼠男の王だったな。あれは別格の強さだった。単純に我々がレベルで大幅に遅れをとっていたのも原因だが、それを抜きにしてもべらぼうに強かったと思う。
何せ、レベルで10以上も劣る墓守と正面から殴り合えたのだから。『王』と名の付く魔物は同じレベル帯の個体よりも数段階上の強さを持つのかもしれない。あくまでも私の私見だがね。
そんな王の称号を冠する蛙人か。さっきまで飽きるほど倒し続けた相手の王…ねぇ。想像できないな。
「当時の村は滅ぶ直前まで追い詰められたそうです。異変を察知したアグナスレリム様のお陰で助かったのだとか」
「逆に言えば龍王様の力を借りなければ勝てないほどに強かったわけだな」
村長はゆっくりと頷いた。龍王が出張って来たらそりやあ勝てるだろうよ。何年前の話か知らないが、蛙人がどれ程足掻いても到達出来ない強さだろうからな。それだけの戦力がなければ勝てなかった相手、か。
「…骨の龍様。貴殿方への依頼はこれで終わりですな。受け取って下され」
――――――――――
隠しクエスト:『蛙人の謎を追え!』をクリアしました!
報酬が贈られます。
――――――――――
村長はスッと五つのミサンガらしき物を我々の前に並べた。何の変哲もない蔓を編んだらだけの物に見えるが、うっすらと青み掛かっている。
「これは?」
「我らアグナスレリム様から授かったあの御方の鱗の粉を編み込んだ護符です。我ら蜥蜴人はアグナスレリム様を敬っておりますが、だからこそ不用意に近付く無礼を働く者はおりません。これを着けておれば我々は貴殿方をアグナスレリム様と認識し、重大な要件も無く近付きはしないでしょう」
なるほど。これを着けていれば蜥蜴人は我々をアグナスレリム様だと見なして畏敬の念から離れていく訳だ。便利なものだな。
「その上で、お願いしたい!どうか、この村の危機に力を貸しては貰えませんでしょうか!?」
――――――――――
緊急クエスト:『湖の蜥蜴人を救え!』を受注しますか?
※受注しなかった場合、二度と受けられません。
Yes/No
――――――――――
ゴッドクエスト、隠しクエストと来て今度は緊急クエストか。我ながら節操がないな。
しかし、この流れで断ることも出来まい。大体、他の四人はヤル気満々だ。そしてそれは私も同じだがな。
「ここで『はい、さようなら』など出来んよ、村長。是非、手伝わせて貰おう」
「おお、かたじけない!」
「そうと決まれば作戦を立てよう」
「そうですな。戦士頭よ、主だった者達を呼んできてくれるか?」
「はっ!」
◆◇◆◇◆◇
数分もしない内に、村長宅には村で役職の長をやっている者達が集められた。戦士頭、田畑頭、漁師頭、祭祀頭、そして女頭だ。
村長と我々、そしてこの五人の合計11名で作戦を考えることになる。と言ってもとるべき策は一つだけなのだがな。
「皆、戦士頭から聞いておるとは思うが、伝説にある大母蛙が誕生しておった。幸いにも骨の龍様の仲間であるルビー様が討伐してくださったが、高い確率で蛙人王の子供が産まれておると思われる」
会議の場に緊張が走る。村が壊滅する危機に瀕しているのだから当然か。
「しかし、まだ蛙人王は十分に成長しておらんはず。故に我らの側から撃って出る!」
村長の宣言に、我々と戦士頭以外の長は動揺している。だが、少し考えればわかることだ。
「…脅威が育ち切る前に倒してしまう訳だね?」
「うむ、そういうことだ」
女頭の確認に、村長が首肯する。自分達を滅ぼそうとする可能性が高い相手がおり、その相手がまだ発展途上にあるならばそれはチャンスである。敵が強くなるのを待つ必要など無い。むしろ弱い内に芽を摘んでしまうべきだ。
卑怯?いやいや、生存戦略だよ。相手が強くなるのを待ってから正々堂々戦うなんて、騎士にでもやらせておけばいい。我々は魔物。ならば食うか食われるか、だ。
「それしかあるまいて。して、攻め込む人選は?」
「もう済ませておる。熟練者と新人を五名ずつ残してあとは攻め込む。万が一にも逃げられてはならんからな」
これは戦士頭の判断である。一気呵成に攻め、未熟な蛙人王を確実に倒すのが狙いだ。
「他の成人した男は村の守りに参加、女衆は子供の守りを頼みたい。そして祭祀頭よ。万が一に備えてアグナスレリム様に言伝てを頼む」
「うむ」
アグナスレリムが出陣するのは最終手段だろう。かの龍王が出る時は、我々が敗北した後だしな。その様な事態には決してさせないが。
「皆の者、我らが村の興亡はこの一戦にある!あの間抜け共に湖の支配者がアグナスレリム様であることを思い出させてやれ!」
「「「おおお!」」」
蜥蜴人の戦意は高い。防衛戦なのだから当然か。
では、私達も準備をしよう。装備を補修に新しい呪文の確認、あと能力の進化も控えているからな!
敵が強くなる前に叩くのは戦略・戦術の基本…なのですが、見逃す悪役って多いですよね。
まあそうしないと主人公が成長出来ないんですが。




