千足魔のケジメ
ログインしました。今日も今日とてゆっくりと深淵へと向かおうとしていた私だったが、ログインしたときに届いていたウロコスキーからのメッセージを見たことでとても急ぐことになった。
何故急ぐ必要があったのかと言うと…千足魔からの使者がもう妖人の住む遺跡へとやって来ていたからである。それも物騒な手土産を持参して、だ。
「急かしちまってすいやせんね、イザームの旦那」
「来タカ」
「こっ、これは…」
仲間も集めずに急いで深淵へ降りた私が見たのは、十を超える千足魔の首だった。それらが山のように積み上げられているのだから、私が絶句するのも無理はないだろう。
誰がこんなことをやったのか?それはプレイヤーでも、ましてや妖人でもない。正解は千足魔達の手で行われたことなのである。
「誇リ無キ者ナド不要。奪ッタ品ハ既ニ消費シテイルガ、同ジモノを用意サセタ。此奴ラノ首トコレラノ品デ手打チトシテモライタイ」
マックは強盗まがいのことをした千足魔に対して謝罪と弁償を求めたのだが、千足魔は弁償と下手人の命で謝意を表明しいたらしい。確かに謝罪は求めたが、まさか同胞の命を奪うとは思っていなかった。
ひょっとして偽物なのではと思ったので【鑑定】したものの、結果は『千足魔の生首』となっていたので本物で確定だろう。作り物であって欲しかったよ、本当に。
これが彼らにとって責任を取らせる時の作法なのかもしれないが…これではまるで責任を取る時に腹を切る侍のようだ。さらに恐ろしいのは、目の前の老人が首だけになった同胞をまるでゴミのように見下していることだ。ハッキリと不要と言っていたし、千足魔は随分と苛烈な性格をしているのかもしれない。
「許すかどうか決めるのは私ではないのだが…これだけの覚悟を見せられてマックが許さないこともあるまい。本人が来るのを待つことになるが、仮に難色を示したとしても私は口添えさせてもらう」
「右に同じでござんす」
「カタジケナイ」
マックはまだログインしていないようなので彼が来るのを待つことになるが、ここまでの覚悟を見せられて突っぱねることは出来ない。それはウロコスキーも同じらしく、私と共に万が一マックが許さないと言ったとしても説得することを約束した。
約束したところで、今度はマックが来るまで暇になってしまった。私達は千足魔のことを何も知らない。それこそ老人の名前すらも知らないのだ。生首を前にやることではないかもしれないが、この機会に色々と聞いてみるか。
「ところで御老体。私はイザームというが、名前を聞かせてもらってもよろしいか?」
「儂ノ名ハ、ゴゥ・デ・ルバ。先代ノ戦士頭ダ」
老人ことゴゥ・デ・ルバは戦士頭だったそうだ。身体中の傷跡や左腕の大怪我は戦士頭として戦い続けたことが原因らしい。歴戦の勇士という第一印象は大正解だったようだ。
「戦士頭だったんでござんすね。あ、ちなみにこちらのイザームの旦那は一国の国王でござんすよ」
「何ト…コレハ失礼シタ」
「いやいや、国王と言っても大したものではない。所詮は小さな街の代表者に過ぎんよ。そう身構えないでくれ」
ウロコスキーが余計なことを言ったせいでゴゥがかしこまってしまった。私はウロコスキーを睨んだが、骸骨の顔に仮面までしている私の咎める視線は彼に届かなかったようだ。
ただ、私が小国とはいえ国王だと知ったゴゥはとても丁寧な言葉遣いで聞いたことに答えてくれるようになった。どうやら私を怒らせれば今度こそ千足魔の集落に攻め込まれると思っているようだ。そんなことをするつもりはないのだが、聞き出せることは聞いておこう。
ゴゥの話によると、千足魔は深淵の海に沈む遺跡に住んでいるらしい。遺跡の規模としては今いる妖人の住む遺跡よりもかなり小さいようだ。
だが、彼らが住んでいるのは小さめの遺跡が集まっている場所らしい。妖人が団地に住んでいるとするなら、千足魔は一戸建てばかりの住宅地に住んでいるようなもののようだ。
そんな遺跡群を中心とした広大な警戒網を敷いているらしい。方法は伏せられたものの、千足魔は範囲内にいる魔力を探知可能なのだとか。全パーティーが奇襲されたのはこれが原因だそうだ。
千足魔には族長のような明確なリーダーはおらず、長老衆と呼ばれる老人達が話し合って方針を決めるらしい。かくいうゴゥも長老衆の一員だという。一族に大きな貢献をした者達が選ばれるようだ。
「つまり、ゴゥ殿は戦士頭として多大な貢献をしたということか」
「代ワリニ左腕ヲ失イマシタガナ」
苦笑しながらゴゥは蛸足そのものの左腕を掲げてみせる。何でも千足魔は再生力は優れているものの、損傷具合が激し過ぎると元には戻らずに不完全な形で再生してしまうそうだ。
ゴゥの場合は左腕を切断されてしまい、元の腕の代わりに蛸足が生えてしまった。足を失った場合は傷口から細い蛸足が数本生えることになるらしい。ゴゥが幼い頃の元戦士頭だった長老がそんな姿だったようだ。
「歴戦ってのには憧れちまうってモンでござんすよ、ゴゥの旦那」
「ゴゥ殿の事情は理解した。それと今のうちに私達の目的を話しておこう。私達はこの深淵の中心部におわすイーファ様に謁見することが最終的な目的になる」
「女神様デスト!?シ、シカシナガラ三大領主ガオリマスゾ!?アレラノ目ヲ欺ケルトハ思エマセヌガ…」
「欺くつもりなど毛頭ない。私達は三大領主のいずれかを討って道を切り開き、堂々と拝謁の栄誉にあやかるつもりだ」
私の言葉にゴゥは絶句しているようだった。実際に見たユラユラちゃんはとんでもない化け物だったし、それに比肩する残りの二体もまず間違いなく化け物だ。だが、それはプレイヤーが挑むのを止める理由にはならない。むしろ強敵の出現に心を踊らせる者は多いのだ。
徹底的に準備をした上で、深淵探索組のクランの力だけでなく海巨人捜索組にも来てもらうことになるかもしれない。もしそうなれば我らが『アルトスノム魔王国』のプレイヤーが勢揃いすることになるかもしれない。
「今日明日のことではないが、そのために準備を行っているところだ」
「恐レナガラ、オ願イシタキコトガゴザイマス」
「願い?」
「ソノ戦イ、我ラモ参戦サセテイタダキタイ。三大領主…特ニ怨敵エリステルニハ個人的ニ因縁ガゴザイマスノデ」
「因縁か…聞いても良いのか?」
遠慮がちに尋ねた私にゴゥ殿は左腕の傷跡を抑えながら事情を語ってくれた。何でも彼の左腕を切断したのは、他でもない濁白堕熾天使のエリステルだったらしい。腕一本が永久に不自由になった原因となれば十分な因縁と言えるだろう。
さらに彼はどうしてエリステルと戦うことになったのか、その経緯についても教えてくれた。ゴゥ殿がまだ現役だったある日、彼は日々の糧を得るべくいつものように仲間達と狩りへと出掛けた。するとその狩り場には何故かエリステルがいたようなのだ。
狂気に犯されたエリステルが他の三大領主と頻繁に争っているというのは、リャナルメとルドヒェグから既に聞いていた。だが、不定期にエリステルは深淵を徘徊しながら魔物を殺戮しているというのだ。
「エリステル…彼奴ノ領地ハココカラ離レテオリ、我ラノ住処ハ海中故ニ襲ワレタコトハアリマセヌ。運ガ悪カッタ…ソウトシカ言イヨウガアリマセヌヨ」
バッタリと出くわしてしまったゴゥ殿達は、当然のようにエリステルの標的となった。戦士頭としてゴゥ殿は奮戦し、左腕と数人の手練を犠牲に多くの仲間達を逃したそうだ。エリステルは千足魔という種族全体にとっても仇敵だが、ゴゥ殿個人にとっても左腕と仲間を奪った憎い敵なのだ。
ゴゥ殿のレベルがいくつかわからないが、彼と数人だけで食い止められた。それだけ聞くとエリステルは与し易い相手のように聞こえる。しかしながら、この判断は早計が過ぎるらしい。何故なら…その時のゴゥ殿は運が悪かったと同時に良くもあったからだ。
「彼奴メハワザト我ラヲ殺サズ、飽キルマデ嬲ッテ遊ンデオリマシタ。儂モ散々ニ嬲ラレ、飽イタ彼奴ガトドメヲ差ソウトシタ時、血相ヲ変エテ領地ヘト戻ッタノデス」
ゴゥ殿達だけではエリステルに手も足も出ないほど奴は強かったらしい。一方的に蹂躙する力がありながらわざわざ痛めつけるとは、随分と趣味が悪い性格をしている。狂ったから嗜虐的になったのか、それとも元から嗜虐的な性格だったのか。今となってはわからないことだ。
それにしても、血相を変えて逃げていった理由が気になるところだ。普通に考えれば他の三大領主が縄張りに入り、追い払うべく戻ったのだろう。だが、血相を変えてというのが引っ掛かる。エリステルにとって、深淵にいるという状況そのものが不本意であるはず。多少縄張りを荒らされたくらいでそこまで慌てるものだろうか?
元々はあのアールルに仕えていたことのだ。主人に似て気位が高く、縄張りを奪われる屈辱に耐えられなかっただけということも十分にあり得る。だが、何らかの明確な理由があるとしたら…付け入る隙になるかもしれない。
「まだ先のことになるだろうが、準備が整い次第そちらにも知らせよう。参戦することを歓迎こそすれ、断るつもりはない」
「アリガタイ。精鋭ヲ送リマスル」
「こちらこそ、戦力が増えるのはありがたい話だ。ああ、そうだ。実は交易拠点を作ろうとしていてな。そちらについても話しておこう」
私はゴゥに『侵塩の結晶窟』とそこを攻略して妖人と千足魔と私達が交易を行う場所にしようとしていることを話した。すると彼らは海中から『侵塩の結晶窟』を調べてみることを提案した。
海中から、つまり遺跡の外からの調査か。それはこちらとしても非常に助かる話だ。私とウロコスキーはマックが来るまでの間、ゴゥと共に調査についての話をまとめるのだった。
次回は4月20日に投稿予定です。




