贈り物の相談
『マキシマ重工』の事務所へ足を運ぶと、既に話し合いに必要な全員が揃っていた。どうやら私以外の全員が研究区画にいたらしいな。
「私が最後か。待たせて悪かった」
「誰も気にしちゃいねぇよ。それよりも…」
「早く議題に入りたいですね…フフッ」
ミミに急かされたこともあり、私は事務所の椅子に座った。こうして海巨人への贈り物についての話し合いの場が持たれたのだが、私は自分の役割を議長と割り切っていた。何故なら、ここにいる濃いメンバーはアイリスを除いて議長など誰もやってくれないからだ。
そのアイリスもこの話し合いにおいては積極的に議論する側に回るべき人物である。消去法でも適性でも、私しか議長役を行うことが出来ないのである。
「よし、ここまでの話し合いを整理するぞ。贈り物として用意するのは武器。それは全員の共通見解だ。そして作る武器は槍。これも全員が納得した。それで良いな?」
自由に意見を交換させた後、私は議論が一度途切れたタイミングを見計らって決まったことについてまとめた。何を作るのかは意外なほど早く決まった。アンから送られたスクリーンショットに映っている海巨人は、体格に見合った槍を持っている。そこで我々の技術を結集して槍を作ろうという話になったのだ。
話し合いが難航し始めたのはここからだった。作りたい槍の想像図が異なっていたのである。それぞれの方向性の違いが出てしまったのだ。
持っている技術が違うからこそ、結集させれば素晴らしい業物が完成すると信じている。これをまとめ上げるのが、決まった後は素材集めくらいにしか役に立たない私の仕事だろう。
「次は全員のアイデアをまとめるぞ。パラケラテリウムは自分達が作った新素材を使いたい。ミミは海中に特化した生体武器を作りたい。マキシマは特殊なギミックを盛り込みたい。こんなところか」
各自の意見をまとめると以上の通りだった。錬金術師の集団の長であるパラケラテリウムは、自分達が作り出した素材を大量に使いたいらしい。量もそうだが、なるべく種類も多くしたいようだ。
ミミは当然ながら生体武器に仕上げたい。海巨人のサイズに合わせるのならばこれまでで間違いなく最大の大きさになるだろう。更に基本的に海中から出ないであろう海巨人に相応しい、海中に特化させた槍にしたいそうだ。
そしてマキシマは変形を始めとした様々なギミックをてんこ盛りにしたいらしい。大きいということはギミックを仕込む余地も多いということ。常々試したいと思っていたアイデアを詰め込みたいようだ。
「アイリス、しいたけ。二人に聞きたい。彼らの要望を全て叶えることは可能か?」
「そうですね…提供してくれる素材にもよりますけど、一般的に素材を増やせば増やすほど加工が難しくなります。それに生産そのものが難しい生体武器にギミックを追加するのは面白い発想ですが、ギミックを搭載することは重量の増加や強度の低下を招きます。いくら大型で強度が担保されやすいとしてもバランスは考えるべきでしょう」
槍を作ることが決まってからは沈黙を保っていたアイリスに水を向けると、彼女はスラスラと実現の際の問題点について語った。これはダメ出しをしているのではなく、むしろ全員の希望を現実にするべく妥協点を見出すための忠告であった。
「素材を何でも突っ込みたい気持ちはわかるけど、それぞれが干渉し合ったら意味がないよね〜。あくまでも贈り物だってことを忘れちゃいかんよ」
「「「……」」」
アイリスに続いて、珍しくしいたけの口からも正論が語られる。三人は少し熱くなっていたことを自覚したらしく、実現可能な案を考えてから発言するようになった。
色々と案を出していると、私の元に一通のメッセージが届いた。送り主はアンであり、その内容は海巨人と会話した内容と印象であった。
「アンからの新情報だ。海巨人は寛大で穏やかだが、割りと保守的な考え方であるようだ」
「なるほど…なら、あまり奇抜なデザインは好まれないでしょうね」
「あー…ならギミックはそれ自体が強力なモンはダメか。自分の腕前に自信がありそうだからなぁ」
マキシマ曰く、自分の腕前に自信がある者ほどギミックが強い武器を敬遠するそうだ。言われてみればジゴロウや源十郎は特殊なギミックを搭載された武器を使うところを見たことがない。きっとギミックよりも自分の技の方が強いと思っているからだろう。
他人が使うのは否定しないが、自分が使うのは嫌がる。海巨人もその類だったとすると、ギミックてんこ盛りだと不快感を示す可能性がある。その場合、贈り物によって険悪になるという意味不明な事態になりかねなかった。
「あくまでも使用者を補助するようにした方が良さそうだ」
「無難すぎるのもつまんないし、ちょっとはギミックを入れようぜ?」
「ならば、こんな強化案はどうだ?」
作るのは槍、そして真っ当に強い武器に仕上げる。大まかな方向性が決まったところで、それに見合った案を出していく。意見を交換し合い、時に私が仲裁しながら原案となる設計図と必要な素材の量の見積もりまで終わらせるのだった。
◆◇◆◇◆◇
ログインしました。今日も今日とて深淵へ向かう。本日の目的は『侵塩の結晶窟』での戦闘における新アイテムの効果の検証であった。
「ただの銀色の粉にしか見えないっすね?」
「だが、効果は保証すると言っていたぞ」
昨日の話し合いが終わった後、しいたけとパラケラテリウムによって渡されたアイテムをシオはしげしげと見ていた。この銀色の粉の名称は『試作型侵塩中和剤』…読んで字のごとく侵塩による侵食を中和するアイテムである。
身体に付着した侵塩は魔力を吸い取りながら大きくなる。だがこの中和剤を掛けてやると侵塩はただの食塩に変わるらしい。塩獣を相手取るのなら必要不可欠なアイテムと言えよう。
ただし、使用上の注意として念押しされた点が二つある。一つは予防の効果はない点だ。あくまでも侵塩を浴びた後に使わなければならないらしい。事前に掛けておけば戦闘中に気を使う必要がなくなるのだが、そう上手くはいかないようだ。
もう一つの注意点は効果があるのはこれまで我々が採取した侵塩にしか効果がないことだ。仮により強力な侵塩を振り掛けられた場合、完全に無効化させられない可能性が高いと言っていた。魔力が吸われるペースを落とすくらいなら可能だろう、とのことだ。
「仕事が早いねぇ。もうちょっと落ち着いてくれるともっと助かるんだけど」
「あれも個性よ…時々イラッとすることもあるのは事実ね」
「ほっほ。手厳しいのぅ」
今日、私と同行しているのはシオの他にはルビー、兎路、そして源十郎だった。中和剤の効果を試すついでに『侵塩の結晶窟』を軽く調査するのも今日の目標である。そのためにも索敵が最も得意なルビーに出張ってもらったのだ。
調査の要となるルビーはいつものように源十郎の肩に乗っている。当然ながらこの深淵の海には飛び込みたくはないようだ。
しいたけから受け取った中和剤は全員に配ってあるので、今も瓶を眺めているシオ以外もちゃんとインベントリに入れている。ただし、量は限られているので枯渇する前に切り上げる予定だ。原材料は侵塩なので、ついでに採取しておかねばなるまい。侵塩対策に侵塩が必要というのは若干矛盾のように思えるが、ルビー曰く『ゲームあるある』だそうだ。
「雑談はその辺にしておけ。そろそろ見えて来たな」
「話には聞いてたけど、思った以上にギザギザっすね」
源十郎の【英傑覇気】によって弱い魔物との戦闘を回避したことで、道中の戦闘によって消耗を強いられることもなかった。強者を誘引するというデメリットがないのなら、是非とも取得したい能力である。
『侵塩の結晶窟』に到着した我々だったが、落ち着いて採取する間もなく二十を超える塩獣に襲われた。迎撃態勢を整えていたのか、それとも偶然いただけなのか。真実は不明だが、襲ってくるのならば撃滅するだけである。
「ゆるりと行こうかのぅ」
「全部回避は無理そうね」
ルビーの索敵によって事前に待ち構えられていることはわかっていたので、慌てず騒がず私達は対処していく。源十郎と兎路は侵塩の弾丸による制圧射撃を可能な限り回避しながら急接近し、その胴体を斬り裂いた。
塩獣の本体は侵塩の奥にある細い紐のような部分だと教えているので、二人は胴体を両断するような勢いで剣を振り抜く。兎路は手数でダメージを蓄積させるのが得意な双剣使いなので難しいかもしれないと思っていたが、片方の剣で斬った場所を時間差でもう一度斬ることで本体にダメージを与えていた。
「ボク達も援護しよう!」
「新兵器のお披露目っすよ!」
得物が短剣のルビーと弓矢のシオは、源十郎達のように塩の身体がある状態では有効打を与えにくい。だが、二人も戦う方法をちゃんと考えていた。
まずルビーが火薬仕込みの投げナイフを投擲し、爆風によって本体を露出させる。そうして無防備になった本体目掛けて、シオが新兵器の矢を放つ。その矢の鏃は三枚の刃が重ねられており、放った後で横に広がって十文字槍のようになったのだ。
これは『マキシマ重工』製の新兵器、『特殊矢トリプルエッジ』である。矢としての威力と使い勝手はそのままに、左右にも刃が広がるお陰で回避が困難になっているのだ。
そして刃が広がっているということは、遠間からの切断を狙えるということ。シオの矢は塩獣の細長い本体をザックリと斬っていた。
私は全員のステータスを強化していたのだが、強化が終わった頃にはもう戦闘は終わりかけている。結局、私の出る幕はなく地上の敵は壊滅させられるのだった。
次回は3月31日に投稿予定です。




