海での発見
ログインしました。結局、私達はログアウトする時までエビタイに停泊していたカジノ船で楽しんでいた。昨日の運はそこそこであり、プラスマイナスゼロと言ったところだ。大勝した者もいたようだが、その倍以上に大損した者達がいたようなのでコンラートは大儲けだったことだろう。賭け事とは常に胴元が儲かるように出来ているのだ。
では今日はどこで何をしようか考えていると、ママことアルテミスからメッセージが届いているではないか。珍しいこともあるものだと思いつつ読んでみると、自分達のクランハウスに来て欲しいとのこと。断る理由もないので私はリンの背に乗ってエビタイへと移動した。
エビタイに近付くとリンの親友であるヨーキヴァルがアマハを乗せてやって来た。空中で二頭がじゃれ合う間に、私はアマハにママの用件について尋ねてみた。
「勿体ぶるわけじゃないんだけど、こればっかりは実際に見てもらった方が早いのよ」
アマハにもはぐらかされたこともあり、私は仕方なく彼女についていく。彼女らの拠点はエビタイの少し奥まったところにあり、出入り口の上には可愛らしい文字で『Amazonas』と刻まれた看板が掲げられている。パッと見た外見は酒場のようだった。
ただ、他の建物が三角の屋根になっているのに対し、ここの屋上はヨーキヴァル用の空間になっていた。ヨーキヴァルとリンをそこに着地させた後、私はアマハに連れられて拠点の中へと入っていった。
「あら、イザームちゃん。よく来てくれたわね」
「ママに呼ばれたから飛んで来たぞ」
「物理的にって?ウフフ、フットワークの軽い王様ねぇ。呼び出した私が言える立場じゃないんだけど」
相変わらずガタイの良いママは野太い声で笑っている。『Amazonas』のクランハウスの中には複数のクランメンバーがおり、私と彼女らは互いに会釈を交わした。
クランハウスの内装はダイニングバーのような形になっており、ママはカウンターの奥にいる。私は促されるまま、カウンター席の一つに腰を下ろした。
「飲み物とおつまみは…出しても食べられないわね」
「お気遣いなく。調子はどうだ?何か困ったことは?」
「そりゃあもう、絶好調よ。困ったことも特にないわね。今のところエビタイでの生活は充実してるわ。ねぇ、みんな?」
ママがメンバーに問いかけると一斉に肯定の返事があった。不自由していないことに私は安堵する。我らがアルトスノム魔王国は彼女らにとっては亡命先のような場所だが、ここに居着いてもらえれば嬉しいのだ。
「あっ、困ったことじゃないけど欲しいモノなら一つあるわね」
「ほう?何だ?」
「銀行か貸倉庫みたいなのがあれば使いたいわ。リスクの分散って大事でしょ?」
「銀行か…今すぐは無理だぞ。良くも悪くも我が国は国内で完結している。投資先はあるにはあるが、コンラートだけになってしまう。それならコンラートが銀行業に手を出すようになるまで待つべきだ」
「ママ、そんなことを話すために呼んだわけじゃないでしょ?」
ママの要望について議論が始まりそうになったところで、間に入ってきたのはアマハだった。彼女は雑談してから本題に入るより、先に本題を済ませてしまいたい方らしい。私もどちらかと言えば似たタイプだし、ママも「せっかちねぇ」と言いながらも本題に入るようだった。
「じゃあ呼んだ理由ね。その理由はズバリ、これよ」
そう言ってママはインベントリから何かを取り出してカウンターの上に置く。最初それを見た時、私は青磁の陶器の皿かと思った。だが、良く見れば年輪のような筋が入っている上に形も歪だった。
そう、これは皿ではない。巨大な鱗だったのだ。大きさは私の頭よりも大きく、相当な巨大魚の鱗なのは間違いない。間違いないのだが…
「私をわざわざ呼ぶようなことか?」
「とりあえず【鑑定】してみて。それで全部わかるから」
「ふむ…おおっ!?」
言われるがままに【鑑定】した瞬間、私は思わず大きな声を出してしまった。その内容は以下の通りである
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海巨人の鱗 品質:劣 レア度:S
深海に住まう海巨人の鱗
海巨人にとって青は高貴なる色であり、上位の海巨人であればあるほど鮮やかな色になる
水の抵抗をほぼ受けず、水分を含ませると硬化する
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「海巨人の鱗…これをどこで?」
「この街近くの岩礁ね。岸辺に結構色々と漂着するの。まあほとんどはゴミなんだけど、清掃と掘り出し物探しに時々見に行くのよ。それよりも…」
「何か知っている風ね?教えてくれるかしら?」
情報交換とばかりに私がかつて雲羊を駆る天巨人の少年と出会ったことを教えた。あの時にもらった羽根のような髪は今もインベントリにしまっており、実際に彼女らにも見せておいた。
「なんだ、他の巨人と会ったことがあるんじゃない」
「その通りだが、この鱗の持ち主である海巨人は名前しか知らない」
「巨人が暮らす巨大な羊…可愛いのか可愛くないのかわからないわね」
ママは求めていたのとは異なる反応を返したことで不満そうだったが、アマハは天巨人とその友である雲羊に興味があるようだ。彼女にはヨーキヴァルという翼があることだし、空を飛んで探しに行くことがあるかもしれないな。
一応、二人には天巨人の二人に出会った場所も教えておく。それにしても、プレイヤーも巨人になることが出来るのだろうか?そうだとしたらきっと巨大な武器が必要になる…ん?巨大な、武器…?
「待てよ…ひょっとしたら、海巨人が住む場所についてのヒントになりそうなことがあったな」
私が思い出したのは、コンラートやアン達と海賊を相手に謀略を仕掛けた時のことだ。帰りに海上で魚系の魔物と戦ったのだが、遠くで巨大な鯨を突き刺す銛が見えた。今思えばあの光景は海巨人が漁を行った瞬間なのではないか?
もしそうなら、あの一帯は海巨人の縄張りということかもしれない。ここから近いとは言えないものの、遥か彼方から流れ着く漂着物もあるだろう。私は謀略の部分は隠しつつ、私が目撃したことを二人に話した。
「可能性は高そうね。調べるのならアンちゃんの力を借りるのが良いのかしら?」
「海賊業ばっかりじゃなくて、たまには冒険もしたいって言ってたから乗ってくれると思うわ。イザームも来るでしょ?」
「あー…興味がないと言ったら嘘になる。むしろ興味津々なのだが…今は深淵の探索を優先したいと思っている」
海巨人とその住処には非常に興味がある。家族単位で暮らしているのか、はたまた集団を作っているのか。天巨人のように彼らも水中に巨大な国家を築いている可能性は高く、国交を樹立すればきっと莫大な利益を生むことだろう。
すぐに取り掛かりたいのは山々なのだが、今の私は深淵の探索に注力すると決めている。すでにそのつもりで多くの者達が動いており、ちょっと興味が湧いたからと言ってフラフラと出かける訳にはいかない。それは自分勝手が過ぎるからだ。
「そうねぇ…そっちを優先するべきだわ。こっちはこっちで人を募って調べることにするわね」
「せっかく誘ってくれたのに、すまないな。代わりにと言ってはなんだが、お互いの成果については情報交換をする機会を設けよう」
「あら、いいわね。そうしましょうか」
海巨人関連についての方針は決まった。ある意味、アルトスノム魔王国に拠点を置くプレイヤーにどちらを探索するのか選ばせることになりそうだ。誰かに何かを強制するつもりはないので、各自の判断に任せよう。
本題を話し終えたところで、話題は別のことへ移っていく。それはノックスとエビタイの不満点についてだった。
「エビタイってオシャレな服屋とかないでしょ?そりゃあ探索に行くときは一番合ってる防具を装備するわよ?でも、普段はカワイイ服を着てオシャレしたいわけ」
「ふーむ、なるほど。そう言った方面の配慮は足りなかったか。疵人や闇森人の民族衣装やアクセサリー、アイリスが趣味で作った小物は…」
「あったのはウチの娘達がほとんど買い占めたわ」
「む、むぅ。そうか。しかし職人は育てるのに時間がかかるからな…」
「外から輸入するしかないんじゃない?『コントラ商会』に頼るのは癪だけど」
「でも、それじゃ割高になっちゃうじゃない。プレイヤーメイドで安く買う手段はないのかしらねぇ?」
彼女らが抱く不満のほとんど全ては買物関連であるらしい。これに関して私には妙案はなく、共に頭を悩ませることしか出来なかった。あまり買物についてこだわりがない私は困ったことがない分、解決策を思い付くことは終ぞないのだった。
次回は2月11日に投稿予定です。




