魔王国の方針
掲示板回と同時に投稿しております。
建国宣言を行ったからと言って何かが起きる訳ではなかった。ただメニュー画面に『建国されました』という文字が出ただけで、能力を取得した時のように運営からのアナウンスが届くこともない。ある意味拍子抜けではあったが、同時にホッとせずにはいられなかった。
その後は無礼講の宴となった。宴は五日間、リアルタイムでは丸一日と少しの間続いた。ログアウトしてから戻って来てもまだ宴が続いていた時には流石に呆れてしまった。
「さて、建国は成った訳だが…ぶっちゃけそれに縛られるつもりはない。基本的に自分達の行きたい場所を探索し、作りたいモノを作り、戦いたい時に戦う。基本的なスタンスは変えようとは思わん」
「そうこなくっちゃァなァ!面倒なこたァ雇った役人にやらせりゃいいもんなァ!」
「無責任にも思えますけど…」
「気楽に行こうよ!」
「うむうむ。それが良いじゃろう」
宴が終わった日、全員が集まったところで私はこれからの方針について皆に話しておいた。王様になったところで、私も皆もただのプレイヤーに過ぎない。それをゲームの中でも仕事に追われるというのは勘弁してもらいたい。
向き不向きから公職で大臣などを選ばなかった者は多いが、ゲーム内でも仕事をしなくても済むという利点があったようだ。大臣は各種族の有力者から均等に、適正のある人材を割り振っていた。
今のアルトスノム魔王国の国民が少ないこともあり彼らだけでも回していけるだろう。重要な決断は私がしなければならないが、煩わしい思いをするのが私だけならば別に構わないだろう。
「ただ、王国を揺るがすような問題が起きた場合はその解決を優先する。公職に就いた他のクランにはそう言う条件を出したのだから、我々が好き勝手するのは仁義に反するからだ」
「それはそうですよね」
「そんなことしたらアンとかは怒ってどっか行きそうよね。『私掠船軍団長』なんて肩書き、あっさり捨てそうだし」
ただし、有事の際はリアルの事情が許す範囲内で王国のことを優先しなければならない。公職を与えた他のクランにもその点については約束してもらっていた。
「大まかな方針については以上だ。次はクラン全体としての目標なのだが、実は私から皆に提案したいことがある」
「なんや、ボス?何かやりたいことでもあるんか?」
「ああ。皆にも教えたとは思うが、地獄のさらに底には深淵という空間があるらしい。そこを探索したいんだ…本格的にな」
私がやりたいこと。それは深淵の探索であった。地獄という特殊な空間の、さらに下にあるのが深淵である。この場所にアクセスする方法は今のところ閻魔城から向かう以外に知らなかった。
あまり活用出来ているとは言えない掲示板を使ってざっと調べてみたものの、深淵に関する話題は全くと言って良いほど見付からなかった。存在すら知られていないフィールドの探索…これにワクワクしない者がいるだろうか?
「本格的に、ということは入念な準備を行ってから行くと考えて良いのですね?」
「モッさんの言う通りだ。深淵に入ってみて感触を確かめつつ、深淵のために装備をしっかり整えて探索したい。理由は深淵への好奇心だけではないんだ」
「女神様に拝謁したい、ということですか。これは全力で挑まねばなりません!」
興奮し始めたミケロは放っておくとして、理由は彼の言った通りだった。攻城戦を行うイベントにて『光と秩序の女神』アールルは言ったではないか。私やミケロに加護をお与え下さった『死と混沌の女神』イーファ様は月か深淵にいるのだ、と。
せっかく自分に縁のある女神の居場所を知ることが出来たのだ。会いに行ってみたいと思うのは人の性ではなかろうか?
「深淵に行くってのは面白そうだから賛成だぜ。けどさ、その準備って急がなきゃダメか?」
「色々とー、やりたいことがあるんだー」
ここで手を上げて質問したのはセイだった。彼は深淵へ行くこと自体には賛成らしい。しかし、その準備の前に何かやりたいことがあるようだ。
それはウールも同じだったのか、セイに同調している。その質問に対する答えは既に決まっていた。
「急ぐ必要はない。さっきも言った通り、深淵は腰を据えて攻略したいと考えている。準備は入念に行うつもりだから、急ぐ必要はない。それぞれにやりたいことがあったらそちらを優先してくれ」
「あー、良かった。実はさ、俺と羅雅亜さんと邯那さんは疵人と四脚人が戦闘用の従魔をテイムしたいから手伝って欲しいって言われてたんだ」
「セイ君のためにもなるからね」
「ぼく達はー、アンちゃん達とー、ちょっと一般人を倒しに行くんだー」
「悪魔関連のクエストなんだよ!」
セイとウールは安心しつつ、自分達の用事についてそう語った。疵人には元々家畜を養う文化があり、機動力のある四脚人の一部がこれを手伝っている。街に住むようになってから家畜を増やしているので、これを守るための従魔を欲しているようだ。
そしてこれは羅雅亜の言うようにセイのためにもなる。セイが持つ公職の一つは『獣将軍』と言い、戦闘時に味方の従魔を強化するという効果があるからだ。『セイの従魔』ではなく『味方の従魔』であることが素晴らしい。何故ならカルとリンまでも強化されるからだ。
強化倍率はこれまで通り誤差の範囲ではあるが、積み重なればかなり強くなる。そのためにも公職を可能な限り埋めたのだから。
ウールや紫舟は悪魔関連のクエストをこなすためにプレイヤーを襲撃しに行くようだ。アンと共に向かうということは海上戦になるのか?いや、そうとも限らない。アン達はシャチに乗って移動する機動力によって海岸沿いにある村などを素早く襲撃して離脱するのも得意だからだ。
悪魔関連のクエストはクランメンバーにすら詳細な内容を明かしてはならない場合があるので、根掘り葉掘り聞くつもりはない。ウール達のやりたいようにやれば良いのだ。
「せっかくだしよォ、闘技大会も開きてェよなァ。アイリス達が気合い入れて色々仕掛けを作ったんだしよォ」
「ふむ…マック達に声をかけてみるか?模擬戦をしてみたい者達はいくらでもいるだろう」
「上様、ついでに国民の募集でもしてみるのも一興ではござらんか?そうすれば対戦相手を確保出来ますぞ」
「いやいや、時期尚早っしょ。余所者が来たら多かれ少なかれ問題が起きるよ。何があっても大丈夫なようにする前から募集をかけるってのは無理があるって!」
「し、しいたけがまともなことを言ってる…!まさか偽物!?」
「ルビー君!流石に失敬だぜ、チミィ!」
兄弟は完成した立派な闘技場を試してみたくてウズウズしている様子なので、私は呆れながらもこれを実現するための方策を考えてみる。そこで国民を一気に増やす方法をネナーシが提案したが、即座にしいたけが反論した。
しいたけは驚くルビーに憤慨しているが、私の意見も彼女と同じである。まだまだ、街の防衛に関してはザルに等しい。外部の者を呼び込むのは、各クランと協力して生半可なことでは揺るがない態勢を整えてからにするべきだろう。
「あ、そう言えば写真イベントの最終的な集計結果が出たらしいですね。イザームさんは何か貰ったんじゃないですか?」
「ん?ああ、報酬が届いていたな。いつの間にかランキングのかなり下位になったようだから、消耗品を貰っただけで言われるまで忘れていたよ」
内心で防衛力を高める方策について考えていると、エイジが写真関連のイベントについて尋ねてきた。確かに一時はリンの写真がランキング上位に載ったものの、最終的なランキングではギリギリ滑り込んだ程度だったらしい。運営からはポーション類の消耗品が贈られただけで、称号などは与えられなかった。
「組織票があったって話やからなぁ。最終的に一位やったのって例のアイドル配信者の写真やったんやろ?」
「そうそう。従魔の龍とのツーショットね。あざといくらい可愛さを押し出したヤツ」
「二位の写真とは接戦だったし、組織票がなかったらそっちの勝ちだったよね」
「二位の写真と言えば、ぼかしが入ってるけどイザームさんが写ってるじゃん。撮影者は何か謝礼をするべきだと思うぜ」
「…何だと?」
写真イベントについてはほとんど忘れかけていたこともあって、私はアイテムを受け取るだけで満足していた。だが、私が写っている写真が二位になっていると言われたら気になってしまう。私は思わず問い質した。
「『寛容』との戦いを隠し撮りしてた人がいたんすよ。んで、その人がイザームさんと勇者君が向かい合ってるとこをパシャっと撮ったらしいっすね」
「タイトルは『勇者と魔王』だァ…ウハハッ!全くその通りじゃねェか!」
シオが説明している間に自分で調べたらしいジゴロウは爆笑している。隠し撮りだと…そんなことをする奴がいたのか。そのためだけに隠れてついてきた、その根性だけは評価したいくらいだった。
それからは探索の計画などは気にせず、皆で雑談して過ごすことになった。明日からは本格的に動き出すぞ!
次回は1月14日に投稿予定です。




