アグナスレリム像の素材収集
ログインしました。半龍人達と話がまとまった後、彼らは早速が素材集めを開始した。そのための根回しとして、まずはアン達に案内を依頼した。
彼女達にとっては全く利益のないことだったので、当然ながら教えることを渋った。フェルフェニール様とは異なり、彼女達にはアグナスレリム様への恩義も思い入れもないのだから当然だろう。こうなることは想定内のことであった。
そこで得られた鉱石の一部を情報料としてアン達に渡すという条件で案内してもらうことになった。半龍人達には余分に働いてもらうことになるが、これは彼ら自身が望んだことでもある。これからも案内された地点で採掘することは可能なのだし、甘んじて受け入れてもらうしかないさろう。
次に向かったのは『メペの街』だ。そこは鉱人の街であり、半龍人の事情を話した上で戦う力が弱い子供達が安全に鉱石を採掘可能な場所があるなら教えて欲しいと訴えた。彼らは初めて会った時のように素早く情報を伝達し、すぐに受け入れると言ってくれた。
ついでに思い付きで社会見学的なノリについて尋ねると、いつでも来て良いとのこと。むしろ鉱人は我々の街に来るのに、どうして街側からはプレイヤーしか来ないのか疑問に思っていたらしい。
これは私達が住民達に鉱人達のスタンスについて周知していなかったことが原因だ。これを機に積極的に行き来するようになれば良いだろう。
どうやら住民達も安全に行けるのならば子供達を別の街へ観光へ向かわせることに抵抗はないようだ。新たに友達になった半龍人の子供達が『メペの街』へ行くことを自慢していたこともあり、多くの子供達が同行することを望んでいた。そこで希望者を全員連れて行くことに決まった。
「わぁ…!凄い凄い!」
「キラキラだ!」
「ツルツルだ!」
そして今日は子供達を『メペの街』へ連れて行く当日だ。この街は安全だし、採掘ポイントの周辺は街の外ではあるが頻繁に魔物を駆除しているらしい。それでも絶対に安全とは言い切れないので、護衛として複数のプレイヤーが同行していた。
その一人は当然私である。このなんちゃって社会見学を企画した張本人なのだから、責任を取るためにも同行していた。
「わぁ〜!高い高い!」
「ははは。それは良かった」
「あれ何〜?」
「さあね。後で聞けば…って、離れちゃダメでしょ」
同行者の一人はエイジである。見た目はそれなりに厳ついはずなのだが、彼は子供達に大人気だ。子供の扱いが得意なこともあり、今も保父さんのように子供達をあやしている。
その隣では兎路が好奇心のままに走り出そうとした子供の一人を慌てて制止していた。彼女自身は別段子供好きという訳ではなさそうだが、子供達の一部が彼女に懐いている。クールな雰囲気の彼女に憧れているらしい。一緒に来てくれとせがまれて、仕方なくついてきたようだ。それで来るあたり、彼女は割りとお人好しと言える。
「はいはい。探検は後から満足するまでやれるから、今は大人しくしとけよ?」
「わかった!マック兄ちゃん!」
「きいぃぃっ!何で兄さんばっかりぃぃ!」
「…そういうトコじゃないかなぁ?」
手を叩いて引率の先生めいたことをしているのは『不死野郎』のマックだった。色々な場所を探索していた彼らは、護衛を引き受けると同時にしばらく『メペの街』を拠点に活動するつもりのようだ。
マック達はその先遣隊を兼ねてここに来ており、護衛が終わったら滞在する物件の下見も行うらしい。ただ、子供が好きなのにそんな自分よりもマックが人気であることにサーラは嫉妬を顕にしている。兄に嫉妬するサーラにポップが冷静にツッコんでいたが、彼女の耳には届いていないようだった。
「うひょー!楽しみだにゃー!行くぞー!」
「「「おおー!」」」
「おおー、じゃありません。タマさんは煽らないで!みんなも勝手な行動は危ないからダメですよ?」
「「「はーい」」」
そして最後の同行者は『ザ☆動物王国』のタマと彼を抑えるためについてきたクランメンバーの一人だった。タマは出発直前に偶然遭遇し、面白そうだからとついてきた。何とも気まぐれな彼らしい行動だ。
それに振り回されるクランメンバーだが、コンベアというプレイヤー名の熊系の魔物だ。金属質の体毛による防御力と、車ほどもある体格から繰り出される膂力を活かして戦うパワーファイターである。純粋な筋力ではジゴロウどころかエイジをも上回り、カルと相撲がとれるほどであった。
そんな彼女は駆け出そうとしていたタマの首筋を噛んで持ち上げる。飼い主から逃げようとするネコのようにタマは四肢と翼をワタワタと動かすが、コンベアから逃れることは出来ない。一緒に駆け出そうとしていた多種族の子供達は、優しく諭した彼女に素直に従った。
「いらっしゃい」
「思ったよりもいっぱい。うれしい」
「歓迎、歓迎」
ホスト側となる鉱人だが、出入り口で盛大に迎え入れてくれた。感情の起伏が激しくないように見える彼らだが、それは見せかけに過ぎない。本質は好奇心が強いしお祭り騒ぎも大好きなのだ。
そこには多種多様な戦術殻も存在している。鉱人の乗り物であり仕事道具であり武器でもある戦術殻は、ロボットや重機を彷彿とさせる外見だ。子供達、特に男の子は非常に盛り上がってた。
やはりメカは少年の心をくすぐるらしい。年甲斐もなく私自身も惹かれるものがあるし、タマなどは雄叫びを上げて近付こうと翼を羽ばたかせる…のだが、コンベアは決してその口を放さなかった。
「よし、ここで別れよう。半龍人は私についてきてくれ」
「うっし。じゃあ街の見物と洒落込むか。いくぞ、ガキ共」
鉱人との挨拶もそこそこに、我々は早速行動に移ることにした。半龍人は採掘に、それ以外は街の見物に向かうのだ。せっかちなようだが、駆け足気味なのにも理由がある。それは、半龍人の子供達にも観光をしてもらいたいからだ。
これから何時でも行き来すれば良いのだが、ルビーや紫舟が強硬に反対している。その理由は、子供達の間で会話の内容についていけなくなると可哀想だということらしい。
確かに可哀想かもしれんが、そこまで気にすることか?しかも主張した本人達は急用で来られなかった。まあ任されたからにはやり遂げるまでだ。
そんなこんなで私達は『メペの街』から出立した。全てが金属で作られた街とはうってかわって、その外は真っ暗な洞窟だ。ライトも何もない洞窟は、夜目が利かない者に恐怖を植え付けることだろう。
「石ばっかり!」
「ゴツゴツしてる!」
だが、半龍人にとってはこの程度の暗闇は何ということはない。彼らはそこそこ深い水路で暮らしている。夜になればここ以上に暗くなるだろうし、何よりも大人達は暗い海の底へ採掘に向かっているのだ。恐れることは何もなかった。
それどころかチョロチョロと動き回る子供達を統率する方が難しいくらいだ。保護者として大人の半龍人も頑張っているが、抑えるので精一杯だった。幼稚園や小学校の教諭は毎日こんな思いをしているのだろうか?エイジがいなければ絶対に誰かが脱走して迷子探しが始まっていたことだろう。
「わあっ!大きい亀さんだ!」
「金色だね!キレイ!」
「ちっちゃい亀さんもいる!」
採掘ポイントを探してしばらく進むと、洞窟の脇道からヌッと大きな影が姿を表した。それは以前にも遭遇したことがある、黄金甲陸亀王というレベル90オーバーの魔物とそれが率いる亀の群れであった。
大人の半龍人は本能的に自分よりも格上の相手だと察したらしい。ギュッと槍を握り締め、何時でも戦えるように腰を低くする。臨戦態勢に入った彼らを、私は慌てて制止した。
「待て待て!あの亀は敵ではない!刺激するな!」
レベルのことを考えれば、今の私達ならば勝てるだろう。しかし、あの亀の魔物とは戦う意味がない。何故なら彼らは生きた状態で背中に採掘ポイントを有している上に、生きていなければ得られる鉱石の品質が下がるからだ。
そのことを説明してから、我々は黄金甲陸亀王を刺激しないように接近する。するとどうやら以前私が遭遇したことを覚えていたようで、向こうからゆっくりと近付いてきた。
「やあ、久しぶりだな。悪いが、また背中の鉱石を譲ってもらっても良いか?」
私の言葉が通じたようで、黄金甲陸亀王は四肢を折り畳んだ。やはり友好的で温厚な魔物であるらしい。王に続いて他の亀達も甲羅に乗りやすいように姿勢を低くした。
黄金甲陸亀王達の好意に甘える形で、子供達は亀の甲羅に乗って採掘していく。最初は遠慮がちに、しかし次第に亀達を気遣いながら採掘し始めた。
「亀さん、ありがとう!」
「お礼が言えて偉…イザームさん」
「ああ。何か来ているな」
亀の背中で採掘している最中だが、他の魔物が接近してきた。現れたのはこれまた以前に戦った鋼玉鱗大蜥蜴だ。その数は三体。今の私達からすれば多少防御力が高いだけの雑魚に過ぎないが…良い機会だ。
「戦ってみるか?」
「私達がですか?」
私が話し掛けたのは保護者として同行していた半龍人の戦士達である。レベル的にもちょうど良いし、何よりも変異した半龍人達の戦いを見てみたいのだ。
追撃とばかりに私が「子供達に良いところを見せるチャンスだぞ」と囁いたのが決定打となったらしい。彼らは前に出て鋼玉鱗大蜥蜴の群れと対峙するのだった。
次回は12月21日に投稿予定です。




