再び閻魔城へ その一
ログインしました。今日は昨日行わなかったリンの新たな力を見るべく、街の外へと出ることにした。速度を落としたリンの背中にまたがり、空を飛んでいる場所は地獄であった。
「まだ慣れないのか?」
「クルルゥ…」
「グオン!」
どこか落ち込んでいるリンに私が問うと、リンは弱々しく鳴き、一緒にいるカルは非難するかのように吠えた。地獄へ入るためにはフェルフェニール様の助力を得る必要があり、それはかの龍帝の口に一度入ることを意味している。私はとっくに慣れたのだが、リンとカルはまだ慣れていないようだ。
リンの機嫌を取るために彼女の首筋を撫でるものの、彼女の機嫌は一向に治らない。どうしたものかと悩んでいると、眼下に獄獣の群れを発見した。すると、カルとリンは二頭だけで目配せすると一気に急降下していく。おい、憂さ晴らしに暴れるってことか!?
「グオオオオオッ!」
「ギャイイン!?」
発見した獄獣は四足歩行の獣型で、ドロドロのマグマを衣のように纏っている。しかしながら、カルはその程度の熱量ならば無視して群れの真っ只中に突っ込んだ。マグマが飛び散り、獄獣の悲鳴が木霊する。完全な不意打ちが決まったようで、獄獣の群れは混乱していた。
獄獣が混乱から立ち直る暇など与えるものかと言わんばかりにカルは地上で暴れ続ける。元々あまり強くない方の獄獣だったのか、このままではカル一人で殲滅してしまいそうだった。
「クルルルル!」
しかしながら、リンは遠距離主体の能力構成だ。上空から魔術を降らせるのは私と同じくらいに得意であり、さらに進化した力を存分に発揮していた。
リンは口から聖光を連射している。大きくなったリンが開けた口と同じサイズなので、極太のレーザービームにしか見えない。ビーム兵器もこんな風に放たれる日が来るのだろうか?
リンはカルには当たらないように、それでいて獄獣には魔術を正確に撃ち込んでいる。予測射撃を外さないのは、これは前の進化で得た【龍眼】の力に他ならない。私が手を出す前に獄獣の群れはあっさりと殲滅されてしまった。
「全く、従魔が強過ぎるのも考えものだな。物凄く贅沢な悩みだという自覚はあるが…」
戦闘が終了したという情報だけが私の仮想ディスプレイに表示される。私は何もしていないのだから当然なのだが、能力の経験値が溜まらないのは問題だ。カルとリンを同行させる場合、もっと強敵がいる場所を探索しなければならないようだ。
しかし強敵がいる場所に行くということは、即ち危険と隣り合わせということ。仲間達と日程を合わせて向かうことになるだろう。
「グオオン!」
「クルルゥ!」
「…憂さ晴らしにはなったようだ。とりあえず、剥ぎ取りだけはやっておくか」
勝利の雄叫びを上げる二頭に安堵しつつ、私は倒された獄獣達を剥ぎ取っていく。今更この程度の獄獣から得られるアイテムに魅力を感じることはないだろうが、貧乏性から剥ぎ取らずにはいられないのだ。
実際に剥ぎ取ってみると思った通りに大したアイテムは得られなかった。しかしながら、最後の一匹からは少しだけ気になるアイテムがドロップした。
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獄獣の溶岩皮 品質:可 レア度:R
溶岩をまとう獄獣から稀に得られる皮。
魔力を通すと溶岩が滲み出る性質が残っている。
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無毛で艶々したオレンジ色の皮は、シリコンのような弾力がある。奇妙だが、ずっと触っていたい。そう思える手触りだった。
私の興味を引いたのはこの手触りなどではない。それはこの皮の特性だ。魔力を通すと溶岩が滲み出る…つまり、この皮を敷き詰めた場所に魔力を通すと溶岩溜まりが生まれるということ。これは溶岩魔人ばかりで構成されている『溶岩遊泳部』が暮らすのに十分な空間を作り出せるのではないか?
「久々にトロロンと連絡を取ってみるのも良いか」
魔王軍を名乗って街を襲撃した者達の中で、『溶岩遊泳部』だけは居住空間を確保出来ないという理由から断念せざるを得なかった。ある程度大きな溶岩溜まりがなければ弱体化を余儀なくされるのだからしかたがあるまい。
しかし、この皮があればトロロン達の拠点となり得る場所を作れるかもしれない。それに溶岩は地獄の至る所にあり、その力を利用する者達も多い。これまでのドロップアイテムにも似たようなアイテムがあった気がする。これらを用いればいい感じに何か出来るのではないだろうか?
「よし、リンの戦いぶりをもう少し見てから、閻魔城へと向かうぞ」
「グオオオン!」
「クルッ!」
それから再び我々は移動を開始した。その時にわかったのは、リンの戦闘力は近接戦闘においても格段に上昇したことだろう。【龍尾】は尻尾による攻撃に補正を与える能力だが、リンの長細く、槍の穂先めいた先端の尻尾は中距離から急所を正確に突き刺すのである。
これは【龍眼】による補整に違いない。生来のスピードに加えてリーチの長さ、【龍眼】による正確さ、【龍尾】という能力による武技が組み合わされば生半可な実力ではリンに近付くことすらかなわないだろう。
ただし、リンが慢心するようになってはならない。確かにここら一帯にいる獄獣を相手にするのならば無双状態だった。しかしながら、手練が相手だった場合は話が別だろう。少なくともジゴロウや源十郎が相手だった場合、一瞬で間合いを詰められてしまう姿が目に浮かぶようだった。
彼らほどの化け物でなくとも、エイジやマックなどの実力者ならば近付く手段をいくつも持っていそうだ。地獄から帰還したら、誰かと手合わせさせた方が良いだろう。きっと自分から近接戦闘を仕掛けようとすることはなくなるはずだ。
そして【龍癒術】の方だが、実際に使わせると想像以上の回復力だった。ただし魔力を大量に消耗するようで、連発は難しいらしい。カルの【龍魔術】と似たような性能であるようだった。
「そろそろ閻魔城へ向かうか。座標は…ここだな」
リンの力を把握力したところで、私達は閻魔城を目指して移動を開始した。目指す場所は当然ながら初めて閻魔城へ向かった時に通った穴である。穴の直径を考えるとカルとリンの巨体を通ることは出来ないが、【召喚術】が使える私は従魔を召喚することが可能だ。まず私だけで先行し、後から二頭を呼べば良いだろう。
行きはリンに乗った分、今度はカルの背中に乗って移動する。カルもリンも私を乗せて飛ぶのが好きなので、リンの機嫌を直すためとはいえずっと彼女ばかりに構っていると今度はカルが不機嫌になってしまう。カルにばかり我慢をさせたくないこともあり、バランスを取っているのだ。
「ここだ。降りてくれ」
「グオォ」
マップとにらめっこしながらチェックしていた座標に到達すると、カルに降りるよう指示をする。短く鳴いて返事をすると、カルはゆっくりと降下して着地した。
カルの背中から降りると、以前にも見た大きな穴がポッカリと空いている。一度は飛び込んだこともあるし、私は二頭に待つように伝えると躊躇なく穴の中へ身を躍らせた。
「…よっと。ふぅ、やはり勢い良く空中に放り出されるのは緊張してしまうか」
長い滑り台のような洞窟を滑り落ちた後、出口から空中に放り出された私は慌てずに浮遊してから着地する。そして従魔召喚の呪文を唱えてカルとリンを私のいる場所へと呼び出した。
同じ地獄とは思えない空間に、リンは驚いたようにキョロキョロと辺りを見回している。一方でカルの方はちょうど良いとばかりに溜まっている水に頭を突っ込んでガブガブと豪快に水を飲み始めた。いや、お前は本当に動じないな?
呆れるべきか感心するべきか悩ましいところだが、とにかく私は二頭と共に閻魔城へと向かう。短い一本道の洞窟を抜けると、そこには溶岩で満たされた堀に囲まれる閻魔城がその威容を誇っていた。
「さて、来たは良いもののアポは取ってないから…おや?」
どうやって中に入ったものか、と考えている私の前で閻魔城に入るための跳ね橋がゆっくりと降りていく。完全に跳ね橋が降りた時、跳ね橋の向こう側では十人以上の獄吏達が並んでいた。
獄吏の外見は酷似しているので、ほとんど違いがわからない。だが、私の直感がその内の一人が我々をここへ導いた人物であると語っていた。
「どうやら歓迎されているらしい。急ぐぞ」
「グオォ」
「クルル」
私達は跳ね橋の上を急いで通る。そして閻魔城の敷地へと足を踏み入れるのだった。
次回は12月9日に投稿予定です。




