進化と転職(リン編三回目)
「さて…リンよ。進化するか」
「クルルッ!」
「グオオゥ」
私はカルとリンを連れて城の中庭に来ていた。その目的はもちろん、リンを進化させることである。新たに来た三つのクランに顔を出して困ったことがないか尋ねていたのであまり探索に出られず、ようやくリンが進化するレベルになったのだ。
今回の進化によって、リンは遂に『劣』の文字が外れて一人前の龍になるはずだ。正直、楽しみで仕方がない。リンも一段強くなれる期待から機嫌が良い。同席しているカルも楽しみなのか、尻尾をビタンビタンと地面に打ち付けていた。
「賢樹、数枚の鱗はお前にやるからな。欲しいだろう?」
ガサガサガサ!
中庭に立っている賢樹は喜びを表現するように枝を揺らす。龍由来のアイテムを肥料に成長した。以前はそっと盗もうとしていたが、最初からちゃんと分け前があるとわかっていれば妙なことはしないだろう。
「リン。新しい能力はいるか?」
「クルゥ!」
「おっ、欲しいんだな。二つとも新しい能力が良いのか?」
「クルルゥ」
「一個で良いのか。ふむ…具体的な希望があるようだし、どの能力をどうしたいのか教えてくれるか?」
「クルルル!」
私はリンが所持している能力一覧を眺めながら、どれが良いのかを一つ一つ確認していく。そうしてリンは【知力強化】を進化させ、【尾撃】が使えるようになりたいとのことだった。
前者は魔術に関連するステータスであり、リンは私と同じ後衛タイプなのでそこをより強化しようと考えたのだろう。カルというゴリゴリに前へ出る龍の相棒としては最適と言える。
一方で後者は自分の近接戦闘のための能力だ。一見すると不要にも思えるのだが、私と同じく接近された際に最低限の備えが欲しいようだ。
特にリンの尻尾は長く、鞭のようにしなやかでありながら先端は槍のように尖っている。これを使いこなせば踏み込まれないように牽制することが出来るだろう。
私としては元々リンの希望を優先させるつもりだったし、彼女の選択は絶対に反対したくなる内容ではない。ならば彼女の要望通りに事を運べば良いのである。
「では、リン。進化させるぞ」
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従魔、ヒュリンギアの【知力強化】が【知力超強化】に進化しました。
従魔、ヒュリンギアが【尾撃】を獲得しました。
従魔、ヒュリンギアが進化を開始します。
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「クオオォ……クルルルル!」
私がメニュー画面を操作すると、リンの鱗がパラパラと剥がれていく。その下から現れたのは、磨き上げられた鏡のようにツルツルした鱗であった。カルの鱗は凹凸が多くてゴツゴツしているが、彼女の鱗は凹凸が少なくて滑らかである。戦う時の性格がそのまま現れているかのようだった。
全身は一回り大きくなり、全体的なシルエットに大きな変化はない。透き通った翼もそのままだ。ただし、一つだけ変化があるとすれば彼女の尻尾だろう。元から長かった尻尾はより長く、それでいて先端だけは大きく発達している。まるで槍の穂先であった。
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従魔、ヒュリンギアが白銀龍に進化しました。
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リンの進化先は、想像通りに『劣』の文字が取れた白銀龍だった。『白銀』の二文字がある通り、リンの鱗は美しい白銀である。龍の鱗としての性能は高そうだが、個人的には美術品にした方が良い気がする。それほどに美しい鱗なのだ。
剥がれた鱗も美しいので、一部はいつも世話になっているアイリスにプレゼントしよう。賢樹にあげる分と、研究用にアイリスとしいたけ、それに三つのクランにも少しだけ差し入れして残りで何か装備を作ってもらおうかな。
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従魔、ヒュリンギアが白銀龍に転職しました。
転職に伴い、ヒュリンギアの【治癒術】が【龍癒術】に変化しました。
転職に伴い、ヒュリンギアの【尾撃】が【龍尾】を変化しました。
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おっと、能力の成長の方向性はカルと大きく異なるようだ。ついさっき覚えたばかりの【尾撃】が進化したことは驚きだが、それ以上に面白いのは【龍癒術】である。その効果は【治癒術】を強化しつつ、【龍の因子】を持つ対象への【治癒術】の効果を大幅に上昇させることだった。
アイリスやジゴロウにはこれまで通りの効果しかないものの、カルや『八岐大蛇』のメンバーならば大抵の傷は一瞬で治せるのである。今まで以上にカルとリンを別行動させるよりも一緒に行動させるべきだろう。
ちなみに私も【龍の因子】を持っているが、同時に不死でもある。【治癒術】は私にとっては攻撃魔術でしかなく、効果が上昇している【龍癒術】など猛毒のようなもの。掛け値なしに即死してしまいそうだ。
今までも回復は自前かミケロに頼むかだったが、これからは間違ってもリンには絶対に頼めない。私だけではなく『不死野郎』の皆も同じこと。リンは私と彼らにとって、天敵と言っても良い存在になってしまった。心の底から味方で良かったと思う。
「クルル?」
「グルオォォ…」
リンの能力に感心していると、リンは新たな姿を見せ付けるようにカルの前でゆっくりと歩く。リンよりも二周り以上大きいカルは、じっとリンを見つめながら喉を鳴らした。
カルの鳴き声の意味はわからないが、リンはその反応に満足したのかカルの横に座った。二頭は翼を擦り合わせたり、尻尾同士を触れ合わせたりしている。何だか良い雰囲気だ。
正直、早速進化したリンの力を見てみたい。しかし、仲良く座っている二頭をこのままにした方が良いのではないかという思いもある。ふむ、進化したリンの初陣は明日以降にするか。
ガサガサ!ガサガサガサガサ!
「…そう急かすな。約束は忘れていない。ほら」
二頭の従魔を見守っていると、背後にいる賢樹が大きく枝を揺らす。こいつ、頭は良いのに空気は読めないらしい。欲望に忠実なだけか?いずれにせよ、リンの鱗が欲しくて欲しくてしょうがないようだ。
私は溜め息を吐きながら、リンの鱗を賢樹の根本にバラ撒いた。さらにその上から無尽蔵に流れ出る血液を掛けてやる。すると今度は嬉しそうに枝を揺らし、喜びを全力で表現していた。
「お前達はしばらくそうしていなさい。私は少し外に出てくる」
「グオオン」
「クルルル」
ガサガサガサ
カルとリンはいってらっしゃいとでも言うように尻尾を左右に振る。賢樹も喜びを表現するように枝を振っていた。二頭と一本に見送られながら、私は中庭を後にして外へ出た。
宮殿の外に出たのは良いものの、今日はリンの力を見る予定だったこともあってやることがない。さて、どうしたものか…。
「あれ?イザームじゃないですか」
「アイリスか」
ブラブラと広場に出たところで、私はバッタリとアイリスに偶然出会った。これはちょうど良い。プレゼント用に分けておいたリンの鱗を渡しておこう。
「ここで会えたのは運が良い。これを受け取ってくれ」
「これって…リンちゃんの鱗ですね!これなら…」
プレイヤー間のアイテム譲渡機能を用いてアイリスにリンの鱗を送ると、彼女は早速アイテムとして具現化した。銀色の鱗を見ながら、アイリスは楽しそうに作りたいモノを口に出している。何を作るか考えている時と好きなモノを作っている時のアイリスが一番輝いて見えるなぁ。楽しそうで何よりだ。
しばらくすると私が眺めていることに気付いたのか、アイリスは恥ずかしそうに触手をくねらせた。自分の世界に入っていたことが恥ずかしかったようだ。
「ご、ごめんなさい!私だけで盛り上がっちゃって!えっと、これで何を作って欲しいんですか?」
「いや、これはアイリス用だ。いつも世話になっている礼として受け取ってくれ。感謝の気持ち、という奴だ」
「えっ!?いいんですか!?」
「当然だ。むしろ受け取ってくれないと困ってしまう」
「なら、ありがたくいただきます。ありがとうございます!」
そう言ってアイリスは受け取ってくれた。これで断られたら恥をかくところだった。ところで、アイリスはこれからどこへ行くんだろう?折角だし聞いてみようか。
「アイリスはどこに行くつもりだったんだ?」
「研究区画ですよ。『マキシマ重工』が何か大きなプロジェクトを動かすから協力して欲しいって言われたんです。具体的に何をするのかはわからないんですけどね」
『マキシマ重工』かぁ…アイリスを呼ぶということは魔導人形に装備させる武具が目当てだろうか。『マキシマ重工』の目的はあくまでも魔導人形の製造であり、武具の製造はついでに過ぎない。武具の専門家であるアイリスの協力を取り付けようとするのは自然な流れと言えた。
『マキシマ重工』製の魔導人形は、ロボットとしか言えない見た目をしている。私の心の中にある少年の部分を刺激する外見であり、正直に言って格好良い。アイリスに便乗してついていくことにしよう。
私はアイリスに同伴して研究区画へと足を運ぶ。今日はまだ爆発などが起きていないのか、実験用の施設から煙は上がっていない。刺激臭もしないので、研究区画は珍しく平和を保っているようだ。
「ごめんください」
「おう、アイリスの嬢ちゃん…にイザームじゃねぇか。ちょうど良いぜ」
『マキシマ重工』の工場、その内部にある事務所へ私達は入る。するとそこには『マキシマ重工』の社員が全員と、ここにいるのはかなり意外な人物がいた。
「ちょうど良いというのは、ここにミケロがいることと関係あるのか?」
「その通りだ。実はミケロがよ、プレイヤーを魔導人形にする方法を見つけたってんだ」
「何?」
マキシマの答えに驚いた私とアイリスは、反射的にミケロへと視線を向ける。すると彼は肯定するように触手を動かすのだった。
次回は12月1日に投稿予定です。




