マッドサイエンティスト集団、襲来 その四
ログインしました。昨日はコンラートから頼まれた三つのクラン、『賢者の石』、『生体武器研究会』、そして『マキシマ重工』を出迎えた。彼らを見た時、意外と普通の者達だなというのが第一印象だった。他の街の一角を吹き飛ばしたり、墓地をグチャグチャにしたりととんでもないことをやっているのだ。外見からして奇抜な連中だと思うのも無理はあるまい。
だが、『賢者の石』のメンバーは研究員のように白衣で統一されていたし、『マキシマ重工』も全員が同じツナギを着ていた。『生体武器研究会』だけはドクンドクンと脈打つ独特の武器持っていたが、それ以外は暗い色のローブと魔術師ならば一般的とも言える服装だった。思っていたよりも常識的なのかもしれない。
「…と思っていたんだがなぁ」
「ハッハァ!たった一日でこれかよォ!やっぱ面白ェ連中じゃねェかァ!」
今日ログインしてジゴロウと共に様子を見に行った瞬間、やはり彼らは常識的とは言えない者達だったらしい。私の目の前の光景がその事実を如実に物語っていた。
昨日、彼らを連れて行ったのは街の北東に用意した空き地である。彼らを受け入れるにあたって、街中に拠点を置かれてはたまったものではない。しかし、身一つで外に放り出す訳にもいかない。そこで急遽あの空き地を用意したのだ。
鉱人に依頼して地面を均し、昇降機と地下道を作って行き来する方法を確立してから、街の修復用に用意していた素材を使って突貫工事で作ったのである。
建物を作らなかったのは、アイリスとしいたけが不要だと言い切った。その理由は二つ。一つは単純に時間が足りないから。そしてもう一つは、生産職であれば拠点は自分達で作りたいだろうからだった。
二つ目の理由の方が比重は大きかったようで、二人は自分であれば自分にとって最も使いやすいように設計した工房にしたいと思うと力説した。実際、二人には個人用の工房を作っているのだが、そこの設計やアイテムの配置は全て本人がこだわっている。室内の導線や頻繁に使う道具は、実際に部屋を使う者にしかわからないからだ。
そこで、彼らには予備の資材の一部を貸し与えて後は好きに拠点を拡張するようにと伝えていた。建築するのに人員が必要ならば、金銭を払って雇っても良いとも言っている。だから今頃は建築途中の風景が見られると思っていたのだ。
「何の遊びもないビルは、まあ、普通だな。もう既に城壁の向こう側に拡張した工場は、想定外だが、理解は及ぶ。だがなぁ…」
「ビクビク動いてんなァ。目と口もあるぜェ」
しかしながら、一晩開けてログインした私の目に飛び込んできたのは、既に完成した三つの建物だった。一つ目は愛想も何もないビルである。装飾のレリーフも何もない、ビジネス街に建っているようなビルである。
ビルは五階建てで、入口には『錬金術研究所』と彫られた石板が設置されていた。おそらくはパラケラテリウムが率いる『賢者の石』が使うのだろう。入口の文字が『錬金術研究所』になっているのは不思議だが、建物の大きさや形状は常識的だった。
二つ目は町工場としか言いようのない建物だった。二階建てか三階建てほどの高さはあるが、正面の入り口は天井に達するほどに大きい。内部は平屋のようになっていて、中では既に複数の作業用機械によって何らかの作業が行われていた。入り口に堂々と掲げられた『マキシマ重工』の看板がなかったとしても、ここが彼らの工場だと誰もがわかる外見であった。
問題はその工場で、どうやら城壁を崩して外まで伸ばしてあるのだ。城壁の外へとはみ出した部分を守るように新たな城壁は築かれているので、防衛面では問題はなさそうである。ここは彼らの自由に使って良いと言ったのだから、こうなるのは時間の問題だった。たった流石にたった一日で城壁の外まで敷地を伸ばすのは想定外だったが。
ただし、上記の二つは三つ目の建物に比べればかわいいものだった。私達を最も驚愕させたのは、『生体武器研究会』が建てた拠点である。何故ならその建物…と言って良いのかわからないソレは、明らかに生きていたからだ。
外から見たソレは三階建てのビルほどもあるピンクの肉塊であり、その表面には十を超える口と無数の眼球がある。牙が生え揃った口はパクパクと開閉しながら「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛…」と呻いているし、眼球はギョロギョロと忙しなく動き続けているのだ。どう見ても生き物である。
その内のいくつかは私のことをジッと見つめており、私は非常に居心地が悪かった。『生体武器研究会』と聞いていたので生体武器については調べている。それによると武器でありながら生物でもあり、経験値を積むことで強化される特殊な武器だという話だ。
しかし、その技術を使って建物が作れるというのは初耳だった。いや、本当に中に入っても大丈夫なのか?足を踏み入れると食べられてしまいそうなのだが…。
そんな疑問を抱く私の前で、肉塊の一部に縦の筋が入ったかと思えばその中から『生体武器研究会』のメンバーが現れる。出入り口は医療系のテレビ番組で見た胃カメラなどの映像で見た弁のような構造になっているらしい。そしてちゃんと拠点としての機能も果たしているようだ。
現れたメンバーは肉塊の口へと食材アイテムを次々と放り込んでいく。正直、見ているだけで頭が変になりそうな光景だが、事実なのだから仕方があるまい。
口をモグモグと動かすと、建物は歓喜の咆哮を上げながらボコボコと音を立てて肉が盛り上がっていく。すると建物は少しだけ大きくなったようだ。ああやってこの大きさまで育てたのだろう。私の中の建築の概念がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じる。
「よう、イザームにジゴロウ。そりゃ、そんな反応になるよな!」
肉塊を呆然と眺めている私に声を掛けたのはマキシマだった。きっと工場での作業中に我々を見かけたのだろう。溶接作業用のマスクを被ったままなのがその証拠である。
「ああ。あれをプレイヤーが作れるという事実に驚いているぞ」
「俺もビビったぜ。最初にミミの奴が拳くらいの肉団子を地面に置いた時から嫌な予感はしたんだけどよ、その上に何か緑色でネバネバしたモンをブッ掛けたんだ。そしたら一気に家くらいの大きさになってよ。後は定期的にメシを食わせてるっぽいぜ」
「そんなやり方なのかァ。便利なモンだなァ、おい。メシさえ用意できりゃァ、アイツ等だけで街くれェ作れんじゃねェかァ?」
ジゴロウは感心しながらそんなことを言うが、ピンク色のうめき声を出す肉塊が乱立した街など悪夢でしかない。そんな場所で長時間過ごしていたら、私は正気を保っていられる自信はないぞ?
マキシマも私と同意見だったようで、マスクを外した顔には苦笑を浮かべている。むしろジゴロウは気にならないのだろうか?肝が太すぎるぞ、お前は。
「あれも凄いが、そっちも別のベクトルで凄いじゃないか。たった一日で工場を作るとは思わなかったぞ。しかも城壁の敷地の外まで拡張するとは恐れ入った」
「張り切ったってのは事実だぜ。いつか工場を自分達で建てた時のために、図面だけはクランを作った時に俺達で引いてたからよ。テンション上がって一気に外側だけは完成させたんだ。今は中の整備中ってとこだ」
おお、アイリスとしいたけの言った通りだ。自分達にとって使いやすい工場の設計図は作っていたらしい。こっちが建物を用意していてもきっと改造して似たようなモノにしていただろうが、あえて空き地にしていたことでその手間が省けたようだ。
「それと、城壁の外の部分は頑丈なだけで中は空っぽなんだぜ。あそこは実験場にする予定でな、内側にゃパラケラのとこに頼んで補強する薬を都合してもらうことになってる」
「ほう。周囲の被害を最小限に抑えるためか」
「おう。俺達も今度は追い出されねぇように気合い入れてんだぜ」
城壁に穴を開けて突き出した部分は実験場として用いることで、仮に大爆発が起きたり魔導人形が暴走したりしても城壁の内側にまで被害が及びにくくなる。もしも彼らだけでは対処できない事態になったとしても、外にあることで誰かの応援が到着するまでの時間稼ぎにはなるだろう。
余程他者の迷惑になることをしない限りは追い出すつもりはなかったが、彼らも今度こそ厄介払いされるような事態にならないように備えているようだ。これだけ気を使っているのなら、きっと大丈夫だろ…
ドゴオオォォォォン!!!
…安堵しかけた時、最もまともそうに見えるビル、『錬金術研究所』の五階部分が爆発した。窓ガラスは全て内側から吹き飛ばされ、見るからに危険そうな深緑色の煙がモクモクと立ち上っている。
「ゲホッ!ゴホッ!」
「ヒィ、ヒィ…ブベェッ!?」
爆発の直後、一階からゾロゾロと白衣の者達が転がるようにして現れる。最後尾には何故かしいたけがおり、彼女は入り口から出た瞬間にそのまま転んでしまった。
「なんでアイツがいんだァ?」
「さしずめ、同じ【錬金術】を使う者同士で意気投合した…と言ったところだろう」
当然のようにここにいたことから、しいたけが『錬金術研究所』に入り浸るのは間違いないだろう。マッドサイエンティストの集団にマッドサイエンティストが合流したのだ。爆発の一つや二つ、起きてもおかしくないだろう。
ただ、爆発が起こるような実験は実験場が完成してから行って欲しい。私が切実に願っていると、隣にいたマキシマは難しい顔付きになっている。きっと彼も同じことを考えているのだろう。
「ガスが出ることは考慮してなかったなぁ。空調設備も付けとかねぇと」
マキシマは爆発するような実験をしたことよりも、それが発生させるガスの処理について思考を巡らせているようだ。そう言えばお前もあっち側だったなと思いつつ、私は深い溜め息を吐き、そんな私の肩を兄弟はポンポンと叩くのだった。
次回は11月23日に投稿予定です。




