マッドサイエンティスト集団、襲来 その二
「…この港町を一から作ったと?プレイヤーが?」
「頑張ったんですねぇ。フフッ」
「コンクリートを作る素材があるのか!こりゃ期待出来るぞ!」
アン達に護衛されながら、『コントラ商会』の商船はティンブリカ大陸の港町に帰港した。水夫達は手慣れた様子で荷下ろしを始め、街にいる者達もまたその受け入れを始める。この光景は既に彼らにとって日常となっているのは明白であった。
そんな中で三つのクランのメンバーは物珍しそうに周囲を眺めていた。彼らから見ればプレイヤーが主体となって作った街など初めて見る上に、その街が思っていたよりも立派な作りだったからだ。
秩序正しく並ぶ建造物と、そこに刻まれた美しい装飾。広すぎず、かと言って狭すぎない計算された道の広さ。商人であるコンラートが重視する物流だけでなく、装飾という遊び心まで見せる余裕。彼らは感心せずにはいられなかったのだ。
「いらっしゃい。よく来たわね」
「ゲェッ!?あ、アルテミス!?」
まるで地方から上京したてのお上りさんのような仕草をする一行に話しかけたのは、巨大な弓を背負ったビキニアーマーを装備する大柄で筋肉質な男…『Amazonas』のママことアルテミスだった。数人のクランメンバーを引き連れて買い物をしている途中だった彼女だが、その顔に驚きの色はない。彼らが来ることを事前に聞いていたのは確実だ。
そんなアルテミスを見て動揺しているのはマキシマだった。一方でアルテミスはマキシマの顔を見た瞬間にその顔に凄みのある笑みを浮かべる。満面の笑みではあるが、彼女の目は全く笑っていなかった。
「あらぁ…久し振りねぇ、マキシマちゃん。元気だったかしら?」
「お、おう」
「ところで…アタシ用の大弓はちゃんと完成してるんでしょうね?」
アルテミスの問いにマキシマは無言で視線を反らした。その仕草が全てを物語っていたのだろう。アルテミスはその笑みをより深くしながら一歩、前に進む。そこから距離を取るように、マキシマは半歩だけ後ろに退いていた。
「まさか、完成してないだなんてことはないわよねぇ?自分から技術を売り込んで来たんだから」
「うっ!」
アルテミスとマキシマの縁の始まりは、マキシマが自らアルテミスの大弓を作らせて欲しいと頼み込んだことに始まる。マキシマがアルテミスに声を掛けた理由は二つ。一つは魔導人形作成の資金を稼ぐため。そしてもう一つは魔導人形に搭載する武器の試作だった。
『マキシマ重工』の目指す魔導人形は、近距離でも遠距離でも戦える武装を積むことになっている。そのノウハウを確立させるべく、アルテミスに自分達の技術を売り込んだのである。
「素材もお金も、全部先に渡してたでしょ?素材に関しては試作品を作りたいからって多めに渡したっけね」
「うぅっ!」
マキシマの足を使った営業と彼の熱意を評価したアルテミスは、マキシマが試作に必要だと言う素材と相場よりも少し多めの制作費を彼に渡した。その余剰分の金と素材が魔導人形のために使われたのは言うまでもない。
「もうすぐ受け渡しって時にあの事件を起こしちゃったのはダメよねぇ。アタシ達も勘違いからお尋ね者になったし、二度と会えないと思ってたわ」
「ううぅっ!」
ただ、マキシマ達はアルテミス用の大弓もちゃんと完成させていた。彼女がそれまで使っていた大弓よりも強力な、彼女を満足させるに十分な性能であったと自負している。
しかし受け渡しの直前に行った魔導人形の起動実験で全てがご破産となった。逃げ出したマキシマ達がアルテミスに大弓を渡せるはずもなく、アルテミスはマキシマ達の居場所がわからないので受け取りに行くことなど不可能だ。
しかし、彼女らは再会した。冤罪から逃げ出し、受け入れられた先で、アルテミスはマキシマ達と出会ったのである。彼女は新入りが来るとは聞いていたが、それがマキシマ達だとは事前に聞いていない。それ故にここで出会ったのは偶然であり、奇妙な縁だと思わずにはいられなかった。
「それで、会えたんだからキッチリ大弓を渡してもらえないかしら?」
「そっ、それがよ…実は、もう手元にねぇんだ…」
「ふん、どうせそんなことだろうと思ったわ。大方、匿ってもらうための金を工面するのに売り払ったってところでしょ」
「うううぅっ!」
自分のやったことを言い当てられたマキシマは、額に冷や汗を浮かべながら視線を彷徨わせた。もう会うこともないとたかを括っていたマキシマ達は、アルテミスのように武具作成の依頼を受けて作っていた作品を匿ってもらうための費用を捻出するために売り払っていたのだ。
相手はもちろん、彼らを匿っていたコンラートである。彼は買い叩くこともなく、適正価格で買い取っていた。だが、彼らの存在を徹底的に隠すにはそれでは足りない。不足分を補填するため、三つのクランに投資しつつ、自分の商会で売る商品を作らせていたのである。
「それで?調子に乗ってコンラートちゃんが用意した潜伏先でもバカやらかして、どうしようもなくなったからここに連れて来られた…違う?」
「ううううぅっ…その、通りだ…!」
ただ、彼らは安全な場所にいたことで調子に乗ってしまった。商品作りとは別に自分達の作りたいモノも作っていたのだが、再びその起動実験で騒ぎを起こしてしまい、これまでの潜伏先が使えなくなってしまったのである。
大体のことを言い当てられたマキシマは項垂れながら肯定することしか出来ない。同時にパラケラテリウムとミミもバツが悪そうに視線を反らす。残りの二人もまた、ほぼ同じ流れでここにいるのだ。自分達のことを詰られているようで居心地が悪かった。
「全く、これだからマッドってのは…その反応から見てそっちの子達も似たようなことやったんでしょ?はぁ〜、イザームちゃんも大変だわ」
ため息の後に続く同情の一言は小さく、マキシマ達には届かなかった。しかし、すぐに気を取り直したアルテミスはその笑みから威圧的な雰囲気を消し、一転して優しげな微笑みを浮かべた。
「大弓の件は置いときましょ。とりあえず歓迎するわ。多分迎えが来ると思うんだけど…あ、来たわね」
周囲を見回していたアルテミスだったが、彼女の視点は彼女から見て右上に向いている。マキシマ達がその視線を追うように自分達の背後の空を見上げると、そこには何本もの触手を持つ眼球が浮かんでいるではないか。
その左隣には白い羽毛で錫杖を携えた山伏のような服に身を包む烏天狗が、右隣には筋肉質で巨大な蝙蝠が飛んでいた。彼らには見覚えがある者も多い。何故なら、彼らは闘技大会の本戦に出場していた魔物プレイヤーなのだから。
「ここはアンタ達の知的好奇心をくすぐるモノが一杯あると思うわ。けどね、あんまりオイタをするようならどうなるか…わからないわよ?」
アルテミスは不穏なことを言い残すと、じゃあねと言って去っていく。彼女達と入れ違いになるタイミングでミケロと七甲、そしてモツ有るよの三人は彼らの前に着地した。
「皆さん、こんにちは。私はミケロ。皆様をご案内するように仰せつかっております。こちらへどうぞ」
今では魔物プレイヤーとのコミュニケーションを円滑にしたい者や友好的な魔物と取引したいと思ってる者は、【言語学】の能力を持つことは必須とされている。魔物プレイヤーとの取引もあったので、ここにいる全員が【言語学】を持っていた。それ故にミケロが何を言っているのかはちゃんと伝わっている。
最も不気味な外見をしているミケロだが、その言葉遣いは丁寧であった。どうやら中身はまともな人物らしい、と彼らは安堵していた。その際、中身に問題があるから逃亡することになった自分達のことを棚に上げていたのは言うまでもない。
七甲とモツ有るよの二人もまた、気さくで話しやすい人物だった。三人に先導された一行は、連れて来られた場所を見て再び驚くことになる。何故なら、港町から一本の水路が内陸に向かって伸びていたからだ。
「すっ、水路?元々あった遺構を利用した…様子はない。随分と新しい」
「そら新しくて当然やろ。ワイらで作ったんやから」
「作ったって、すごい労力がかかったんじゃないですかぁ?」
「ええ、大変でしたよ。ウチのクランマスターも、最後の方は無言で作業していましたね」
懐かしいです、とモツ有るよは当時のことを振り返っていた。しかし、新たにここへ来た者達はほぼ全員が生産職だ。気軽に大規模な治水工事など出来ないことを知っており、それを実行するだけのマンパワーがあることは疑いようもなかった。
どうやら自分達が知らない大規模なクランがここを拠点にしているらしい。だからこそ、彼らの興味はそのクランマスターに向けられた。誰にも知られず、どこにも負けないほどの人数を抱えるクランをまとめ上げる人物とは一体何者なのか。気にならない方が無理というものだ。
「じゃあこの船に乗って下さい。皆さん、急ぐ必要はありません。ゆっくり牽引して下さいね」
「「「はいっ!」」」
「「「!?」」」
ミケロは水路の桟橋に留めてある、誰もいない大きなボートに話しかける。すると、水路の中から数人の魔物が現れたではないか。
水路の中に魔物がいることや、当然のように友好関係を結んでいることも驚きであるが、彼らが最も驚いたのはそこではない。その魔物達には明らかに龍の身体的特徴があることだった。
「質問しても良いか?」
「ええ、どうぞ」
「彼らは何者なんだ?」
「半龍人の方々です。ああ、誰かの従魔という訳ではありませんが、仮に手出しをすれば我々が全力をもって報復しますのでお気を付け下さい。他にも質問があるのなら、移動しながらお答えしますよ」
我慢出来ずに尋ねたパラケラテリウムに、ミケロは変わらぬ丁寧な口調で答えた。危害を加えた場合の警告をするときもその口調は変わらない。しかし、だからこそ冗談でも何でもないとパラケラテリウムは直感した。
促されるままにボートに乗りながら、彼らはこれからどこへ連れて行かれるのか想像せずにはいられなかった。船に乗っていた時に抱いていた期待と不安。その両方がどんどん膨れ上がっていく。それを止めることは誰にも出来なかった。
次回は11月15日に投稿予定です。




