龍の因子と危険な客人
掲示板回と同時に投稿しております。
ログインしました。蜥蜴人達が半龍人となった後、私達は彼らの身の振り方についてどうしたいのか尋ねた。湖に戻りたいのなら送り届けるし、我々の街で暮したいのならば歓迎する。彼らの意志で決めるように言った。
すると彼らは満場一致で私達の街へ来ることに決めた。彼らに集落への愛着はない訳ではなかったが、戻っても集落を一から建て直さねばならないし、何よりもアグナスレリム様のことを思い出してしまう。それ故にここに残ると決めたようだ。
そうと決まれば建築…とはならなかった。どうやら彼らは元々沼地に住んでいたのだが、アグナスレリム様のご遺体を使って半龍人となったので水中で生活することを最も好む存在になっているようなのだ。
【鑑定】させてもらうと、彼らの種族は半水龍人となっていた。それは納得なのだが、驚いたのは彼らの種族レベルである。何と彼らのレベルは大人が70、子供が60となっていたのである。
種族を変異させる儀式は、龍王の肉体を使ったこともあって彼らを強化していたらしい。ただし、彼らの能力のレベルは上昇していないので、肉体の強度に技量が追い付いていない状態なのだと思われる。これから追い付くように経験を積めば良いだろう。
閑話休題。半龍人達は水中、すなわち街に通してある水路の底で暮らすことにしたのである。確かに水路はそれなりに広く、それでいて喫水の深い船を迎え入れられるように水深も深い。全員が住むには十分な広さがあるようだった。
水中に家が必要かとも思ったのだが、特に必要ないそうだ。水さえあれば問題ないらしい。むしろ家などよりも水中にアグナスレリム様の像を設置する許可を求められたほどだった。
もちろんそのくらいならば好きにして良いと行った。それどころか船の航行を妨げず、水路を勝手に傷付けないのならば住みやすいようにしても構わないと言っている。水中がどうなるのか、今から楽しみだ。
ただ、アグナスレリム様に世話になった身としてはそれだけでは心苦しい。そこで最初に名乗りを上げたのはアイリスである。彼女はフェルフェニール様に渡された素材によって我々の装備を強化する合間に、半龍人達のために武器を作ると言い出した。
そこへ続いて手を上げたのは私だった。私にはアグナスレリム様の像を作ることにおいて、一つ心当たりがある。彼女の力を借りればきっと素晴らしい作品が完成するに違いない。費用は私持ちで作ってもらうとしよう。
新たな住人となった半龍人を他の住人に紹介したところ、彼らは温かく受け入れていた。故郷を追われて信仰対象を失ったことは同情に値するし、普通なら恐ろしいと思う外見も街の住人はカルやリンで慣れている。拒絶されることはなかった。
まだ一日しか経過していないにもかかわらず、私の前では様々な種族の子供達が半龍人の子供達に泳ぎを教えてもらっている。大人達も早速強くなった身体能力を活かして漁を行い、それを売って金銭を得ていた。中々の順応力である。
「それにしても変わったなぁ…もちろん、良い方にだが」
「ヒヒヒヒヒ!そうでござんしょう?」
私が感心しつつ眺めていたのは、『八岐大蛇』のウロコスキーである。巨大な蛇だった彼だが、今の姿は大きくことなっている。それは頭部から伸びる二本の角と、四本の脚だった。
そう、彼に角と脚が増えているのである。これは蛇足などではなく、鋭い爪で引っ掻いたり武器を握ったりと十分に戦力として使えていた。
フェルフェニール様からの報酬を受け取れなかった『八岐大蛇』のメンバーだったが、全員がログインしたところで即座に儀式を受けたらしい。フェルフェニール様の力の一部を分けてもらうことで、念願の龍の力を得たのである。
元々は全員が蛇だった彼らは、大別して三つの種族になった。一つ目は蛟という、ウロコスキーの系統の種族だ。いわゆる東洋の龍であり、蛇のような身体に四本の短い脚、頭部からは角が生えている。翼はないが飛行は可能であり、水中での動きも得意とウロコスキーは言っていた。
二つ目は蛇龍、私が倒してその骨を自分の身体に合成したアレである。アレはパッと見ただけでは大型の蛇にしか見えなかったが、レベルが90を超えている『八岐大蛇』のメンバーだと『劣』でも『小』でもない。成熟した蛇龍であり、その姿は龍の証である角を持つ、頭部の付け根から蝙蝠のような翼を持つ蛇だった。
蛟との違いは翼と脚の有無であろう。前者は道具を持つことが可能となったことで戦闘の幅が広がり、後者は翼があるからか飛行の速度と小回りでは圧倒的に上だ。得意不得意がハッキリ分かれていた。
そして三つ目は多頭龍である。これは複数の角が生えた頭部に、ガッチリした胴体、そして太い四肢を持つ変わった姿をしている。一応背中に小さな翼はあるものの、前述した蛟と蛇龍のように飛行は得意ではない。あくまでも移動の補助くらいにしか使えないようだ。
ただし、地上戦では無類の強さを誇る。首をいくつか失ったとしてもすぐに戦える再生力に加え、値が跳ね上がった体力によってそう簡単には死ななくなっていた。しかもサンゴノジョウを含めた毒に特化した者達が多頭龍となっていて、しぶとく生き残りながら毒をまき散らす戦っていてとても嫌な相手になっていた。
特に危険なのは例に挙げたサンゴノジョウである。小さな蛇だった彼はそのサイズは変わらなかったし、頭部の数は五本しかない。それに脆いという弱点も健在だ。
しかしながら、即死させない限りすぐに治癒が終わる再生力と…何よりも超がつくほど危険な毒液を射出する口の数が五倍になったのが単純に強過ぎる。それが蛟や蛇龍となった仲間に守られながら戦うのだから、『八岐大蛇』で最も脅威なのは彼で間違いない。
「龍そのものになれたら良かったんでござんすがねぇ」
「贅沢を言うな。龍の強さは破格だ。プレイヤーがなってしまうとバランスが壊れすぎる。それに【龍の因子】があればアレも使えるだろう?」
「ヒヒヒ!その通りでござんす」
アレというのはもちろん、龍息吹のことである。【龍の因子】を持つ者の切り札であり、『八岐大蛇』のメンバーは全員がこれを放つことが可能になったのだ。
恐らくだが、単純な戦闘力だけならば最強のクランになっていると思う。それだけの力を得ておきながらこれ以上贅沢を言うのはワガママが過ぎるというものだ。
「これからもフェルフェニール様の依頼は継続して受けるんだろう?」
「当然でござんす。力を受け取って『はい、さいなら』ってんじゃ仁義にもとるってなモンでござんすよ」
「ならこれからも地獄の探索がメインになるのか。ならばシンキから色々と聞くと良いだろう。言うまでもないことだろうが…おっ、来たか」
そんな私達が話していたのは水路の前だった。水路を進むのはコンラートの持つ船であり、当然ながらコンラート本人も乗っていることだろう。
船が入ってきたところで、水路で泳いでいた子供達は邪魔にならないように避けている。ふむ、いつか船にぶつかる事故が起きそうだ。何か対策をするべきだろう。
「やあ、イザーム!大活躍だったみたいだね!なんか新しい種族も増えてるし、順風満帆ってところかな?」
「そういうお前も、その様子だと随分と稼いでいそうじゃないか」
船から降りてきた上機嫌なコンラートと私は、軽口を叩き合いながらガッシリと握手を交わす。何にせよ、お互いに順調なのは良いことだ。
「うん、バッチリだよ。それでね、ちょっと相談したいことがあるんだ」
「と言うと?」
「僕もこう見えて知り合いが多いんだけどね、その中に今ちょっと困ってるクランがいくつかあるんだよ。その人達の面倒を見てくれない?」
いや、商人なのだから顔が広いのは当然だ。むしろ長いことこの大陸に居座っている我々は知り合いがかなり少ない。羨ましいと思うのと同時に、疑問もある。それはどうしてわざわざ私に話を持ってくるのか、だ。
水路で繋がる港町は私達とコンラートの共有物的な状態なのだから、そこを貸してやれば良いはず。それをしないということは、何か曰く付きのクランなのではないか?
「正直に言え。何をやらかした奴らを連れてくるつもりだ?」
「やらかすだなんて、ヤダなぁ!ただ実験の余波で街の四分の一をふっ飛ばしたクランと、未完成の死者蘇生の薬を墓地の死体で試したら全部不死にしちゃったクランと、ロマンを詰め込んだ魔導人形を作ったら暴走させていくつかのプレイヤーハウスをぶっ壊して賞金かけられてるクランってだけじゃないか!」
「…それでやらかしてないなら、逆に何をしたらやらかした判定になるんでござんすか?」
絶句してしまった私の代わりに半眼になったウロコスキーがそう言った。いや、何だそのマッドサイエンティストの集団は?ひょっとしたら私達以上に問題行動を起こしているんじゃないか?
おそらくだがその連中からほとぼりが冷めるまで匿うように依頼されたものの、持て余してしまったのだろう。話を聞いただけでもヤバい連中であることは間違いないのだから。
「秘密は守れるのか?」
「そこは大丈夫。頭の中はぶっ飛んでるけど、仁義は通す連中だ。面倒を見てくれる人を裏切ることはないよ」
「…約束は出来んが、アイリス達に相談しておこう」
「お願い!受け入れてくれるなら謝礼は弾むからね!」
コンラートは私に懇願してから、荷下ろし作業の指揮に移った。マッドサイエンティストばかりのクランを、一気に三つも引き入れて大丈夫だろうか?私は一応、皆と相談するべくメッセージを送るのだった。
次回は11月7日に投稿予定です。




