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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十章 古代兵器争奪戦
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古代兵器争奪戦 その十五

ーーーーーーーーーー


戦闘に勝利しました。

称号(タイトル)、『古代兵器『寛容』討伐者』を獲得しました。

討伐報酬として全員に100SPが贈られます


ーーーーーーーーーー


 頭の中に鳴り響くアナウンスから、どうやらアグナスレリム様の命を張った作戦は成功したらしい。その肉体の頑健さにモノを言わせて自らを囮とし、身動きを止めたところで私達が確実に息の根を止める。動かなくなれば、大きいだけの昆虫に過ぎないのだ。


 『寛容』を討伐したことで、私は新たな称号タイトルを得た。称号タイトルの内容から考えて、最後まで生きていた者達全員に与えられたのだろう。報酬として与えられたSPは膨大であり、人類プレイヤーも魔物プレイヤーも大喜びしていた。


 ただ、そんなことよりも私の気がかりはアグナスレリム様の状態だった。想像以上に彼の負ったダメージは甚大だったらしい。カルの尻尾によるダメージもあるのだろうが、それ以上に『寛容』の顎が急所を深く抉っていたようだ。


 アグナスレリム様は苦しそうな表情で湖面に力なく浮かんでいる。その状態に胸騒ぎを感じた私は、恐る恐る容態を尋ねた。


「だ、大丈夫ですか?」

『平気じゃない、かな。しくじったよ…これは命に届いているだろうね。油断したなぁ…』

「なっ!?」


 私の具合を尋ねたアグナスレリム様の返答は、思いもよらないものだった。アグナスレリム様が、死ぬ?何故だ!?せっかく『寛容』という脅威に勝利したというのに!


 アグナスレリム様は無言で顎先で『寛容』によって噛み付かれた傷口を指し示す。するとその傷は塞がるどころかどんどん広がっていたのだ。


 私は慌てて【魂術】を用いて治療しようとする。だが、その傷は塞がる気配すらみせずに広がり続けるではないか!私の【魂術】が未熟なのが原因に違いない。急いでミケロを呼ばなければ!


『無駄だよ。これは『寛容』の顎から分泌される体液が原因だ。何でも食べられる力を支える、あらゆるモノを分解して消化吸収する。この身体も例外ではないようだね』

「ならば早く対処しなければ!」


 アグナスレリム様の身体を蝕んでいるのは『寛容』の胃液的な成分であるらしい。ならばそれを摘出すれば良いのではなかろうか。まだ命を諦めるには早いはずだ。


 諦めるなと言う私に対して、アグナスレリム様はゆっくりと首を横に振る。何をしてももう無意味なのだ、と。


『自分の身体のことは、自分が一番よく知っているさ。体液が全身に広がっていくのを感じる。身体の大部分は残るだろうけど…内側から臓腑を溶かされてはどう足掻いても無駄だだろうね』

「そんな…!」


 あまりのことに私は絶句しながら後悔せずにはいられなかった。アグナスレリム様が身体を張ると言った時、もっと良い作戦を思い付いていればこんなことにはならなかったからだ。


 自分の不甲斐なさに奥歯を噛み締めていると、アグナスレリム様は言った。思い悩む必要は微塵もない。何故なら、自分は誇りを抱いて死ねるのだから、と。


『アルマーデルクス様より託された封印の使命は果たせなかった。でも、あれの存在を消滅させることに成功したんだ。他者の力を借りたのだとしても、やり遂げたことには変わりない。きっとお褒め下さるだろう』

「…ええ、そうでしょうとも」


 私は察してしまった。アグナスレリム様は死ぬことを受け入れてしまっていることに。だからこそ、生きることに執着するように説得したところで徒労に終わることに。


 アグナスレリム様と初めて会った時、(ドラゴン)の因子を持つ魔物を倒したと言っても全く動じていなかったことを思い出す。彼の死生観はかなりドライだ。自分の生死に関してもそうなのだろう。


 むしろ誇りを抱いて死ねることを喜んでいるようにも見える。ならば私に出来ることと言えば、その遺言を最後まで聞き届けることくらいだった。


『だから死ぬことに悔いは…ああ、いや。一つだけあるかな』

「それは?」

蜥蜴人(リザードマン)達のことさ。あれだけ慕ってくれていたんだ。情くらい湧くよ…ねぇ。最期に頼みを聞いてくれるかい?』


 アグナスレリム様の心残り。それは彼のことをずっと信仰していた蜥蜴人(リザードマン)達のことだった。彼らの集落は焼き払われており、現在は我々が保護している。これからどうするのかはアグナスレリム様を交えて話し合うつもりだったのだ。


 しかし、肝心のアグナスレリム様がこんなことになってはどうして良いのかわからなかった。それがアグナスレリム様の遺言だというのなら、絶対に叶えなければならない。何故なら、私達はアグナスレリム様の友なのだから。


「どのようなことであれ、必ずや成し遂げてみせましょう」

『何、難しい話じゃないさ。私の死体と蜥蜴人(リザードマン)達をフェルフェニール様のもとへ連れて行ってくれ。そうすれば後は彼がやってくれるから』


ーーーーーーーーーー


緊急クエスト:『水龍王(アクアドラゴンロード)の遺言』を受注しますか?

※受注しなかった場合、二度と受けられません。

Yes/No


ーーーーーーーーーー


 アグナスレリム様が頼むや否や、私の前にクエストの受注画面が現れた。簡単に言うが、私達でなければ難しいクエストである。アグナスレリム様の遺体を運ぶことも、蜥蜴人(リザードマン)を運ぶことも、カルやリン、それに上空で待機しているシラツキがなければ不可能なのだから。


 いや、彼のことだから上空に浮かぶシラツキのことくらいは察知しているのかもしれない。もしそうならつくづく龍王(ドラゴンロード)とは凄まじいものである。私は勝手な妄想をしながらYesをタッチした。


「わかりました。おっしゃる通りに致します」

『ありがとう。これでもう、思い残すことはないよ』

「グオオォ…」

「クルル…」


 どんどん弱っていくアグナスレリム様を見て、カルは悲しそうに鳴いている。リンはアグナスレリム様との関わりが薄いのだが、カルが悲しそうにしている様子を見て心配するように鳴いていた。


 そんな二頭を見てアグナスレリム様は優しく笑う。そして若い二頭に投げ掛けたのは、意外なことに叱咤と激励の言葉だった。


(ドラゴン)は死を恐れてはいけないよ。(ドラゴン)にとって、死は終わりではないのだから』

「グオォン」

『ふふ、きっとまた会えるさ。だから、さよならとは言わない。また会おう』


 アグナスレリム様は私達にしか聞こえないほど小さな声で意味深なことを言い遺すと、そのまま目蓋を閉じる。そして全身からは力が抜け、目蓋が再び開かれる様子はなかった。


 私は短い時間だけアグナスレリム様に黙祷を捧げる。関わり合った時間はとても短いものの、初めて会った(ドラゴン)にしてカルの名付け親でもある彼への思い入れは強かった。それが目の前で息を引き取ったのだ。いくらゲームだとしても、悲しいと思わずにはいられなかった。


「…むっ、シンキか。そろそろ帰るんだな」


 そんな私の肩を叩いたのはシンキだった。召喚した目的である『寛容』を討伐した以上、彼女が地上にいる理由はない。地獄へ帰還するのだろう。


 彼女がいなければ、『寛容』の卵をほとんど死滅させることは出来なかっただろう。彼女こそ、この戦いのMVPと言っても過言ではあるまい。今度地獄に行ったなら、お礼の品を持っていかなければなるまい。


「近い内に地獄へ会いに行く。楽しみに待っていて欲しい」


 私がそう言うと彼女は一度大きくうなずいてから地獄へと帰還していった。シンキだけでなく、我々も帰還しなければならないだろう。


 さっさと帰還するために私は拠点転移(ベーステレポート)のお札を各人に手渡している。これを使えばシラツキ内の客室へ一瞬で移動可能なのだが、問題はアグナスレリム様のご遺体だった。


 ご遺体は巨大であり、これをシラツキまで運ぶのはカル達であっても相当な労力を要するだろう。飛行可能な者達全員の力を借りなければなるまい。


「グオォォ…」

「よォ、兄弟。龍王(ドラゴンロード)の旦那、死んじまったのかァ」


 そんなことを考えていると、ジゴロウがカルの背中に飛び乗って来た。兄弟は悲しげに鳴くカルの頭をガシガシと強く撫でながら、動かなくなったアグナスレリム様を見つめている。嘘をつく理由もないので私は首肯した。


「ああ。『寛容』を止める時の傷が原因だ」

「命張って世界を救った、ってかァ。ヘッ、カッコいい死に様じゃねェか。なァ、兄弟?」

「…ああ、そうだな。お前の言う通りだ」


 アグナスレリム様が亡くなったことを悲しんでばかりいたが、カッコいい死に様という発想はなかった。うん、そっちの考え方の方がアグナスレリム様も喜んで下さる気がする。私もそう思うとしよう。


 ならば盛大な葬儀で送って差し上げるべきだ。そうと決まれば早く帰らなければ。まずはアグナスレリム様の遺言を果たすためにフェルフェニール様のもとへご遺体と蜥蜴人(リザードマン)達を届ける。全ての話はそれからだ。


「撤収する。飛べる者はご遺体を運ぶのを手伝って…!?」


 私が撤収とご遺体の移送しようとしたところで、ジゴロウが私の後頭部に素早く手を伸ばした。何事かと思って振り向くと、兄弟の手には一本の矢が握られているではないか。


 どうやら私は狙撃されたらしい。もしも兄弟がいなければ、不意打ちのダメージボーナスもあって即死していただろう。ジゴロウは矢を握り折りながら、心底軽蔑するような視線を後方に送っていた。


「オイシイところだけ掻っ攫うために隠れてたってかァ?クソハイエナ野郎共がよォ…」

「チッ、仕留め損ねたか!」

「でも弱ってるのは間違いない!身ぐるみ剥いじまえ!」

(ドラゴン)の死体は絶対に奪うぞ!」


 後方から襲って来たのは、『寛容』との戦いから離脱したはずの人類プレイヤーだった。どうやら近い場所から戦いの趨勢を見ていたらしい。決着がついたところで、疲弊した私達から略奪しようと画策したようだ。


 私はそれを理屈の上では悪いことだとは思わない。私だって不意打ちすることはあるし、クランの利益のために街一つを焼き払った。私が彼らの立場なら、同じことを行っていただろう。


「兄弟、撤収が終わるまで足止め出来るか?」


 しかし、だから素直にやられてやるつもりはなかった。それにアグナスレリム様のご遺体だけは絶対に渡せない。私は遺言としてクエストを受けているからだ。


 それに『寛容』との戦いから逃げておきながら、利益を総取りしようという行動は感情面で許せる話ではない。連中の思い通りになることだけはさせたくなかった。


「任せなァ!ちょうど戦い足りなかったところだぜェ!」

「頼んだ。カル、リン。ご遺体を運ぶぞ。リンはヨーキヴァルを呼んでくれるか?」

「クルッ!クールルルッ!」


 ジゴロウは襲撃してきたプレイヤーの迎撃に飛び出し、リンに呼ばせたヨーキヴァルに乗るアマハに事情を説明してから三頭の(ドラゴン)によってご遺体を空へと運ぶ。地上から妨害しようと矢や魔術が飛んでくるが、機転を利かせた七甲やモッさんがカバーに入ってくれた。


 こうして『寛容』の争奪戦は討伐戦に変わり、最後には火事場泥棒との戦いとなって幕を閉じることになる。この戦いは、きっとプレイヤー間で大きな話題となるだろう。我々がどのように受け取られるのか、私は若干の不安とそれ以上の興奮を覚えるのだった。

 次回は10月30日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
みんな皆殺し言うけどできるわけないやん確かに普通のプレイヤーよりは強いやろうけど疲弊した状態で仮にもトッププレイヤーを瞬殺なんてできへんよゲームの世界なんやからそんな差はつかんで
[一言] 龍の死の概念は普通とは違うからね
[気になる点] イザームがブチ切れてボコボコにしたら最高だったのに 武術はともかく魔術師としては多分最強クラスなんだからさ
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