古代兵器争奪戦 その十二
ルーク君に持ちかけた作戦は非常に単純だが、だからこそ乗ってくれると思っていた。カルが暴走しかけて多少ヒヤリとしたものの、作戦を受け入れてくれて助かった。後はあのメグとか呼ばれていた斥候職が人類プレイヤーに作戦を伝えるのを待つばかりである。
「上手く行った?」
「ああ。後は人類プレイヤーに作戦が伝わった辺りでアグナスレリム様に本気の一撃を放ってもらうだけだ。そっちは?」
「みんなに伝わったわ。後は実行するだけよ」
カルに乗っている私へ声を掛けたのは、ヨーキヴァルに乗ったアマハだった。彼女は一緒に乗っていたママを一旦降ろし、私が話を持ち掛けている間に戦場を飛び回って魔物プレイヤーに作戦を伝えていたのだ。カルやリンよりも素早いヨーキヴァルに乗るアマハにうってつけの役割だった。
「ありがとう。助かったよ」
「はいはい、どういたしまして。上の戦艦は援護射撃してくれないの?」
「無理だ。万が一にも近付きすぎて『寛容』に食われたら目も当てられないし、主砲は私達ごと吹き飛ばしてしまうようだ」
上空に待機しているシラツキにいるアイリスにも連絡はしている。しかしシラツキにシミュレーションさせたところ、湖まで届く出力で主砲を撃つと私達が巻き込まれるという結果が出てしまった。
アグナスレリム様は無事かもしれないが、我々が消し炭になるのは避けたい。そこまでやった上で『寛容』が絶滅させ損なった場合、取り返しがつかなくなるからだ。だからこそ、人類プレイヤーにも助力を請うたのである。
「帯に短し襷に長しってことね。でも急いだ方が良いと思うわよ。どこもギリギリだったから」
「それはそうだろうな」
『寛容』との戦いはそれなりに長期化しており、いくら腕に覚えのあるプレイヤーが集まっていても体力や魔力などが消耗しているのは間違いない。アマハの言うように、戦っている者達の魔力や各種アイテムも底をつきかけている。決着を急がなければ、ジリ貧のまま敗北してしまうだろう。
一旦アマハと別れた私はアグナスレリム様のもとへと急ぐ。そこではアグナスレリム様と共にリンも魔術で『寛容』を迎撃していた。未だに苦手意識があるのに、リンとアグナスレリム様の間には少し距離があった。
「アグナスレリム様、プレ…人類の風来者達の助力を取り付けました」
『それは良かった。まあ、そこまであてにしていないけどね』
私の報告を聞いたアグナスレリム様だったが、その反応は驚くほど小さかった。どうやらアグナスレリム様が人類に対して抱く嫌悪感は相当なもののようで、私が立てたゴリ押し戦術に彼らを加えることにも最初は難色を示したほどだ。
しかし確実に『寛容』を吹き飛ばすためにも、少しでも人手は多い方が多いと私が説得してようやく首を縦に振ってくれたのである。過去に人類を心底嫌うような何かがあったのかもしれない。聞き出すつもりはないが。
「人類の間に策が届き、彼らの準備が整うまでこちらも準備を…シンキ?」
ここにいる全員による攻撃の準備に入ろうとした私だったが、その肩を叩く者がいた。それはいつの間にか飛行して接近していた閻魔のシンキである。
彼女は軍服の裏ポケットから小さな金属球を取り出して私に見せる。それが何か私にはわからなかったが、近くにいたアグナスレリム様は食い入るように見ていた。どうやら彼はこれが何なのか知っているようだ。
『それは…!流石は獄吏、それの管理も行っているんだね』
「これは一体なんなのです?」
『ああ、そうか。地上では言葉を発することが出来ないのだったね。それは古代兵器『強欲』、その量産型さ』
「そっ、そんなものがあるのですか!?」
私は驚きつつシンキの掌で転がっている球体…量産型『強欲』を穴が空きそうになるほど凝視する。だが、考えてみれば当然か。兵器とは量産されて様々な戦場で使われるものなのだから。
同時に獄吏はこのような危険な兵器を多数所持しているらしい。譲ってくれるとは思わないが、仲良くなれば貸与くらいはしてくれそうな気がする。積極的に交流を深めて行こう。
『この量産型は性能が相当に落ちる上に、本物と違って使い捨てだ。一定時間、効果を発揮した後に自然消滅するよ。そして何より、この『強欲』は『寛容』にとって最大の天敵なんだ。作戦の成功率は格段に上がったね』
「確か…『強欲』は魔力の収奪装置でしたか」
『よく知ってるね。あらゆる武技や魔術でも卵は処理し切れないと言っただろう?だが、この『強欲』だけは違う。卵から魔力を吸い取って、孵化する前に殺してしまうのさ』
『寛容』はその何でも食べられる顎の力のよりも、増殖速度と卵の駆除が難しいことが合わさって絶滅させるのが難しい相手だった。だが、『強欲』は最も厄介な性質を持つ卵の駆除に使えるらしい。今最も我々が欲しているアイテムだった。
ただ、気になるのはまるで『強欲』が『寛容』をピンポイントで狙ったかのような性能をしていることだ。『強欲』と『寛容』は相反する性質ということもあり、狙って作られたのではないかという以前に抱いた疑念はより強くなった。
いや、今は余計なことを考えている余裕などない。今重要なのは『寛容』を確実に葬り去るために必要なアイテムが揃っているということだ。
「よし、ならシンキは『寛容』の群れを吹き飛ばした後に『強欲』を使って卵を根絶やしにしてくれ。行けるか?」
私の質問にシンキは力強く頷いた。無数の勲章を胸から下げている彼女は私などより余程実戦慣れしているはず。絶妙なタイミングで使ってくれるだろう。
そうこうしている内に、ふとルーク君のパーティーを見ると斥候職のメグとか言う女性プレイヤーが彼らのもとへ戻っていた。それは人類プレイヤー達に作戦を伝え終わったということ。ならばそろそろ、アグナスレリム様に最強の一撃を放ってもらおうか。
「アグナスレリム様、そろそろ行けそうです」
『わかったよ。じゃあ、派手に行こうか。ふっ!』
アグナスレリム様に作戦の準備が整ったと言った瞬間、彼は水で自分が斬り落とした翼を作り出した。そうして翼を羽ばたかせると、空高く舞い上がって滞空する。そして息を大きく吸い込み始めた。
明らかに大技を使う前兆であり、魔物プレイヤー達だけでなく人類プレイヤー達もあれが合図なのだと察したらしい。全員が大技を放つべく準備を開始していた。
「シンキ、頼むぞ。カル、リン。私達もやるぞ」
「グオオオン!」
「クルルルル!」
アグナスレリム様に合わせ、我々も最強の一撃を準備する。カルもリンも私も、そして間違いなくアグナスレリム様も切り札となる技を持っていた。
『ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』
それはもちろん、龍息吹である。アグナスレリム様は溜めに溜めた力を解放するように、可能な限り大きく口を開けると群青色の極太レーザーのような龍息吹を放った。
それに続くように私達も龍息吹を放つ。私の口からは怨念の集合体のような、カルの口からは漆黒の、そしてリンの口からは白銀の龍息吹が一直線に伸びていく。アグナスレリム様に比べれば貧相だが、切り札に相応しい威力を誇るはずだ。
「オオッラァ!」
「ハッ!」
最前線にいたジゴロウとウスバだが、巻き込まれないように距離を取りながら攻撃している。ジゴロウは炎と雷の塊と化した舌で、ウスバは剣の状態に戻してからドス黒い波動を放っていた。あれは武技なのだろうか?
アマハは弓から青色の光の尾を引く矢を放ち、乗っているヨーキヴァルは緑色の燐光を含んだ龍息吹を放つ。他にも色とりどりの魔術や武技、能力由来の攻撃が『寛容』の群れへと殺到した。
人類プレイヤーにもちゃんと作戦が伝わっていたようで、目の前にいた小さな群れを手早く吹き飛ばすと一斉に攻撃に加わっている。正直、どこかのパーティーは無視すると思っていたので本当にホッとした。
「行くでぇ!」
「はああああっ!」
その中でも特に目立っていた者が二人いる。それは七甲とルーク君だった。七甲が使っているのは【幻影召喚:神代闇龍帝】である。これはクラン全体で数日に一度だけ使える技であるが、【召喚術】を主軸に据えて戦う七甲が最も高い威力を出せるのだ。
ユラリと現れた陽炎のように不鮮明な、しかし巨大なフェルフェニール様の幻影が現れる。そして大きな口を開けるとアグナスレリム様の龍息吹に負けないほど太い舌が『寛容』の群れに突っ込んだ。
それに負けていないのがルーク君である。彼の剣は純白の光を纏い、それは天を衝くほどの長さにまで伸びていく。巨大な剣となったそれを振り下ろすと、『寛容』の群れの中で眩い光を放ちながら爆発した。
さらに一拍遅れたところで、今度は空に浮かぶシンキがグルグルと刺股を回し始める。炎を纏う刺股は炎の輪を作り出し、勢いが強くなったかと思えば横に伸びる炎の竜巻と化して『寛容』の群れを焼き払った。
彼女が自分の攻撃を遅らせたのには理由があったらしい。炎の竜巻が着弾したのを確認してから、持っていた量産型『強欲』を十手によって弾き飛ばした。彼女は自分が最後に攻撃することで、最適なタイミングを測っていたのだ。
軽く振ったようにしか見えなかったのだが、量産型『強欲』は弾丸のような速度で飛んでいく。全ての必殺技とでも言うべき一撃が炸裂した直後、湖面近くで起動したのか深緑色の球形の空間が生み出される。どうやらあの空間が魔力を吸収する効果を持つらしい。
「やったか…?」
やはり量産型というべきか、深緑色の空間は一分もしない内に消えてしまう。攻撃の余波で霧となっていた湖面の水が晴れた時、蚊柱のようになっていた『寛容』の姿は…なかった。
次回は10月18日に投稿予定です。




