古代兵器争奪戦 その十一
「ああ、もう!虫は嫌いなんだってば!」
「卵が本当に気持ち悪い…焼き払ったらだめかな?」
状況を考慮して魔物プレイヤーと共闘することになったルーク達一行は、その力を存分に発揮して『寛容』を駆除していた。一度噛み付かれたら大ダメージは確定し、最悪の場合はそのまま捕食されてしまう凶悪な古代兵器をあしらう技量は流石と言えよう。
「でも、あの龍は卵に手を出すなって言ってますよね」
「魔物プレイヤー達は信じてる。私達も手を出さない方が賢明」
そんな彼らは自分達のパーティーだけで行動していた。『寛容』の小さな群れによって分断されてしまったことも原因の一つだが、最大の原因は統率をとれる者が居なかったからだろう。
この作戦に参加した人類プレイヤーは、全員がクエストを受けて騎士団の指揮下に入っていた。つまり、彼らの立ち位置は横並びであって、上に立つのはあくまでも騎士達だったのだ。
その騎士達は状況が変わっても融通を利かせずに『寛容』の奪取に固執し、結果として『寛容』やアグナスレリム、そして魔物プレイヤー達によって倒されている。すると指揮するべき者を失ったトッププレイヤーだけが残されてしまったのだ。
最初からこの状況を想定していて、騎士の代わりにリーダーになる者を決めていたら良かったのだろう。だが、そこまで偏執的なまでに用意周到な者はなかなかいない。しかも実力的にも大きな開きはなく、立場も横並びだった者が急にリーダーとして振る舞うのは難しかった。
実際、リーダーシップをとろうとしても失敗した者もいる。その結果、彼らはパーティー単位で散らばって戦うことしか出来なかったのだ。
他のメンバーの会話を聞きながら、ルークは一人であることを考えながら戦っていた。それは魔物プレイヤーと手を組むことだ。ただ、それが難しいことは彼にもわかっていた。
(今の状況だと魔物プレイヤー達と手を組んで組織的に戦った方が絶対に良いよね。けどさっきまで戦ってた相手で、しかもお互いの手の内を全く知らない。これじゃ連係するどころか、足の引っ張り合いになるだけだ)
彼が協力体制を敷くのが難しいと思う理由は主に二つ。感情的な問題と、連係面での問題である。前者は当然、元々は敵だという認識が意識の底にあることが原因だ。敵に背中を預けるというのは信頼関係という部分で難しい。正直に言って手を組むべきだと思っているルークですら、ジゴロウと源十郎には苦手意識や対抗意識は持っていた。
しかし、こと戦闘においては後者の方が問題だろう。人類プレイヤー達は魔物プレイヤーのことをほとんど知らない。有名人である最強の魔物プレイヤーとの呼び声も高いジゴロウや源十郎、人類だった時から最強のコンビ夫婦だった邯那と羅雅亜など、目に見える場所で力を振るった者達の得意なことはわかっていた。
だが、他のプレイヤーはほぼ全員が人類プレイヤーの前で戦う姿を見せたことなど皆無に等しい。それに武器を持っている者達はともかく、『八岐大蛇』の蛇達のように外見ではどんな攻撃方法かすらわからない者達が多かった。
そんな者達と呼吸を合わせるのは難しく、戦いながら手の内をさらし合って戦術を練るのも現実的ではない。それを理解しており、同時にどうすれば効果的なのか具体案を導き出せていないからこそ、彼は現状を維持するしかなかったのだ。
(戦いながらみんなを説得する?それは難し……!?)
悩めるルークだったが、彼の元へ近付いて来る者達がいた。それはフードによって顔が見えない魔術師を乗せた黒い龍である。魔術師は魔術で、黒い龍は口から放った炎で近付く『寛容』を焼き払いつつルーク達の元へとやって来た。
この状況で襲われることはないとルークは思うが、それでも身構えずにはいられなかった。何故なら魔術師はともかく、黒い龍の方は明らかに敵意を隠そうともせずに唸っていたからだ。鱗を逆立て、牙を剥き出しにされれば威圧されて当然である。
「待て、カル。喧嘩を売りに来たんじゃないと言っただろう?落ち着きなさい」
「グルルルル…」
ルーク達の目の前で魔術師は黒い龍の首筋を撫で、その敵意を鎮めている。ルーク達を睨んでいることに変わりはないが、逆立っていた鱗は通常時に戻っていた。
困ったものだと呟いた魔術師は、一度咳払いをしてからフワリと浮遊して龍の背中から降りる。そして見下ろすのではなく、ルーク達と同じ視点に立った。その時、彼らはフードの下に隠れている顔を見て驚く。何故ならその顔、正確には被っている銀色の仮面と持っている杖に見覚えがあったからだ。
「お前、まさか…!」
「久しいな、ルーク君。最初に会った場所の近くで再び会うことになるとは思わなかった」
このゲーム『FSW』がサービス開始した直後、最初の街から北にある山にいた狂暴な魔物。『北の山の悪夢』と呼ばれたその個体を討伐しに向かったルーク達を含む討伐隊は、大人数で向かったにもかかわらず全滅してしまった。
失敗の主な原因は『北の山の悪夢』そのものが尋常ではない強さだったことである。だが、範囲魔術と使役していた魔物を自爆させる不意打ちで後衛が壊滅させられたことも大きな要因であった。目の前にいるのはそれを行った張本人なのだ。
過去の因縁からルーク達全員が身構えると、再び黒い龍は殺気立って威嚇する。一触即発の事態になりかけた時、魔術師は杖でポコンと龍の頭を叩いた。
「落ち着けと言っただろう?私を困らせないでくれ」
「グォッ!?オオォン…」
黒い龍は叩かれたことがショックだったのか、露骨に意気消沈してしまう。ルークの目には個人としての戦力では魔術師よりも黒い龍の方が上のように見える。だが、目の前の魔術師はそんな同格以上の相手を完全に従えているようだ。
自分よりも強い魔物を従えるのはかなり難しいと聞く。従魔を従えることに特化しているようにも見えないのに、どうやっているのか。彼の中での警戒レベルは一段と上がっていた。
「コホン…そんなことはどうでも良い。手短に話そう。現状を打開するにはここにいる全員が協力する必要がある。そうだろう?」
「…ああ、そうだな」
「しかし、同時に信頼など欠片もない相手に背中を預け合うのも難しい。それが今の状態だ」
一度咳払いをした後、魔術師はルークがそれまで考えていたことを口にした。自分と同じことを考えていた者がいたことに若干の嬉しさを抱くのと同時に、それが自分達にとっては良い記憶のない相手だということに不満を覚えた。
ルーク以外の五人も似たりよったりであり、違いと言えば敵愾心の強さくらいである。完全に割り切っている者もいるものの、過去に魔術師に直接危害を加えられた者達は今すぐにでも襲い掛かりそうな雰囲気だった。
個人的には思うところはあれど、ルークはそれを飲み込んだ。どうやら目の前の魔術師は『寛容』への対処に関して何らかの策があるらしい。今は感情よりもその策を聞くことを優先させるべきだと理性で判断したのである。
「そんなことは誰でもわかってる。それで、僕達に何をさせたいんだ?何か作戦があるんだろう?」
「話が早くて助かる。ただ、私の持ってきた話は作戦などと大袈裟なモノではない。どうせ上手く連係が取れないだろうからな」
「もったいぶってないで、さっさと要件を言いな。下らない話ならぶん殴るよ」
ルークのパーティーで最も勝ち気で短気なキクノが、しびれを切らして魔術師に迫る。再び威嚇しそうになった黒い龍だが、今度は何とか我慢して唸るだけに抑えていた。他人事ながら、ルークはちゃんと学習するんだなと思っていた。
魔術師はキクノを見て一度肩を竦めてから、よく我慢したなと黒い龍を褒めている。小馬鹿にしたかのような態度に神経を逆撫でされ、温厚なルークも強い言葉で抗議しようとする機先を制して魔術師は持ってきた策を披露した。
「なら、単刀直入に言おう。あそこにおられるアグナスレリム様の大技に合わせて、プレイヤー個人が使える最も強力な一撃をあの蚊柱へ一斉に叩き込む。多少タイミングがズレても誤差ですむし、これなら細かい連係も必要ないだろう?」
ただ高威力の技を同時に蚊柱状になっている『寛容』の群れへほぼ同時に放つこと。魔術師が口にしたのは、言ってしまえば究極のゴリ押し戦術だった。確かに、魔術師が言う通り作戦としてはあまりにも大雑把過ぎるだろう。
だが、それが現実的に最も有効な手段であることはルークも認めざるを得なかった。大雑把ということは単純ということであり、単純な行為ほど失敗する可能性は低い。
また、それくらいならば他の人類プレイヤーも手伝ってくれるだろう。魔物プレイヤーからの提案と言われると複雑だろうが、ここに残っているのは『寛容』が危険だと感じている者達ばかり。完全に無視する者はいないとルークは思っていた。
問題は全員の火力を集結させたとしても『寛容』を倒し切れなかった場合だろう。だが、火力が足りないかどうかはやってみなければわからない。それにあくまでもルークの勘では火力は足りていると思っている。気乗りはしないが、この提案には乗るべきだろう。彼は決断を下した。
「わかった。メグ、他のパーティーに伝えて来てくれるかい?」
「ルーク!?」
「…うん。行ってくる」
まさか提案に乗るとは思っていなかったのか、ルークの仲間達は一様に驚いている。ただ一人、斥候職のメグだけは頼まれたこともあっていち早く立ち直って湖面を駆けていった。
その背中を見送った魔術師は、フワリと浮遊した黒い龍の背中に乗る。きっと彼も味方へ作戦のことを伝えに行くのだろう。だが、その前にルークはどうしても魔術師に聞いておきたいことがあった。そのために彼は魔術師の背中へと声を掛けた。
「待ってくれ」
「何だ?」
「名前を教えてくれ。そっちだけ知っているなんてズルいじゃないか」
「ズルい…?ただ単に積極的に名を売っているかどうかの違いだと思うが。まあ、良い。私はイザームだ」
「わかった、イザーム。とりあえず今は共闘しよう」
魔術師イザームは無言で頷くと、黒い龍の首筋を触ってから飛翔した。こうして『魔王』の種族と職業を持つ魔物と、『勇者』の称号を持つ人類が手を結ぶことになるのだった。
次回は10月14日に投稿予定です。




