古代兵器争奪戦 その十
「ふむ…まずは試してみるか。焙烙髑髏」
『寛容』の被害を抑えるには。ここで確実に絶滅させるしかない。それを知った私はとりあえず蚊柱のようになっている『寛容』の群れへと魔術を放ってみる。奴らには武技や魔術、能力による防御手段がないようで、至極アッサリと私の魔術によって吹き飛んだ。
直撃した個体は当然ながら、爆風の影響で『寛容』はバタバタと即死していく。ひょっとして【邪術】は相性が良いのではないか…と思ったがそんなことはない。何故なら、即死した個体はすぐに生きている個体の餌になってしまうからだ。
むしろ全身を余すことなく残してしまう分、一匹の死骸から得られる最大の量を与えてしまう。せっかく数を減らしたのに、すぐに数を戻されては元も子もないではないか。
「つまり死骸を残さないような倒し方か、孵化する前の卵を破壊するのが効率的ということか」
『ああ、卵への攻撃は控えて欲しいかな』
「その理由は?」
『卵は妙に頑丈で、潰すのは骨が折れるよ。しかも攻撃を受けるとその時に受けたダメージへの耐性を成虫が得るんだ。微々たるものだけど、その成虫が生んだ個体にも引き継がれる。新しく生まれる度に耐性は強化されるから、積み重なるといつかほとんどダメージを与えられなくなるよ』
えぇ…?打たれ弱いからこそ戦えているのに、卵を狙うとその弱点を補って来るのか。本当にとんでもない兵器だな、古代兵器とは。
ただ、アグナスレリム様の忠告のお陰でどう戦うべきかの方針は立った。なるべく死骸を残さない広範囲の攻撃で削っていくこと。これしかない。
アグナスレリム様の声は戦いの喧騒の中でも不思議と通るので、彼の言葉はきっと全員に聞こえたと思う。その上で私はメッセージによって、戦闘に参加している全員に戦う上での注意点を送信しておいた。
気を取り直したところで、私は一つの魔術を用いる。使うことにならなければ一番良かったのだが、今はそんなことを言ってはいられない。素直に彼女の力を借りるべきだ。
「呪文調整、獄吏召喚。頼むぞ、シンキ!」
私は【降霊術】によって地獄から獄吏を召喚する。カルの真上に黒い穴が開いたかと思うと、その中から現れたのは深紅の軍服を羽織ったシンキであった。彼女は他の獄吏と同じく刺股と十手を装備しているが、武器としての性能は見るからに上である。
刺股は一回り長く、より鋭い棘がビッシリと生えている。十手からは常に火の粉が舞っていて、炎に関する特殊な能力を持っているのは確実だ。
そんなシンキはカルの背中に着地する。カルは私が召喚した存在であると認識しているからか、シンキを咎めることなく平然としていた。冷静な時にはきちんとした分別がつく良い子なのである。
「シンキ、召喚に応じてくれてありがとう。召喚したことで今の状況は大体わかってくれると思うが、一応言っておく。『寛容』の封印が解けた。討伐に協力して欲しい」
シンキは返事をする代わりに、一度コクリと頷いた。ああ、そう言えば地獄から召喚されると喋ることが出来なくなるんだったか。昨日教えてもらったばかりだというのに忘れていたよ。
しかし、言葉自体は通じているのは頷いたことが証明していた。そんな彼女はカルの背中から躊躇なく飛び降りる。大丈夫かと思ったが、彼女の履いている靴が炎を纏うと空中を滑るかのように移動し始めた。
どうやら空中での戦いも想定していたらしい。流石は閻魔と言ったところ…いや、そもそも閻魔大王って戦う存在だったっけ?まあ、そこを突っ込んではならないのだろう。
「新手か!」
「邪悪な魔物が召喚したのだ!邪悪に決まっている!」
「討ち倒せ!」
シンキは早速『寛容』を討伐しようと動いたが、それを邪魔する者達がいた。それはまだ生き残っていた騎士団の一部隊だった。彼らはどうあっても我々と協力しようとせず、それどころか『寛容』よりも我々を討伐することを優先していた者達だ。シンキを狙うのも当然と言えよう。
今までは無差別に襲ってくる『寛容』の対処に追われていたせいで仕方なく戦っていたようだが、小さな群れを討伐した今はシンキを標的にしたらしい。連中は彼女の死角から武技で躊躇なく不意打ちした。
だが、その不意打ちが彼女に届くことはない。気付いていたらしいシンキは、背後を振り返ると刺股を振るって武技を防いだ。それだけでなく刺股全体を靴と同じ色の炎が包み、込み振った瞬間に炎の棘が弾丸めいた速度で雨のように騎士達へ降り注いだではないか。
「なんのこれしき!」
「来るぞ!構えろ!」
騎士達もさるもの、少ないダメージに抑えて炎の棘を防ぎ切っていた。そんな彼らへとシンキは突撃していく。どうやら先に邪魔をする者達を排除するようだ。
彼女は接近しながら刺股を振るう。その度に炎の棘が降り注ぎ、騎士達に消耗を強いていく。騎士達はそれを全て防ぐものの、彼らが防戦一方となっている内にシンキは距離を詰めていた。
「フンッ…!?なっ、炎が!?」
「消えないだとぉ!?」
シンキが刺股を上段から振り下ろし、騎士はそれを盾で受け流す。受け流しは本来ならダメージを軽減しつつ隙も少ないという、タイミングを計る技量があるのなら最も良い手段と言える。騎士にはそれを使いこなすだけの技量があった。
だが、ことシンキと戦うことに限ってみれば最良の手段ではなかった。炎を纏う刺股が触れた場所が激しく燃え上がったのだ。それだけでなく、盾についた炎は不思議と燃え尽きることがない。盾を振り回そうが水中に盾を浸そうが、決して消えなかったのである。
盾から持続ダメージを受けることになってしまった騎士が一旦退き、代わりに別の騎士が現れる。それと同時にシンキを斬り付けた。
「やるでは…何っ!?」
騎士の胴を狙う武技を使った斬撃を、シンキは十手の鉤の部分で受け止める。それだけならばシンキの反応が優れているだけなのだが、騎士が剣を引く前に彼女が十手を軽く捻っただけで剣が折れてしまったのだ。
その破壊跡を見ると、どうやら力でへし折ったというよりは熱で柔らかくした上で折ったように見える。あの十手は火属性に対策のない武器を破壊するということだろうか?もしそうならかなりえげつない性能である。
シンキは防ぐだけでは終わらない。彼女は刺股で剣を折った騎士の首を挟み込むと、その柄以外にビッシリと生えている棘が一斉に伸び…標的に刺さると同時に爆発したのだ。
騎士の鎧には首元を守る工夫があったものの、棘の数はその防御を掻い潜ったらしい。首という急所を前後左右から串刺しにされながら爆破されて生きているはずもない。騎士は力尽きて湖中へと沈んでいった。
「このっ!」
「油断するな!囲んで倒せ!」
騎士達は全員でシンキを囲もうとするが、彼女は空を飛ぶことが出来るのだ。水の上を浮かぶだけの騎士達では機動力の面で太刀打ち出来ない。彼女は完全に騎士達を圧倒していた。
他の場所でも足を引っ張る者達は徐々に数を減らしているようだった。ここで特に活躍したのは『仮面戦団』のメンバーだ。ジゴロウと背中を預けあって『寛容』を退治しているウスバはともかく、他のメンバーはあくまでも我々を倒すことを重視する者達を的確に排除していた。
その間、ルーク君のパーティーを始めとする我々と共闘することを決めた人類プレイヤーはそれを黙認している。自分達の手で倒すことはしないが、彼らを助けることもしない。邪魔者については消極的に協力していたのである。
「畜生!裏切り野郎共が!」
「やってられっか!退け退け!」
国への忠誠心が強い騎士達とは異なり、プレイヤーからすれば報酬がどうなるかもわからない今の状況は士気が下がるのに十分な環境だった。死に戻りしたらアイテムの一部を失うのに、報酬を保証されていなければ馬鹿馬鹿しいと思うのも無理はない。彼らは『仮面戦団』に倒される前に撤退することを選んだのだ。
非協力的なプレイヤーが排除、あるいは逃亡したことでほぼ全員が『寛容』と戦うことが可能になった。だがその間に『寛容』の数は少しずつ増え続け、その積み重ねによって『寛容』による蚊柱は数十メートルの高さにまで達していた。
これ、何千匹いるんだろうか?いや、下手をすると万を超えていてもおかしくない。これを全て討伐するのは骨が折れそうだが、ここにいる全員の力を合わせれば勝てない相手ではないと信じている。
「やっとスタートラインに立った訳だ。まずは色々と魔術を試して、最も効率が良さそうなモノを見定めるか」
「そんな悠長なこと、してられないんじゃない?」
私の独り言にそう返したのは、ヨーキヴァルに乗って近付いていたアマハだった。私が聞き返す前に彼女は『寛容』の蚊柱、その根元辺りを指差す。するとそこにあったのは真っ赤に変色した『寛容』の卵であった。
大量にある卵から孵化した『寛容』は、その姿を変えていた。十本あった節足に更に一対二本の節足が追加されたのである。その形状は湾曲し、ノコギリ状になっていた。あれではまるでカマキリの鎌ではないか。
「ギチギチギチ!」
「ハッハァ!ナマクラじゃねェかよォ!」
「少々鬱陶しくなったのは間違いありませんが…ね!」
これを使って斬撃を繰り出すことが可能になったようだが、真っ先に戦ったジゴロウとウスバの感想によればそこまで大きく強化された訳ではないらしい。エイジ達もしっかりと防げている。攻撃方法が一つ増えたとしても、素のステータスが低い上に攻撃力も低いようだ。
だが、徐々に強化されていることに変わりはない。次に強化された時には、手に負えなくなる可能性もあるだろう。一刻も早く、一匹残らず倒さねばならない。私はそのための策を練り、実現させるために動き出すのだった。
次回は10月10日に投稿予定です。




