古代兵器争奪戦 その八
ルビーからの連絡を受けた私達は、一刻も早く戦場へと向かった。湖は確かに広いが、カルやリンの翼があればひとっ飛びだ。『八岐大蛇』のメンバーは泳ぐことが可能だが、彼らの遊泳速度よりもこちらの飛行速度の方が勝っている。それ故に彼らは今、カルの後ろ足に絡み付いて運ばれていた。
ちなみに、リンと分散したほうが良いのではないかとの意見もあったが、私が無理だと言って断った。何故ならリンは私とクランメンバー以外に触れられるのを基本的に嫌がるからだ。アマハの乗騎であるヨーキヴァルという例外はあるし、同性の者ならばそこまで嫌がらない。しかし、乗せるとなれば相当に頼み込まなければならなかった。
無論、一刻を争う状況でリンのご機嫌取りなどしている暇はない。それ故にカルが一人でまとめて運搬している。カルのパワーを持ってすれば飛行速度に影響は出ないので、全く問題はなかった。
「あー。イザームだー。メェ~」
いち早く私の接近に気付いたのは、ヨーキヴァルの後ろ足で掴まれたウールだった。彼は手を振る代わりに四本の脚をバタバタさせている。まるで今まさに捕食されようとしている状態のようだった。
ウールの反応に気付いたからか、アマハはヨーキヴァルをこちらに向かって移動させる。お互いがお互いを目指して飛んでいたこともあり、数秒で私達は合流することになった。
「ママ、状況は?」
「最悪よ、最悪!『寛容』は復活したし、わからず屋は多いし、何よりも気持ち悪いし…ね!」
「…確かに」
アマハと共にヨーキヴァルの背中に乗っていたママは怒りを顕に大矢を放った。ママの大矢は無数の虫の群れが集まって黒い霧のようになっている場所で爆発する。あの頭部が異様に大きな虫が恐らくは『寛容』なのだろう。
その爆炎に飲み込まれたことで、多くの『寛容』が一度で粉々に粉砕され、それ以上の数が火達磨になりながら群れの中を狂ったように飛び回る。そのせいで群れの他の個体にも火が燃え移り、被害はどんどん拡大してく。思ったよりも『寛容』を殲滅するのは簡単なのだろうか?
「うえぇっ!?」
「これは…!」
楽観的なことを考えた瞬間、『寛容』の一部は湖面に浮かぶ別の個体の死骸に殺到し、またたく間にこれを喰らい尽くす。すると今度はオレンジ色の汚い液体を腹部から大量に放出した。
『寛容』の体積よりも多いのではないかと思われる量の液体はどうやら卵だったようで、無数の小さな『寛容』が産まれた。そうして産まれた新たな『寛容』は、親を喰らって一瞬で成虫になったではないか。
「ああやって増え続けるからいつまで経っても数が減らないのよ。しかも、最初に現れた時から姿が少し変わってる」
「世代を経るごとに強化されていくということか。厄介極まりな…」
「このっ!止め…ぎゃあああああああっ!?」
「助けろ!急げっ!」
「止めろ!もう遅い…クソッ!」
アマハから補足情報を聞いていると、下から絶叫が届いてきた。何事かと思って見ると、そこでは一人の騎士が『寛容』に群がられたところだった。彼は剣で斬り払ったり盾で叩き潰したりしていたようだが、対応しきれずに襲われたのである。
彼の仲間が動き出すのは襲われた直後だった。しかしながら、助けようとしたのは無駄だったらしい。手を伸ばした騎士を他の騎士が抑えた時には、もう群がられた騎士の姿は影も形もない。唯一の名残と言えるのは、彼が浮かんでいた場所に残った血に染まる湖の水だけだった。
『寛容』に捕まったら最後、骨すらも残さずに食べ尽くされてしまうようだ。可能な限り遠距離から戦うべきだ。重装備だった騎士ですら一瞬なのだから、私などはさらに短い時間で食べられてしまうだろう。接近して戦うなど自殺行為にしか思え…
「シャラアアアアッ!ウジャウジャとォ、ウゼェんだよォ!」
「弱者も集まれば強くなる。それを極限まで突き詰めた兵器ですか」
…ないのだが、我が兄弟分と『仮面戦団』のウスバは二人で背中を預けあって群れの一つと戦っている。周囲を完全に包囲されている状態で、何故か二人共生き残って戦い続けていた。
その理由は二人が強いのもあるが、他にも相性の良い能力や武器があったからだ。まずジゴロウは全身から火炎と電撃を撒き散らすことで、体力が少ない『寛容』は近付く度に灰にされている。ただ、それを餌に増えているので根絶には繫がっていなかった。
一方でウスバは彼の剣の力を解放していた。彼の剣である封罪器『暴食』には、古代兵器『暴食』の力の一部が封じられている。口や眼球だらけの肉の触手は触れるモノ全てを食べてしまう。倒すペースで言えばジゴロウの方が上だが、ウスバの場合は死骸を餌として利用させていない。数をこれ以上増やさせないという点では彼の方が上だった。
見慣れた化け物っぷりだが、他の者達はちゃんとパーティーを組んで遠距離主体で群れと戦っている。防ぐ時も盾などで殴るようにしていた。何せ盾で受けると盾そのものを食べてしまうのだ。攻撃でなければも出来ない相手であるようだ。
ただし、一部は人類プレイヤーと戦っていたり騎士団と戦っていたりする。あれがママの言う『わからず屋』なのだろう。味方は他の者達の邪魔にならないように群れのいる位置からなるべく離れる形で立ち回っているが、気を遣いながら戦う分不利になっているようだ。
「私達はまず『わからず屋』を始末して回ろう」
「あ。じゃあ私は降りて他の戦ってるみんなに合流するね!」
「わかった。『八岐大蛇』の皆は水中から襲って欲しい」
「はいよ、王様!」
「引きずり込んでビビらせてやりますよ!」
言うが早いか紫舟と『八岐大蛇』のメンバーはカルから飛び降りた。紫舟は水面をカサカサと凄まじい速度で駆けて行き、『八岐大蛇』のメンバーは水中を泳ぎながら散らばっていった。
紫舟はエイジ達と合流し、『八岐大蛇』は水中から奇襲を仕掛けるのだろう。味方にならず、あくまでもこちらの足を引っ張るというのならさっさと退場してもらうに限る。
「カル、リン。私達もっ!?」
「グルルルル……!」
行こう、と続けようとした時にカルは急に身体を捻った。直後、私の側で何かが爆発したではないか!カルはそれを察知し、翼を盾にして防いでくれたようだ。助かった!
礼を言おうとした私だったが、その前にカルの異変に気が付いた。全身の鱗が逆立ち、両前足からバキバキと音が鳴らし始める。そして猛然と私を狙った者を目指して突撃を開始したのだ。
「ゴルルオアアアアアアアッ!!!」
「落ち着…かせるのは無理か!リン!しっかりついてこい!」
「クルルッ!」
ブチ切れているカルを宥めるのは無理だと判断した私は、この勢いのままに下手人を攻める決断を下した。私を狙ったのは騎士、つまりは住民だ。彼らは猛然と突っ込んでくるカルに慌てて武技や魔術を用いるが、カルはそんなものは物ともせずに直進していた。
被弾する度に鱗が砕け、その破片が飛び散っている。だが、砕けた次の瞬間には新しい鱗が生えていた。体力も見た目ほど減っておらず、龍という種族の力を見せ付けていた。
その背後から追ってくるリンはカルとは違ってちゃんと回避しながら接近している。しかも小刻み動き回りながら、無数の魔術を使って牽制していた。
リンは威力よりも数を重視して魔術を雨あられと放っている。大したダメージにならないとわかっていても訓練を積んだ騎士だからこそ反射的に防いでしまうらしく、騎士団の攻勢はほんの少しではあれど弱まっていた。
「私も負けておられん。星魔陣起動、焙烙髑髏」
魔術においてまだまだリンの後塵を拝するわけにはいかない。私もまた、牽制のオリジナル魔術を放つ。これは【爆裂魔術】をベースに【邪術】を組み合わせ、形状を私の頭部に似せたこの魔術である。
爆発の衝撃波そのもののダメージだけでなく、即死の効果のオマケ付きだ。抵抗に失敗すれば呆気なく死亡させられる上に、ビジュアルもアイリスに褒められたお気に入りだ。
五つ放たれた焙烙髑髏の内、四つは届く前に相殺され、届いた一つも大したダメージにならない上に即死もさせられなかった。精鋭の騎士団に即死攻撃など通用しないとは思っていなかったので、全く気にしていない。それよりも重要なのは、カルの爪牙が届く距離にまで騎士団に近付いたことだった。
「カル、暴れろ!リン!」
「ゴアアアアアアッ!」
「クルルゥ!」
私を背中に乗せたままでは、カルは全力で暴れることが出来ない。そこで私はカルの背中からリンの背中に飛び移る。すると待ってましたと言わんばかりにカルは空中で前転し、大剣のような尻尾を振り下ろした。
カルの一撃を盾で受けた騎士は踏ん張ろうとしたが、その脇腹をリンのしなやかで尖った先端の尻尾が穿つ。そのせいで体勢が崩れ…その騎士は湖の中へと背中からダイブしてしまった。
どうやら彼らは水の上で立てるアイテムを装備しているようだが、それは両手や両足で水面に触れなければ効果を発揮しないらしい。実際、その騎士は水面に手を当てて水中から脱出しようとしていた。
そして他の騎士も「どうせすぐに出てくるのだから」と意識をカルに向けている。だが、それが致命的な失敗となるとは誰も気付かなかったようだ。
「弱いとこ見せちゃあ終わりでござんす」
「うわああああっ!?」
水中に落ちた騎士は、巨大な蛇に胸元まで丸呑みにされてから水中に引きずり込まれていく。それをやったのは『八岐大蛇』のリーダー、ウロコスキーだ。彼らは散開して味方が水に落ちればフォローし、敵が落ちれば容赦なくトドメを刺すように立ち回っていた。
これで水中にも意識を向けずにはいられなくなったことだろう。その状態で私とリンの援護を受けたカルの猛攻を凌ぐのは至難の業だろう。『寛容』の相手をする前に、邪魔者は速やかに排除する。私は容赦なく騎士達へと魔術を放つのだった。
次回は10月2日に投稿予定です。




