古代兵器争奪戦 その五
「ハッハハァ!こう言うのもオツだなァ、オイ!」
「崩れて不安定な足場の上で強敵と渡り合う…ウフフ、血が滾りますよ!」
アグナスレリムが氷を砕いたことで阿鼻叫喚の様相を呈している中で、ジゴロウとウスバは戦い続けている。砕けた氷を飛び移りながら空中で激突しつつ、飛び移った氷の塊に誰かがいたらついでとでも言うかのように蹴り落としていた。
ただし、その行為によって人類側の怒りを買うことになる。元々、氷が張られるとは思っていなかった人類側は湖の上を歩くための装備を持ってきている。落水してもすぐに湖面に這い上がることが可能だったのだ。
「調子に乗りやがって!」
「あいつらに集中砲火だ!」
「楽しいなァ、おい!」
「ええ、とても!」
ヘイトを集めていた二人は、当然のように集中的に狙われるようになる。すると二人は一時休戦して連係する…ことはなかった。近くにいた者達を適当にあしらってから、再び湖面で激突する。どちらかが追い払うことに手こずった場合、残った一人は容赦なくその隙を突こうとしていた。
しかしながら、二人とも人類側のヘイトを一身に集めていることもあって隙を突こうとしても横槍を入れられてしまう。その結果、多くのプレイヤーを巻き込んだ乱戦になってしまった。
「凄い剣幕でござんしたねぇ」
「無駄口叩いとらんと、キリキリ戦わんかい!」
湖で戦うことを前提にしていたこともあり、魔物側にも湖の上に立てる装備を用意している者はいた。しかし、彼らの中にはそもそも飛べる者もいれば、水中でも自由に動ける者もいる。彼らは湖面がまだ揺れ続けることで立つこともままならない者達に襲い掛かった。
この時、最も活躍したのは『八岐大蛇』だったのは言うまでもない。彼らは蛇系の魔物で統一されたクランであり、その大半は水中でも何ら問題ない。意外かもしれないが、蛇とは泳ぎが得意なのである。
数人は陸上に特化していることもあって湖面に浮かんでいるが、残りは鼻先だけを湖面から出しつつ身体をくねらせて猛然と人類に迫っていく。そして足に噛み付いたり、身体を巻き付けて水中に引きずり込んだりと自分達の強味を活かしていた。
「おわあああっ!?」
「こいつ!ウザ過ぎるだろ!」
「ヒヒヒ!最高の誉め言葉でござんすねぇ!」
特にウロコスキーを初めとした大型の蛇の活躍は凄まじいものだった。彼らの大きな身体は動くだけで湖面を大きく揺らし、バランスを崩されずにはいられない。噛み付かれれば身体に大きな穴が空くし、かすり傷に抑えても牙から滴る猛毒が傷を蝕む。戦う側からすれば鬱陶しいことこの上ないだろう。
ただし、人類側もやられっぱなしではない。飛び出すタイミングやすれ違う瞬間に合わせて武技や魔術で反撃している。ダメージを与えている感覚はあるのだが、致命傷と言えるダメージにはなっていない。攻撃を当てられる機会そのものが少ないと言うこともあるが、それ以上に彼らの鱗が異様に固かったのだ。
その理由はフェルフェニールの影響だ。龍帝が課すクエストを繰り返し受け続けることで、少しずつ龍としての力を分け与えられていたのである。
大型の身体は攻撃を避け難く、それ故に元から防御力は高くなっている。それに加えてフェルフェニールの影響でステータスが少しずつ上昇しており、その結果として人類側が違和感を持つほどの防御力を得ていた。
「くっ!降りてこい!卑怯者め!」
「飛べないそっちが悪いのよ」
「そう言うことです」
水中から襲い掛かるウロコスキー達と戦っている者達は、まだ戦いになるだけ幸運だったかもしれない。飛行可能な魔物を相手にする者達は辛い戦いを強いられていたからだ。
空中から一方的に攻撃され、対空攻撃はヒラリと回避される。その数は想像以上に多く、しかもその中には一頭ではあるが龍まで混ざっていたのだ。
「やって、ヨキ」
「キュオオオン!」
アマハとアルテミスを乗せた龍ことヨーキヴァルは、主人の命令に従って翼を強く羽ばたかせた。すると無数の真空波が発生し、湖面の騎士達に降り注ぐ。彼らは屈強な精鋭なので防ぎ、弾き、回避していた。
しかし、そうやって動きを止めたならアマハとアルテミスの矢に射られてしまう。急所を正確に撃ち抜くアマハの矢も、分裂したり爆発したりするアルテミスの大矢も非常に厄介だった。
さらに七甲の【召喚術】によるカラスの群れやモツ有るよの【格闘術】、不定期に邯那と羅雅亜が突撃してくることも考慮すれば最悪と言っても差し支えないだろう。主に戦っている騎士達は、歯を食い縛って耐えていた。
「ほっほ!面白いのぅ!」
「むぅ…お爺ちゃん、強い。こっちとは大違い」
「クッソ!馬鹿にしてんじゃないよ!」
「落ち着け、キクノ!絶対に好機は来る!それまで耐えるんだ!」
ジゴロウとウスバが乱戦しているのとは別の場所でも、個人と個人とパーティーによる三つ巴の戦いが繰り広げられている。その当事者は源十郎と茜、そしてルーク達のパーティーだった。
源十郎は飛ぶことは苦手だと公言しており、実際に後翅だけを羽ばたかせて飛ぶので他の飛行可能な魔物よりも空中での機動力で劣っている。湖面に氷が張っていた時のようには戦えないようだった。
しかしながら、弱くなったとは口が裂けても言えないだろう。襲い掛かっても最小限の動きで刃を避けられるし、隙間を縫うようにして正確に刃を滑り込ませて反撃される。かと言って手を出さなければ飛斬系の遠距離攻撃武技で体力を削られるのだ。
一応、魔術や弓矢による牽制は通用するのだが、そうやって全ての注意を源十郎に向ければ茜が襲い掛かるのだ。スピード特化の剣士としての彼女の技量は抜きん出ているが、一対一ならばルーク達と互角程度であろう。
「危ない!」
「うわっ!?」
「むぅ…勘が良い」
彼女がこの場にいる誰よりも優れているのは乱戦時における立ち回りの巧みさであった。【時空魔術】の転移を用いたり、水中に潜って足下から攻めたりと様々な方法で行われる奇襲。誰かの攻撃の起動を自然と他の誰かに誘導する手腕。対集団戦を知り尽くした『仮面戦団』に相応しい動きであった。
源十郎がルークのパーティーメンバーを斬り伏せられる好機に背後から斬りかかったり、逆にルーク達が源十郎に強力な一撃を叩き込むのを邪魔したりと茜の動きによって戦いは引っ掻き回されていた。彼女の立ち回りを源十郎は楽しみ、ルーク達は苛立ちを募らせずにはいられなかった。
「ぬおおおおおっ!?拙者の蔓がっ!?」
「水に浸けとけ…よっ!」
「やはり状態異常系の魔眼は通りが悪いですね。もっと精進しなければ…」
ネナーシとセイ、そしてミケロの三人は一つのチームとなって湖上を駆け回っている。彼らの役割は遊撃と回復であった。
湖面を凍らせて足場を作り出し、湖上を自在に駆け回るセイ。蔓によって拘束したり殴打したりと多彩な中距離攻撃で妨害するネナーシ。回復と攻撃を同時に行えるミケロ。彼らは一ヶ所に留まって特定の敵と戦うのではなく、常に移動し続けることで戦場全体に貢献していたのだ。
「メェー、メェー。獲物になったみたいだねー。メェー」
全体への貢献という観点からすれば、ヨーキヴァルの後ろ足で掴まれているウールは最大の貢献をしていると言っても過言ではない。悪魔の力を得たことで、彼の鳴き声による強化と妨害の効果は数段上昇しているからだ。
鳴き声を聞くだけで味方はより強く、敵はより弱くなるのだ。戦場全体に届けられるように上空から鳴き声を届けるべく、ヨーキヴァルが彼を運搬している。人類側は厄介なウールを狙うものの、ヨーキヴァルは回避する上にその背中に乗っているアマハやアルテミスから反撃されてしまう。下手に手を出すことも憚られる状態となっていた。
「ブオオオオッ!サンゴさん!」
「はい!シャッ!」
異なるクラン同士でパーティーを組んで戦っている中で、特にめざましい活躍しているのはエイジのチームだ。種族由来の圧倒的な筋力と体力、そして優れた武具に裏打ちされた防御力はまさに鉄壁。トップクラスのプレイヤーであってもそう易々と崩すことは出来なかった。
そんなエイジの首には一匹の蛇、サンゴノジョウが巻き付いている。小さな蛇と侮ってはならない。その牙から分泌される猛毒は、直接噛み付かれずとも十分な殺傷力を誇っているからだ。
鉄壁のエイジに守られたサンゴノジョウは、好き放題に毒を射出している。サンゴノジョウの危険性を理解しつつも、人類の攻撃は全てエイジが防いでしまう。まさに最悪なコンビであった。
「フフッ!やるわね!」
「そちらこそ!」
鉄壁を誇るエイジと言えど、背後まで常に意識し続けることは難しい。そこをカバーしているのは兎路とルリナのコンビである。双剣使いの兎路と状況に応じた武器を使いこなすルリナは、エイジの背後をしっかりと守っていた。
アグナスレリムという特大の戦力が湖の中へと潜ったことで魔物と人類の戦力差は後者の側に傾いたはずなのだが、魔物達は互角に渡り合っている。それは一人一人の技量が優れているのことや、強力な武具と消費アイテムが揃っていることも理由の一つだった。
しかしながら、最大の理由は初見殺し的な側面が強かったことだろう。人類の場合、装備している武器や防具によって相手の戦い方がある程度予想がついてしまう。しかし、魔物には爪や牙、尻尾などの生体武器とでも言うべきモノがある。この差は大きく、人類側は隠された何かを警戒する必要があるのだ。
「水面が!」
「あいつが出てくるぞ!」
人類側からすると予想外に拮抗した戦いになってしまったところで、水面が再び大きく揺れる。水中から何か大きな影が迫っており、誰もがアグナスレリムが帰還したことを理解した。
人類側は再び強大な敵が戻ったことに絶望し、魔物側は勝利を確信して喝采を上げる。様々な思いと共に湖面から勢いよく飛び出したアグナスレリムは…その背中に無数の昆虫に集られて、片翼を失っているのだった。
次回は9月20日に投稿予定です。




