古代兵器争奪戦 その三
「お、おおお!骨の龍様!」
「まるで力の化身だ!」
「何と神々しい…!」
集落が襲われる間一髪のところで間に合った…ように見える我々の登場に、蜥蜴人は歓声を挙げた。驚かれたり困惑されたりすると思っていたのに、私だと即座にわかったことに私の方が驚いてしまう。杖が同じだからだろうか?
それよりも、彼らの信仰対象である龍であるカルとリンを見て平伏している。いや、目の前に敵がいるのだぞ?そんなことをしている場合ではないだろう!?
「ぐうっ…!?」
平伏する蜥蜴人に向かって投げナイフを投擲しようとしていた者がいたのだが、そいつは苦悶の声を上げて前のめりに崩れ落ちる。背後から急所を貫かれており、胸からは刃物の切っ先が飛び出していた。
奴の仲間はその背中へと刃を振り下ろす。背中には何もないように見えるのだが、連中は倒れた仲間の背中が深く抉れるほどに斬りつけた。おいおい、確かに致命傷だったとは思うが、仲間にトドメを差すのか。流石は暗躍専門の騎士団と言ったところだろう。
「あっぶな~!あいつら、ボクのこと見えてたよ」
焦ったような声で私に話し掛けたのは、いつの間にかカルの頭の上にいたルビーだった。そう、彼女はずっと集落の近くの湖中で気配を消して敵が来るのを監視していたのだ。
その間、私達は襲撃相手に勘付かれないように上空で待機していた。そしてルビーから敵が仕掛けて来たという連絡を受け、私は急降下するようにカルへと指示を出したのだ。つまり、ギリギリに駆け付けたのではなく、ギリギリまで敵を引き付けていたのである。
「相手も暗殺やら破壊工作が専門の連中だ。水中で動かずに待機していたならともかく、動けば見破られるのも仕方がないだろう」
「そうだけど、ちょっと悔しいよね。レベルじゃこっちの方が上なんだからさ」
カルの上で呑気に会話する私達に、騎士達が仕掛けてくることはなかった。魔術を待機状態にしていていつでも襲えることも理由の一つだろうが、最大の理由はお互いの戦力差を冷静に分析しているからだろう。
コンラートの情報によると、この騎士団は名前すら与えられていない秘密の組織だ。どれだけ困難だろうと、どれほど胸くそが悪くなるような理由だろうと、冷徹に任務をこなすのが存在意義だと言う。そしてそれを可能にするため、様々な装備が支給されていた。
その装備の中には格上にも通用する強力な武器などもあるという噂らしい。しかしながら、住人にはプレイヤーのようなインベントリが存在しない。その場で装備を変更するようなことは出来ないのだ。
今、目の前の騎士団の任務は蜥蜴人の集落を壊滅させること、そして湖に眠る古代兵器を奪い取ることだ。彼らの実力であれば蜥蜴人を全滅させることなど容易い。特別な装備は必要ないだろう。
そうなると今の装備は水上や水中での活動、そして探索に必要な装備で固めているはず。我々と真っ向から戦うには心許ないのではないか?まあ、本気が出せないとしても私は手心など加えないがな。
「五番隊から八番隊、お前達は古代兵器の奪取へ向かえ。残りの全員はここを死地と心得ろ」
「チッ、潔い判断だ。ルビー!」
「任せて!」
カルの奇襲から逃れたリーダーらしき男は、私にとってかなり面倒な選択をしてくれた。蜥蜴人の集落については見切りをつけ、より重要な古代兵器の奪取を成功させることにのみ力を注ぐ決断を下したのである。
一部の人員を古代兵器の奪取に向かわせ、残った全員は命を捨てて私に立ち向かうつもりだ。ここで逃しては意味がないので、私はルビー追い掛けさせた。
「掛かれ!」
「迎え撃て、カル!リン!行け、黒龍咬!」
古代兵器の奪取に向かった騎士を追いかけてルビーが湖に飛び込むのと、他の騎士達が私達に襲い掛かったのは全くの同時だった。カルは振り上げた前足を振り下ろし、リンは鞭のような尻尾で鋭く突く。そして私は待機状態だった魔術を解き放った。
黒龍咬と名付けたこのオリジナル魔術だが、闇腕をベースに組み立ててある。この形状を弄ってカルのような頭部に変え、さらに【邪術】の即死効果や【虚無魔術】の防御貫通などを付与してあった。直撃すればただではすまんぞ?
「ガハッ!?」
「グエェ!?」
カルやリン、私の攻撃が先頭集団を叩き潰す。カルの爪が騎士を引き裂き、リンの尾は数人の急所をまとめて貫いた。私の黒龍咬に噛み付かれた者も悲鳴を上げて力尽きる。やはり、戦うための装備は持っていないようだ。
ただし、向こうは我々に比べれば数が多い。数に任せて二頭の主である私に接近し、仕止めようとしているらしい。カルは決して近付けさせまいと爪を振るい、牙で噛み付いている。魔術や爪牙によって、騎士達は次々と傷付き、倒れていった。
だが、人海戦術によって私の首に刃が届く位置にまで来る者達がいる。その中には厄介な判断を下した例のリーダー格の男もいた。指揮官になるだけあって腕も立つようだ。
「死ね!」
「させないよ!」
私の首を狙って振られた刃だったが、それが私に届くことはなかった。何故なら、その刃の前には刃のように鋭い節足が割り込んでいたからである。
私を守ってくれたのはカルの腹の下に張り付いて隠れていた紫舟だ。彼女は節足を自在に振るい、騎士達の持つ剣や短剣ごと彼らを斬り裂いていく。指揮官の男も紫舟動きに対応しようとしていたが、武具の性能が追い付かずに致命傷を負っていた。
「二番隊…指揮を…引き継げ…」
「了解」
紫舟に喉笛をかき斬られた指揮官はそんな遺言を遺して力尽きた。すると、指名された者が即座にその指揮を引き継いで統率を全く乱さずに戦闘を継続しているではないか。
しかし、そのことに驚きはない。コンラートから聞いていた情報によれば、彼らに騎士団長と呼ぶべき存在はいない。事前に現場での指揮系統はハッキリさせておき、万が一にも指揮官が死亡した場合は誰が引き継ぐのかも決めてあるのだ。
リーダーを討ち取ったとしても意味がないと言うのは非常に面倒だが、彼らは戦闘における自分の実力を十分に発揮出来ない状況にある。リーダーが代わったとしても、戦闘が継続可能ということ以上の意味はない…と思われた。
「総員、集落を攻撃せよ」
「こいつも思いきりが良いな…そう言う組織なのだから当然か。忌々しい」
だが、二人目のリーダーは一人目よりもさらに面倒な選択をしてくれた。一人目は私達を湖に潜らせないように足止めを命じた訳だが、二人目は私達を無視して蜥蜴人の集落を襲う指示を出したのである。
一人目の指揮官は味方を確実に湖へ潜らせるための指示だった。そして二人目の指揮官は我々を無視してもう一つの任務である蜥蜴人の集落を破壊することまで完遂しようとしているのだ。
我々に背中を向けることになり、背後から襲うことに我々は躊躇しない。つまり、彼らは蜥蜴人の集落と心中するつもりなのだ。
「やはり準備とは大事だな、紫舟」
「うん!そんなこともあろうかと、仕込んでるもんね!」
「「「シャアアアアアアアッ!!!」」」
だが、コンラートから既に情報を得ていた私達は全滅前提で任務を遂行しようとする連中だと知っている。ならば我々に隙を曝してでも集落を襲う可能性は考慮していたのだ。
集落に飛び込んで蜥蜴人を傷付けようとする騎士だったが、その足元から唐突に十五匹の蛇が襲い掛かる。当然ながら、野良の蛇ではない。彼らは『八岐大蛇』のメンバーで、隠密が得意な者達だった。
事前に集落を囲むように配置していた彼らは、集落を強引に攻めた場合にそれを阻止する役割だ。今がまさにその時であり、彼らの士気は最高潮と言っても良い状態だった。
ちなみにそのまま私と戦うのならば背後から襲い掛かり、逃げるのならば回り込んでその前に立ち塞がる予定であった。どう転んだとしても、彼らは我々の手で全員倒すつもりだったのである。
「骨の龍様、これは一体…」
「心配するな。彼らも私と同じ風来者だ」
近くにいた蜥蜴人が何が何やらわからないといった雰囲気で私を見上げるので、簡潔に状況を説明する。彼らの安全のためにも、蜥蜴人にはあまり動かないでいて欲しいのだ。
ここにいる『八岐大蛇』のメンバーにはウロコスキーもサンゴノジョウもいない。しかしながら、そもそも『八岐大蛇』のメンバーは手練れ揃いだ。実力は申し分ないのである。
「やっちまえ!早い者勝ちだぞ!」
「一番倒した奴には王様がボーナスくれるらしいからな!」
「え?そうなの?」
「いや、初耳だ」
紫舟の質問に私は首を横に振った。騎士に襲い掛かる『八岐大蛇』のメンバーは私がボーナスを出すと言っているが、そんなことを言った覚えはないのである。
何が原因かはわからんが、身に覚えがないことでの出費は抑えたい。かと言って彼らのやる気を殺ぎたくないし…こうなったら私が一番多くの騎士を倒してやる!
足元からは強い蛇達と大きな蜘蛛が、上からは龍と魔術が飛んでくるのだ。騎士達は蜥蜴人を傷付ける前に次々と討ち取られていった。
「毒…かくなる上は…!」
「ぐえぇっ!?」
ただし、騎士達もただでやられはしない。死亡する直前まで決して戦うことを止めず、それどころか体力的に厳しくなったら自爆して刺し違えようとするのである。
最後の一人が自爆するまで粘ったこともあり、戦闘そのものが予定よりも長引いてしまった。それに被害も想定よりも大きい。自爆の余波によって集落の建物が幾つか全焼し、蜥蜴人も巻き込まれて十名以上が死亡した。
さらに『八岐大蛇』のメンバーも二人がリスポーンしている。まあ、今も見えないほどの高度で待機しているシラツキで復活するので問題はない。しばらくしたらまた降りてくるだろう。
「む、村が…」
「これからどうすれば…」
集落が悲惨な状況になっている蜥蜴人達は呆然としたり、膝から崩れ落ちたりしている。自分達の住む場所が急にこんなことになったのだから、この反応も仕方があるまい。
しかし、悲嘆に暮れられても困る。まだまだ、我々にはやるべきことがあるのだから。
「聞け、蜥蜴人達。実は今、アグナスレリム様が襲われている。お前達が襲われたのはそのついでのようなものだ」
「何ですと!?」
「龍王様が!?」
「落ち着け!そこにも我々は戦力を送っている。あの方は大丈夫だ」
アグナスレリム様が襲われたと聞いた蜥蜴人達は騒ぎ出しそうになったので、私は一喝して黙らせる。種族に王という文字があるからかすぐに静かになった。
戦力を送っていると聞いたからか、蜥蜴人達は安心している。私達を、と言うよりも私のことを信頼してくれているようだ。ならば、それを裏切る訳にはいかない。予定通りに行動しよう。
「私も後で向こうに合流する。だが、その前に諸君らを安全な場所へ連れていく」
「そんな!」
「我らも戦います!」
「それは許可出来ない。向こうはここを襲撃した者達よりも強い連中しかいない。私は諸君らに無駄死にして欲しくないのだ」
アグナスレリム様を助けたい気持ちはわかる。だが、正直に言って彼らでは足手まといにしかならない。その自覚はあったのか、私にハッキリ言われたことで勢いが衰えていく。それで良い。無駄死にする必要などないのだから。
「だが、ここに居続けるのも危険だ。先ほどのような連中がもう一度来る可能性もあるからな」
「では、どうすれば…」
「安全な場所へ連れていく。戦いが終わるまで、そこで待っていてくれ」
今回に備えてシラツキには外付けの格納庫を装備させている。そこには彼らを全員乗せても余裕があるスペースがあった。そこに匿っておくのだ。
蜥蜴人はそれなりに人数がいることもあり、時間が必要になることだろう。その間はジゴロウ達を信じ、私達にしか出来ないことをやるのだ!
次回は9月12日に投稿予定です。




