古代兵器争奪戦 その一
ログインしました。昨日は閻魔城から地上に出た後、帰るまでの道のりではほぼ戦闘することすらなかった。どうやら事前に獄吏達が付近の獄獣を掃除していたらしく、討伐証明とでも言うべき部位以外は残っている死体だらけであったのだ。
ハイエナ行為的な背徳感はあれど、獄吏達は他の部位は必要としていない。ならば遠慮なく集めるべきだ。我々は道中に転がっている全ての死体を剥ぎ取っていった。
その後、一度だけ獄獣の群れと戦闘になっている。だが、特筆するほど脅威に感じる群れではなかったので軽く蹴散らした。獄獣が弱くなったのではなく、我々が強くなったのである。
そうしてフェルフェニール様のもとへ戻った際、かの龍帝は開口一番にこう言った。『獄吏には会えたようだね、うん』と。
やはりフェルフェニール様は我々が獄吏と遭遇するように狙っていたようだ。そして獄吏と交流することを狙っていたのだろう。そのお陰で今日のための様々な情報が得られた上に、心強い味方を得られたのだ。
フェルフェニール様にとっても、少しでも作戦の成功確率を上げたかったからこそ手を貸したのだ。実際、我々が礼を述べても「礼を言うならこっちの方だね、うん」と言っていた。
「さて、全員時間よりも早く到着しているな」
「当たり前じゃない!大仕事を前に遅れるなんてあり得ないわ!」
「あり得ないかどうかは別として、ウチの身内にフェルフェニールの大旦那の依頼を無下にする阿呆がいるわけないのでござんす」
何にせよ、誰一人として遅刻者はいない上に、士気は十分に高まっている。やる気は十分、連係も短い時間ながら磨いた。後は敵の計画を阻止するだけだ。
「それでは、出発するぞ。シラツキ、発進だ」
『わかりました!』
シラツキの館内にあるホールで私がそう言うと、艦橋にいるアイリスがシラツキを発進させる。内部にいるとほとんど何も感じないが、シラツキは物凄い速度でアグナスレリム様のもとへ向かって飛んでいることだろう。さあ、暴れてやろうじゃないか!
◆◇◆◇◆◇
ルクスレシア大陸で随一の国家、リヒテスブルク王国。この国は複数の小国と接しているのと同時に、人類の支配が及ばない領域とも接している。その支配地域の拡大を王国は常に狙っていた。
しかし、その道は困難だった。決して一枚岩にはならない国内の貴族達、友好的ではない小国家郡や他大陸の国家との外交、国内の犯罪組織との戦い…この内のどれか一つでも問題が片付かない限り、王国が支配地域を拡大することは不可能だと言われていた。
そんな停滞した状況に大きな変化が起きたのは、風来者…すなわちプレイヤー同士のもめ事が原因だった。あれよあれよと言う間に戦いの規模は大きくなり、最終的には国内の犯罪組織を一掃することに繋がったのだ。
犯罪組織との戦いに勝利したことは、国内の情勢にも大きな影響を及ぼした。犯罪組織と繋がりのあった貴族家は弱体化し、逆に王家はその力を見せ付けて求心力を高めることに成功したのだ。
さらに犯罪組織が残した資産やアイテムも王国が徴収することとなる。風来者が発見、入手したものは回収出来なかったが、得られた利益は莫大なものだった。
国庫が潤った王国だったが、彼らにとっての幸運はそれだけでは終わらない。彼らはその中にあった資料によって、太古の時代に用いられた古代兵器の隠し場所を掴み、さらにそれが王国の辺境からほど近い場所にあることを知ったのである。
波に乗っている王国は、この古代兵器を掌中に収めることを決意する。その力を用いて大陸を、そして行く行くは世界を統一するために。
「古代兵器は必ずや我らが奪い取る。そして同時に、この湖は王国の領土とさせてもらう。そのために、忌まわしき魔物は消さねばならぬ。わかっているな?」
「「「はっ」」」
古代兵器が眠る湖で王国の軍と風来者の一団が戦うべく進軍している頃、森の中で漆黒のマントを羽織った一団が集まっていた。彼らのマントにはフードが付いており、しかも全員が黒い布のマスクを着けているので顔はほとんどわからない。誰がどう見ても怪しい集団だと思うことだろう。
しかし、森の中で数十人の怪しい集団がいると言うのに魔物が寄ってくることはない。それどころか彼らの近くを野生の動物が無警戒で歩き、すぐ側の木の枝では小鳥が囀ずってさえいた。
この隠形に優れた者達は、一見すると暗殺者の集団か邪悪な教団の構成員にしか見えないだろう。しかしながら、彼らは歴とした王国の騎士であった。
ただし、彼らの任務は戦場で華々しく戦うことでも人々を守ることでもない。王国にとって不必要なモノを秘かに抹消したり、必要だが正規の手段では得られないモノを入手することだった。
この暗躍専門の騎士団に名前はなく、それどころか表向きは存在しないことになっている。それ故に彼らは任務に成功しても功績を喧伝されることはなく、失敗した場合は無関係な犯罪者として当然のように切り捨てられる。決して報われることはない彼らは、それでいてどの騎士団よりも士気が高かった。
彼らの士気を支えているもの。それは王国への揺るぎなき忠誠心だった。この騎士団は貧しく身寄りのない子供を拾い、死者が出るほど厳しい戦闘訓練と王国への刷り込まれて育つ。こうして忠誠心は彼らのアイデンティティーとなっていくのだ。
この名もなき騎士団の任務は二つある。一つは他の戦力が強大な魔物である神代水龍王を引き付けている間に古代兵器を奪取すること。そしてもう一つがその前に蜥蜴人の集落を滅ぼすことだった。
彼らは表の戦力が神代水龍王を倒せるとは思っていない。だからこそ、隠形に優れた彼らの出番なのだ。他の騎士が派手に戦っている横で、秘かに真の目的を果たす。まさに彼らのための任務であった。
もう一つの任務である蜥蜴人の抹殺だが、これもまた彼らにしか行えない極秘の任務だった。と言うのもこの集落の蜥蜴人は攻撃されない限り風来者に友好的であり、これを滅ぼすとなると風来者の間で反発する者達が出てくるからだ。
風来者が敵に回った時は非常に厄介だ。彼らには国家の権威が通じず、国家と敵対することも別の国を拠点に変えれば良いだけ程度にしか思っていない者達が多い。なるべく敵に回す要因を作らないようにするべく、彼らにこの任務が回されたのである。
「我らは影に潜む者。影より王国に繁栄を」
「「「我らは影に潜む者。影より王国に繁栄を」」」
名もなき騎士団の標語を口にすると、彼らは一斉に走り出した。それまで完璧に気配を消していたので、近くにいた動物は急に騎士団の者達が現れたように見えたことだろう。突然のことに動物は急いで逃げ、小鳥も飛び立った。
慌てる動物達には目もくれず、騎士団は一直線に蜥蜴人の集落を目指して直進する。集落は湖上の小島にあるが、彼らは水の上を走ることが出来る靴を装備しているので障害にはならない。一瞬たりとも速度が落ちることはなかった。
集落が見えてきたところで彼らは武器を抜く。ここまで来るともう蜥蜴人に見付かったらしく、彼らは慌てて戦闘態勢に入ろうとしていた。
しかし、その動きは騎士団から見れば憐れになるほど遅い。任務を果たすために鍛練し続けている騎士団と、ただ生活しているだけの魔物との違いである。素の身体能力に優れていても、多少なりとも鍛えていても、圧倒的なレベル差は残酷なまでに互いの力量に差を作り出していた。
「殺し尽く…!?」
騎士団を率いる者は蜥蜴人の殲滅を命じようとする。だが、その前に彼の直感が後ろに下がれと警鐘を鳴らす。直感に従って後ろへ跳躍した彼の判断は、彼自身の命を救った。
「グオオオオオオオッ!!!」
「ぎゃああっ!?」
「げふっ!?」
彼が退いた直後、上空から身の毛もよだつような恐ろしい咆哮と共に凄まじい勢いで地面に何かが落ちてきたのだ。咆哮は聞いた者を怯えさせ、動くことを封じてしまう。彼のすぐ後ろにいた者達は動けなくなったところを踏み潰されてしまった。
湿地に落ちてきたこともあって水飛沫が上がり、騎士達は反射的に顔を庇った。透明度の低い泥水の水飛沫は、物理的な強度はない。しかし、互いの視界を遮るのには十分な壁となっていた。
その薄い壁を突き破って、何かが騎士達に襲い掛かる。騎士達の目には槍のように見えたそれは、鋭利な先端で防具の隙間から急所を穿ち、騎士の一人を討ち取ってしまった。
「がっ……!」
「鞭……?いや、違う」
騎士の急所を貫いた後、槍に見えたそれは鞭のようにグニャリとしなりながら戻っていく。それが戻るのと水飛沫の壁が重力に従って落ちていくのは同時であり、壁の向こう側にいた者達の姿が明るみに出た。
それは二頭の龍であった。一頭は漆黒の鱗に四枚の翼、分厚い大剣を彷彿とさせる尻尾を持つ破壊と暴力の化身のような龍だ。足元に転がる騎士の亡骸を踏み潰しつつ、低く唸り声を出しながら騎士達を睨み付けていた。
もう一頭は銀色の鱗に透き通った翼に長細い尻尾の美しい龍である。尻尾の先端には鮮血が付着しており、騎士を貫いたのはその尻尾であることは明白だった。
銀の龍は黒い龍ほど露骨に殺気を振り撒いてはいない。しかしながら、騎士達を睥睨するその瞳は、目の前の騎士達に価値を見出だしていないようだ。どちらにせよ、二頭とも明確に騎士達を敵だと見定めていることだけは確かだった。
ただし、騎士達の視線を集めていたのは二頭の龍ではない。黒い龍の背中に立つ、美しい宝珠が幾つも嵌め込まれた黄金の杖を携えた黒いローブの魔術師だったのだ。
彼らは本能で感じ取っていた。あの魔術師は人のようなシルエットであっても魔物であると言うことに。そして…自分達とは決して相容れない敵対者であると言うことに。
「初めまして、騎士の諸君。そして、さようならだ」
普通の人にしか思えない声で魔術師はその黄金の杖を上に掲げる。すると虚空から龍の頭が五つも現れる。王国への揺るがぬ忠誠心を持つ騎士達だが、思わず後退りしてしまうのだった。
次回は9月4日に投稿予定です。




