作戦の前日冒険 その一
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【知力超強化】レベルが上昇しました。
【精神超強化】レベルが上昇しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
【暗殺術】レベルが上昇しました。
【指揮】レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの種族レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの職業レベルが上昇しました。
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ログインしました。王国による古代兵器奪取作戦の決行日はついに明日に迫っている。今日まで私達はとにかく自分達の強化に励んだ。それしかやるべきことがなかったからである。
最初、今の内に何か手を打つべきだと私達は考えた。ウスバの情報によって相手の狙いを事前に知っているのだから、それを台無しにしてやれば良いのだ、と。
しかし、その目論見はウスバによる追加情報によって断念せざるを得なくなった。それは例の隠密行動を得意とする騎士達が既に蜥蜴人の集落を監視しているからだ。
もし我々が下手に手を出せば、そのことが敵に知られてしまう。そうなった場合、我々という第三勢力の存在が明るみに出る上に、敵の動きにどのような影響が出るのか読みきれない。仕方なく事前に手を出すのは止めておいた。
その代わりに当日に関しては色々なパターンを予想して計画を立てている。それでも想定外のことは起こり得るだろうが、何の計画もなく動くよりは何倍もマシだろう。
「連係強化のためにってことでござんすがね、アンタ方とパーティー組んで戦うってなぁ心が踊るってモンでござんすよ」
「ンフフ、参戦クランのリーダー三人が揃い踏みってのも悪くないわ」
「確かにな」
その計画の一環として、探索する時は作戦に参加する三つのクランのメンバーと合同で行うように心掛けていた。最終日である今日は特別にクランのリーダー達でパーティーを組んで探索することにしたのだ。
明日の状況がどうなるかはわからないが、どんな状況であっても全てのクランが最初から同時に行動することはない。だからこそ、最終日だけは絶対に成立しないであろう三人で行動することにしたのだ。
「船頭多くして…何だっけかァ?」
だが、クランのリーダーだけでは人数が少なすぎる。そこで我々にとっての相棒と言えるプレイヤーを連れてくることにしたのだ。
私の相棒と言えばジゴロウ一択である。強さで言えば源十郎も候補に上がるが、相棒となるとジゴロウしかいない。一番最初に接触した二人がジゴロウとアイリスだ。二人とも大事な仲間だが、こと戦闘における相棒ならばやはりジゴロウだった。
「『船頭多くして船山を登る』ですよ、ジゴロウの旦那」
ウロコスキーの相棒は、ジゴロウと同じく最も最初にパーティーを組んだ相手である。名前はサンゴノジョウと言い、全長三十センチメートルほどのかなり小さな蛇だった。
クランのリーダーであるウロコスキーが大型の蛇だからこそ、その相棒が小さな蛇なのは驚きだった。ウロコスキーよりもさらに大きな蛇の仲間もいるのだが、そのプレイヤーを抑えてサンゴノジョウが相棒としての地位を確固たるものにしているのには理由がある。それは…純粋に彼が強いからだ。
我がクランで最も小さいのはルビーだが、サンゴノジョウは彼女とほぼ同じくらい小さい。そんな彼の強さを支えているのはただ一つ。牙から分泌させられる毒の強さだった。
サンゴノジョウの毒は『八岐大蛇』で最も強力である。それこそ他の追随を許さないほど、ぶっちぎりで強力な毒なのだ。身体の大きさやステータスの高さを捨て去り、毒の強化にのみ特化した蛇。それがサンゴノジョウなのだ。
彼の毒はあまりにも強力であり、信じられないことに【状態異常耐性】のある不死…すなわち、私すらも蝕むことが可能なのだ。本気の毒を撒き散らすと仲間であるウロコスキー達すらも殺しかねないようで、ある意味『八岐大蛇』というクランで最も危険な人物だった。
その危険性はすさまじく、自分達の秘密を明かすことになるとわかった上でウロコスキーはサンゴノジョウの毒をしいたけに提出している。彼女の力によってサンゴノジョウの毒に対する解毒薬を作らせようとしていたのだ。
しいたけはこれまで入手したどんな毒よりも強力なサンゴノジョウの猛毒に狂喜乱舞し、彼の毒を中和する劇薬を作り出した。サンゴノジョウの猛毒はあまりにも強力すぎたようで、今の我々が入手可能なアイテムで作り出せる解毒薬ではどうしても副作用が出てしまうのである。
今ある解毒薬の副作用は、使用者の最大体力がリアルタイムで一日の間三割減少すると言うもの。つまりサンゴノジョウの毒を受けた場合、そのまま死ぬか体力の三割を失った状態を受け入れるかを選ばなければならないのだ。
恐らく現存するプレイヤーの中で最も強力な毒の使い手だが、その代償は中々に大きい。彼のステータスは小さな蛇の外見通りに貧弱なのだ。我々と同じく90レベルは越えているものの、戦士職ならば20レベル相当程度のステータスしかなかったのである。
それこそ、魔術師である私でも大鎌と尻尾で軽く蹴散らせるステータスしかない。誰よりも強力な毒を持つ、誰よりも貧弱な蛇。私の知る中でも最もピーキーな構成のプレイヤーかもしれない。
「そんなことになられては困るんですが…」
ママが連れてきたのは、白銀の甲冑と同じ意匠の剣と盾が眩しい森人の女性だった。女性しかいない『Amazonas』のメンバーなのでプレイヤーも女性である。彼女の名前はルリナ。ママにとっては右腕のような存在だ。
ヨーキヴァルを駆るアマハはクラン内では最強のエースだが、相棒となるとルリナであるらしい。ママが大弓使いとして後衛にいる分、前衛の指揮を一任されることが多いようだ。
今は剣と盾を装備しているが、その戦闘スタイルは源十郎に酷似している。短剣や槍など、複数の武器が使えるのだ。状況に合わせて武器を切り替え、常に敵に対して有利に立ち回る。その万能さがルリナの武器と言えた。
同じ戦闘スタイルと言うこともあってルリナは源十郎に色々と教わっている者の一人である。源十郎は武技を用いない戦闘や武技を最大限に活かす技術の勉強会を主宰することがあり、参加者には『道場』と呼ばれていた。
閑話休題。毒という一点に特化したサンゴノジョウとはまさに正反対である。武器と防具は全て白銀で統一されており、金や緑色の宝石によって彩られている。何と言うかとても華のある見た目であった。
ただ、これは見た目だけを重視してのことではないらしい。私も詳しいことは知らないが、同じ素材を用いて特定の条件を満たすと武器と防具の性能が上がる能力があるらしい。ルリナの武具はその対象だそうだ。
「そんなことにはならねぇんで大丈夫でござんすよ」
「ああ、ウロコスキーの言う通りだ」
「アタシに決まっちゃったのよねぇ…ジャンケンで」
誰がリーダーをやっても良い状況だったので、我々はジャンケンで手っ取り早く決めた。ママは少し乗り気ではないようだが、ジャンケンの結果なのだから従って欲しい。
ちなみに、手のないウロコスキーはジャンケンのタイミングでグー・チョキ・パーの一つを口に出して参加していた。手がなくともやろうと思えばジャンケン出来るものである。
「ところで…ここはどこだ?」
「えぇっ!?何で知らないの!?」
私達は現在、フェルフェニール様の力を借りて地獄に来ていた。普段は同じ場所、つまりフェルフェニール様のいる大穴の真下に降ろされるのだが…今、我々は少なくとも私には見覚えのない場所にいた。
頭上を見上げればフェルフェニール様の大穴が随分と遠くにある。こんな場所まで来たことは一度もない。どうしてこんなことになっているのだろうか?
「そいつぁ完全にウチらのせいでござんす」
「…と言うと?」
「フェルフェニールの大旦那が課した試練の一環でござんして、その日の気分で落とした場所から戻って来るように言われてるんでござんすよ」
「つまり、『八岐大蛇』のメンバーと一緒だったから巻き込まれた…ってことなの?」
「多分そう言うことでござんす。いやぁ、こんなことになるたぁ露ほども思わなかったでござんすね!ハッハッハ!」
「たっ、大変申し訳ございません!」
ウロコスキーは大笑いし、サンゴノジョウはペコペコと頭を下げている。どうやら最も強い毒を吐く男は誰よりも丁寧な言葉遣いをする男であるらしい。
何にせよ、フェルフェニール様の真下へ帰らなければここから出られないのだ。行く方向はもう決まったようなもの。ある意味、ここからどうするのかで揉める必要がなくなって良かったと言うものだ。
ドオオォォォォン!!!
ギャオオオオオッ!!!
そう言ってサンゴノジョウを慰めようとした時、近くで大きな爆発と魔物の咆哮が聞こえてきた。どうやら戦闘が起きているらしい。しかもその音はここと大穴を繋ぐ直線上にありそうだ。
さて、ではどうするか。戦闘が起きているのならばそこに飛び込むか避けて迂回するかを選ぶ必要がある。普段なら私が決めるのだが、今回のリーダーはママだと決まっていた。私達は彼女の判断をじっと待っていた。
「…ジゴロウちゃんとウロコスキーちゃん!そんなワクワクした目でこっちを見ないでよ!もう!わかったわよ!野郎共、突っ込めぇ!」
「そうこなくっちゃァなァ!」
「ヒヒヒ!楽しみでござんすねぇ!」
どうやらママはジゴロウとウロコスキーは期待する視線に耐えられなかったらしい。まあ、私も異形極まる地獄の魔物には興味がある。どんな魔物と遭遇するのか、今から楽しみだ!
次回は8月11日に投稿予定です。




