案内、そして代償
取りあえず情報を集めるべく『仮面戦団』に協力を仰ぐことが決まったものの、情報が集まるまでは方針を決めることすら難しい。それ故にここで話し合えることはなく、自然と解散する流れとなった。
ジゴロウと源十郎は早速ウスバ達を説得するべく、彼らの拠点へと足を運ぶようだ。一緒についていきたい気持ちはあるのだが、こっちはこっちで先約があるので行くことは出来ない。信じるとしよう。
「あの二人、何を交換条件にするつもりでしょうか?」
「さぁな。ただ、何となくだが…私は後で頭を抱えることになりそうな気がする」
「嫌な予感が拭えないのね」
「奇遇だな。俺も同じ気持ちだよ、イザームさん」
そんなこんなで現在、私はカルの背中に乗って飛行中だ。同行者はエイジと兎路、それにセイと彼の従魔達だった。
兎路だけはリンの背中に乗っているが、残りの全員をカルが運んでくれている。プレイヤー三人にフィルという大型獣の従魔を抱えていても、カルは重そうな素振りすら見せない。流石のパワーである。
「沈んでいる古代兵器について、最低限の情報は話すだろう。それに加えて、古代兵器を奪取しようとする者達との戦い関連の条件を出す。これは確実だ」
「戦い大好きですもんね、あの人達」
ジゴロウや源十郎と同じく、いや、こだわりの面では二人以上なのが『仮面戦団』というクランだ。そんな彼らに出す条件として真っ先に挙げられるのは戦闘に関することだろう。
しかし、ただ戦うだけなら彼らは自分の意思で向かうだけだ。我々がおらずともコンラートかアンに頼めば現地まで運んでもらえる。それ故に運ぶことは交換条件になり得ない。本当に何を言うつもりだ?
「まあ、その件は二人に任せたんだ。結果を待つだけで良い。それよりも…いたな」
「やっぱり目立つなぁ、龍って」
セイの言う龍とはヨーキヴァルのことである。私達が空を飛んで移動していたのは、ママとアマハの二人に合流するためだったのだ。
昨日はフェルフェニール様の話があったせいで、案内するはずだった場所をどこも紹介出来ていない。その約束を果たすべく、私は今日も二人と行動を共にするのだ。
「二人とも、待たせてしまったようで悪いな」
「気にしないで、イザームちゃん!こっちは案内してもらう方なんだもの!」
「それにこっちもついさっき話し合いが終わったところだから、ほとんど待ってないのよ」
ヨーキヴァルを目印に地面に降りた私は二人に謝罪するが、向こうも待ち合わせ場所に来たばかりであるらしい。待たせたのでないなら良かった。
「移動する前に聞いておきたい。古代兵器の件でそっちは掲示板に書かれていること以上の情報は何かあるか?」
「残念だけど、全くないわね。伝手のある情報屋に連絡してみたんだけど、何の情報も得られなかったわ」
「むしろ私達の居場所を聞き出そうとする連中ばっかりよ。面倒だから教えてないけど」
「こちらも同じだ。中々思うようには行かないものだな。それよりも、改めて大陸巡りに行こうか」
外にいたこともある彼女達なら何か情報を得られたかと思ったが、そんなことはなかったらしい。こればかりは仕方がない。むしろこの大陸のことを教えなかったことに感謝するべきだ。
何はともあれ、今日の目的は大陸の案内である。私達は三頭の龍達に乗り込むと、まずはフェルフェニール様の巣を目指して飛行した。幸いにも今日は空中で襲撃されることはなく、速やかに目的地へとたどり着いた。
『おやおや?二日連続で来るとは思わなかったね、うん』
昨日とは異なり、フェルフェニール様は巣の外に全身を出して寝転がっていた。それも仰向けになって腹を上にしている。ものすごく寛いでいた。
どうやら日向ぼっこをしていたらしい。離れた場所から見ていると、丸みのあるシルエットはかわいらしさすらあるのだが…近付くとその大きさのせいで威圧感しかなかった。
昨日は頭しか見ていなかったこともあって、改めてその大きさを実感したママは感心したように何度も頷いている。一方でアマハは決して視界に入れないように顔を反らしていた。彼女のカエル嫌いは相当なもののようだ。
『どうしたんだい、うん?』
「実は彼女達にこの大陸で探索可能な場所を案内しているところでして」
『下に連れていけば良いんだね、うん。君達が間引いてくれるのは大歓迎だね、うん』
ママ達をここへ連れてきた理由。それは二人に大陸の地下、地獄を紹介するためだった。そして地獄に行くための方法は…フフフ、驚くだろうな!
『全員を送り届ければ良いのかな、うん?』
「いえ、私とカルとリンはここで待ちます。こちらの二人とヨーキヴァルもすぐに地上へ戻していただきたい。他にも案内したい場所がございますので」
『わかったよ、うん』
地上に戻すのは当然ママ達だ。逆にエイジ達はそのまま地獄に素材集めに向かう。どうやら三人はそれぞれ地獄の素材に用があるらしいのだ。だからこそ、ここへ共に来ることになったのである。
フェルフェニール様は寝返りをうってうつ伏せになると、ズシンズシンと地響きを鳴らしながらこちらへと一歩ずつ近付いてくる。今から何が起こるのかわからないママは困惑しているが、知っている三人は覚悟を決めたかのような顔付きになっていた。
「ね、ねぇ?何だか嫌な予感がするんだけど!?」
「ははは。まあ、慣れればどうということはないですよ」
「何故か良い臭いもするし、妙に気持ち良いのよね」
「…二人ともスゲェな。俺は何度目でも緊張するぜ」
「えっ、何?何なの?」
三人の様子から身の危険を察知したのか、ママは半歩だけだが後退りする。苦手なカエルを前にしてそれどころではなかったアマハも、周囲がおかしいと思ったようで顔を背けたまま困惑しているようだった。
そんなプレイヤー達のことなどお構い無しに、フェルフェニール様は口を開いて顔をベロリと舐める。その後、口を大きく開くと…その長くて太い舌で地上に居残る私達以外を包み込んだ。
「「きゃああああああああっ!?」」
「クオオオオオオン!?」
『それじゃあ行くね、うん』
「いってらっしゃいませ」
ママとアマハの悲鳴をBGMにしながら、私はフェルフェニール様と地獄に行く者達を見送った。うーん、良い反応だ。初めて地獄へ行った時のことを私は鮮明に思い出すのだった。
◆◇◆◇◆◇
フェルフェニール様の力を借りて一度地獄を訪れた後、ママとアマハはすぐに戻ってきた。地獄という存在を初めて知ったこともあり、訪れたことそのものは良い経験になったと言われた。
「…す、すみませんでした。許して下さい」
「グオォ…」
「クルゥ…」
しかし現在、私は土下座をさせられていた。土下座させているのはアマハである。カルとリンは助けようとしてくれているようだが…彼女の威圧感によって尻込みしていた。
私が責められている理由はただ一つ。地獄への行き方を黙っていたことである。事前に教えてはつまらないと思って教えなかったのだが、そのせいでアマハは嫌いなカエルの口に往復で二度も入るハメになった。そのことが許せないようだ。
「そのくらいで許してあげなさいよ、アマハ。イザームちゃんだって反省してるじゃない」
「ダメよ、ママ。まだ私の気が済まないもの」
一方でママは怒れるアマハをとりなそうとしてくれている。彼女はビックリはしても意外と悪くなかったと言っており、怒ってはいなかった。
しかし、ママの言葉でもアマハが私を許すことはなかった。誰か!誰かアマハの怒りを鎮めてくれる者はいないのか!?
「クオォン」
「ヨキ…はぁ。わかった、このくらいで勘弁してあげる」
最終的にアマハをなだめたのはヨーキヴァルだった。鼻先をアマハに擦り付けて怒りを鎮めてくれたのである。た、助かった…!
「ただし。次に似たようなことをやったら絶対に許さないから。いいわね?」
「はい!もうしません!」
「もう、おっかない娘ねぇ。気を取り直して、別の場所にも連れていってもらおうかしら」
取りあえず許された私はカルの背中に乗ると、アマハ達を先導して現在我々が発見している探索可能な地域を案内する。彼女らの拠点がある港町がある『地を巡る大脈河』と、そこに隣接する『灰降りの丘陵』は紹介不要とのことだったので、まずは『槍岩の福鉱山』へと連れてきた。
「採掘ポイントはいくつもあるから、鉱石系の素材が必要になったら来ると良い。街の修繕にもここのアイテムを大量に使っている。ただ、注意点が三つあるんだ」
「三つも?」
ママの確認に私は頷いた。この注意点を説明しておかなければ、場合によっては他のプレイヤーにも迷惑がかかるからだ。
「一つはこの山には異常に強い飛龍が住んでいる。高所を飛び回ると襲われるぞ。戦ってもまず勝てないので山頂付近には近付かないことだ」
「ふむふむ。二つ目は?」
「ここの地下には『メペの街』という鉱人の街がある。彼らは外敵への備えとして地下の洞窟に様々な罠を仕掛けているんだ。安全に行きたければ、我々の街に来い。地下通路で繋げてあるからな」
「洞窟では罠に気を付けろってことね。最後は何?」
「うむ。毛むくじゃらの護宝鬼という種族がいる。彼らは物々交換には応じてくれるが、彼らは気難しい上に決して友好的とは言えない。やり取りがしたい時は必ず我々に一言声を掛けて欲しい。顔繋ぎは可能だ」
「ふーん、そうなの」
「絶対に手を出すなよ。彼らは強い。あのフェルフェニール様のお墨付きだ」
ママは注意点を聞いてメモを取っているが、アマハはあまり興味はないようだった。護宝鬼については今後の取引を一切行わなくなる可能性もあるのだ。こればっかりは真面目に聞いて欲しかった。
しかしながら、他にもまだ案内するべき場所は残っている。真面目に聞いてくれたママと、彼女の統率力に期待するしかないだろう。私は次の場所を目指して再び飛翔するのだった。
次回は8月3日に投稿予定です。




