奪取阻止に向けた話し合い
ログインしました。フェルフェニール様から古代兵器『寛容』について教わった後、私達は彼から一つの依頼を受けた。それは『寛容』の奪取を阻止することである。
『古代兵器の奪取を阻止せよ!』という正式なクエスト形式だったのだが、後から協力者を募ることが可能となっている。ただし、協力者も私達と同じ条件を飲む必要があった。それは『寛容』について情報を外に漏らさないことと、決して利用しようとしないことである。
これを破った場合、フェルフェニール様とはクラン単位で敵対するらしい。それどころかアルマーデルクス様にも報告することを匂わせていたので、龍と言う種族そのものが敵に回ると思った方が良いだろう。誰かを誘うとしても、強く言い含める必要がありそうだ。
ちなみにクエストの成功条件はあくまでも奪取を阻止することであり、その方法については言及されていない。『寛容』を悪用しようと企む者達の手に渡らなくすれば良いので、アグナスレリム様を説得して預かって回収しても良いし、奪おうと狙う者達を全滅させるも良いらしい。
どうやらフェルフェニール様は何としても『寛容』が人類の手に渡らないようにしたいのだろう。強大な兵器があれば、それを使った後にどんな結末が待っているのか知っていても使いたくなるのが人の性である。フェルフェニール様から何も聞いていない状態で私が発見したなら、きっと使っていたのだから。
しかも『寛容』は古代兵器であり、どんな結果になるのか知っているのは当時を知る者達だけ。まず間違いなく、王国の手に渡れば近い内に使われることだろう。そうなってからでは遅いのだ。
「…と言うわけだ。皆にも王国による古代兵器奪取の阻止を手伝って欲しい」
「魔物嫌いの国とまた喧嘩ってのも悪かねェ。強ェプレイヤーともやり合えそうだしなァ」
私とジゴロウが話を聞いた後、私はクランメンバー全員に協力を要請することにした。アグナスレリム様に会ったことのない仲間達もいるが、アルマーデルクス様になら全員が世話になった。見て見ぬふりが出来るような薄情者はいないと知っている。
それにジゴロウの言う通り今回の敵は魔物のことを嫌悪し、プレイヤーであっても決して認めないルクスレシア王国が相手だ。何もしていなかったとしても敵視されるし、何よりもつい先日にその街を一つ陥落させている。もう一度連中の邪魔をしたところで、既に仇敵と見なされているだろう。なら何をしても今更だよなぁ?
「喧嘩はいいんだけどさ、ちょっとくらい調べさせてもらうってのは…」
「ダメだ。フェルフェニール様との約束は決して破らん」
「ううん、ですよねー!王様って意外と義理堅いもんねー!」
思った通り、フェルフェニール様の依頼を受けることに反対意見を出す者はいなかった。しいたけは映画だと真っ先に死ぬタイプの科学者のようなことを言っていたが、即刻で却下する。それをさせないために妨害をしようとしているのだ。許す訳にはいかないだろう。
断られるとは思っていたようで、彼女は会議室の机に頭を突っ伏した。その瞬間、彼女の傘から胞子が放出される。おい、お前の胞子は毒だろうが!私には効かないし、全員が解毒薬を持っているので問題はなかった。
「コホコホ…ふう。イザーム、アグナスレリムさんを助けに行くのは構わないんですが…私達の助太刀なんて必要なんでしょうか?」
「それは思った。龍王が守るアイテムを奪うなんて可能なの?まず倒せないと思うんだけど」
「アグナスレリムって龍王は知らないけど、あのラングホートと同格なんでしょ?なら返り討ちにされるんじゃない?」
ただ、アイリスは助太刀に行く必要などないのではないかと主張する。アグナスレリム様は龍王であり、その戦力はプレイヤーに比べれば天と地ほど差があるだろう。例え一国の軍隊が攻めたとしても、倒すことなど不可能なのではないか?彼女はそう言っているのだ。
アイリスの意見に同調する者は意外と多い。続くルビーと兎路も神代光龍王のラングホート様を引き合いに出してアイリスの意見を補強する。だが、その見通しは甘い。ラングホート様は何故あの場所にいたのかを思い出してくれればわかることだ。
「それは違う。敵の目標はあくまでも『古代兵器の奪取』であって、そこに『アグナスレリム様の討伐』という要素はない」
「ん?どう言うこと?」
「倒さずとも盗めば良い、と言うことでござるな!」
要旨を一言でまとめたネナーシに私は頷いた。龍神アルマーデルクス様は彼にとっての至宝を盗まれ、激怒して第二文明を滅ぼした実績…と言って良いのかはわからんが、とにかく大暴れしたと聞く。龍神であっても全知全能ではない。戦って勝つことは出来ずとも、盗み出すだけなら不可能ではないのだ。
王国側にアグナスレリム様を騙す方法にあてがあるのかは知らないが、ある意味より難易度が高い先例が存在するのだ。盗む方法があると思った方が良いのである。
「それにアグナスレリム様を討伐する目処が立っている可能性もある。実は他の古代兵器を持っていて、それを使って葬り去る…とかな」
「えぇ~?考えすぎじゃない?」
「そうでもないんじゃないかしら?古代兵器なら私達だって持っているでしょう?」
「幸運に恵まれたとは言え、プレイヤーの一団が持っているんだ。国家ならそれっぽい何かを持っていてもおかしくないよね」
ルクスレシア王国が別の古代兵器を持っている可能性は低いものの、あり得ないと最初から決め付けるのも問題だ。トラブルが起きても動揺せずにすむので、常に最悪を想定して動くべきだ。まあ、考えすぎても仕方がないし、想像上の最悪よりも悪い状況に陥ることもあるのだが。
それにしても、こちらから仕掛けるのよりも仕掛けてくる相手から何かを守る方が遥かに難しい。敵が何をして来るのか推測することしか出来ないのがもどかった。少しでも内情がわかればやり様もあるのだが…スパイでも雇いたいと無理なことを願ってしまった。
「せめて何時攻める予定なのかだけでもわかれば良いのだが…」
「二週間後だってさ」
「…何故知っているんだ?」
「え?掲示板に載ってるよ」
掲示板…そうか、掲示板か!コンラートが知ったのも掲示板経由だっただろうに!普段から細かくチェックしない私では思い付かなかった。
私達は急いで自分のメニュー画面から掲示板を開く。そこでは古代兵器に関するスレッドが幾つか立っていた。今回の件について色々と話し合いが行われているようだ。
その大多数が古代兵器の場所が発覚した経緯や古代兵器についての推測ばかりで、役に立つ情報は本当に少ない。しかし、全くない訳でもなかった。
「攻撃を開始するのは二週間後、用意される兵力は王国の騎士団が一つ…精鋭だとしても少ないな」
「そうでしょうか?プレイヤーを大々的に雇っているので、頭数は確保されていますよ?」
「いやいや、アイリスはん。相手は龍王でっせ?しかも掲示板の流れから察するに、龍王がおることを知っとるんや。それでこの兵力っちゅうんは心許ないんのとちゃうか?」
掲示板では目的地の湖にアグナスレリム様が住んでいることは既に知れ渡っているらしい。それがわかっていてこの兵力は流石に少ないだろう。これが単にアグナスレリム様を侮っているだけなら良い。勝手に叩き潰されてくれればそれで終わりだ。
だが、そうではなかった場合は何らかの策があると言うことになる。その策は一体なんなのか?何にせよろくなものではないだろう。
「じゃあー、何かあるってー、思って動くのー?」
「それが良いじゃろう。して、儂らはどう動くべきかの?」
「掲示板を小まめにチェックするのは当然として、別口で敵の動向を知りたいところだが…」
「自分らは魔物っすからねぇ…」
そう、そこで足を引っ張るのが魔物プレイヤーに風当たりが強いという現実だった。潜入しようにも目立ち過ぎて何も出来ないだろう。ううむ、どうするべきか。
「こう言うのは慣れてそうな人に頼めばいいんじゃない?蛇の道は蛇ってヤツ!」
私が悩んでいると元気にそんな提案したのは紫舟だった。言いたいことはわかるが、そんな者に心当たりは…あるな。それが出来そうな者達が。
どうやら他のメンバーも同じクランのことを思い浮かべたらしい。だからこそ、私を含めたほぼ全員が難しい顔になってしまった。
「でも、ウスバ達って引き受けてくれるの?」
「確かに。得意なことと好きなことは必ずしも同じとは限りませんからね。あの人達は隠れ潜むのが得意ですけど、好きなのは戦うことですし」
その心当たりとは『仮面戦団』のメンバーであり、彼らの性格を知っている兎路とエイジが唸るように言った。二人の言う点こそ、難しい顔になった者達の懸念点でもあった。
彼らは必要だったから隠密行動を得意としているが、それは大好きな戦いのために磨かれたものでしかない。十分な見返りを報酬として頼んでも、気が乗らなければ平然と断られるだろう。
ただ、全く問題視していない者もいる。それは提案した本人である紫舟とジゴロウ、そして源十郎の三人だった。
「アイツらを動かすだけなら簡単だぜェ。条件次第だけどなァ」
「説得ならば儂と…そうじゃな、ジゴロウに任せてもらおう」
「…わかった。なら『仮面戦団』の説得は二人に任せる。敵の真意を探らせてくれ」
二人は説得を成功させる自信があるようだ。個人的にはどんな交換条件を出すつもりなのかわからないし、何か胸騒ぎがするのだが…私には説得する自信がない。仕方がないので二人に全面委任するのだった。




