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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十九章 魔王の侵攻
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対戦会 その五

 最初がチンピラのターンだったとすれば、次は七甲のターンだった。彼は空中でカラスを無数に召喚し、それを四つの群れに分けると、チンピラの真上と左右、そして後ろから襲わせた。


 群れを構成するカラス、その個体はそこまで強くない。七甲は質より量で攻める。同じクランの我々には見慣れた光景だった。


 これを頻繁に使っていることからもわかるように、七甲が『鳥葬戦法』と呼ぶこの戦法は非常に強力だ。襲われたチンピラからすればたまったものではない。彼は嘴や鉤爪によって細かいダメージを連続で受けていた。


「チクチクチクチク、うざってぇなぁ!腰抜け野郎!降りて来やがれ!」

「有利な位置からわざわざ降りる訳ないやろ。どんどん行くで~」


 ただ、召喚されたカラスは弱いので、チンピラが振り回す釘バットの風圧を浴びただけで次々と消滅していく。カラスは次々と倒されて、どんどん数が減っていった。


 しかし、弱いカラスは召喚に必要な魔力の量も少ない。特に七甲は魔術に関しては召喚に特化させている。彼ならば制限時間が終わるまでずっとカラスを召喚したとしても魔力が尽きることはないだろう。


 七甲の余裕を見てそのことを察したのだろう。チンピラは眉間にシワを寄せながら釘バットを振り回していた。自分が圧倒的に不利であるとわからない訳がなかった。


 対戦会のルールでは、前衛職と後衛職を比べるならば基本的に前衛職が有利である。限られた広さのフィールドでは逃げ回りながら弓を射ったり魔術を使ったりするのが難しいからだ。前衛職と後衛職の組み合わせで当たった時、この有利不利を覆した例はほとんどなかった。


 しかし、最も有利なのは空を飛べる者達だろう。数人しか存在しないものの、三次元的に動けるというアドバンテージは相当に大きい。近接戦闘がメインである前衛職からすれば飛ばれるとやれることがほとんどなくなってしまうし、遠距離攻撃がメインの後衛職であっても工夫しなければ当たり難いのだ。


 これまで空を飛べる者は全員が前衛職だったのだが、七甲は空を飛べる後衛職である。しかも必要ならば錫杖に仕込んだ刀で戦うことも可能だ。七甲は間違いなくこのルールだと最強の一人であった。


「うおおおおおっ!やられてたまるかよぉぉっ!」

「あともうちょいで削り切れそうやな。ほな、もう一丁おかわりと行こか」


 慢心してもおかしくないほど有利な状況なのだが、七甲は一切の油断をせずに再びカラスの群れを生み出して突撃させた。完膚なきまでに叩き潰す。そんな思いが伝わってくるようだ。


 一方のチンピラは守るのに精一杯だった。いつもの三下っぽい言動をする余裕すらない。このまま敗けてしまうのだろうか?


「こうなったら…ふんがっ!」

「何やて!?」


 チンピラは釘バットを両手で持って振り上げると、思い切り地面に振り下ろした。釘バットが地面と激突すると、釘バットに刺さっていた釘が周囲に飛び散ったではないか。


 どうやら釘バットに備わっていた機能であるらしく、釘は持ち主であるチンピラを避けてカラスに突き刺さった。釘は貫通力が高いのか、カラスを纏めて何羽も倒している。チンピラの周囲にいたカラスはほぼ全滅してしまった。


 ただし、デメリットもあるらしい。釘バットは釘が抜けたせいでただの棍棒となっており、武器としての攻撃力は明らかに低下している。釘が新しく生えてくる様子もないので、再び生える機能があるとしても時間が必要なようだ。


 それは持ち主であるチンピラが最もよくわかっている。彼は何の躊躇もなく釘の抜けた釘バットを空中にいる七甲目掛けて投擲した。


 七甲は自分のカラスが殲滅されたことに驚いていたようだが、呆けていた訳ではない。余裕を持って釘の抜けた釘バットを回避しながら、新たなカラスを召喚しようとしていた。


「そこだっ!」

「うげっ!?」


 【召喚術】を使うべく一瞬だけ意識をそちらに割いた瞬間、釘バットを投擲して素手になっていたチンピラは新たな武器を取り出していた。それは先端に鉤爪が付いた二本の鎖である。確かに不良が鎖を持っているイメージはあるが、鉤爪のせいで随分と凶悪な見た目であった。


 チンピラは鎖を素早く回して勢いを付けると、それらを七甲へと放ったのである。慌てて【召喚術】を中断して回避しようとした七甲だったが、二本の鎖の片方が彼の脚に絡み付いてしまった。


「落ちろやぁ!」

「ぐえぇ!?」


 チンピラは鎖を力一杯引っ張って七甲を地面に叩き落とす。七甲は翼を羽ばたかせて落下の衝撃を軽減したので、まだ体力の面では彼の方が勝っている。しかし、高所の有利は完全に失ってしまった。


 鎖による拘束が戦況にもたらした変化はそれだけではない。有利な側と不利な側が一気に逆転したのである。七甲は鉤爪を外そうとしていたが、そんな彼の錫杖の真ん中辺りにもう一本の鎖が巻き付いたのだ。


 チンピラは両腕で力一杯引っ張って、七甲を地面に再び叩き落とす。今回も翼を羽ばたかせて身体を浮かせ、更に受け身も取っていたのでダメージは見た目ほど酷くはない。体力のリードはまだ保てている。


 だが、これで七甲がチンピラから逃れるのはほぼ不可能だということが明らかになってしまった。後は何度も七甲を地面に叩き付け続ければ、そのままチンピラが勝つことだろう。


「ぶべっ!?かぁーっ!好き放題しよって!」

「さっきまでお前も好き放題やってただろうが!」

「やかましい!これでも食らえぃ!」

「「ぐわぁ!?」」


 何度も地面に叩き落とされた七甲は抗議するが、チンピラは尤もな言い分で言い返す。それに逆ギレした七甲が使える数少ない攻撃魔術である【神聖魔術】の聖光(ホーリーレイ)を放ったのと、チンピラが再び鎖を振り下ろしたのは同時であった。


 七甲は背中から地面と激突し、チンピラは魔術が胸に直撃する。ダメージの量は大差ないが、元々の体力はチンピラの方が多い。被ダメージの割合で考えるなら、これでチンピラが逆転したように見えていた。


 どうやら戦っている二人も同じことを考えているようで、チンピラは不敵な笑みを浮かべ、逆に七甲は難しい顔付きで眉を顰める。もうすぐ制限時間であるし、何かアクションを起こさなければこのまま敗北するのは必至だ。どうする、七甲?


「このっ!このっ!あ、あかん!全然外れんわ!」


 七甲は脚に絡み付いている鉤爪を蹴って外そうとしているが、その拘束が外れることはなかった。微動だにしないことから、恐らくは武技の影響を受けているのだと思われる。いくらチンピラが器用だとしても、鉤爪付きの鎖を両手で自在に操るのは難しいだろう。


 それは同時に武技そのものの効果時間などが切れない限り、そう簡単に外れないということ。特に七甲の筋力はかなり低めということもあり、外れることはなさそうだ。


「テメェの貧弱な筋力で外れる訳ねぇだろ!そろそろ終わらせてやらぁ!」


 チンピラはそう言って鎖を思い切り引っ張って七甲を引き寄せる。口では余裕がありそうな雰囲気を漂わせているが、実際は効果時間が迫っているのかもしれない。時間切れになる前に勝負を決めようとしているようだ。


 引っ張られた七甲は目立った抵抗もせずにされるがままにされている。…ここまで抵抗し続けた七甲が勝負を捨てた?いや、彼の性格からしてそれはないだろう。つまり、何か策があるのだ。


「今しかないわなぁ!」

「なっ、何だとぉ!?」


 七甲は翼を羽ばたかせると、引っ張られる勢いを殺す…のではなく加速する。それと同時に錫杖の頭の根本を掴むと、柄を投げ捨てて内側に隠されていた仕込まれていた刃を露にした。


 チンピラが驚いた理由は二つ。一つは錫杖が仕込み杖になっていることを知らなかったから。そしてもう一つは…片方の鉤爪が絡み付いていた部分が錫杖の柄と共に外れてしまったからだ。


 これでは拘束しているとは言えない。それどころか勝負を決めるべく引き寄せたことで、武器を持って近づくのを手伝う結果になってしまった。


 しかも七甲は刀を持っており、チンピラは両手に鎖を持っているせいで武器を装備していない。素手で迎撃しなければならないのだ。一瞬の内にチンピラは窮地に立たされてしまった。


「死にさらせえぇぇぇっ!」

「敗けるかよおぉぉぉっ!」


 七甲は仕込み杖を腰だめに構えて速度を維持して突進する。その構えと気迫はヤクザ映画の鉄砲玉そのものであろう。


 だが、チンピラも勝負を捨ててはいなかった。彼は役に立たない鎖を投げ捨てると、その手を固く握って大きく振りかぶっている。最後まで諦めず、拳を叩き付けるつもりのようだ。


「「ぐええっ!?」」


 七甲の胸に仕込み杖が刺さったのと、チンピラの拳が七甲の顔面を強かに殴打したのは全くの同時であった。殴り飛ばされた七甲は後ろへ吹き飛んだことで、チンピラの持つ鎖がピンと張りつめる。


 だが、チンピラも刀を刺されたことで咄嗟に踏ん張れなかったらしい。鎖に引っ張られるまま、彼も前のめりに倒れてしまった。


「そこまで!」


 私は試合に決着がついたことを宣言する。体力が半分を切った時点で、その者は敗北とするルールだ。そのルールに則り、私は起き上がりつつある二人に勝負の結果を告げた。


「両者の体力は全く同時に半分を切った。つまり、この勝負は両者の敗北とする」

「「はああぁぁ~!?」」


 これは私がどちらか片方に忖度した結果ではなく、本当に見分けがつかないほど同時に体力が半分を切ったのだ。ビデオ判定をしようにも撮影などしていなかったし、どうしようもなかった。


 二人は不服そうな声を出すが、この結論を変えるつもりはない。もう一度試合をさせるつもりもない。何故かって?そろそろログアウトして寝たいからだよ!


「二人とも敗けたんだ。ここは一度、自分が認めていなかった食べ方で唐揚げを食べてみたらどうだ?」

「「…」」

「こ、これで対戦会は終わりだ!皆、素晴らしい戦いをありがとう!」


 無言で睨んできた二人から目を反らしつつ、私は対戦会の終了を宣言する。集まっていた全員の拍手に包まれつつ、対戦会は終わりを告げるのだった。

 次回は7月14日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まぁ予想通りの引き分けで何よりですw [気になる点] 試合時間1分内で行われてる内容とは思えない濃さ、せめて3分ならなんとか... [一言] 七甲の胸に仕込み杖が刺さってますよ!?(誤字報…
[一言] Double K.O.(ねっとりボイス)
[良い点] あ、これNPC住民たちに、「喧嘩する住人たちに、見事な仲裁をした王様の公平な裁き」として伝承に残るやつだ
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