対戦会 その四
ウロコスキーとタマの戦いの後も対戦会は続く。ただ、その戦いは純粋な腕比べだけでなく、勝ちにこだわる姿勢を見せる試合も多かった。サーラのように遠距離からの攻撃を徹底したり、ウロコスキーのように最初のリードを保とうとしたりする者がちょこちょこいたのである。
あくまでもこの対戦会は遊びのようなものなのだが、勝ちにこだわる者が登場したことで程よい緊張感が生まれていた。審判としては判別が難しくなることも多く、気が抜けない時間が続いている。だが見応えがある試合が増えたことは、観客の側にとっては良いことだった。
「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい」
「うおおおおおっ!?全然近付けねぇ!?」
ただ、今行われている試合は足を止めての殴り合い…ではなく、一方的な蹂躙であった。源十郎とマックの試合なのだが、ジゴロウと同じ格闘で戦うマックに対し、源十郎は一本の槍で相対したのである。
近付かねばならないマックにとって槍のような長柄武器は相性が悪い。しかもそれを操るのが源十郎ともなれば一方的な試合展開になるのも当然であった。
マックも何もしていない訳ではない。遠距離攻撃手段としての武技は当然持っているので、それを使って反撃しようとしていた。しかし、反撃に出ようとしたタイミングを正確に察知して源十郎は激しく攻めて潰してしまうのだ。
槍のリーチに加えて反撃の機会を正確に読み取られてはどうしようもない。離れて戦うことを諦めざるを得なかったマックだが、彼の引き出しはまだまだたくさんある。筋肉を膨張させてあらゆるステータスを上昇させて防御したり、不死であることを活かした関節を外してパンチのリーチを伸ばしたりと、様々な武技を使いこなして反撃の機会を待っていた。
マックの立ち回りと武技を使いこなす手腕は優れており、観戦している者達も感心している。だが、それ以上に源十郎は化物であった。拳はほとんど当たらないのに、槍は堅実に体力を削っていく。マックの体力は今にも半分になろうとしていた。
「強すぎんだろ…けど、俺にだって意地があるんだよっ!」
「むぅっ!?」
このままでは勝てないとわかっているだろうに、マックは素早く踏み込んだ。それを源十郎はこれまでと同じように迎撃するべく槍を突き出した。
その瞬間、私はマックがニヤリと笑ったのを見逃さなかった。彼は筋力を収縮させて身体を小さくしながら上半身を更に沈めて回避すると、何と源十郎の腰にタックルをして見せたのである。
ボクシングスタイルで戦っていたマックだが、まさか寝技も使えるのか?そのまま源十郎の膝裏に手を差し込むと、身体を押しながら膝を持ち上げて源十郎を地面に押し倒す…かに思えた。
「ほっほ、やりおるわ」
「なぁっ!?」
乾坤一擲のタックルだったが、源十郎には一歩及ばなかったらしい。彼は突いた槍を素早く戻すと、石突きを地面に立てながら背中の翅を使って身体を浮かせて耐えたのである。
少し浮かんだ源十郎の下半身に抱き着いただけになったマックは離れようとしたものの、それすらも源十郎は許さない。彼は両脚でマックの腰を固定すると、槍を支えにしつつ腰を切ってマックを投げたのである。
地面に投げられて受け身を取ったマックだったが、起き上がった時には槍の切っ先が喉元に当てられている。しかし、それが突き立てられることはなかった。
「それまで!時間切れで、源十郎の判定勝ちだ!」
その理由は私が立ち上がっていたからだ。マックが投げられたちょうどその時、制限時間が切れていた。マックは敗北してしまったが、一度は逆転出来そうな状態にまで持っていった上に時間切れまで耐えている。十分健闘したと言えるだろう。
「だぁーっ、畜生!一矢報いることすら出来なかったか…!」
「そうでもないがの。まさかあの局面で投げに来るとは思っておらなんだ。老骨の背筋がヒヤリとさせられたわい。良い判断じゃったぞ」
戦いに関して、源十郎は嘘を言わない。マックはあの源十郎に危ういと思わせることに成功していたらしい。闘技大会とはルールが異なるとは言え、その優勝者を焦らせたのだ。誇って良いことだと私は思った。
だが、マックは戦うからには勝ちたかったらしい。褒められているのにあまり嬉しそうな顔はしていなかった。思っていた以上に負けず嫌いであるようだ。
「何、お主もこれから同じ街で暮らすのじゃ。儂で良ければ稽古をつけてやろう」
「…へへっ!鍛えたことを後悔するくらいに強くなってやるぜ!」
「ほっほ!それは楽しみじゃのぅ!」
それまでふて腐れていたマックだが、源十郎が稽古をつけてやると言われた途端に元気になった。源十郎が直々に鍛えてくれたなら、まず間違いなく強くなれる。自分がより強くなる機会を前にして、喜ぶなという方が難しかろう。
ただなぁ…現実を知っている私は、複雑な心境になっていた。私自身、源十郎に大鎌の稽古をつけてもらっている。そのお陰で大鎌という扱いが難しい武器を十全に使えるようになっていた。
しかしながら、源十郎の稽古は相当に厳しい。怒鳴られるようなことこそないものの、彼が要求する水準に達するまで延々と稽古を続けさせられるのだ。強者であるからこそ、妥協してくれないのである。
それに源十郎に稽古をつけてもらっていると、高確率でジゴロウがやってくる。すると兄弟との模擬戦が始まることが多い。幾度も敗けることになるので、それなりに辛いのだ。
まあ、何にせよ強くなれるのは間違いない。マックならば私よりも根性がありそうだし、ついていけることだろう。是非とも頑張ってくれたまえ。
さて、源十郎とマックの後も対戦会は続いた。接戦もあれば一方的な試合もあった対戦会も、ついに最後の試合が始まろうとしている。そう、この対戦会そのものの原因となった二人…七甲とチンピラの試合である。
「逃げずに出てきたことだけは褒めてやるぜ」
「逃げる訳あるかい、アホンダラ。公衆の面前で大恥かかせたるわ」
唐揚げにレモン汁を掛けるかどうか。そんなことで口論になった二人は時間を置いたにもかかわらず、まだ戦意は衰えていないらしい。正直全くついていけないよ、私は。
だが、これほど相手に対してお互いに敵意を向けている対戦カードはなかった。見応えのある戦いになるのは間違いないだろう。他の試合のような手合わせではなく、意地のぶつかり合いである真剣勝負なのだから。
「えー、では対戦会の最後の試合だ。二人とも、準備は出来たか?」
「へい、オジキ!」
「いつでもええで、ボス」
私が問い掛けると、二人はお互いから目を離すことなく同時に答えた。お互いに奇襲を警戒しているのだろう。漂う緊張感はまるで公式の闘技大会のようですらあった。
いや、これって本当に後腐れなく終わるのだろうか?ジゴロウの策に乗ったのは早計だったかもしれない。しかし、ここで最後の試合をやらないという訳にも行かない。ええい、なるようになれ!
「そうか。それでは…始め!」
「ヒャッハー!!!」
私が戦いの開始を宣言すると同時に、チンピラはお得意の咆哮を上げた。某世紀末漫画の悪役そのものだが、あれでも立派な攻撃である。物理的なダメージを与えつつ、当たった場合は敵を怯ませる効果があるのだ。
闘技大会ではメンバー全員で咆哮を上げ、最初に怯ませたところで試合の主導権を握って猛攻を仕掛けていた。吼えるだけで良いこともあってローリスクハイリターンな使い勝手の良い技である。
「はっ!効くかい、んなもん!」
だからこそ、初手で使ってくることを予想するのは容易い。しかも七甲は空を飛べるのだ。彼は真上へと飛翔して咆哮の効果範囲から易々と離れていた。
ただし、それを見たチンピラは全く気にしていなかった。それどころかニヤリと笑っている。彼は咆哮している間に左手を後ろに回し、七甲から見えない位置に吊るしていたクロスボウを手に取っていたのだ。
「食らいやがれぇ!」
チンピラは隠し持っていたクロスボウを素早く構えると、間髪入れずに引き金を引く。しかし、動いている相手に当てるのは優れたスナイパーであるシオでも集中していないと難しい。あんなに雑な撃ち方で当たるのだろうか?
私の疑問に対しての答えはすぐにわかった。そのボルトはママが二発目に放った矢に似た仕込みがされていたらしい。小さな針のように分裂したボルトが七甲目掛けて飛んでいったのだ。
「小賢しいわ!」
分裂したボルトの一部は七甲に当たりそうだったのだが、二段構えで何か仕掛けてきても良いように七甲は備えていた。飛翔しながら【召喚術】で大量に生み出したカラスによってそれらから身を守ったのだ。
チンピラは舌打ちしながらクロスボウを投げ捨てる。初手の攻防は七甲に軍配が挙がったと言えるだろう。だが、お互いにまだダメージはない。ならばまだまだ勝負の行方はわからない。最後の試合はまだ始まったばかりだった。
次回は7月10日に投稿予定です。




