対戦会 その三
ジゴロウとママが見せた名勝負の後も対戦会は続いている。拮抗した良い勝負もあれば、相性や戦術のせいで一方的な展開の試合もあった。
「時間切れだ!サーラ28の判定勝ちとする!」
「へへっ、やりぃ!」
「ちくしょー!そんなのアリかよ!」
そして今、まさに戦術によって一方的な展開になった試合が終わったところだ。サーラとセイの対戦であり、下馬評ではセイが有利だと思われていた。サーラは私と同じ動く骸骨から進化しており、戦士型ではあれど打撃に弱いという弱点がある。
一方でセイの武器は棍、すなわち長柄の打撃武器である。サーラも防具や装飾品によって打撃対策はしているだろうが、接近して戦うのであればセイの一撃はかなりの痛打となる。どちらが不利なのかは明らかだった。
しかし、それをサーラはとある戦術で一方的な試合展開を見せる。彼女は自分の武技が届くギリギリの距離まで浮遊すると、上空からひたすら武技を放ち続けたのだ。
無論、セイも離れた場所を攻撃する武技は使える。しかし、空中を三次元的に飛び回りながら武技を撃ち続けるサーラと、地上という限られた場所を駆け回るしかないセイ。回避に使える空間的な条件が違いすぎた。
その結果、体力が削れた割合の差でサーラが勝利をもぎ取ったのである。自分と相手の実力や相性を考慮した上で適切な戦術を見出だした。個人的には拍手を送るべき勝利と言えた。
「卑怯すぎるだろ、マジで…」
「卑怯卑劣と言われようと!勝てば良かろうなのあ痛っ!?」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ、ったく…」
ただし、絵面は見映えしないし…何よりも卑怯な戦法であることは間違いない。セイもそれが不服なのか、負け惜しみを言っている。それをサーラは煽るようなことを言い掛けたが、その前に兄であるマックが止めていた。
マックの気遣いに感謝しつつも、今の試合はルールの範疇で勝ちに行くことの大切さを皆に広めたことだろう。正々堂々と真っ向勝負をするのは潔いかもしれないが、あくまでも試合に勝つのならば方法はいくらでもある。嫌でもそれを意識させられた。
「勝敗予想がわからなくなってきたねぇ。それはそれとして…串焼き~、串焼きはいらんかね~。まいどあり~」
審判をしている私の背後を通った売り子はコンラートである。彼は観戦している者達を相手に商売をしているようだ。他の場所ではセバスチャンに勝敗予想のトトカルチョを主宰させている。どんな時でも稼ぎにくるな、お前は。
コンラートの金稼ぎムーヴはもう慣れているので気にならない。それよりもこれからの対戦の方が気になっている。何故なら今から始まるのは私が注目していた対戦カードであるからだ。
「次の試合だ。選手は前へ出てくれ」
「うっし!頑張るぞ~!とぉう!」
「グビグビ…楽しみでござんすねぇ」
次の試合はタマとウロコスキー、『ザ☆動物王国』と『八岐大蛇』という二つのクランのリーダー同士の激突であるからだ。我々のように最も腕の立つ者がクランのリーダーであるとは限らない。同じことが言えるクランは他にもあることだろう。
だが、この二つのクランは最も強い者がリーダーになっている。つまり、獣系の魔物プレイヤーと蛇系の魔物プレイヤーの頂上決戦と言っても良い対戦カードなのだ。興奮するなと言う方が難しいだろう?
タマは観戦していた場所から翼を羽ばたかせて飛翔すると、音を立てることなく軽やかに着地する。ウロコスキーは飲み掛けの樽を空にしてから、こちらも音を立てずにやって来る。こうして巨体を誇る両雄は相対した。
「勝負するからには、勝たせてもらうよ」
「当然でござんす。お互いに遠慮なんかせず、全力でやるべきでござんしょう」
二人ともやる気は満々であるらしい。どちらが勝つのか、私にも予想がつかない戦いが始まろうとしている。観戦に集中したいという思いを振り切って、私は審判としての役割を果たすことにした。
「それでは…始めっ!」
「シャアアアアアッ!」
「うわああっ!?」
試合開始の合図と同時に飛び出したのは、意外なことにウロコスキーだった。それまでは蜷局を巻いていた彼は、私が合図するや否や凄まじい速度で噛み付いたのである。一気に倒しきるつもりのようだ。
軽妙洒脱なイメージがあるウロコスキーが、初手からこんな動きをするとは思っていなかったらしい。タマは慌てて翼を羽ばたかせて飛翔して牙からは逃れた。
しかし、完全に回避することは出来なかったらしい。少しだけ体力が減っており、毒の状態異常にもなっている。牙がかすった時に毒を流したのだろう。それにしても、あれだけで毒にするとは…ウロコスキーは強力な毒を分泌可能なようだ。
「やったな!くらえっ!ガオオオオオッ!!!」
空へと飛び立ったタマは怒りの咆哮と共に翼を強く羽ばたかせ、その羽根を射出する。能力による咆哮は見えざる空気の弾として、一見すると柔らかそうな羽根は剃刀のように鋭くなって雨のように降り注いだ。
地上のウロコスキーは身体をくねらせて回避する。弾幕の密度が高いので全てを避けることは不可能だ。しかし、彼はほとんどダメージを負っていない。ウロコスキーの鱗は頑丈であり、羽根をほぼ完璧に弾いているからだ。
咆哮を受けると流石に大きなダメージを受けるだろうが、彼は徹底して咆哮だけは当たらないように注意している。その結果、彼の体力は羽根で受けたほんの少しのダメージだけしか減っていなかった。
しかもそのダメージもウロコスキーの高い自然回復速度によってほぼ相殺されている。ダメージが蓄積していない訳ではないものの、その量は雀の涙ほどしかなかった。
「そろそろ反撃と洒落こむでござんすよ。シイィィィィ!」
地上にいるウロコスキーは防御と回避に専念していたが、遂に攻撃に移った。魔術などを使えるのかと思ったのだが、彼は牙から毒液を空を飛ぶタマ目掛けて射出したのである。
毒液の弾速はタマの羽根よりも速い気がする。タマの機動力が優れていること、そして彼の羽根のように連射が利かないので中々当たらない。しかしながら、もしも当たれば大きなダメージを受けるのは明白だった。
既に毒を受けているタマは回避を優先せざるを得ず、回避を優先すると羽根による弾幕が薄くなってダメージを稼げない。しかしダメージを稼がなければ、体力の差で敗北が確定してしまう。そんな状況にタマは追い込まれていた。
優位な上空という位置を保つことを優先してウロコスキーに何とかしてダメージを負わせるか、地上に降りて肉弾戦に持ち込んでウロコスキーに大ダメージを与えるか。タマは有利な位置にいながらも、タマは選択を強いられていた。
「うぐぐ…こうなったら!」
「やっぱり降りてきたでござんすねぇ!」
一分という短い制限時間が迫る中で、タマは降りて肉弾戦を挑むことを選んだ。それを予期していたウロコスキーは地上でそれを受けて立つつもりらしい。動き回るのを止めて身構えた。
ウロコスキーは毒液を連射することで真っ直ぐに突っ込まれないように牽制する。回避せざるを得ないタマは上空を複雑な起動で飛び、毒液を浴びることなく着地した。
「ガルルルルッ!」
「ほいっと、おぉっ!?」
着地したタマは地上を走ってウロコスキーに迫る。ウロコスキーは尻尾で薙ぎ払うことで牽制するが、これは迂闊であったと言える。タマは退くのではなく、跳躍してこれを躱したからだ。
タマはその勢いのまま、ウロコスキーに飛び付いた。両前足の鋭い爪を鱗に引っ掛け、強靭な顎の力で鱗を噛み砕きながら太い牙を突き立てる。この噛み付きこそ、タマにとっては最強の攻撃のようだ。
噛み付かれた瞬間、ウロコスキーの体力はゴリッと大きく削れた。受けたダメージの割合は逆転したようにも見える。しかもタマはずっと噛み付いており、ウロコスキーの体力はジワジワと減り続けていた。
「ガウガウ…グウゥ!?」
「ヒヒヒ!こうなったら泥仕合でござんすよ!」
噛み付かれたウロコスキーだが、やられっぱなしではなかった。彼は素早く自分の身体を巻き付けると、タマの全身を締め付け始めたのである。
この締め付けによって、タマの体力もジワジワと減っていく。継続ダメージの量ではウロコスキーの方が上だ。本人も言っていた通り、締め付けと噛み付きという原始的な技同士がぶつかる泥仕合になっている。これは、どっちが勝つんだ!?
「…そこまで!勝者、ウロコスキー!」
どちらが半分を切ってもすぐに止められるように、二人の体力バーを凝視していた。そして最初に体力が半分になったのはタマであった。
最後の削り合いでは噛み付きによってまとまったダメージを出していた分、タマが優勢だったと言える。しかしながら、最終的な勝者はウロコスキーだった。つまり、勝敗を分けたのは開戦と同時にタマを捉えた毒牙ということになる。
「うがーっ!敗けたーっ!悔しいーよーっ!」
「ヒヒッ、ギリギリでも勝ちは勝ちでござんす」
「でも良い勝負だった!また遊ぼうよ!今度はこっちが勝つけどね!」
「ヒヒヒ!おっかねぇお人でござんすねぇ。まあ、その時は全力で戦わせてもらうでござんしょう」
それまで密着していた二人は、勝敗が決したと同時にお互いを解放した。タマは悔しげにその場で転がり回り、ウロコスキーはニヤリと笑う。この戦いもまた、最初に飛び掛かって毒状態にしたウロコスキーの作戦勝ちと言える。
ひとしきり転がって落ち着いたのか、タマは悔しがるのを止めて楽しそうに再戦と勝利を宣言する。対するウロコスキーもまた、笑いながらそう易々と敗けるつもりはないと返す。そんな二人を観客は拍手で迎えるのだった。
次回は7月6日に投稿予定です。




