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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十九章 魔王の侵攻
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対戦会 その二

「そこまで!勝者、兎路!」

「あらら、敗けちゃったわ。でも良い試合だったわねぇ」

「ええ。また試合しましょう」


 審判をしている私は勝敗が決したことを宣言する。今対戦していたのは邯那と兎路であり、勝者は兎路であった。


 闘技大会で優勝経験まである邯那が敗北したことに驚いている観戦者が多いものの、同じクランである私達からすれば意外でも何でもない。それはこの対戦会が一対一の個人戦であるからだ。


 邯那は羅雅亜に騎乗して戦うのが本来のスタイルである。地上でも十分に戦えるものの、騎乗時にしか使えない武技を複数持っているせいでどうしても騎乗状態よりも一段落ちてしまうのだ。


 そもそも、我々は同じクランなのだから模擬戦をやることもある。その時の邯那は落馬した場合に備えて地上で戦っていた。当然ながら兎路とも戦っており、勝率はあまり高いとは言えない。この結果は順当なものなのだ。


「次の試合に移る。選手は入場してくれ」

「おうよォ!」

「来ちゃったかぁ…でも、ギラギラした男って素敵…」


 次は私が注目していた対戦カードの一つである。猛獣を思わせる笑みを浮かべたジゴロウと、複雑な表情で意味不明なことを言っているママが試合会場に入場した。


 拳で戦うジゴロウは普段通り剣も槍も持っていない。その代わりに戦闘用の籠手と脛当を装着している。手加減をする気など毛頭ないようだった。


 対戦相手であるママだが、彼女の武器は二メートルほどもある巨大な弓だった。攻城用のバリスタを台座から引っこ抜いたのかと思うほどの大きさである。あれは弓というカテゴリーに入れて良いのだろうか?


 その大弓は大きさこそ全く可愛げがないのだが、装飾は素晴らしいと言わざるを得ない。白を基調とした弓はそれだけで優雅さを感じる絶妙な形状をしている。装飾も凝っていて、可愛らしい小動物は躍動感に溢れ、持ち手の近くにある胸の前で手を組む乙女はとても清楚であった。


 美術品としても一級品になりそうな見た目で忘れそうになるが、あれはママが実際に使用する武器であることを忘れてはならない。そしてあれが弓である以上、つがえるための矢が存在する。弓の大きさに合わせた、余りにも大きく、そして太い矢が。


「えっと、あれって矢なんだよね?短めの槍じゃなくて」

「凄いっすね……自分の筋力じゃ、あの矢も持ち上がらないと思うっすよ」


 近くで観戦しているルビーとシオの会話からもわかるように、ママが使う矢は槍かと思うほどに大きかった。少なくとも筋力が低いプレイヤーでは槍として使うのも難しそうな重量感があったのだ。しかし、矢羽根の存在があれが矢であることを主張していた。


 ただ、その大きさ故に矢筒を用意することが出来なかったらしい。彼女は肩に掛けたベルトに固定する形で背負っていた。その数は五本だけ。それ以内に勝負を決めるという決意の表れだろうか。


「物騒な弓だなァ。それにその名前で弓を使うたァ、相当自信があるんだろォ?」

「うふふ、どうかしらね?」


 名前……?ああ、そうか。アルテミスと言えばどこぞの神話で登場する狩猟の女神だった気がする。その名前を名乗った上で弓を使うとなれば、ジゴロウの言う通り相当な自信がなければならないだろう。


 ジゴロウの問いに対してママは不敵に笑ってみせる。その笑みは強がりではなく、自信の表れだと私の目には映っていた。


 そもそも『Amazonas』は官軍に加わった上に前線で戦える実力者揃いのクランである。これまでの対戦会でも彼女達の勝率は良い。そのリーダーが弱いことなどまずあり得ないだろう。


「楽しみだぜェ…おい、兄弟!」

「ああ、わかった。それでは…始めっ!」

「はっ!」


 私が試合開始の宣言をすると同時に動いたのはママであった。彼女は素早く矢の一本を抜くと、後方へ飛び退きつつ淀みない動動き矢を放つ。その動作は一瞬であり、私であれば咄嗟に動けずに直撃していたかもしれない。


 だが、ジゴロウは冷静だった。片手を回すようにして矢を弾くと、凶悪な笑みを深めながら一気に踏み込む。それは織り込み済みだと言わんばかりにママは再び飛び退きながら素早く矢を放った。


「あァ!?」


 しかし、第二射に使った矢は特殊だったらしい。弓弦から放たれると同時に矢は八本に分裂して散弾のように飛び散ったのである。まさかの仕込み武器に会場からも驚きの声が上がった。


 流石のジゴロウもこれには驚いたようだが、やはり冷静さを保っていた。両腕を交差させつつ姿勢を低くして、被弾を最小限に抑えつつ接近する。前へ出るジゴロウと飛び退くママ。二人の間にあった間合いは確実に縮まった。


「せいっ!」

「ハハァ!」


 間髪入れずにママは第三射を放つ。その矢は低くなったジゴロウの頭を正確に狙っていた。ジゴロウは最初のように弾くかと思いきや、その場で大きく跳躍する。おい、それは大丈夫なのか!?


 ただ、ジゴロウの選択は正解であったらしい。三本目の矢は地面に突き刺さると同時に爆発したのである。仮に弾くのを選択していれば、ジゴロウは爆風によって大きなダメージを受けていただろう。


 この対戦会のルールによって、大きなダメージを受けることは即座に敗北に繋がる。『死ななきゃ安い』という考え方が通用しないのだ。


 あの矢の爆発を正面から浴びたとしても、ジゴロウならば生きていたに違いない。だが、ルールを考慮して敗北のリスクを減らすべく跳躍したのだ。


「予想通り、ねっ!」


 ただ、三本目の矢はジゴロウを跳躍させるために放った一撃だったらしい。ママはあらかじめ上空へと狙いを定めていたのだ。跳躍の頂点でジゴロウの動きが止まったところへ矢を放てば良い。ママは勝利を確信しているようだった。


 彼女はどうやら四本目の矢で仕止めるつもりだったらしく、その矢は明らかに特別製だった。鏃の部分はネジのようになっており、矢羽根も赤く染められている。以前にシオのために合成したことがある効果付きの矢であるのは明らかだ。


 私の予想に違わず、彼女の放った矢は特別製だったらしい。矢が放たれた直後、矢羽根は炎となって推進力となって矢の速度をぐんと高める。更に鏃の形状故か、矢はドリルのように螺旋を描きながらジゴロウ目掛けて真っ直ぐに進んだ。


 この状況、きっと多くの者達の目にはジゴロウが詰んだと思わせたことだろう。だが、少なくとも私は慌ててはいなかった。あのジゴロウが…今の状況でも楽しげに笑い続けている男が、この程度で敗北するとは思えなかったのだ。


「ハッハハァ!読めてんだよなァ!」


 ジゴロウは髪を伸ばすとママが放った二本目の矢、八本にバラバラになった後地面に刺さっているそれに巻き付ける。そして髪で身体を引っ張ることで急降下し、四本目の矢をギリギリで回避してみせたのだ。


 着地したジゴロウは矢に絡み付けた髪をほどく時間すら惜しんで自分の爪で切断すると、目前に迫っているママへと飛び掛かる。まだママは五本目の矢を背中から抜いたばかりであり、放つのは間に合わない。ここからはジゴロウが一方的に殴るだけかと思われた。


「ウオラアアッ!」

「っとォ!」


 実質的に勝負はついたかと思った矢先、何とママは野太い声で咆哮しながら弓で殴り掛かったのだ。苦し紛れの抵抗かと思いきや、続けて五本目の矢を剣のように使って斬り掛かる。その一連の動きには無駄がなく、その戦い方に慣れているのは明白だった。


 良く見ればママの持つ五本目の矢は鏃の部分がかなり長く、滑り止めであろう布が巻かれている。矢羽根が付いているので矢としても使えそうだが、近接戦闘で使うことを前提としているのだろう。最初にルビーが呟いたように、あれは短めの槍そのものなのだ。


 同時に左手で持つ弓も様子が変わっている。純白だった弓は真紅に染まり、小動物は苦悶に喘ぐ一人の顔に、乙女は嗜虐的な笑みを浮かべる悪魔に変わっていたのだ。さらに弓の両端からは生物の爪を思わせる鋭い突起が伸びていた。


「んもう!しばらく可愛くなくなるからあんまり使いたくなかったのにぃ!」

「近接戦闘でも使える弓かァ?面白ェモン使ってんなァ、おい!」


 ジゴロウは無邪気な、だが同時に凶悪としか言い様のない笑みと共に再びママに襲い掛かる。対するママも負けじと弓と矢を振るった。源十郎は大太刀と槍の変則的な二刀流を使うことがあるが、あれもそれの一種であるらしい。どうやら武技まであるようで、懸命にジゴロウに()()()いた。


 抗っている…つまり、決して優勢になることはなかったのだ。考えてみれば当たり前である。ママは近接戦闘も可能な弓兵、ジゴロウは近接戦闘の専門家なのだから。


「こなくそぉ!オカマを舐めんじゃないわよ!」

「舐めてねェ。俺ァよォ、強ェ奴ァ敬意を持ってボコボコにするって決めてんだァ」

「乙女をボコボコってあぶっ!?おげぇ!?」


 ジゴロウは弓の突起による斬撃と槍のように突き出される矢を紙一重で回避して踏み込むと、ママの顔に素早いジャブを叩き込む。怯んだところで一歩踏み込みながら肘を鳩尾に突き刺し、下がった頭を掴むと容赦なく膝蹴りをしていた。


 このまま殴り続けるのかと思いきや、ジゴロウは流れるような動きでママの背後に回ると彼女の首に腕を回して裸絞めを食らわせる。更に膝の裏を蹴って体勢を崩した。


「ぐ、ぐえぇ…動けないぃ…」

「そこまで!勝者、ジゴロウ!」


 ジゴロウが裸絞めを極めた数秒後、ママの体力は半分を切ったことで私はジゴロウの勝利を宣言した。どうやらジゴロウはもうすぐ体力が半分になることを見越して必要以上のダメージを与えないようにしたらしい。恐ろしいんだか優しいんだかわからん男だな、兄弟よ。


 試合が終わったことでジゴロウは腕を離してからママの手をとり、引っ張って立たせてやりながら「また()ろうぜェ」と声を掛けた。ママは微笑みを浮かべてから「次は勝つわよ」と言って捕まったジゴロウの手を強く握って握手を交わす。そんな二人へ我々は惜しみない拍手を送るのだった。

 次回は7月2日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告 私が試合開始の宣言をすると同時に動いたのはママであった。彼女は素早く矢の一本を抜くと、後方へ飛び退きつつ淀みない『動動き』矢を放つ。その動作は一瞬であり、私であれば咄嗟に動け…
[一言] 弓兵だが近接も出来るか。ジゴロウに抗えるなら大したものですな。
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