歓迎会 談笑
『モノマネ一座』による素晴らしいショーから始まった歓迎会は順調に進んでいった。疵人や四脚人、闇森人に伝わる音楽は我々の耳を楽しませ、何故か兎路が率いる美しい舞踊は目を楽しませてくれる。
そして我々がかき集めた高級食材は彼らの舌を楽しませていた。現実世界の高級食材に比べれば安っぽいのだが、問題はなさそうだ。必死に集めた一人である私自身がその恩恵にあずかれないのは残念だが、そう言う種族なのだから仕方がない。諦めよう。
「やあ、楽しんでいるか?」
「おうよ!」
「プハァ!ホストの挨拶回りも大変でござんすねぇ。グビグビ…」
「ちょっと王様!こいつ、ほっといたら酒樽全部飲み干しちまうよ!?」
私が話し掛けたのはマックとウロコスキー、そしてアンの三人である。マックは片手に持った骨付き肉に齧り付き、ウロコスキーは大きな樽に頭を突っ込み、アンは彼の尻尾をベシベシと強めに叩いていた。
ふむふむ、三人の関係は良好なようだ。そのことに安心しつつ、酒樽の中身をガブ飲みしているウロコスキーには苦笑せずにはいられない。一応、注意だけはしておくか。
「飲食出来ない私には無縁だが、飲み過ぎるとかかる酩酊とか言う状態異常もあるのだろう?ある程度控えた方が良いのではないか?」
「旦那、あっしは蛇でござんすよ?つまり、ウワバミなんでござんす」
「そうなのか…?まあ、ほどほどにな」
酒に対する耐性が高いのなら沢山飲みたい気持ちはわかる。コンラートはそう言う場合も想定して酒を大量に用意しているので、酒が尽きることはないだろう。奴の用意周到さを舐めて貰っては困るのだ。
本人が大丈夫と言うのなら、好きに飲ませてやろうではないか。酔い潰れて起き上がれなくなったとしても、それはそれで宴会っぽくて良い。むしろ酩酊の状態異常になった者を見てみたいくらいだ。放置しても問題はなかろう。
それよりも、この三人が一緒になって飲んでいる事実の方が大事である。クランの垣根を越えて交流することが出来ているのだから、歓迎会は成功していると言っても良い。これを機に良好な関係を築き、深めてくれれば万々歳だ。
私は三人ともう少しだけ言葉を交わしてから、歓迎会の会場を歩き回る。すると、大人数に囲まれているアイリスとトワを見つけた。
「かわいい~!しかも性能も良い!」
「ありがとうございます!」
「うーん、悩むなぁ…どっちの方が似合うと思う?」
「お客様装備ならばピンクの方がお似合いかと存じます」
「ねぇ、このデザインで違う色ってある?」
「ちょっと待って下さい…あ!ありましたよ!」
「持ち込みのアイテムでオーダーメイドのデザインも頼めるってマジ?」
「はい。ですが、順番待ちになるかと」
「ちょっと!それ、私が狙ってたんですけど!?」
「あわわ…!在庫はまだあるので、喧嘩しないでください!」
「どうやって作ってるんだろう…?コツとかってあります?」
「申し訳ございませんが、お教えする訳には参りません」
二人を囲んでいるのは主に女性プレイヤーであった。女性の多い『Amazonas』の者達はもちろんのこと、他のクランの女性プレイヤー達も大勢集まっている。目的は露店形式で販売しているアイリスの作った装飾品だった。
アイリスは優れたアイテムを作り出す職人だ。ここで並べているのはあくまでも性能よりもデザインを優先しているアイテムばかりであるが、それでも十分な性能が保証されている。客が集まるのも無理はなかった。
ただ、アイリスは接客が得意とは言えない様子である。しかしながら、それを上手にトワが捌いていた。流石は助手と言ったところだろうか。あそこは一種の戦場と化しているようだし、近付かないようにしておこう。
「ゴロゴロゴロ…」
「うおお…逆らえないぃ…」
「おぉー、気持ちーねー」
「キャッキャッ!」
「ここが良いんだね!」
広場のある場所では『ザ☆動物王国』の者達が四脚人の子供達の玩具にされていた。子供達は自分達と比較的に近いタマ達へと嬉々として突撃していった。その後、子供達はタマ達の身体をマッサージし始めたらしい。
それは四脚人同士で親愛を示す行為らしいのだが、タマ達には効果覿面だったようだ。彼らは唸り声を漏らしながらも、そのマッサージから逃れられずに地面に付してしまう。そしてそのまま立ち上がれなくなっていたのだ。
ウールやセイまでも取り込まれており、その一帯は巨大な毛玉と化している。混ざりたいと言いたげなプレイヤー達が囲んで物欲しそうに眺めていた。
あれはあれで一種の歓迎であるし、『ザ☆動物王国』の者達も嫌がってはいない。ならば口出しすることもないだろう。私は再び広場を歩き始めると、意外な人物が二人で話している場面に遭遇した。
「ウフフフフ。良い雰囲気ですねぇ。賊軍とは大違いですよ」
「官軍も似たようなモンよぉ。手柄の奪い合いでギスギスしてたわ」
話しているのはウスバとママである。直接的にぶつかったことはないと聞いているが、それでも賊軍と官軍に分かれて戦った二人が仲良く肩を並べて飲むほど仲良くなっているとは思わなかった。
私の存在に気付いたママはその逞しい腕を振ってこちらへ呼び寄せる。元からそちらに行くつもりだったこともあり、私は呼ばれるがままに二人のもとへと向かった。
「二人も楽しんでいるようで良かった。だが、一緒に飲むほど仲が良いとは思わなかったよ」
「ウスバちゃんはヤンチャだけど良い子だもの。見た目もタイプだし、ね?」
「見た目…?」
見た目と言われてもウスバは私と同じく仮面を着けているので素顔などわからないはずなのだが…きっとママの琴線に触れたのだろう。ウスバの方に視線を向けると、彼も不思議なのか肩を竦めていた。
「それで、何の話をしていたんだ?」
「ウフフ、大したことではありませんよ。彼女達はこの港町に拠点を置くようですから、良さそうな物件について相談を受けていただけです」
「それならコンラートの方が良いと思うのだが…」
「それがねぇ、コンラートちゃんは効率重視ばっかりで、雰囲気とかを大事にしてくれないのよ」
ママは困ったように頬に手を当てながらそう言った。ああ、彼女の言うことはわかる気がする。コンラートは情緒を解さないという訳ではないものの、商人としての性か効率を重視しがちだ。ママの求める雰囲気と言うものよりも、立地の良さなどを優先して物件を紹介するだろう。
それ故にママはウスバに頼んだのだ。ウスバは港町を幾度か訪れており、コンラートほどではないかもしれないが港町のことを良く知っている。他にも港町のことを知る者はいるが、ママから見ればウスバ以外の誰が知っているのかはわからないだろう。ウスバに聞くのが最適解と言える。
「ママ達はこっちに拠点を置くと聞いているが、ご近所さんには違いない。何かあれば気軽に声を掛けてくれ」
「あら、いいのかしら?貴方たちの手の内を調べてからペラペラ喋って回るかもしれないわよ?」
「その時はその時だ。情報の漏洩はコンラートが受け入れると言った時点である程度諦めている。何よりもあれを見せられると、な」
ママは私を試すように挑発的な言い方をあえてしているが、私は気にせず視線を上に向ける。二人もつられたように上を見ると、そこではリンとアマハの相棒となった龍が追いかけっこをして戯れていた。
あれだけ仲の良い姿を見せられたら、友人の相棒が所属する『Amazonas』のことを無下に扱えなくなってしまう。私はカルとリンの両方に甘いのである。
「『Amazonas』と敵対するのなら、リンをあの龍と戦わせることになるだろう。それだけは避けたい」
「優しいのねぇ。まあ、こっちも同じ気持ちよ。ヨキちゃんを友達と戦わせることなんて真っ平だわ」
ママはそう言って肩を竦めた。あだ名であろうが、あの龍はヨキちゃんと言うらしい。本名は何と言うのだろうか?
「そうだ!あの子達の名前は何て言うのかしら?」
「黒色の方がカルナグトゥール。銀色の方がヒュリンギアだ。それぞれ略してカルとリンと呼ばれている」
「カルちゃんとリンちゃんね。これからもヨキちゃんと仲良くしてくれるように、後でご挨拶しなきゃ」
「そっちのヨキちゃんの本名は何なんだ?」
「それはね…」
「ヨーキヴァルよ」
ヨキと呼ばれる龍の名前はママからではなく、背後から告げられる。声の主はヨキことヨーキヴァルの主人であるアマハだった。
彼女の左右にはフワフワと浮かぶサーラと邯那がいる。珍しいことに邯那は羅雅亜と一緒に行動していなかった。女同士で親交を深めるには男がいると邪魔ということかもしれない。
「ヨーキヴァル…それがアグナスレリム様の着けた名前か」
「そうなるわね。あの子、あの龍の前だとずっと怯えていたわ」
「それはそうだろう。アグナスレリム様は龍王だぞ?文字通り格が違う」
カルが生まれた直後から強かったように、龍はそのレベルに見合わない高い戦闘力を誇っている。その中でも龍神アルマーデルクス様を頂点としてその下にいる龍帝、さらにその下にいる龍王だ。二段階下と言われれば微妙に思うだろうが、恐らくはここに集まっているプレイヤーの力を結集しても勝てない強さだと思っている。
そんな怪物を前にして怯えないとしたら、それは魔物としての本能を失っていると言わざるを得ない。無謀に突っ込んでいく者がいるとすれば、それはきっとプレイヤーである。
「それよりも意外な、と言っては失礼かもしれんが…珍しい組み合わせだな?」
「趣味の話で意気投合しただけよ」
「そうなのか。何の趣味…」
「んだとコラァ!」
何が切っ掛けで仲良くなったのか聞こうとした矢先に、広場のどこかから怒鳴り声が聞こえてきた。人が集まる場所にはトラブルが付き物であるが、私は主催者として放ってはおけない。ママ達に断りを入れてから、私は仲裁に向かうのだった。
次回は6月20日に投稿予定です。




